気付けない。快斗は気付けない。
最近長くなりがちですね。すみません。あと、一日投稿が遅れてしまったのは、申し訳ありません。では、本編をお楽しみください。相変わらず下手です。
「『ヘルズファイア』‼」
「アアア‼」
「フゥ……」
宙に浮く快斗が獄炎を放ち、大剣でそれを受け止めるエレジアに、高谷が剣で襲来する。
『身体硬化』で防御力を底上げし、通常なら真一文に斬り裂かれる攻撃を、深い傷一つで終わらせる。
力の入ったエレジアの細腕が、高谷の顔を潰しながら吹き飛ばし、獄炎を弾いて快斗の横っ面に蹴りを入れる。
魔力を付与して強化した腕で受け止めるが、その場に留まることはできず、斜め下に吹き飛ばされて地面を抉る。
「ガァア(『猛血』)‼」
「ハァア‼」
再生した高谷が血を撒き散らして炎とし、エレジアを狙うが、すべてを大剣で薙ぎ払われ、高速で振られたことにより生じた真空刃で上半身に大きな傷を作られる。
「ふ……‼」
「し……‼」
快斗が回転しながら跳び上がり、勢いづいた拳を横からエレジアに放つが、片腕で受け止められる。更に追撃しようとするが、その追撃のスピードを上回る速度で大剣の柄が振り下ろされ、脳天を砕きながら快斗を下へと撃ち落とす。
その勢いで飛び上がったエレジアが、大剣を大きく振りかぶりながら快斗に振り下ろす。
「グルァッ‼」
その大剣を、肥大化した甲羅のようなものをまとった高谷の腕が受け止め、高谷が立っている地面が大きく沈み、崩れた岩が宙を舞う。
その間に快斗が離脱。高谷諸共、獄炎で焼き尽くす。エレジアは逃げようとするが、高谷の滴る血の池から出現した赤い腕が大剣を力強く掴み、エレジアを逃さない。
大きな爆発音とともに高谷が弾け、エレジアが焼かれながら吹き飛ぶ。
「すまん‼高谷‼」
謝罪を口にしながら、地面を蹴って快斗がエレジアの顔面に蹴りを入れる。鼻血を出しながらエレジアを更に追いかけ、黒い魔力をまとった『剛力』発動中の腕を、腹に叩き込んだ。
エレジアは咄嗟に大剣でガードするが、勢いに押し負けて地面に埋もれ、大きなひび割れを作りながら、地面が陥没。エレジアが吐血する。
「ハァ……ハァア‼」
「ぐっ⁉」
エレジアが地面に魔力を流し、地面から大きな岩でできた二本の腕が出現。快斗を拳で挟み込むようにして拘束。動けない快斗に向かって、エレジアが大剣を振るう。
「『魔技・地獄の門番』‼」
黒魔力が固まり纏まり、大きな黒い盾が出来上がる。エレジアの大剣を受け止め、ヒビが入り、そして割れてしまう。しかし、エレジアの攻撃の勢いが大きく削がれ、
「『魔技・苦痛と苦悶』」
散った黒魔力を快斗が操り、エレジアを捕らえ、
「ぐっ……⁉」
感じたことの無いような、不思議な痛みに襲われ、エレジアが体勢を崩して落ちていく。
「オラァ‼」
岩でできた腕を破壊し、快斗が下でもがいているエレジアに向かって『ヘルズファイア』を放つ。大きな爆炎が上がり、エレジアが全身に火傷を作る。
「『連撃』‼」
「うぐっ⁉」
快斗が右腕で『連撃』を放ち、『ヘルズファイア』で『魔技・苦痛と苦悶』が解けて動けるようになったエレジアに追撃を入れる。黒い爆炎の中、エレジアは快斗の姿を視認できない。
灼熱の中で、エレジアが勘だけを頼りに快斗からの追撃を防ぐ。体は既に獄炎に慣れており、耐性によってダメージが大幅に軽減される。
「そこ‼」
「うぐ⁉」
後ろから迫る気配に気が付いて、エレジアが後ろに拳を突き出す。見つかると思っていなかった快斗は、モロに腹に攻撃を受ける。しかし、
