人探し中の『ヒト』
「操られるのが俺の方で良かったね。」
「俺の方だったら回復出来ないもんな。」
血が混じった軽口を叩き合って、高谷が草薙剣の刃の方へ身体をずらし、自身の身体を引き裂きながら、快斗の攻撃範囲から脱する。
「ぐぉ⁉」
快斗が『ヒト』に向き直ろうとしたところで、紫色の光が快斗を包み、もう一度操られそうになる。
「『炎玉』」
しかし、高谷が『ヒト』へと『炎玉』を放ち、その目論見はなくなる。
「ジャマ、スルナァ……」
「喋れんのか。」
腕に紫色の光を集め、刃を形成して『炎玉』を斬り裂く。『ヒト』が顔と思われる部分を歪めて、何処からか声を出す。
「オマエェ、ライト?」
「アァ?」
『ヒト』が体を揺らして、快斗に向かって問いかける。言葉の意味がわからず、快斗が首を傾げる。
『ヒト』は少し黙ったあと、急に体を揺らして、
「アカイ、メェ、オマエ、ライトダァ‼」
「んあ?」
「快斗。ライトって何だ?」
「存じ上げねぇな。人違いじゃねぇか?」
快斗は頬をかきながら、『ヒト』に呟く。今の快斗は、髪が水に濡れているため、右目が隠れて、赤い左目だけが覗いているのだ。
もし、この『ヒト』が、何者かに誰かを探し出せと言われているとして、その特徴が赤い目と言われていたら、見間違えるのも頷けるが、
「そんな少しの特徴しか教えなかったのかよ。髪の色とか服装とかいろいろあったろ。もっと。」
快斗は苦笑しながら、突き出された紫色の刃を草薙剣で流し、その腕を斬りつける。
赤い切り口が覗くが、血は出ない。その傷にを無視して、『ヒト』が空へと浮かんで、
「アァアア‼」
両手を前へ突き出し、手のひらから黒い雨雲のようなもの、否、雷雲が出現し、紫色の雷を大量に快斗達に放つ。
「『ヘルズファイア』‼」
「『猛血』‼」
快斗が獄炎を放ち、高谷が手首を斬り裂いて出た血を炎と化させて、紫色の雷を迎え撃つ。
魔力がぶつかり合い、爆炎が広がる。快斗は草薙剣を構えながら、右へ跳ぶ。すると、快斗が今まで立っていた所に紫の針が刺さっていた。
「ギィィイ‼」
『ヒト』は浮遊しながら、数多の紫針を出現させ、走り回る快斗を狙う。
走りながら躱し、流し、撃ち消し、跳ね返す。
「ギィィイ‼ナゼ‼ナゼ、タタカエル⁉オマエハ‼タタカエナイッテ!!」
『ヒト』が、なかなか倒れない快斗に苛ついて、頭とおもられる部位を抱えて震える。その度に紫色の雷がバチバチと出現し、『ヒト』の魔力が高まっていく。
「知ったこっちゃねぇよ‼戦えないとか、意味わかんねぇ。お前みたいな強えやつ仕向けるってのに、その相手が戦えねぇはずねぇだろ‼」
「ガッ⁉」
快斗が紫針の合間を縫って草薙剣を投げ飛ばし、『ヒト』の目の前に『転移』して、草薙剣で目と思われる2つの穴を斬り裂く。やはり、血は出ない。
「アレ?ミエナイ‼ミエナイ‼」
「いちいち騒ぐなよ‼」
快斗は『ヒト』の頬を拳で打ち付け、横へ突き飛ばす。殴られた部位を抑えて、紫刃を纏った右腕を『ヒト』は振るうが、
「シャアアアア‼」
「アガ⁉」
振り上げられた右腕を、高谷が剣を振り回して、細切りに斬り裂いていく。そのまま回転して、背中を右肩から左脇腹までバッサリと斬りつける。
「ウデ……ハ?」
「斬れたよ‼」
斬れた右腕を目の前に持ってきて、感覚がなくなったことを不思議がる『ヒト』の腹を、快斗が蹴り飛ばす。『ヒト』がくの字に曲がり、吹き飛んでいく。その先には、
「さっきと同じだ‼ハァア‼」
肥大化した腕を振り上げて、殴る準備万端な高谷の姿が。背中を思いっきり殴られ、逆くの字に曲がって『ヒト』が突き飛ばされる。
「ク……キ、キィィイィイアァアアァアア‼」
「む……。」
「な、なんだ?」
すると、突如『ヒト』が頭を片腕で抑え、痛むような素振りを見せる。
意味不明な動きに警戒しながら、高谷と快斗が構える。と、
「ガ……ガ……ガァ‼」
ラジオの雑音のような声を出したあと、『ヒト』の頭部にいくつもの亀裂が入り、勢いよく頭が開いた。
