ゼルギア・ヘルロンド
今回は短めです。すみません。
「うぅ……ああ?」
鍛冶場の近くの小さなクレーター。そのど真ん中で寝ていた女性は、情けない声を発しながら起き上がる。
「わ、私は…何を……」
頭に手を当てて、寝る前のことを思い出す。
愚かにも、所見の相手を油断しながら追い詰めていると思っていたセルティアの姿を。
「ッ‼あの転生者は⁉」
全てを思い出してから、バッと立ち上がり、細剣を構えて辺りを見回す。いくつかの空き家が崩れ、破壊されたあとがあり、その他には何もなかった。
「く……油断しましたわ。まさか私を欺くとは……ましてや気絶まで追い込むなど……。異世界からの訪問者とて、弱者ではないようですわね。」
セルティアはそう言いながら、自身に負けの言い訳をしていると、
「経験、実績、ともに浅い若造に一発くわされるとは。お前も弱ったものだな。」
「む。聞き捨てなりませんわ。その発言。私は確かに油断して、『凍壁』を張るのを怠りましたわ。しかし、実際の実力は、落ちぶれてなどおりません。」
「ふん。情けない面で十分間寝こけていた粗忽が何を言う。」
「ッ‼粗忽ですって⁉もう一度言ってみなさい根暗‼」
「何度でも言ってやる。粗忽女。」
「まぁ‼貴方と言う人は‼人の心をお持ちですの‼」
「騒ぐな粗忽。状況が先程よりも動いていることにまだ気づかぬか。愚かな。」
「どこまで罵倒すれば気が済むのです⁉貴方は昔から何も変わっておりませんのね‼ゼルギア‼」
「ふん。」
腕を組みながらぶっきらぼうに話す黒い装束を纏った剣士。セルティアの実力と同等のものを持つその人物は、
「ちゃんとした言葉遣いを身に着けなさい‼
ゼルギア・ヘルロンド‼それでも2閃闘士ですか⁉」
「うるさい。鬱陶しいぞヒステリック。貴様は昔から短気なのは変わっていないようだな。」
「貴方に言われたくありませんわ‼」
セシンドグロス王国、2閃闘士が一人、ゼルギア・ヘルロンドである。
「そんな事よりも状況報告だ。貴様が無様に寝こけている間に、貴様の相手をした転生者が覚醒した。」
「覚醒、ですの?」
「そうだ。それも厄介な固有能力にな。」
「それはなんですの?」
「『不死』だ。あの若造は『不死』の固有能力に目覚めたようだ。今はエレジア様が拘束されているが、そう長くは持たん。噂の悪魔も現れた。どうやら転生者と悪魔は協力者のようだ。それと、もう一人の転生者はルーネスと名乗る女と鍛冶場へと向かっている。」
「目的は何なんですの?」
「まだ分かっていない。しかし、エレメンタルストーンに鍛冶場、とくれば、保管庫の中のものであろう。」
「金銭目的、とは思えませんわね。」
「ああ。それならここまで大きな騒動にはしない。ここまでして奪う必要がある物。保管庫の中にはそれに値するものがいくつかあるが、悪魔が現れたことから考えると、」
「あの、魔剣でしょうか?」
「十中八九そうだろな。そうと考えるのが妥当だ。すぐにでも、転生者とルーネスを止めたいところだ。」
「では、向かいましょう。」
セルティアが細剣を鞘に納め、走り出そうとするのをゼルギアが制す。
「待て。」
「何ですの。」
「貴様の役目はそれではない。それは我に与えられた役目だ。」
「なら、私は何をしていれば良いと?」
「簡単な話だ。住民達を保護しろ。それがお前にくだされた、国王様のご命令だ。いつ、他の協力者に襲われるかわからないだろう?」
「く、国王様のご命令となれば仕方ありませんね。では、私は住民たちの避難に当たります。」
「採掘場には近づかせるな。十二支幻獣が出たという話だ。」
「………本当ですの?」
「ああ。だが、それは不思議なことに、あの悪魔が討伐したようだ。何を考えているのかは分からんが、分からないうちは近付かせるな。」
「承知しましたわ。」
