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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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情けない笑い声

「征きなさい!!」


流れ出る大量の水。中には流れに乗って飛び出した魔獣達が快斗に牙を剥いている。


押し寄せる大量の水には流石の快斗でも立ち続けることは出来ずに水に流される。一瞬で浅いとはいえ、水生魔獣との水中での戦闘は不利になることに変わりはない。


水生魔獣は見えたものに無差別に攻撃する習性がある。魔獣達は水中にいる異物である快斗を敵とみなし、猛スピードで迫ってはかぶりつこうとその大口を開いた。


鮫のような形をした魔獣。口内の牙は円状に並んでおり、食われれば体が千切りにされるような形状をしていた。


そして快斗の上半身に真っ向からその魔獣がかぶりついたその時、大口の中から血が吹き出した。


それが快斗から出た血であることを、城壁の上から見下ろすゼルギアとセルティアは期待したが、残念ながらそうではなかった。


血に紛れてギザギザの牙が流れ出し、鮫型の魔獣が口の内側からゆっくりと裂けてちぎれた。他の魔獣がそれを見て快斗を狙うのをしり込みする。


快斗は草薙剣を鞘から抜き取り、水面に立つ。水は巨大な池から流れ出し続けて魔獣も次々と入り込んできている。


が、今更快斗が魔獣に対して遅れをとることなんてない。飛びかかってくる魔獣を一刀両断。一太刀で魔獣を殺害する。


透明で綺麗だった水が、兵士達と魔獣の血でどす黒く汚れていく。それがどんどん新たに流れ込む水に押し出され、地面がどんどん黒く染っていく。


魔法を放つ魔獣も、素早い魔獣も、通常で倒すのだって難しい魔獣だって、皆その体が紙で出来ているのではないかと疑うほどに簡単に斬り殺してしまう。


「これは、駄目だな。」

「…………そんな、」

「いや、分かっていたことか。『剣王』と斬嵜家の末裔が負けた時点で、我らの力量では遠く及ばないことなど。」


切り札と言えるほどのものでは無いにしても、快斗に外傷を負わせて少しでも体力を削るくらいなら出来ると踏んでいたのが甘かった。


快斗は正真正銘の化け物だ。世界最強の2人を殺して、国を3つも滅ぼして、それでいてこれだけ大掛かりな作戦を用いても疲れた様子ひとつない。


絶望はしていなかった。ゼルギアはこれが通用するなら倒すことなんて造作もないことだと分かっていたのだから。


しかし少々の悔しさと悲しさは込み上げてくる。夢は潰え、目の前で泣き崩れるセルティアを守ることも、また出来そうにない。


「セルティア。」

「…………はい。」

「俺が時間を稼ぐ。その間に貴様は探し出せるだけ爆弾を探し出して集めろ。」

「…………覚悟を、決めたんですのね。」

「当たり前だ。場内の死体を見てみろ。あの程度の凡骨達に出来て、我ができないことは無い。」


ゼルギアはそう言いながら歩き出す。セルティアも涙を拭い、ゼルギアについて行く。


「あの水の上を歩くのはお前の方が我より得意とする技だ。我はどうにか奴の気を引く。」

「爆弾を集めてどうするんですの?」

「決まっているだろう。我が起爆する。お前は逃げて………」

「逃げませんわよ。貴方が逝くなら私だって逝きます。」

「………ふん。変に意地を張るなよ、妹よ。」

「ここまで来たらヤケクソですわよ。死ぬのが怖いのは否定しませんが、兄様だけが死ぬほうが嫌ですもの。」


ゼルギアはそんな妹、セルティアの言い分に耳を傾けてやる。最後ぐらい、好きなように言わせてやろうと思った。その声が酷くしゃがれた涙声であることも指摘しない。


「昔はあれほど弱々しかったお前が、ここまで強くなったか。」

「また昔の話ですの?」

「連日泣いていたのはどこの誰だ。」

「あんなことされたら、5歳の私は泣くに決まっているでしょう!?」

「分かった分かった。」


喚くセルティアを宥め、ゼルギアは青剣を握りしめる。それから城壁の端に立って、最後にボロボロになった王都を眺めた。


過去に願った、手に入れたかった風景とは大きく違う。描いていたのは明るくも暗くもない太陽の光に照らされて、皆が笑い、手を取り、豊かに育む穏やかな街。現実はそう簡単には行かないようだった。


