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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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ルシ、ファー……?

星達が爛々と輝く爽やかな夜。


荒野のど真ん中で、温かい光を放ちながら、炎が燃え、それを中心に、快斗達が座っている。


「今日はここらで野宿かね〜。」

「魔物も見当たらないし、別にいいんじゃないか。」

「じゃあ快斗君、食料出してよ。」

「あいよ。」


快斗が、『魔技・アンデットホール』を発動して、中から果物と、焼きたての肉が取り出される。


「快斗様の能力は便利ですね。時間が止まっているから、焼きたてのままですし。」

「そうだな。この能力のお陰で餓死することがなくなって良かった。」


骨付き肉を頬張りながら、快斗はルーネスに賛同する。高谷も快斗と同じ様にかぶりつき、原野とルーネスは取り出したナイフで綺麗に切り分けて、キューと共に頬張っている。


そんな様子を見ながら、快斗はふと、夜空を見上げた。そこには、大きく欠けた、消えかけの月が見えた。


「そろそろ新月になりそうだな。」

「そうですね。気を付けないと。」

「え?何に?」


ルーネスが月を見上げてそう呟く。気を付けるという言葉を疑問に思って、快斗が問いかける。


「『強力な闇月(マイディダークムーン)』。魔物達の力が跳ね上がる危険な時期です。期間は一週間と短いですが、『神無月』とは比べ物にならないほどの物です。」

「へぇ。『神無月』ってのは?」

「10月の、神々が休みにつく期間だよ。正確には聖神様が休む期間なんだけどね。」

「聖神が休むと魔物が強くなるのか?」

「魔物の力を抑えているのは聖神だからね。」

「ふーん。」


快斗は、肉が綺麗に消え去った骨を焚き火の中に放り込んで考える。


「『強力な闇月(マイディダークムーン)』ってのは?」

「4年に一度、月が最も地上に近づき、それが新月となる現象のことです。月には天使様が居られるのですが、この期間になると、その天使様は休まれます。」

「天使が魔物の力を抑えていると。あれ?天使のほうが頑張ってね?」

「聖神様の力は微力しか働いていないみたいだからな。」

「なんだそりゃ。無能上司見てぇだな。」

「快斗君。そんな事言ってると天罰が下るよ。」

「でもさぁ、新月になる事なんて結構あるだろ。なのになんでその期間だけ魔物は強くなるんだ?」

「月にいる天使様は、ただの天使様ではないのです。」

「というと?」

「堕天使、サリエル。かつて、聖神に対して敵対心を抱いた、罪ある天使様です。その天使様は月に封印され、その封印は純粋な魔力の鎖が支えているのだとか。」

「新月になると、天使の魔力よりも純粋な魔力の方が大きくなるから、その魔力に反応して魔物が強くなるんだ。」

「それが近づいてるからやばいってか。物騒な世界だな。」

「否定しきれませんね。」


快斗の言葉に、ルーネスが苦笑しながら、食事を終え、快斗が開けっ放しにしている『アンデットホール』に食器を入れる。


「そろそろ食器が溜まってきたな。」

「そうだね。どこかで洗わないと。」

「明日、全力ダッシュしたら、王都まで行けるか?」

「快斗ならいけると思うけど、俺らは無理。」

「無理無理〜。」


快斗の怪物っぷりに、高谷と原野が降参と言わんばかりに両手を上げる。快斗は苦笑して、最後の肉を喰い終える。


「そういえば、快斗様は、この世界の形をご存知ですか?」

「ああ。あの村で知った。」


快斗達がいるこの世界は、エレスト王国を中心として、5つの王国が存在する。


それは、世界を十字に区切る大河で区切りをつけている。


快斗達が最初に訪れた街は、南東方向のセシンドグロス王国。地図でいうと、右下である。


今、快斗達がいる場所は、エレスト王国の領域内であり、南に伸びるシークタル大河の近くである。


「ここらには、川沿いを定期的にズレて回る川市があるはずです。そこに行けば、宿もあるでしょうし、お風呂は期待できなくても、洗面台くらいはあります。」

「へぇ。そんな物が。動く宿ってか。面白いもんだな。」


快斗は全員の食器を片付け、焚き火を中心に結界を貼る。半径50m。足の早い魔物なら一瞬で距離を詰められるが、それより先に、キューと快斗が反応して斬り伏せられるだろう。


「こんな開けてたら分かるだろうけど、一応な。」

「暗闇に紛れて、なんて魔物もいるかも知れないしね。」

「キューちゃんはもう寝てるよ。」

「んじゃ、最初は見張りは俺だ。皆、寝てていいぞ。」

「頼むぜ快斗。じゃあ、寝るか。」

「うん。」

「はい。」

「原野、高谷にイタズラすんなよ?」

「毎晩言ってるけどそんな事しないよ‼」

「?」


最後にひとしきり騒いで、快斗は手を振りながら、結界の端まで歩いていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ハァ……少し喰いすぎたかな。」