「おし‼」
「ッ⁉」
快斗はガッチリとエレジアの腕を両手で掴み、エレジアを一時的に拘束する。そして、真上から、強大な殺気。
「グルァッ‼」
「ぐぅっ⁉」
血を纏わせた剣を、高谷がエレジアの二の腕に突き刺す。エレジアの血が吹き出し、今見に顔を歪める。
高谷は、更にエレジアの腕を引き裂こうとするが、エレジアが回転して高谷を自身の下へと移し、踵を落とし、高谷の心臓部分を貫く。
エレジアが高谷を振り飛ばし、拳を引いている快斗を大剣で叩き斬ろうとした。しかし、
「ぐっ⁉」
エレジアの体内で、大量の不快感が溢れ出し、みるみるうちに全身に行き渡る。腹部を抑えながら吐き気を耐えるエレジアに、快斗が容赦なく拳を入れる。
血を吐きながら地面を転がり、エレジアが苦悶の表情で起き上がる。
「いったい……何が……」
「グルルルルル」
「まさか……君の……」
エレジアは、高谷が持つ、自分の血と高谷の血がこびり付いた剣を見て、察しをつける。
エレジアの不快感の原因、それは、体内に侵入した高谷の血からなるものである。
体内で血に染み込んだ黒い魔力が発生。魔神因子を取り込んだ高谷と、悪魔である快斗には聞かないが、ただの魔人には、魔力酔いといった形で身体を蝕む。
内臓、筋肉、神経、更には骨までも侵食し、最後には体内から肉が溶け、ただの赤い液体へと成り果てる。しかし今回は、
「そこまでする必要はねぇよ。高谷。」
「ガァア。」
「く……。」
悔しそうな表情で立ち上がろうとするエレジアの前に仁王立ちして、快斗が見下ろす。
「お前は魔人たちの希望みたいなもんだからな。魔物とか、俺等みたいなやつから国を守る人間だ。だから、殺しはしない。」
「…………勘違い、してる。」
「アァ?」
エレジアが快斗の言い草を無視して、力強く答える。直後、
「ガッ⁉」
「なっ⁉」
エレジアが一瞬で起き上がり、開脚したきれいな足で、高谷と快斗を蹴り飛ばす。そしてすっと立ち上がり、体内に充満する黒い魔力を、自身の魔力で押し潰す。
「私は、四大剣将。ただの戦士じゃない。格が、違う。血を流し入れたくらいで、いい気にならないで。」
忠告するように、冷血に言い切るエレジア。エレジアの体内からは黒い魔力がいっさい感じられず、純潔に満ちたエレジア自身の魔力が溢れ出す。
「手加減は無し。本当の本当に、本気で行く。覚悟して。」
「ハッ‼上等‼」
「グルァッ‼」
土煙を振り払って、快斗と高谷が、雄叫びを上げながら飛び出す。二人で挟み撃ちで連続攻撃を放つ。快斗は魔力を纏わせた爪と拳で。高谷は持っている剣と、肥大化した腕を振り回して。
その全てが、今のエレジアの瞳には虫の歩みのように遅く写り、大剣を使わずして、一発も当たることなく、その間をすり抜ける。
「『地爪』」
地面から生えた大腕の鉤爪が、高谷と快斗に迫る。快斗はその襲来をくぐり抜け、高谷は真っ向から受けて粉砕する。
「『貫手』‼」
「ガァヴ‼」
快斗が鋭く整った黒い魔力の攻撃をぶつけ、高谷が血からなる炎を纏った剣を高速で振るう。
どちらも威力には申し分なく、速度は一般人が認知する事すらできない。
しかし、
「ふ………。」
「なっ⁉」
「グギィ……。」
エレジアは、同時に迫ったその2つの攻撃を、両手で打ち壊した。
大剣で快斗の攻撃を流して、突き出された右腕が吹き飛び、血を撒き散らしながら中を舞う。高谷の攻撃は全て『身体硬化』した腕で弾かれ、上から迫る拳で体中を粉砕される。