「国王になる気でいたんだがな。」


様々な事情と、王族ならではの血族の違い。そのせいで姓が違うが、父のフレイムの次はいずれゼルギアが継ぐはずだった。


「今更、何を考えても、な。」


暖かい春風に煽られ、髪が揺れる。そんな感覚を過去に味わったような気がする。ゼルギアは大きく息を吸い、それからゆっくりと吐くと、


「征くぞ。」

「はい。兄様。」


城壁から飛び出すゼルギア。その後を追うセルティア。こんな様子を、前にも見たような気がすると、2人して思ったのだった。


地面に着地すると同時に駆け出す。ゼルギアは快斗の方へ。セルティアは瓦礫の山へ魔晶石を探しに行く。


魔獣を虐殺する快斗に、魔獣達がだんだんと恐怖を覚え始め、噛みつきに行かなくなった。快斗は今相手がいない。セルティアの方へ行かせないように、ゼルギアが相手を務める必要がある。


「ぉぉおおっ!!」


快斗の背中の1歩手前、ゼルギアが強く踏み込む。快斗は当然ゼルギアの存在に気がついている。振り返る必要もないほど弱い相手だと侮り、振り返りもしない。


が、一瞬快斗の探知の中から、ゼルギアが居なくなる。不思議に思って振り返ろうとした瞬間眼前に青い刃が迫った。


ゼルギアが短距離の瞬間移動を発動する。タイミングと距離をずらして快斗の反撃をスカせる。


咄嗟に草薙剣を手の中で回転させ、眼前で刃と刃がぶつかり合って火花が散る。しかし快斗は瞬きすることなく、動くこともなかった。動いたのはゼルギア。弾き飛ばされたのだ。ただ手の中で回転させただけの草薙剣に。


ゼルギアが地面に足を着く、前に快斗の突きが放たれる。鳩尾に吸い込まれるように迫る刃は、あともう少しという所で空を切る。


視界の右端から刃が振り下ろされる。突き出した快斗の腕に、青剣が見事に直撃する。が、ゼルギアの望むような結果に、現実は成ってくれない。


噴き出すはずの血は全くの皆無で、代わりに出たのは火花だった。鉄板でも仕込んでいるのかと疑ったが、紛うことなき肉体だった。


「ぐっ!?」


その光景に驚いていると、すかさず腹を蹴り飛ばされる。めり込む踵が肋に尋常ならざるダメージを与え、家の石壁も貫通するほどの勢いで吹き飛ぶ。


殺気を感じて背後を見やると、先回りしている快斗が草薙剣を振り下ろしている。全く見えなかったその速さに驚く余裕もなく、ゼルギアは死ぬ気で抵抗する。


今いる場所から直ぐに右へ瞬間移動。快斗は驚くことに斬撃を放っている途中で方向を変えてきた。このままでは直撃は免れないが構わない。ゼルギアは青剣を後ろに構えて、吹き飛んだ勢いのまま快斗に突っ込んだ。


家が何軒も崩壊して瓦礫にまみれ、埃と砂煙で何も見えなくなる。


自分の体の動きが止まったことを確認すると、ゼルギアは目の前の瓦礫を蹴飛ばして上に上がる。起き上がる際に左肩に激痛が走った。見ると大きく裂かれた傷口が顕になり、痛みの原因は明らかだった。


出血も多く、左肩がこれでは左腕は動かないと思った方がいい。


直ぐに目の前の瓦礫が爆ぜとんだ。飛び起きまだ動く右腕で青剣を構える。快斗は埃を被っただけでダメージはないかのように見えたが、よく見ると左手のひらから出血していた。


