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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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仕返しの始まり

自身が生み出した子供達が殺し合いや騙し合いする様に、少女は嗤う。


無様で身勝手な人間と神様に、少女は救済すら与えようとも思わない。


その中で、少女が特に注目しているのは、光に身を包む青年と、それに従う白髪の少年だ。


世界を揺るがす終わりの始まりに、少女は1人でワクワクした。


そして彼女は小さく、白髪の少年を見てこう言った。


「奪われた物は、『愛』である。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「君に、僕からのお願いをしようと思う。誰からも必要とされない哀れな君に。君には力がある。誰かを殺せる力がある。それを今、僕のために使って欲しい。僕の悲願を叶えるために、協力して欲しいんだ。だから………あの世界の人間を、全員殺して。」


そう言って、光に包まれた聖神、リアンは微笑んだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ぁあ………うぅ、ん…………」


全身が痛む。血が流れる。視界は赤く染ってぼやけていた。


暑くて暑くて仕方がない。何が起こったのかと、暁は瓦礫を押し上げてゆっくりと立ち上がって辺りを見回した。


「……………は、ぁ………」


あまりの惨状に、暁は言葉が出なかった。


目の前の景色は地獄だった。痛みに悶える人は少ない。何故なら痛みなんて感じる前に命を落とした人がほとんどだからだ。


「なん、で…………」


何が起こったのか全く分からなかった。厄災が消えた気配に歓喜した瞬間に起きた災害。隕石でも直撃したのではないかと思うほどの威力。


暁自身が受けた傷は、羅刹との戦いに比べれば比にならないほど少なかったが、代わりに心への傷が大きかった。


「……ぁぁぁぁぁああああぁぁあぁあああぁぁ…………」


大切な人。仲が良かった人。いけ好かなかった人。皆が平等に、一瞬にして消え去った。理不尽な厄災に、暁は耐えられなかった。


「…………そうでござる。女帝、殿………」


瓦礫を足で掻き分け、中に埋まっているであろう零亡を探す。


しばらくして、彼女が来ていた着物が出てきた。その裏に彼女がいる。


「女帝殿、起きるで、ござるよ。大変なことが………」


着物をつんつんと足先でつついて、起こそうとする。が、返事がなく起き上がる気配がない。


「女帝、殿…………?」


暁が屈んで口でその着物を噛んで引き上げ、瓦礫の外への引っ張り出した。


「……………なん、と………」


暁は零亡を見て膝から崩れ落ちた。体の半身を失って内臓が露出した状態の零亡は、見ただけでもう起き上がることがないことは一目瞭然だった。


「何故、なにゆえ………なにを以て誰がこんなことを………!!」


涙を噛み殺し、暁の瞳に憎悪の感情が宿る。その鋭さは、獲物を前にした獅子のようだ。目の前に犯人がいれば、たちまち切り殺してしまうだろう。


そんな暁の背後から、1人の人間が歩んできた。


「何奴!!」


暁が怒りのままに振り返ると、そこには……


「…………ぇ。」


虚ろな目をした、天野快斗が立っていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


その流星が『鬼人の国』を潰したという報告が、全国に知れ渡った。


「何………もう、何なの!!!!!!」


休む間も与えてくれないこの理不尽に、ベリランダが壁を殴って怒りを表明する。


「と、とにかく!!暁さん達の無事を確認しなければなりません!!」


ライトがベリランダを宥め、慌てる皆を纏めようとする。もう少なくなってしまった主要なメンバーはそれに従うが、まだ一般兵は何が起こったのかを討論し続けるだけで何もしない。


