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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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決断

「…………あ?」


目の前にはあの黒い木があって、そこには刀の絵が書かれた赤い実が生っていた。


それは美味しくない木の実。快斗はそれを無心でむしり取って食べた。


大きいので、一口では食べられず、何度も咀嚼する。かぶりつく度に飛び散る果汁は、真っ赤な鮮血のように見えて、快斗の口元は血まみれのように見えた。


実際血の味がするのだから血なのかもしれない。


そしてそれを平らげると、快斗の体が少し強くなったような気がした。それと同時に、首元に嫌な危機感を感じた。


まるで、刃を突きつけられているかのような、そんな感覚だった。何故だかそれが心地よく感じられて、快斗はそちらに首を傾けるが、その瞬間危機感は消えてしまった。


残念だと思った快斗は再び草薙剣を握りしめる。


そして、世界は崩れて現世に戻る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


炎が地面を伝い、世界中に広がっていく。


発生地となった『鬼人の国』は完全に火の海になった。水をかけても岩で押さえつけても消えないこの炎は、徐々に世界を飲み込みつつある。


暁の死体はもう灰となった。


それを、炎の中にいるのにびくともしない快斗はしばらく眺め、それを踏み潰した。


いや、正確には、その先に進む際に足を前に出したらその場所に暁の死体があった、というのが正しい。


殺すことに躊躇がなく、されど力量は世界最強。神に受けた命令によって、無差別に人を殺し回る殺人魔となった快斗は、世界を外側から回りながら人を全員殺していく。


快斗は無言で炎の中を歩み続け、世界を回る。炎は適当に広がっていくように見えて、それは快斗に従順だ。快斗が歩く道を、ゆっくりと後ろからなぞるように進んでいく。


それは、快斗が殺し損ねた人間も、最終的には完全に殺しきるための炎。これは保険であり、快斗が殺すということに意味があるこの命令。そのサブ目的として、この世界の破壊がある。


もうこの世界はいらない。神を4柱失い、あまりに神に関わりすぎた人々がいるこの世界は、神達にとって都合が悪い。


だから神達にとってこの世界よりも都合の悪い『天野快斗』を使って世界を壊し、同時に快斗も壊す。面倒なものをぶつけ合って消せあえるのなら一石二鳥だ。


快斗はそんな事はつゆ知らず、ただただ命令に従うだけ。


それは、『愛』を失った快斗だから、出来てしまうことだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ルーネスが快斗の元に向かうと宣言した時、殆どの人々が反対した。ヒバリもライトもベリランダも、みんな反対した。


それは、ルーネスの実力を過信せずにきちんとした評価によって考えだされた意見だ。簡単に言うと、ルーネスでは弱すぎるという事だ。


ルーネスはその意見が妥当だと思った。自分はここにいる人々とは実力が大いに劣る。しかし今失って損ない人間は自分だけだと思ったのだ。


そう言うと当然、優しいヒバリ達は否定する。いや、優しいだけではなくきちんとした理由があった。


ヒバリは、女王として皆に知れ渡ったルーネスは民からの信頼も厚く、この非常事態には必要な主導者であると考えた。ライトも同じ考えだった。


そう言われてルーネスは困ってしまった。それはあまりに過大評価だからだ。戦闘の実力以外には甘い仲間達にルーネスは微笑ましく思った。


だがルーネス自身が決心したのには理由がある。


単に、快斗への想いがあるというだけだ。


自惚れであるが、快斗にとってルーネス自身は大切な存在になったと思っている。


実際それは本当であり、周りの人々も実感している。


だから、会いに行って攻撃するのなら、それを敵と認めていいとルーネスは提案したのだ。ルーネスは、快斗にこれ以上傷ついて欲しくなったから。


「だが、攻撃をあなたが防ぎきれるとは思えない。ましてや逃亡なんて………」


ヒバリはそう言っていたが、ルーネスはその言葉にふっと微笑んでこう言った。


「何も死にに行く訳ではありません。攻撃的かどうかを確認すればよいのです。話しかけるだけ、それだけさせて下さい。」


ルーネスはみなから視線を外して虚空を見つめて言う。


「2人きりで話すのも、随分と久しぶりなんです。」

「しかし、逃げる時はどうやって………」

「それは、ベリランダさんが一瞬で戻ってくればいいんじゃないんですか?」


ここまで黙っていたヒナがそう口にした。当のベリランダはその言葉に勢いよく頭を上げて、


「そんなの嫌よ!!もし私ですら視認できない速度で攻撃されたら?会話の余地すらなかったら?私が背負うリスクが大きすぎる!!女王も!!」

「私に出来ることはこれだけです。」

「だから!!纏めるのはあなたでしょう!!」


ベリランダが喚き散らす。ルーネスは困ったような顔をする。


「ベリランダ様のお手を煩わせる必要はございません。」

「でも師匠、快斗さんが攻撃的だった時、ベリランダさんの魔術がないと逃げきれないと思いますよ?」

「私は死んでも………」

「あなたが死ぬのはダメ!!女王でしょ!!」

「じゃあ、ベリランダさんに着いてきてくださるほかないんじゃ……」

「…………確かに来てくだされば生き残る可能性は高まりますが………その場合は私の身は顧みずに帰ってください。」

「でも……」

「私はいいですよ。師匠がそんなに本気になるの久々に見ましたし、私は遠くから師匠を見ます。ベリランダさんも私と一緒の距離で見て下さればいいですから…………お願いします。」