するとそこから、
「オ、オボエテ、イロ‼」
「なっ⁉」
「お、おい‼」
一回り小さくなった、全身の傷が全て消えた同じ形状の『ヒト』が出てきた。そして、紫針を乱暴に撒き散らしながら、『ヒト』が逃げ出していく。方向は、川市の方向。
「おぉい‼待ちやがれ‼」
「クソ‼地味に速い‼」
快斗と高谷が翼を形成して追いかけるが、想像以上の速さに、紫針が放たれている事により、追いつく事が出来ない。
「キィィエエエェェエ‼」
「「ッ⁉」」
途端、『ヒト』がいきなり振り返り、両腕を空に掲げた。すると、黒紫色の大きな光弾が
作り出された。
「キエロォ‼」
「チィッ‼」
『ヒト』が勢いよく両腕を振り下ろし、それに合わせて巨大な紫光弾が快斗と高谷に迫る。速度は速く、躱すには時間が足りない。そして、2人が考えた事はここで一致する。
「攻撃は」
「最大の防御‼」
快斗の草薙剣が獄炎を纏い、高谷の剣に血が滴り、それが炎となる。
「息、合わせろよ快斗。」
「わーってらい‼」
高谷と快斗が同時に飛び出し、互いの剣をクロスさせて、紫光弾を迎え撃つ。
「『死歿刀』‼」
「『崩御の剣』‼」
快斗が『死歿刀』を、高谷が『崩御の剣』を発動し、2色の炎が交わって新たな炎が出来上がる。
「「『交われ、斬死の炎よ』」」
赤紫色の炎を纏った2つの剣が、紫光弾とぶつかり合う。
「ぐ……」
「お、重い……。」
紫光弾の力が強く、快斗と高谷が少しずつ押されていく。
「ハァァア‼『血獣化』‼」
高谷が『血獣化』を発動。口が赤いマスクで覆われ、腕が肥大化し、能力値が底上げされる。
「オオオオ‼『極怒の顕現』‼」
快斗も『極怒の顕現』を発動。髪が黒く染まり、牙と爪が伸び、能力値が底上げされる。
「いけぇぇ‼」
「ハァァア‼」
それぞれの雄叫びを上げて紫光弾を押していく。少しずつ紫光弾が下がり始め、剣が触れているところが斬れ始める。しかし、それでも斬り飛ばすことはできない。
「く……そ……」
「チッ‼」
快斗が重圧に苦悶の表情になり、高谷が盛大に舌打ちをする。
どうすればいい?快斗が考えていると、ある出来事が頭をよぎった。それは、始めて『ヒト』にあったあの夜。
快斗は『極怒の顕現』の次のステップを思い出した。左目の上から赤黒い角が生え、自我を失う可能性があり、強い反動が降りかかるが、強力な力を得ることができる。
「こうなったら……やるしかねぇ‼」
快斗は意気込んで、自身の中の黒い魔力を掘り起こし、開放する。快斗の周りに黒い瘴気が舞い、そして、
「ああああああああ‼」
左目の上から赤黒い角が生え始める。血が流れ、途轍もない激痛が体中で起こり、血が吹き出す。が、止まらない。まだ、目の前の魔力の塊が斬れてないから。
「ああああ‼」
快斗は更に黒い魔力を開放。角が更に伸び、激痛が更に増す。そして、
「死ねやぁぁあ‼」
「ガァアアアア‼」
勢いよく、紫光弾をバッテンに斬り裂いた。
「う、ぐ、ぐぅううううう‼」
途端、体中の筋肉が収縮。肉離れが次々と起こり、流れ出す血は止まらない。気絶しかけるが、なんとか堪え、頭を抑えながら『ヒト』の方を見ると、
「オマエハ……オマエハァ‼‼」
黄色い雷で出来た針のようなものに貫かれて、その場に止まっていた。
「ぶち殺してやる‼」
異常に溢れる殺意が抑えられなくなり、快斗は空気を蹴って『ヒト』へと接近し、
「ラァアアア‼」
「ナ、ナニ……」
『ヒト』が何かを言う前に、快斗が今まで以上の速度で飛び回り、『ヒト』の体をバラバラに斬り裂いた。白い肉片が舞い散り、快斗の意識が遠ざかる。
角はすでに消え、額には大きな傷が出来ている。『極怒の顕現』も解け、快斗は力なく地面へと落下していく。
硬い地面に当たると思ったが、
「おおっと‼な、何なんだ君は⁉」
誰かにキャッチされ、快斗が目玉だけを動かしてキャッチした人物を見る。
灰色のローブを纏い、顔を隠している男子。
少し見える顔は、真っ赤な両目に金髪の………
そこで、快斗の意識は途切れた。