楽園
「リン達はこのあとどうするんだ?」
「そう。それが問題なんだよな。」
「ん?」
快斗と高谷は、地面に転がった木の上で、今後の貧民達の生活をどうするか悩んでいた。快斗の膝の上は、リンとキューが陣取っている。
「我々としては、もう王都には……」
「戻りたくないと。まぁ、あんな生活させられてたからな。またそうされないとも限らない。トラウマが出来ちまうのも当然さ。それを踏まえて考える必要があるな。」
快斗に話しかけているのは、貧民達の代表者、ケインである。
「うーん。違う街に移るとしても金がねぇ。戻る場所もねぇ。雇い手もねぇ。人生詰んだニートみたいだな。」
「ニートが可愛そうだからそういうこと言うなよ。でもなぁ。本当にどうしようか。これだけの人数だと、一緒に旅するなんてことも出来ないし。」
「んーーーーーー、あ。いい場所がある。」
「え?」
腕を組んて考えていた快斗がふと、ある場所を思い出す。
「ヒナー‼ヒナはいるかー‼」
「はいはいなんですかぁー‼」
ステテテという音を立てて、小身のヒナが駆けてくる。
「お前さ、俺が教えたスムージー覚えてるか?」
「?ええ。覚えておりますけど……。」
「よし。いいこと思いついたぜ。」
「なんだ?」
「まぁいいや。取り敢えず、今からあそこに向かうぜ。高谷ならわかるよな。始まりだ。」
「………あぁ。あの場所ね。」
「「「?」」」
リンとヒナとケインが首を傾げる。快斗はリンを抱きながら立ち上がり、決め顔で言った。
「行くぞ。始まりの街、セルス街に‼」
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あの発言から一週間。特に何もなく、全員がセルス街に到着。街には入らず、一行は森の中へと入っていった。
「ちゃんと記せよ〜。俺だってうろ覚えなんだからな〜。」
「大丈夫なのか?」
「多分な。」
快斗たちは言わずもがな、貧民達も今は武器を持っている。
「ね、ねぇ快斗お兄ちゃん。本当にこの先に楽園があるの?」
「おう。俺がそう呼んでるだけだけど、それに相応しい場所だぜ。魔物が出たら俺がぶっ殺すし、心配すんなって。」
「分かった。」
不安を隠しきれず、リンが質問してくるが、快斗は手を振って軽く答える。リンはそれで納得したようで、手に持つ斧槍を握りしめて着いてくる。
何故その武器を選んだのかは分からないが、物分りが良くて助かると、快斗は笑いながら大股で歩いていったのだった。
それから一時間ほど歩いて、
「おおお……」
「ここが……」
「よし‼お前ら着いたぞ‼ここが果物の森、名付けて、『楽園』だ‼」
快斗が十二支幻獣『巳』を倒したときに訪れた果物と野菜の森。快斗が名づけた『楽園』と言うながしっくりくる場所である。
「お前らはこれから、ここで生活してもらう事になると思う。他に行く宛もねぇし、ここなら野菜、肉は揃ってるし、ここらは凶暴な魔物は少ないからな。」
「ここで?」
「そう。家を作って、塀を作って、畑を作って栽培して……そうして自給自足で生きていくのさ。誰にも制限されず、自由に暮らせるぞ。」
「いいかも知れないな。だが、本当にこんな山奥で大丈夫なのか?」
「いや、無理だろうな。食材があるっつっても、服とか皿とか、工具がたりねぇ。だから、それを調達してくんのが、俺達の役目だよ。」
「なるほど。じゃあどこで調達してくるの?」
「それはもちろん、セルス街だよ。さっき確認したけど、俺がぶち壊した部分がもう元通りになってたし、工芸品的なやつは沢山あるんだろう。」
「よくそんなところまで見抜けるな。んで?交渉でもするのか?」
「いや、そんなことしたら突っぱねられるだろ?だから、するのは交渉じゃねぇ。こちらが一方的に、全部頂く。」
快斗はニヤつきながら、セルス街がある方を見て頷く。
「取り敢えず、まずは安全と食料の確保だ。ルーネスさん。」
「ええ。『緑結晶の壁』。」
ルーネスが地面に金色槍を突き刺して魔力を流す。すると、貧民達をを囲って緑色の壁が4つ出現し、防壁となる。
「とりま、今はこれで行くけど、資材が手に入るようになったら石の壁を作って本格的に村造りだ。」
「なるほど。では、その村造りはどなたが?」
「もちろん、お前らさ。俺らも手を貸すけど、自分でやるって事もお前らは学ぶべきだぜ。あと、お前らにはこれから戦術も教える。つっても我流だけど、戦えないよりはマシだろ?またあんなふうに働かされないように、自分の身を守れるぐらいには強くならないとな。」
疑問をぶつけてきたケインにウィンクしながら答え、快斗は草薙剣を掲げて大声で叫ぶ。
「これからお前らは、貧民から戦闘民族へと生まれ変わる‼自分の身を守れるくらいに、いや、他人を守れるぐらいに強くなれ‼この世界は弱肉強食だ。強くて賢いやつは優遇され、弱くて馬鹿なやつは差別される。逆に言えば、強けりゃなんでもいい‼強くなれ‼お前らは今日から、ヒナ筆頭の『侵略者』だ‼」
「えぇ⁉」
快斗が高らかに宣言し、その言葉に責任を丸投げされてる感が半端ないヒナが驚く。
そんなヒナとは裏腹に、貧民達は雄叫びを上げてやる気を表している。その反応に快斗は満足して、草薙剣を背負い直す。
「んじゃ、ヒナ筆頭。宜しくな。」
「え⁉その線で行くんですか⁉急すぎません⁉ちょっと‼ちょっと待ってくださいよ快斗さん⁉丸投げは酷いですぅ‼」
貧民達の期待をヒナに預け、快斗は、食肉にする魔物を探しに行ったのだった。