膨らんだ下腹を抑えて、快斗はぽつんと生えた一本の木に背を預けて辺りを見渡す。


「『強力な闇月(マイディダークムーン)』ねぇ。」


独り言を呟きながら、大きく欠けつつある月を眺める。


光る月と、暗く月の境目を眺める。徐々に進む暗闇は、よく目を凝らすと、大量の黒い手が、月を飲み込んでいるように見えた。


一本の腕が地面を掴み、その後ろの手がその先を掴み、その後ろがまた前を掴み、それを何度も繰り返し、月は黒い手に飲み込まれていく。


それが、いつしかこの地上にまで降り立ち、同じ様に飲み込み始め、いつかは自分も……


そんなふうに快斗は見えた。そんな訳がないと思い、快斗は顔に手を当てて目をこする。


そして、もう一度月を見上げると、光る月と暗い月の境目には何も見えず、ただ、大きく欠けた月が見えるばかりだった。


「天使も大変だなぁ。ゆっくり休めよ。」


快斗は笑いながら、月に向かって言い放った。


『痛い』

「ッ⁉」


そんな快斗の背後から、不意に女性の声が響いた。草薙剣に手を掛け、その場を跳び跳ねて距離を取る。


しかし、その声が聞こえた場所には誰も居らず、透き通った夜風が通り過ぎているだけだった。


「気の、せいか……」


快斗が草薙剣から手を離す。すると、


『痛いの。痛いの。また、痛いの。』

「なっ⁉」


また背後から女性の声が響き、先程と同じように距離を取ろうとする。


しかし、快斗は違和感を感じた。


体が、動かない。


「な、なんだ……。」

『痛い。やめて……。痛い……。』


後ろからは、少しずつそんな声が近づいてくる。殺気とも違う妙な気配に冷や汗をかきながら、快斗は体を動かそうとするも、全く意味がない。


そして、声が快斗のすぐ後ろに迫った頃、


「……アァ?」


急にその気配が消え、体が動くようになる。

予想外の出来事に、快斗が焦りながら周りを見渡す。


しかし、やはり周りには何も存在せず、ただただ夜風が吹くばかりだった。


「か、金縛りか?体も頭脳も起きているはずなんだが……。まぁ……いいや。」


ふらつきながら、快斗はまた先程いた場所に戻り、気の元に座ろうとしたとき、


『痛あああああい‼』

「ッ⁉」


先程の女性の声が聞こえ、草薙剣に手を掛けながら、快斗は勢いよく振り向く。


そして、驚愕に目を見開いた。


目の前には、薄桃色の髪をした、天使のような見た目の女性。そして、その腹を剣で突き刺している、自分がいた。


「な……な……」


快斗は口を不自然に動かしながら、その光景を理解しようと、柔軟な頭脳を回転させる。


すると、女性を突き刺している快斗が、こちらに視線を向け、ニヤリと笑い、小さく、しかしやけに力強く呟いた。


『天使を………殺せ。それが、お前の……俺の、使命だったはずだ。思い出せ。』

「ッ⁉」


その快斗が発した声は、明らかに快斗のものではなかった。静かで低く、それでいて大きく聞こえる声。その持ち主は一泊おいたあと、


『俺を思い出せ。魔神皇帝王、ルシファー。』

「ッ⁉ぐ……ぅ……ぁ……。」


その声を聞いた途端、快斗の内側に存在する、黒い魔力が蠢き出し、侵食を始める。


「ぐぁ……な、なにが……。」


自然と、快斗の右目を中心に十字が描かれ、髪は黒く染まり、爪と歯が鋭くなる。それでも尚、体内の黒い魔力は止まることはなく、更にその上へと向かおうとする。


全身の血管が浮き出て、所々から血が吹き出し始め、血涙が止まらず、鼻血や吐血も始まる。


しかし、そんな傷はすぐに塞がり、直ぐに力へと変換される。


「ああぁ……がぁ……」


徐々に意識が薄れ、視界が真っ暗になり、感情が怒りと殺気に塗り替えられる。


左腕が黒い魔力で包まれ、爪が長く伸び、鉤爪へと変化する。


そして、左目の上から、


「あ、あぐぅぅああああ‼」


激痛と共に血が吹き出し、赤黒い角が生えた。そして立て続けに『スカーレット』が発動。 


『成れ。俺は、最強の、悪魔だ。』


そして、快斗が自我を失い、瞳から光を失う。そして、目の前の刃を突き刺された天使に近づいて、伸び切った爪で引き裂こうとした。


その時、


「………。」

『む……。その剣……。俺を抑えている?』


不意に動きが止まった快斗を不思議に思って、天使を刺した快斗が、草薙剣に触れる。すると、黒い稲妻が走り、弾かれる。


『なるほど。エレメロの……。』


弾かれた快斗は快斗から離れ、


『ふん。お前は俺にならないようにされているようだな。』


弾かれた快斗は口元を抑え、そして快斗に向き直って、黒髪を掴み上げて言い放つ。


『いつしか、俺は復活する。お前が何かを殺すたびに、俺は俺へと近づいていく。俺になることを覚悟しておくんだな。』


そして、弾かれた快斗と天使はは粒子となって消え去った。自我を戻し始めた快斗には、悲しそうな天使の表情が印象的に見えた。


生えた角は消え、爪と歯は戻り、黒髪は白髪に戻り、十字は消え、『スカーレット』は解除される。


「ハァ……ハァ……な、何だったんだ……。」


四つん這いになり、汗をダラダラとかいて、快斗は残る違和感と痛みに蹲る。


「ルシ、ファー……?堕天使……だと…?」


言われた言葉を思い返して、疑問を口にする。そして、


「う……く、は………。」


意識を完全に手放してしまった。

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