それは先程のゼルギアの青剣を掴んだ手。セシンドクロス王国の作戦を決行して初めて与えた傷だった。


自然と笑っていた。顔に手を当ててから気がついた。こんな小さなことで喜んでいる自分がおかしくなった。


自嘲ではなく、歓喜からの笑み。戦火の中でする表情にしては、些か場違いが過ぎた。目の前の敵はその表情の理由を聞くことを考えることもせず、ゼルギアを殺すことしか考えていなかった。


「ふぅぅ………」


敵の姿勢の変化のなさに我を取り戻し、ゼルギアは深く息を着く。動く右腕を最大限活かして、コミカルに動きながら隙をつき続けるしかない。


時間を稼ぐだけなのだから。


「我を見ろ。我に焦れ。我に戸惑え。我に手こずれ。世界を手に収める大悪魔よ。」


ゼルギアは不敵な笑みを浮かべてそう嘯いた。快斗はその言葉に眉をぴくりと動かして、そして初めてうっすらと笑みを浮かべてこう言った。


『「精神のことかい?なら、理にかなっていると言えようね。」』


この言葉は当然、快斗自身から出た言葉では無かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はぁ、はぁ、はぁ……」


氷で出来た道を駆け抜け、落ちている魔晶石を氷で作り上げた巨大な腕に乗せて運ぶ。どうせならと振り切って、セルティアは魔力が枯渇するほどに魔術を発動しまくる。


しかし家が何軒も吹き飛ぶほどの威力で爆撃しても傷1つつかなかったというのに、この程度で爆発するのかと、セルティアの頭に疑問が浮かぶ。


「……………。」


足を止め、セルティアは振り返る。それはまだ崩壊がほとんど起きていない家がある王都の北側の方。そちらに仕掛けた魔晶石はまだまだ残っている。


「どうせここも炎に埋もれるのならば…………!!」


セルティアは走り出す。まだまだ健全な状態で残っている王都の街へ。


出来るだけ、ゼルギアを苦しませないために。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


少しだけ豪勢な居宅の中で、ゼルギアは壁に寄りかかって座っていた。吐く息は荒く、頭から出血して視界もぼんやりしている。


右手の薬指と小指は切られて今は失われてしまい、青剣を握る力も弱くなってしまっていた。


「く…………」


壁の破片や瓦礫を蹴り飛ばしながら、快斗がずしずしと歩いてくる。殺意もない瞳は、もうゼルギアが敵ではなく片手で殺せる羽虫同等に成り下がってしまったと言うことを物語っている。


「苦しいな………」


青剣を杖代わりに腰をあげる。ふらつきながらも、戦う意志は消えていない。


快斗は草薙剣を振り上げて、ゼルギアを見据えた。ゼルギアはそれで死が確定したとは思わずに未だ果敢に挑もうと踏み込んだ。


その時、


「ゼルギア!!」


頭上より少し右側から声がした。ゼルギアと快斗が同時に視線を向ける。その小さな崖の上には、腕を振り下ろした状態のセルティアがいた。


そしてその直後にゼルギアは自分の顔スレスレの横を通り抜けた魔晶石を見て、直後動く。


左足ですくうように魔晶石を蹴りあげる。その魔晶石は快斗の顔面に直撃する寸前で草薙剣に防がれる。爆発して視界が爆煙で埋め尽くされた。


それでも快斗にはゼルギアの姿が見えるかのように、その動きが手に取るように分かる。


爆煙に乗じて青剣を振り下ろすゼルギア。快斗はその斬撃を草薙剣で受け流し、返し刃で胴体を切り飛ばそうとした。その時、


「っ!?」


快斗の顔面に、右から物凄い威力の衝撃がぶつかった。


それと同時に、視界の右側に血が散乱しているのが見えた。


「ふ………」


ゼルギアの青剣の構え。それはブラフ。単純な話で、振り下ろす動作を敢えて見せて、最初の爆煙に紛れて投げられたもう1つの魔晶石を左手のひらで抑え、快斗の横顔に叩きつけた。