ヒナが丁寧にベリランダにお辞儀をした。口調と裏腹に、ヒナの目は大粒の涙で潤んでいた。


らしくもなく冷静で、師匠を見届けようとするヒナ。ヒナが冷酷な判断をする人間に見えるが、これはヒナがルーネスを師匠として共に生きた過去があるからできる判断である。


ルーネスの決断というものはそう簡単に覆らないものがある。ヒナはルーネスの決断を推したいと思った。


自身の命顧みることなく愛しい少年のこの先の生き死に。そしてここにいる人々のこれからの命も、ルーネスのこの活躍で決まる。


敵としてみるか、味方として見るか。


誰かがやるしかない。その誰かが、ルーネスであっただけで。


「…………だって、だって…………」


ベリランダの脳内に浮かぶのは、自身の師匠であるフーリエ。彼女ならどうするか。ベリランダはそう考えた。


結論、彼女は絶対にこの案には乗らないだろう。


フーリエほど保守派の人間を、ベリランダは知らない。彼女のように生きるのならば、ここは皆にどう思われようと、この案を認める訳には行かない。


しかしベリランダは彼女の生き方を真似る必要があるのかと言う話だ。


「…………ある、かもしれないけど!!けど!!けどぉ!!!!………あぁあ!!もう!!分かったわよ!!やればいいんでしょ!!フーリエと同じ生き方なんて絶対に嫌だからね!!」


地団駄をふむベリランダはそう言い放った。そのベリランダの言葉にヒナは顔を上げ、ルーネスは少し悲しそうな顔をした。


「私はヒナと遠くから見てるから!!あと、場所がわかんないから行きは馬ね!!」

「………感謝致します。」

「私馬乗れないんですが………」

「私の馬に乗せてやるから!!」


決死の覚悟が重なってなんとか繋がった道。3人は納得した。ライトは心配そうにヒバリを見たが、ヒバリは笑みも悲し顔も浮かべず、ライトに向き合って言った。


「彼女らが納得したなら、いいんじゃないか?」

「………それで、いいのかな………?」

「天野ならそう言うだろう。………そう言って欲しいな。」


ヒバリは諦めた。ライトは少し思案したが、今更引っくり返すことなんて出来ないので、3人を後押しすることにした。


「キュイキュイ?」

「まぁ、若い者の決断に任せようと、儂も思う。」


そして皆がそう団結する中で、蚊帳の外だったキューの不思議そうな声に、槍に宿ったリドルがそんな風に弱々しく答えたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「よろしいのですか?」


馬を用意する兵士にルーネスがそう問いかけると、兵士は少し苦笑して答える。


「そうですね………少なくとも、自分は行きたいと思ってここにいます。」

「野暮なことではございますが、それは何故です?」

「はは、単に、その悪魔様や女王様方に感謝しているので、自分も役に立ちたいと思った次第です。」


兵士は金具をつけ終わると、少し俯いて話し続ける。


「実は、自分は引退兵なんです。」

「引退兵ですか………」

「ええ。先の悪魔様と『不死』の騎士様の戦いで、自分の息子もあの血の呪いの犯されました。それを消し去ってくださったのは、あの悪魔様だと聞いています。それで自分も少なからず、そのお方には感謝しているんです。…………もしかしたら、あの流星は仕方が無いものかもしれない。そうだった時の証人は、多い方が良いでしょう?」

「…………。」


ルーネスはその兵士の言葉に目を見開いた。見ず知らずの、見たことすらない役職の関係しかない人間が、自分の味方としてこんなにも頼もしいとは思っていなかったからだ。


言葉は出ないが、ルーネスはこれ以上ないほどの深いお辞儀をして気持ちを表した。兵士はその様子にまた苦笑して、頭を上げてくれと言った。


「でも良かった。死にに行くような行動なのでどんな粗暴な人間かと心配していたのですが………」

「私が、ですか?」

「ええ。ですが予想とはいい意味で違いました。あなたは他人の為に生きられる人だ。自分は尊敬します。」


そんな買い被りすぎな言葉も、今の不安定なルーネスの心を支える柱となる。ルーネスはもう一度お辞儀をし、その兵士と一旦別れた。


最後かもしれない。いや、そうならないとルーネスは確信している。


だがそれでも、どっちに転ぶとしても、この遠征の前に合わなければならない人物がいる。ルーネスはゆっくりと、その人がいる場所に向かう。


今も誰よりも心が乱れているであろう女性、ルージュがいる場所に。

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