真剣な表情でセルティアが頷き、その反応に満足して、ゼルギアが剣を引き抜き、鍛冶場へと歩みだす。
「くれぐれも、油断しないように。」
「言われなくとも、分かっているぞ粗忽女。あと、一言言うと、常にこれぐらい素直なら楽なんだがな。」
「まだ罵倒したりないのですか⁉」
「ふん。」
ゼルギアは鼻を笑ったあと、鍛冶場へと向き直り、高速で走り去っていった。
「全く。何なんですの‼あの根暗‼」
セルティアはズカズカと音を立てながら、住民達が避難している場所へと向かっていった。
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「もう少しです。」
「分かってる。急ごう。」
原野とルーネスは、鍛冶場の入り口まで続く道を逸れ、ショートカットと隠蔽目的で茂みの中を突き進んでいる。
十分ほど走り続け、そしてついに、
「着きました。」
「うん。でも、見張りが……。」
「ここは私が、『堕識雷閃』。」
「う……あ……?」
「なん……だ……?」
茂みの中でルーネスが金色槍を認識できない速度で振るい、電撃を流し事で、見張りの二人の意識を奪う。
「行きましょう‼」
「は、はい。」
原野は、懐からベリルの右手を取り出し、魔法陣の真ん中にある石版の上に翳そうとしたその時、
「ッ‼危ない‼」
「わ‼」
ルーネスに横から突き飛ばされ、盛大に転ぶ。何が起きたのかと、ルーネスの方を見えると、知らない黒装束の男性が、剣をルーネスの金色槍に叩き付けていた。
「だ、誰⁉」
「ふん。貴様らに我の名を名乗る必要もない。反逆者共、ここで始末してくれる。」
ルーネスから一瞬で距離を離し、青い剣を片手で構えて魔力を高める。
「原野様‼早く保管庫へ‼」
「え⁉でも、ルーネスさんは‼」
「私は彼の相手をいたします‼彼はかなりの実力者です‼本気で行きます‼ですので、原野様は早く保管庫へ‼」
「わ、分かった‼」
原野は言われるがまま、ベリルの右手を石版にかざし、『転移』の発動を待つ。
「させん。」
黒装束の男、ゼルギアは、固有能力、『光の顕現者』を使い、高速で原野の頭上へ移動。青剣を振るうが、
「させません。」
間一髪で、ルーネスの金色槍が割り込み、斬撃を防ぐ。
「死なないでね‼ルーネスさん‼」
「ええ‼心得ております‼」
そうして、原野は『転移』で鍛冶場の中へと跳んでいった。
ゼルギアは「チ……。」と舌打ちしたあと、もう一度距離を離し、ルーネスに語りかける。
「貴様の名は聞いたことがある。ルーネス・サンネルフ。金の者と呼ばれた、史上最強だった元メサイア幹部。疾走したと聞いていたが、こんなところで出会えるとはな。」
「誤解していらっしゃるようですが、私はそんな大層な人ではありません。金の者、という名は聞いたことがありますが、私がその人物であるという事はありません。」
「なら、その槍はなんだ?たまたま失踪したルーネス・サンネルフと同じ形をした槍を手に入れ、ましてやそれが同名の人物であると?そんな偶然が起こるわけが無かろう。貴様は紛れもなく、ルーネス・サンネルフ。その人だ。」
「私は……ルーネス・サンネルフではありません。」
「ふん。嘘も大概にしろ。我は冗談は許せるが、嘘は許せん。だが、ちょうどいい。我は一度、メサイア幹部最強と謳われた貴様と一戦交えてみたかったのだ。存分に来い。その実力、とくと見てやろう。」
「随分と傲慢な。……いいでしょう。この槍の真の力を解放いたします。あなたが私をルーネス・サンネルフと信じられるのなら、それにどれほど近い戦闘ができるか……私も試すといたしましょう。」
「ふん。」
ゼルギアが鼻で笑い、ルーネスが金色槍を構える。そして、数秒経ったあと、
「ふ……。」
「ハァア‼」
青剣と金色槍がぶつかり合い、金と青の閃光が交わる、幻想的とも言える戦いの火蓋が切って開かれた。