右腕を抑えながら、大きな隙きを晒す快斗の腹に大剣の柄を叩き込み、吹き飛ばす。肉片と化した高谷は、驚異の再生力で一瞬で元に戻るが、エレジアの『地羅翔天罰斬り』で縦に真っ二つにされ、更に血を吹き出して倒れる。
快斗は悩む。
(不味いな。勝てる気がしねぇ。さっきよりも気配が大きい。本気になったってのは、ガチだったみたいだな。)
血が吹き出して、痛みが徐々に大きくなる右腕を抑えながら、勝利のビジョンを考えていると、
「ボウっとしてたら駄目。」
「づあ⁉」
背中に大きな痛みが走り、少し遅れて血が吹き出す。斜めに斬られた背中は、尋常じゃない量の血を流していた。吐血を繰り返していると、今度はエレジアが前に現れ、快斗の顎を下から蹴り上げる。
舌は噛み切らなかったものの、強すぎる威力で歯がぶつかり合い、歯茎から血が吹き出す。
体中から血を流す快斗を見て、彼を重症と呼ばないものはいないだろう。それ程快斗は全身に傷を作っている。しかし、
「『ヘルズファイア』‼」
すぐに立ち上がって、エレジアに獄炎を放つ。しかし、短時間で完全に耐性がついたエレジアは、平然とした様子で快斗に歩み寄る。そして、
「ぐふ……。ゴボぉ……。」
「もう、諦めて。これ以上傷つけたくない。」
エレジアが快斗の腹部に拳をねじ込み、血を絞り込ませるように吐かせる。そのまま、倒れそうになる快斗をエレジアががっしりと掴み、離れさせないようにする。
「これ以上抵抗すると、君が危うい。大きな苦しみを負いながら、死んじゃう。君は多分、私達に捕まったら処刑されちゃうけど、そのほうがマシ。一瞬で首を切り落とされるだけ。だから、お願い。これ以上、私に君を傷つけさせないで。」
快斗に傷を大量に負わせながらも、エレジアは切実な願いを快斗に話す。その願いを虚ろな表情で理解していく快斗。と、エレジアの後ろから高谷が叫びながら飛びついた。が、
「邪魔。君はあと。今はこのこと喋ってる。」
「ガッ‼」
顎を殴られ、腹部を貫かれ、足を切断され、吹き飛ばされる。血が宙を舞い、雨となってエレジアにかかるが気にしない。
「君、名前なんて言うの?」
「天野……快斗……。」
「快斗君。考えてほしい。君は今、自分を追い詰めている。私達に全て任せて。そうしたら、苦しみもしない。痛みもない。悲しみもない。」
快斗は俯いて、考え始める。面白みで引き受けた賭け事。自分はそんなつもりはなかった。戦う理由なんてほぼ無かった。
なのに、何故自分はこんなに本気で戦っているのか。高谷は親友だとしても、命を賭けようとは思わない。原野は言わずもがな。クラスメイトの誰にも未練はない。絶対に守りたい人がいる訳でもない。助けてくれとせがまれても、自分には関係ないと斬り捨てることだってできる。
なのに、何故自分はこんなに本気なのか。そんなに前向きでいられるのか。こんなにも怒りが湧くのか。それは簡単だ。
友を守りたい? 違う。
賭けに勝ちたい? 違う。
大切と思える人を見つけたい? 違う。
人を、生物を、ただただ
殺して喰らいたい。
それが理由。それが本能。それが本筋。悪魔として生まれ変わった快斗は、無意識に精神の欠けた部分を悪魔の本能で埋め尽くしていた。それが次第に感情を変えていった。
怒りは殺意に変わり、嫉妬は怨念に変わり、感謝は嘲笑に変わり、悲しみは喜びと化す。
そんな感情たちに、快斗は飲み込まれていった。キューのために怒ったあの日から。
……………………アァ?
