それぞれの一日 2
「〜〜♪〜〜♪〜〜♪‼」
「〜♪〜〜♪〜〜♪〜〜♪‼」
「凄いね……。」
「キュイキュイ。」
「王国の歌い手も顔負けの美声ですね。」
エレスト王国へ向かう途中、どこまで見ても真っ平らな地平線しか見えない荒野で、快斗と高谷は、2人で歌うボカロ曲を熱唱しながら歩いていた。
流石はカラオケ毎回100点と誇るだけあり、その歌声は並のものではない。
「高谷君の歌声って綺麗だよね。メサイアに居たときもいつも歌ってたよね。歌詞は『死ね』とか『痛い』とか、暗いものばっかりだったけど……。」
「あそこに居たときは気分が悪かったからな。歌は気分に左右されるんだよ。」
「そそ。だから今の歌の歌詞から予想すると?」
「気分は最高?」
「そう言うこと。」
原野が口に指を当てながら、高谷の歌声を称賛する。
「快斗も歌声は変わらずだな。」
「ああ。姿は変わっても、声は変わってないみたいだな。中身もそのままなのかもな。」
「外見だけ変わってたら、そんな超人的な動きはできないよ。」
「まぁ、これも俺の歌唱能力ってやつ?どんな声にだって対応して、最高の歌を歌ってやるよ。」
「快斗なら出来そうだな。」
「カラオケの点数、平均100って言ってたの聞いてたけど、あながち間違いじゃないのかも。」
「快斗に関しては事実だな。俺は100は十八番でしか取れないなぁ。他は98とか99とか、低い点数ばっかりだよ。」
「あなた達二人が超人的な歌唱能力を持っているってことが物凄く伝わったよ。」
「でも、やっぱり俺よりも快斗のほうが、知ってる歌の数多いし、覚えるの早いし、曲作って歌った人より上手いって評判になるくらいだよ?高音も低音も出るから、音域が広いし」
「それな。やっぱ俺の歌声は国宝級だな。」
「何言ってるの。そこまでは行かないでしょ。でも、快斗君は、絶対音感持ってそうだよね。」
「聴力検査のリズムで一回曲作ってたよね。それネットに投稿したら、いいねが350くらいついてなかったっけ?」
「あんなので350いいねは驚きだったな。」
「聴力検査のリズムで⁉」
前世の話で3人が盛り上がっていると、後ろでキューと戯れていたルーネスが、不意に口を開いた。
「そこまで歌に自信があるのでしたら、王国の喉自慢コンテストに出場してみては?」
「なにそれ。」
「そんなのがあるのか。」
「ええ。種類は4つあります。既存の歌を歌うカバー、それを二人で歌うダブルカバー、
新しく作った歌を歌うシング、それを二人で歌うダブルシングの4つです。」
快斗達が歌っていたボカロ曲は、この世界に無いため、シングとなる。快斗は少々考えた後、口を開く。
「なるほど。それ、賞金はあるのか?」
「勿論。ソロだと、金賞は金貨50枚、銀賞は25枚、銅賞は15枚です。ダブルだと、それぞれがソロの2倍です。」
「だとすると、ダブルのほうが合計だと多いんだな。」
「もし、おニ人が出場すればの話ですが。」
「え?俺出る確定?しかも上位確定?」
「よし。高谷、ダブルシングに出るぞ‼」
「ええ⁉」
「頑張って‼」
「なんでだよ⁉俺の意見は⁉無視⁉無視なのかよ⁉」
「マズい。高谷の発作だ‼みんな逃げろ‼」
「わーー‼」
「失礼いたします‼」
「おかしいだろ⁉何だよ発作って‼おぉい‼」
喉自慢の話で盛り上がった3人は、快斗の冗談によって、再び走り出したのだった。
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「フゥゥウ‼久々のシャバの空気はうまいぜ‼」
「君が無駄に動かなかったら、久々ともならなかった。」
「おお‼エレジア‼迎えに来てくれたのか‼」
