エレジアは思う。
皆さん草薙剣をなんて読みますか?
『くさなぎけん』と読む人もいるだろうし、『くさなぎのつるぎ』と読む人もいますよね。
俺の小説では『くさなぎのつるぎ』の方でお願いします。だったらルビを振れって話なんですけどねw
「ん……んあ?」
「キュ、キュ、キュ、キュイ。」
「な、なんだ?」
「キュイキュイキュイ。キューイー‼」
「うるっせぇよ‼何してんだキュー‼」
「キュ、キュイ⁉」
腹にくる小さな衝撃と小さな気配。そして、謎にリズムを刻む鳴き声の騒がしさに、快斗は勢いよく跳び起きた。
反動で乗っていたキューがコテッと落ちる。
「キュ、キュイ。」
「勝手に俺の上で踊って、勝手に落ちて撃沈って。お前一体何なんだよ。」
「あれ?快斗。起きたのか。」
呆れながらベッドに座って、呆れ顔で快斗がキューを見つめていると、ドアが開かれて高谷が入ってきた。
「調子はどうだ?」
「どうと言われてもな。動いてねぇからわからねぇ。」
「そりゃそうだよな。まぁいいや。起きたならこっち来てくれよ。」
「なんだよ。」
高谷に手招きされ、快斗はゆっくりと立ち上がって付いていく。何時ものカウンターの中に出て見ると、そこには誰もいなかった。
「あれ?原野とルーネスさんとヒナは?」
「外にいる。今ちょっと来客が多くてな。」
「来客?」
快斗は訝しみながらも、キューに頼んで高谷と共に外へ出た。外はいくつかの木が生えている林だ。今は朝。明け方ということで、光が入りにくい林はまだ暗い。快斗がぼうっと木を眺めていると、
「快斗お兄ちゃん‼」
「おわっ⁉」
後ろから猛烈な勢いで突進され、盛大に前に転ぶ。何かと快斗が首をひねると、
「あれ?リンじゃねぇか。」
「うん。大丈夫?こんなに怪我して何したの?」
「少し戦っただけだよ。……てなんでここにいるんだ?てかここどこ?」
「ここはね、王都の外だよ。王城から私達追い出されちゃってね。それでどうしたらいいか迷ってたら凄い爆発音がしてね。それで隠れてたら白い光が空を飛んでいるのを見たから追いかけたの。そしたら快斗お兄ちゃんたちがいて、呼ぼうとしたら消えちゃって、それでよく見たらキューちゃんがいて、追いかけたら私達ここに来たの。」
「そうかそうか。……て私達?」
「うん。ほら。」
リンが自分の後ろを呼び指す。そこではいくつかの焚き火を囲んで、大勢の人々が笑いながら食事をしていた。料理は原野とルーネスが作っており、それをヒナがせっせと運んでいる。
「なんだ。炊き出しでもしてんのか?」
「まぁそんな感じだな。もともとこの人たちはなんにも食べてなくて、俺達が出た瞬間に安心したのか一斉に腹鳴らして倒れたからね。」
「そうかそうか。で、その食材はどうしたんだよ。」
「取り敢えず、そこらの魔物を狩ってきた。ここらは食肉用の魔物がたくさん生息していてな。戦闘力もないから簡単だったよ。」
「ふーん。ていうかリン。そろそろ離れてくれ。」
「やだ。快斗お兄ちゃんからは絶対離れない。」
「そんな子供みたいな駄々こねてねぇで……お前はまだ子供か。」
亜麻色の髪を撫でて、快斗はフゥと溜め息をつく。それから少し近くの焚き火をぼうっと眺めたあと、
「俺もヒナ達の手伝いすっか。」
「そうだな。」
「リンも手伝ってくれるか?」
「うん‼」
白くて小さなリンの手を繋いで、快斗と高谷は、ヒナのところへ向かう。
「高谷お兄ちゃんも。」
「へ?お、俺も手を繋ぐのか?」
「繋ぎたい‼」
「わ、分かったよ。」
快斗が握っていない方の手を、高谷が握る。両方の手を繋がれる暖かさに、リンが笑う。その笑顔を微笑ましげに見つめながら、快斗はルーネス達に手を振る。