何故、あの時快斗は怒った?何故、殺意が湧いた?何に対して怒った?小動物が、大きな驚異に殺される。不自然など何処にも存在しないじゃないか。なのに、何故、快斗はあの時に、自分を殺す勢いで戦ったのか。
答えは明確だ。キューは、キューは、正真正銘、快斗が心から仲間と思える、いわば、心の拠り所だ。
殺戮が楽しみで来た世界。それは同時に、本人には無意識で、強大な不安と恐怖を作り出し、心を蝕んでいた。そして、街を追い出されたあの日に、それが爆発した。ただ殺すのでは駄目だ。たっぷりと、怒りと恨みと憎しみを載せて殺すのだ。
そう、殺す。殺すのだ。何もかも、自分の敵は、誰だろうと、例え、自分であろうと殺す。殺す。殺す。殺したい。殺したい。殺したい。
その考えを、世界でも生きていけるように引き戻したのはキューだ。快斗は、無意識ながら気づいていた。本能が悟った。その拠り所を傷つけられれば、怒るのは当然だ。
その拠り所の地位を、少しずつ、高谷やルーネスや原野が確立しているのだ。そう、自分の不安を消してくれる場所になる可能性になるものが消えるのが、快斗は嫌なのだ。それが嫌なのだ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
快斗は狂ってる。既に、大きく狂っている。人を物としか見ていない。それを、本人は、気付いていない。この感情は、今、壮絶な殺意へと変わる。が、それを引き留めるのが、前世の快斗。その役割を担うのが、前世の快斗。
快斗は、自分を知らない。知ろうとしていない。怠惰。怠惰である。最も大きな問題に気づいていない。
自分が、二重人格であることに。
肩を掴むエレジアの腕を物凄い力で握り、突き放す。重症の体からは想像もできないような力に、エレジアが瞠目する。
快斗は俯いたまま、ゆっくりと右肩の切り口を掲げた。瞬間、切り飛ばされた腕が浮き上がり、回転しながら飛来。快斗の腕がガッチリと繋がり、黒い魔力を糸として、体へと縫い付ける。そして、
「来いよ。俺の、草薙剣‼」
「ええい‼」
「ッ⁉」
屋根から原野が飛び出し、快斗に向かって草薙剣を投げつける。それを左腕で掴み、唐突に安心感。そう、これだよ。これがなきゃ、斬り殺せない‼‼
そして、覚醒する。固有能力、『偽善の虐殺者』。
「原野。あっちはルーネスさんが戦ってるみたいだな。相手は手練だろ。高谷を連れて行け。」
「え?でも、快斗君一人じゃ……」
「俺には草薙剣がある。体に染み付いた感覚で、使い方も思い出した。使ったことないのに、不思議だな。だが、心配するな。そっちの戦いが終われば、空に『炎玉』でも放ってくれ。すぐに戻る。落ち合うのは『怒羅』いいな?」
「……う、うん。分かった‼高谷君。来れる?」
「ガゥア‼」
原野は血塗れの高谷を連れて、エレジアと快斗の戦場をあとにする。
「死なないでね‼」
「ったり目ぇだ。」
最後に、原野が振り返って、大きな声で言い残して行った。その時の顔が、怯えたような顔で、快斗には妙に印象的だった。
その理由を探るのを諦め、快斗はエレジアに向き直る。
「待ってくれてありがとな。草薙剣も手に入った訳だし、本当はおさらばしたいところだけど、それはお前が許さないだろ?」
「………当たり前。それに、気が変わった。君は……絶対にここで殺す。」
「ほう。そりゃまたどうして?」
エレジアは顔を背ける。快斗は何故だか湧き上がる興奮を抑えてエレジアに聞く。しばらくして、エレジアがけじめをつけたような表情で向き直り、快斗に言い放った。
「君、私を突き飛ばしてから、凄い怖い笑顔をしてるよ。」