当然爆発四散する魔晶石は快斗の顔だけでなくゼルギアの左腕も吹き飛ばす。が、既に使い物にならない腕だ。ゼルギアはそれが失われることを惜しまない。


「ぐ…………」


人生で体験してきた痛みの中でも最も強い痛みを、歯を食いしばることでなんとか耐え、一回転して快斗の草薙剣を持つ手に青剣を振るう。


快斗はそれに気が付き、草薙剣を握りしめる力を強めようとした。が、それはある一声によって止められる。


『取らせてあげなよ。』


その声に揺さぶられ、快斗は握りしめる力を逆に弱めた。当然青剣の刃が手の甲にくい込んで血が吹き出し、手の中にあった草薙剣も離れて落ちた。


その草薙剣を、ゼルギアは青剣を捨てて掴み取り、固有能力を全力で発動する。


単純に走るのよりも効率がよく、障害物さえ関係ない。一瞬、能力を行使するだけの時間が出来れば、ゼルギアに追いつけることは無い。


「ぉぉおおおっ!!!!」

「よし!!」


セルティアの意図を察して飛んでいくゼルギアに拳を握りしめ、セルティアも駆け出す。


背後からは爆音が響き、とてつもない魔力の気配を感じてセルティアが振り返ると、快斗がゼルギアを翼を生やして追いかけようとしていた。


「させるものですかッ!!」


瞬時に氷の壁ができ上がる。枯渇していた魔力は、魔晶石から補給した。


魔力のみを伝えることが出来るなら、魔力のみを吸い上げることも、ある程度の実力者はできる。最も、純魔力を練り上げた魔晶石から吸い取るのは決して難しくはないが。


快斗は氷の壁を避けることなく突っ込んでそのまま貫通しようとするが、快斗の視界の端で、氷の破片が以上に輝いているのに気がつく。


「氷は私の眷属のようなもの。私の思ったことは、大体氷に出来ますわよ。」


言い残して走り出す。瞬間、氷の壁が魔晶石に負けず劣らない威力で爆発した。快斗は思わぬ爆撃に巻き込まれ、地面に着地する。


傷はつかないが、時間稼ぎはされてしまう。


ゼルギアは既に目的地、南に行くほど高度が低くなるセシンドグロス王国だからこそ遠くからもよく見える、魔晶石が高く積み上げられた山にたどり着いているのが見える。


快斗から見ても、流石にその量は傷を負う。当たるのは避けたいところだ。


転移ワープ』でゼルギアに追いついても、爆撃から逃げる術も無い。


ならば向かわなければ良いだけの話。膠着状態にはなるが、遠くから快斗が魔術で攻撃すればいいだけの事。


そう思ったその時、背後から不意打ちの爆発。


「ッ!?」


予知していない爆撃に体が前に吹っ飛んだ。背後を振り返ると、家を包むほどの大量の氷がそこにあった。


氷が快斗に迫る。雪崩というより、氷の津波という表現の方が正しい。のしかかってくるかのように、氷が快斗を飲み込む。


魔術を打ち込もうとする前に爆発が起こる。しかし踏み込めば吹き飛ばされることは無い。それから魔技を放って氷を一気に退けようとした時、


「くらえッ!!」


氷を突き破って、目の前から刃が突き出された。躱そうと首を傾けた瞬間、刃の座標が大きくズレて快斗に向かう。


それを成したのは、右腕で草薙剣を突き出したゼルギア。固有能力を最大限に活かして快斗を狙う。快斗は草薙剣を見て咄嗟にその刃を素手で掴んで顔に当たるのを防ぐ。


快斗は混乱していた。遠くにいたはずのゼルギアが、快斗を誘い出すために魔晶石の山で待機していたゼルギアが自分の前に来ている理由が分からない。


「我があそこにいる理由がないからだ。」


見透かしたようなゼルギアの言い方に、快斗が自然と腕に力が入る。すると、草薙剣が簡単に崩れて壊れた。そしてそれは元の本当の姿、刀の形をした氷に様変わりした。


ゼルギアが魔晶石の山に向かう素振りを見せたのは、快斗をあの崖下から誘い出すためだ。セルティアを見たのと、そちらの方向に残った魔晶石を思い出して咄嗟に行ったことだが、功を奏したといえよう。