気づいたルーネス達が快斗の名前を呼び、周りの人々が快斗を見つけて、駆け寄る。全員が感謝の言葉を口にし、快斗が「気にすんな」と答えると、全員が揃って号泣し始めた。
快斗が若干引きながら「泣くな泣くな」と笑いかけ、それからはずっと笑いながら朝食を取り続けたのだった。
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「「「申し訳ありません。」」」
「ふむ。」
セシンドグロス王国王城。王の間。その中で、三人の騎士が膝をついて王、フレイム・セシンドグロスに謝罪の言葉をかけていた。
それを王の横で見ていたヒゲをはやした細身の男性が王に一枚の紙を渡し、王が険しい顔で書かれている内容に目を通し、口を開く。
「此度の事件。街の損害がなかなかのものとなっておる。」
「はい。私達の力不足でございます。」
「そうとも言い切れん。実際、悪魔たちによる死者は出ておらん。」
「ッ……。真ですか。」
「真実だ。死んだのは採掘場の管理、調査を任されていた鍛冶職人ベリルただ一人だ。だが、この者は既に死んでいたも同然。貧民たちに無理を強いて働かせる。それを隠蔽し、メサイアの調査を欺いていたこと。死刑になるような重罪だ。十二支幻獣『午』による死は天罰と言えよう。」
「押し寄せた貧民達はどうされたのですか?」
「門の前で、悪魔が危険だの、『午』が出たのと騒いでいたが、急に空を見上げ、『白い光を見た』と騒ぎながらどこかへと消えてしまった。一体何だったのだ……。」
「それにしても、十二支幻獣を倒す事ができる兵士が近くにいたなど、かなりの奇跡ですわね。」
「セルティア。勘違いしているようだが、十二支幻獣を討ち倒したのは兵士ではない。」
「……真ですか。」
「真実である。聞いて驚け。十二支幻獣を倒したのは、あの悪魔とその仲間の槍使いだ。貧民達の発言や、残った魔力を調査して分かったことだ。この事実に偽りはない。」
「なん、だと……?」
三人の騎士のうちの二人、セルティアとゼルギアは驚愕と言った表情をした。
「あの悪魔がそんなことを……」
「信じ難いが、事実だ。実際、あの者たちの目的は、この王都の制圧ではなく、先日届いた刀を取り返しに来ただけだったようだ。」
「な、なんと……。」
「…………。」
最後の騎士、エレジアは俯きながら、戦いの最中に笑っていた快斗の顔を思い出す。明るく、見たものまで笑わせてくれる笑顔。そんなきれいな代物が、殺し合いの最中で生まれる。
これ以上ない狂気を感じさせ、同時に恐怖が沸き立つ。笑顔というものは、時には人を怖がらせてしまうものだ。
「どうかしたか。エレジア。」
「………いえ。何も。」
王からの問に、エレジアはそっけなく答える。エレジアの性格を熟知しているフレイムは、そんな答え方にも対応し、今回の損害の話をし始める。
一語一句逃さずに聞いていながらも、その内容な頭に入って来ず、エレジアはただ快斗と高谷のことを考える。『不死』となり、傷つく事にためらいをなくした高谷。刃を持ち、傷つける事にためらいをなくした快斗。
エレジアは思う。この二人は、いずれこの世界を左右させる程の事件を起こし、いつか、いつか、
殺し合う
エレジアは知っている。悪魔と友情関係となった人々は、ことごとく不幸になっていく。悪魔にその気がなくとも、体からあふれる瘴気が、周りのものを侵していく。変えていく。
それは悪い方向と良い方向。どちらかは誰にもわからない。それは、侵されてしまった人にしか決められない。