「私も居ますがね。」
「ああ‼お前‼3日間俺を閉じ込めて衰弱死寸前まで追い込んだ極悪人だな‼」
「あなたが無駄に叫び動き周るからでしょう‼それが無ければあそこまで衰弱する事はありませんでしたよ⁉」
病院から大きく背伸びして飛び出してきた中性的な見た目の青年、メシルが、出迎えたエレジアと王宮鍛冶職人、ヘンマーに悪態をつく。
保管庫の中にメシルを配置するときに手伝いをしたのは、紛れもなくヘンマーで、メシルにそれなりの量の飲水と食料は渡していたのだが、それをメシルは一日で平らげ、原野との戦闘と、それからずっと騒ぎ回っていたせいで、実家に戻っていたヘンマーが保管庫に来たときには、真っ白な顔で倒れていた。
原因は栄養失調で、その後、一ヶ月ほど入院し、やっと復活したという事だ。
「エレジア‼兵士達の鍛錬はどうだ?」
「まぁまぁ。私が相手してたけど、1日にだいたい6個位切り傷つけられる。」
「あの量の兵士を相手して切り傷だけか。流石だなエレジア‼」
メシルが入院中、エレジアが兵士の鍛錬をしていた。エレジアの実力は本物であるが、本人が教えるのが下手と言うだけあって、鍛錬は実践練習だけだったが、エレジアの的確な指導によって、兵士の戦闘能力は上昇している。
「まぁ、エレジアの体は硬いから、そう簡単には傷つかないからな‼」
「なんか、その言い方嫌。」
「んなの気にすんなよ‼んじゃあ、今日からアイツらをしごきまくるとするか‼」
「頑張って。」
両手を振り上げて威勢よく笑いながら、メシルは鍛錬場へ走っていった。
エレジアは、メシルの背中をしばらく見つめていたあと、
「ヘンマー。」
「はい。こちらです。」
高谷と快斗につけられた大剣の傷を修復するため、鍛冶場へと歩いていった。
ちなみに、エレジアとメシルは、幼馴染のような関係である。
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「せい‼」
大木が生え揃う静かな森の中で、空気を切り裂きながら進む一本の矢。それは、木の影に隠されていた的を正確に撃ち抜いた。
放った影はなお止まることはなく、木々の隙間をかけながら、通りざまに的を撃ち抜いていく。
身軽な動きに、正確な狙い。暗殺に特化した固有能力、『影より撃ち抜く者』。
そして、また一本、矢が放たれ、魔力が付与されたそれは鋭さを増し、途中で弾けて分裂し、不自然な軌道を描きながら複数の的の中心を、ほぼ同時に撃ち抜いた。
そしてまた一本、また一本。と放たれていき、それぞれに様々な能力が付与され、30本の矢で、100個の的を撃ち抜いた。
「フゥ……」
弓を背中に背負い、矢を放っていた者が地面で座り込んで休憩する。葉の間から差し込む光を浴びながら、光を反射する汗を拭き取り、地面に届きそうなほどの長さのこげ茶の髪を持った、ツインテールの少女。
耳は通常よりも長く、尖っている。大きな両目は青く澄んでいて、映る情景をきれいに反射させ、眩しい。
股と胸以外を露出させた大胆な姿の耳の長い少女、もとい耳長族は立ち上がり、拾えるだけ矢を拾ってから、更にかいた汗を拭き取りながら、笑って、
「いやぁ〜、やっぱり鍛錬していないと鈍るものですねぇ。今日は久々に集中できたので嬉しい限りです。」
背中に背負った矢入れに矢を入れて、独り言を呟きながら、少女は森を歩いていく。耳は通常の長さになっており、尖らず丸くなっている。
半耳長族の少女、ヒナは、帰ったら風呂に飛び込もうと考えながら、スキップをして村に帰っていった。
皆さん、メシルの獄値見たいですか?
興味ない?ならいいですか。