それぞれの一日
快晴。空を見上げて、快斗は大きく背伸びをする。肩に乗っているキューが、首と腕に挟まれて苦しげに鳴く。
横に並ぶのは高谷と原野、そしてルーネス。
涼し気な風が、髪の毛を揺らし、旅立つ者たちの背中を後押しする。
そんな気分を味わいながら、快斗はゆっくりと振り向いた。その先には、
「行ってらっしゃい‼快斗お兄ちゃん‼」
「行ってらっしゃいませ。」
「怪我しないでくださいね‼」
大きく手を振るリンとヒナ。静かに見送るケイン、その他、快斗が助け出した人々が、快斗たちに向かって手を振っている。
その人々に、快斗もまた大きく手を振って、
「行ってくるぜ‼なんかあったらヒナを頼れよな‼」
「ええ⁉また私ですか⁉」
「じゃあな‼」
「行ってきます‼」
「また今度‼」
「それでは。」
各々が挨拶を述べ、全員は正面を向いて、
「よーい。」
「「?」」
「ドン‼」
「ええ⁉ちょっと快斗君‼」
「おい。快斗お前‼何も言わないでそれはズルいぞ‼」
「草原を走るなど……何年ぶりでしょうか。」
快斗の悪ふざけに乗りながらも、誰も嫌がる様子もなく、一行はエレスト王国へと走り出したのだった。
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エレスト王国、地下牢獄。
数々の犯罪者たちが集い、最低限食事と、トイレ、汚れたベッドが用意されている。
しかし、それらを一切用意されず、一日に一食しか運ばれない部屋が一つ。
その中には、真っ黒な長い髪を持つ、日本人風の顔をした美女が、両手を鎖で繋がれ、正座させられていた。
その瞳からは生気を感じることはできず、ただじっと、地面一点を見つめている。
すると、通路の奥から硬い足音が響き、その気配は迷いなく、その女性の部屋へと向かってくる。
「おい。飯だぞ。食え、犯罪者。」
「……有難うございます。」
乱暴に目の前に薄味のスープが入った用意が滑るように渡され、それを取って口に流し込む。
ぬるい水のような味がする。それに混じって、少し血の味が。
全て飲み干したあと、その容器をゆっくりと起き、鎖が繋がれている壁へと寄り添い、膝を抱えてうずくまる。
誰しもが、彼女がここに来る事に驚愕した。性格、身分、実力共に、犯罪を行うなど考えられない人物だったからだ。
ホコリに包まれた、みすぼらしい女性。それは紛れもなく、エレスト王国最強の剣士、
『剣聖』、ヒバリ・シン・エレスト。
その人だった。
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「ハァア‼」
「シィッ‼」
蒼い炎で出来上がった、鋼を超える強度の蒼剣と、黄色い雷を纏い、高速で振るわれた鋼の剣がぶつかり合い、衝撃波が舞う。
両者の足が地面に触れるたびに、大きな砂埃があたりを埋め尽くす。
互いを切ろうと迫る刃の攻防は、その色と音色も相まって、見惚れてしまいそうな程に美しい。しかし、それは長くは続かない。
両者が大きく振りかぶった刃が勢いよく接触。踏み込みの力で地面が割れる。火花が散り、睨み合う。
片方は蒼い炎で相手を焼き、片方は黄色い雷で相手を感電させる。そして、その接触で勝利したのは……
「ハァ……ハァ……」
「俺の、勝ちだ。」
蒼剣を喉に突きつける少年、渡辺だった。
その相手、黒本は渡辺の手を借りて起き上がる。
現在、快斗のクラスメイト達は、さらなる実力の向上のため、エレスト王国の、メサイア本部にて修行中であった。
今までは渡辺、内田、蛯原、矢澤が一番強い者達だったが、矢澤はクラスメイトとクレイムの死を目の当たりにして精神を崩壊させ、移動時に何処かへと失踪してしまった。
そのため、その枠を補おうと努力したのは黒本である。そして今では、クラスメイトの中でトップレベルの剣の使い手となっている。
しかし、それでもクラスメイト最強は変わらず、その地位は渡辺が独占しているのであった。
「いい試合でした。その調子で剣技を磨いてください。あなた方はいずれ、メサイアの幹部に登りつめることも可能でしょう。」
拍手をしながら、二人に話しかける女性は、メサイア最高幹部、ルージュである。
背中に銀色の槍を背負った彼女は、手に持つ回復薬を二人に渡し、回復を促す。
「貴方は魔力も剣技も化け物じみてますね。すぐに私の事など追い抜いてしまうでしょう。」
「…………そうですかね。」
ルージュは渡辺に向かって、称賛の声を掛け続ける。その言葉を適当に流して、渡辺は奥歯を噛みながら、快斗と相対した時のことも思い出す。
初めて殺気を向けられ、強いと自負していた自分は全力で戦っていても、その攻撃は、簡単に躱されてしまう。
実際、あの時、快斗は冷や汗を流しながら戦っていたのだが、その時の真顔が、渡辺には余裕の表情と捉えられたようだ。
「…………いつか、殺してやる……‼」
口の中だけで呟いて、渡されたタオルで汗を拭き取りながら、黒本と共に次の対戦相手の元へと歩いていった。
好みの女性。
作「快斗は好きな女性のタイプはどんなだ?」
天「んー、髪が長くて、目つきが少し鋭目で、凛とした人が好きかな〜。俺は。」
作「ほーほー。そうかそうか。」
天「そんなこといきなり聞いてどうしたんだよ。作者。」
作「いや、なんでもねぇよ。HAHAHA。」
隣の部屋。
ル「り、凛とした人……。私はどうなのでしょうか……。」
原「?どうしたの?ルーネスさん。」
ル「いえ、何でもありません。」