やられたと思う前に事態は先に進む。降り注ぐ氷を押し返すように、ゼルギアの背後から大量の魔晶石が押し寄せた。


いや、押し寄せたのではなく、転がってきた。


今快斗達がいる場所は、魔晶石が積み上げられた場所から見て高度が低い、つまり下り坂になっているのだ。


しかし、ほぼ目の前にいたセルティアがあの場所まで間に合うとは到底思えなかった。


快斗が見上げると、魔晶石と氷の隙間から魔晶石の山があった場所が見えた。


そこには沢山の兵士達が魔晶石を暴風魔術で吹き飛ばしているのが見えた。半壊した王都の壊れていない側に待機していた兵士達。駆け回るセルティアに従い、最後まで隠れていたのだ。


ゼルギアが寄りかかってくる。快斗はゼルギア含めた氷と魔晶石の重さに地面に倒れ込む。ゼルギアは固有能力の酷使でもう魔力が残っておらず、体の痛みが強くて魔晶石から魔力を吸い取るのもできない。


だから、それは後ろにいる妹に、ゼルギアは託した。


「喰らいなさいッ!!」


魔晶石に埋もれた2人の顔のすぐ横を細剣レイピアが通り抜ける。それはいくつかの魔晶石を貫いて地面に突き刺さり、持ち主の最後の魔力を放つ。


氷が咆哮するかのように爆増し、大量の魔晶石と共に氷の壁に閉ざす。


貫かれた魔晶石がその魔力に反応して淡く光り出す。視線だけを動かして微かに慌てる快斗に反して、死期を迎えた2人は至って冷静だった。


「兄様………」

「…………よくやった、最愛の妹よ。」


ゼルギアに被さるセルティアに、ゼルギアは顔を向けずにそう言った。様々な思いがセルティアの脳内を駆け巡り、そして最後には涙ありの笑顔に辿り着いた。


光が包み込む。常人には耐えられない、壮絶な威力の爆発が起こる。眩しくてつい、ゼルギアは目を閉じた。


「えへへ」


最後に聞こえた声は、そんな気の抜けた、情けない笑い声だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


氷に閉ざされた部屋の中での大爆発は兵士達にまで爆風こそ届かせてはしまったが、爆発の威力は完全に殺していた。


兵士達は跪き、2人の戦士の勇気ある行動に敬意を払う。何人か混じっている冒険者達は、立ったままで爆発が収まるのを最後まで見ていた。


そして、そのまま首から上を失ってその場に倒れ伏した。


兵士達が驚いてどよめく前に、手前の兵士達が命を落とす。吹き出す血飛沫は空高く舞い上がり、まるで血の雨が降ったのではと勘違いするほどの勢いだった。


兵士達は死体が量産されたその場所を見て絶句する。


顔の右側を火傷した天野快斗が、返り血を浴びて全身を赤に染めて立っていた。


「………あぁ、神よ。」


そう嘆く兵士は、自分がその場にいた最後の兵士であったことも気づくことなく、一瞬にしてその命を刈り取られる。


草薙剣は一体何人の心臓を貫いたことやら。いくつかの肉片とどす黒い血で塗れた刀身は、その鮮やかな紫色の輝きを失っていた。


「……………」


快斗は振り返る。爆発によって崩壊した地面。深く掘り下げられた穴があり、その最底辺には2つの死体がある。


未だ上がる黒い煙に吐き気を催しながら、快斗は火傷した顔の右側に触れた。痛みがあり、右目は開かない。過去に受けた『断罪』もこんな感じだった。


快斗は草薙剣を鞘に収め、世界最後の安置へと歩き出す。


そしてこの国を出る時に、全く壊れていない王都の半分を、木っ端微塵に破壊して行った。


その時に草薙剣を握っていた手には、明らかに怒りが込められていたのだった。

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