川市
快斗が『ヒト』と戦った日の翌日。
「おー、ここが。」
「ええ。川市です。」
快斗達はその後、再度『ヒト』に襲われることなく、無事に川市に辿り着くことができた。
「意外と小さいんだな。」
「年がら年中移動してんだから大きくできないでしょ。」
「それもそうか。」
紐で結ばれた店の間を抜け、快斗達は、商店街へと進む。勿論変装はしている。
店の全てが太い紐で結ばれており、進行方向には、大きな亀のような生物がいて、その背中にある大きな棘に、紐がくくりつけてあった。
店員達の宿屋を抜け、賑わう商店街へ。あちらこちらで呼び込みが交差し、話し声、叫び声、笑い声が混ざり合っている。
店では肉、果物、食器、その他魔法の杖や、回復薬など、冒険者が使うような代物も売っていた。
街の隙間には、ところどころ水道が付いている。
「取り敢えず、食器洗うか?」
「そうですね。では、食器は私と原野様で洗わせて頂くので、快斗様と高谷様は食料といくつかの回復訳を…」
「いんや、今回は俺が雑用係になるぜ。原野は高谷と買い物してこい。」
「へ?」
ルーネスと原野が雑用をしようとすると、快斗が雑用係を名乗り出た。
「ほらほら、早くアプローチしねぇと、誰かに取られるぞ?この世界の女性は魅力的な人が多いからな。」
「はっ……。そ、そうだね……。」
「二人とも何話してんだ?」
快斗が原野の耳元で小さく囁き、高谷が訝しんで腕を組む。
「んじゃルーネスさん。皿洗いに行こうぜ‼」
「ふふ。わかりました。」
「おい。快斗。」
「い、行こう‼高谷君。」
「え?あぁ、分かった。」
快斗がルーネスの手を取り、原野が高谷の手を取って、それぞれ逆方向へと歩いて行く。
耳まで真っ赤にした原野を不思議そうに眺めながら、高谷は少し苦笑したのだった。
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「もう少し安くなりませんか。」
「すまんが兄ちゃん。これ以上は流石にな。」
「せめて4割引き……」
「いや無理だ。11割ならいいだろう。」
「増えてるじゃないですか‼だったら7割‼」
「いいや、9割以下には絶対にできねぇ‼これは希少なものなんだ‼」
「そこをなんとか‼」
「無理だ‼」
「もういいんじゃん。9割引きで。」
薬屋にて、高谷は完全万全薬という希少な薬の値引き交渉をしていた。
完全万全薬は、状態異常、生命力を全回復。攻撃力、防御力を底上げするというチート極まりない薬である。
値段は2つセットで金貨50枚。妥当な値段と言えるが、家があまり裕福でなかった高谷が癖で値引き交渉をし始めたため、少し時間がかかっている。
「でも、金貨45枚って……。」
「別にいいでしょ。この前金貨100枚手に入ったんだから。」
「でも‼」
「高谷君って、意外と乞食っぽい所があるんだね。」
何を言っても引かない高谷に少し呆れ、原野はさっさと金貨45枚を払って、高谷の手を引いて店を出る。
「くそ…俺にもっと値引き交渉スキルがあれば……。」
「何言ってるの。9割でも十分値引きできたほうじゃない。」
「そ、そうなのか?」
原野の言葉に、高谷が頭を傾げながら原野に聞き返す。その姿が可愛くて、原野は顔を手で覆ってから大きな声で「うん‼」と答える。
「じ、じゃあ、そろそろ快斗君達の所まで戻ろう?食材とか回復薬とか買い揃えたし、」
「そうだな。よし、戻るか。」
「うん。」
高谷と原野が同時に歩き出す。すれ違う人に挨拶をしながら、高谷は自分の手を眺めて、
「原野。いつまで手を握るんだ?」
「え?え、あぁ‼ご、ごめん‼」
無意識にずっと手を握っていたことに気が付いて、原野が赤面しながら手を離す。
あまりの勢いに、高谷の腕がボキッと音を立てて吹き飛ぶ。
「そ、そんなに嫌だったのか……?」
「い、いやそういう事じゃなくて……‼」
「そっか。ごめんな。もっと早く言ってやれば良かったな。」
「い、いやだから……」
「気にすんなよ。腕治ったし、さっさと向かおうぜ。」
「う……うん。」
上手く行かない2人の恋路に、原野が少し凹む。吹き飛んだ腕を抑えながら、高谷は前を見て歩いていく。
原野が駆け足で追いかけ、高谷の手に持つ荷物の半分を取って歩く。
「これくらいは持つよ。」
「あぁ。ありがとう。」
「うん。」
勘違いされたことに凹んだ癖に、直ぐに赤面する原野は感情が変わるのが早い。原野が高谷との会話の幸福を噛み締めていたその時、
「ッ……」
「?どうしたの?」
「…………魔物の気配がする。」
「え?」
「ごめん原野。ちょっと見てくる。これ、持ってってくれ。」
「え?あぁ、ちょっと‼」
高谷は、荷物を全て原野に預けて、街の隙間を抜けて川の方へ走っていった。
原野は少し呆けたあと、『魔物の気配』という言葉を思い出して焦りながら、急いで快斗達の方へ走っていった。
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「魔物の気配がする。」
「左様でございますか?」
高谷が魔物の気配に気づく数分前、快斗も魔物の気配を完治した。
「あぁ。なんだか……昨日の『ヒト』に似てる気配だ。」
「…………どう致しますか?」
「俺が殺る。ルーネスさんはここで高谷達の帰りを待っていてくれ。」
「承知いたしました。しかし、最後に自爆する恐れが……」
「なら、倒す時に空中にでも蹴り飛ばすさ。それに、気配は川の中だ。爆発しても、昨日ほどの被害は出ねぇよ。」
「でしたら良いのですが……お気をつけて。」
「言われずともな。」
快斗はルーネスにウィンクして、隠し持っている草薙剣を握りしめながら、『瞬身』で川まで駆けていった。
「ハァ……。」
残ったルーネスは、洗い終わった食器をまとめ、一応用意してあった袋の中にしまうと、大きなため息をついて、
「どこへ行っても、私達は波乱万丈。落ち着いた生活になるのはまだまだ先の様ですね。」
そうした小さな呟きを言い終わった頃に、原野が焦りながら走って帰ってきた。
好みの女性。
作「高谷は好きな女性のタイプとかあるのか?」
高「うーん。そうだなぁ。静かで落ち着いてて、笑うと綺麗な人かな?料理が上手いと更に評価アップ。」
作「なるほどー。フツー過ぎて何も言えねぇわ。」
高「何でいきなりこんなことを聞いてきたんですか?」
作「さぁな。HAHAHA。」
高「?」
隣の部屋
原「落ち着いてて笑顔が綺麗……。私はどうなんだろう……。」
ル「?どう致しました?原野様。」
原「ううん。なんでもないよルーネスさん。」