「ううぅ…………」


こんな時は人望の厚いベリランダか、『剣聖』のヒバリが一声上げればいいのだが、ベリランダはイラつきながら『鬼人の国』のことを確認しているため何も出来ていない。


ちらとライトはヒバリを見た。ヒバリが声を上げるのを期待したからだ。しかしヒバリは『鬼人の国』のある方向を見つめて動かなかった。


「ね、姉さん………?」

「………いる。」

「え………?」

「天野がいる。あの場所に天野がいるんだ。」

「『鬼人の国』に?」

「あぁ。魔力の反応を感じる。」

「ッ、じゃあ、一旦は快斗さんがいるから少しは持つかな。流星を降らした誰かを対処してくれているかも………」

「いや………違う。」

「え?」

「……………。」


ヒバリは顎に手を当てて考える。ヒバリの感じる快斗の魔力反応は、『鬼人の国』のど真ん中に存在している。


が、戦闘態勢に入っているのはわかるものの、その魔力がぶつかり合っているのは暁の魔力なのだ。


それに、快斗の魔力反応に微量ながら異なる誰かの魔力が混じっていた。


ヒバリは考えた。考えたくもないことだが、それこそ、さっきまで海人に抱いていた感情で。


「『鬼人の国』には…………誰も行くな。」

「え?」

「危険だ………ここまで来ればもうやけくそだ。説明するぞ!!皆の者!!」


ヒバリが主要メンバーを集める。


「私は悪魔だ。故に悪魔である天野の居場所も、魔力の動きも大抵は感じ取れる。」

「じゃああいつは今どこに?」

「『鬼人の国』だ。そこに居る。」

「なら、攻めてきた何者かを相手してくれる……」

「違う。あいつはあの場所を守るためにいる訳じゃない………」

「?。どういうこと?」


ベリランダが質問攻めにする。ヒバリははっきりと言いたくは無いのか遠回しな言い方をしているが、それでは話は進まない。


「姉さん………」


ライトが視線を向けて催促すると、ヒバリは観念したかのように口を開いた。


「よく聞いてくれ。………あの場所に降った流星は、何者かの魔術ではなく、天野自身だ。」

「え?それってつまり………」

「あいつはなんらかの理由で、『鬼人の国』を攻撃した………いや、今もしている!!暁と思われる者と今も交戦中だ!!魔力が強く反応している。殺す気だぞ!!これは!!」

「なにそれなにそれなにそれ!!もう意味わっかんない!!」


今度こそ諦めたベリランダが頭を抱えて座り込んだ。


「と、止めに行く!?」

「いや、それは………」


駆け出そうとするライトを、ヒバリは制した。それは意味が無いとわかっている。


悪魔であるが故に敏感になった魔力の反応感知能力によって、ライトと快斗の力量さが否応にもわかるのだ。


ある程度は戦えるだろうが、倒す、または無力化はできない。出来るとしたら、それは同じ悪魔であるヒバリだけだ。


力量で同格にまでなら追い詰めることが出来るヒバリだけ。


だがこれが先ず快斗の意思によって起こされた出来事なのか、何者かに操られているのか分からない。


親友の死で動揺した、なんてことは快斗に限って有り得ない。ヒバリはそう断言出来る。それほど彼を信頼しているからだ。


しかしこうなった以上、彼を敵として捉えて攻撃しなければならない。防御ではダメなのだ。簡単に突破されてしまう。


「どうするのよヒバリ………」

「………他国と協力して、天野を拘束する………」

「1国を簡単に潰せる力があるんでしょ!?拘束なんて出来るわけない!!」

「く………分かって、いるんだが………」

「恋人だかなんだかは知らないけど!!こんな時に躊躇しないでよ!!」

「う…………」

「あなたがこの中で一番強い!!あなたがやらないと行けないの!!」

「分かってる………」


攻め立てるベリランダ。次第に悪くなっていく空気に、ヒバリは手を握りしめる。


受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難く受け入れ難い


男女のそれの感情を抱いたのは彼が初めてだった。あまり頼りになるタイプではないが、愛しい男であることに変わりはない。


この手を下すなど無理だ。いや、無理なのではなく、嫌なのだ。


「で、でも、まだ僕らの脅威になるとは………」


ライトが必死にフォローする。その言葉にベリランダが鋭い視線を向ける。また1歩悪くなる空気に、ヒバリは強く紡いでいた口をゆっくりと開き、


「とにかく!!」


が、ルーネスの声に遮られた。


「一旦落ち着いてください。快斗様が何を考えていらっしゃるかは、会わなければわかることではありません。ヒバリ様の言う通りに戦闘を望んでいるのならば、会って戦うしかないでしょう。」

「それは、そうなのだが…………」

「ヒバリ様が懸念していらしているのは、この攻撃とも取れる行為が、快斗様自身の意思か否かということでしょう。」

「あぁ………」

「それが、快斗様の意思であったなら………あなたは、快斗様に剣を振るえますか?」

「……………。」

「もし、快斗様も高谷様と同じように、世界に滅びをもたらすのであれば戦うと、誓っていただけますか?」

「…………誓う。誓うとも。私は『剣聖』。国民も、世界の人々も、厄災から守る。それが私の役目だ。」

「であれば、結論は出たでしょう。」


ルーネスは珍しく強気に笑って下を見る。下には城から戻ってきたキューがおり、キューはルーネスと視線を合わせると、『異空間』から金色槍を取り出した。


背中に背負い、がっしりと握りしめる。


「ある程度の戦闘力を持ち、逃亡も可能な捨て駒。私が、快斗様の場所に向かって確かめましょう。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふぅ………ふぅ………ふぅ…………」


刀の柄を口にくわえた暁は、荒い息を吐いて目の前の男を見つめていた。決して睨んではいなかった。


そこにいるのは、無表情で暁を攻め続ける快斗だ。開かれた瞳孔。瞬きすらしない。しかし無気力なように見えるその瞳にも、しっかりとした殺気があり、暁はこの数分で何度も死にかけた。


「べぁはあ…………」


柄を噛む力を強めたところで歯茎が限界を迎えて崩れ落ちる。血と肉と歯と刃が地面に落ちて、それと一緒に生きる可能性も落としたような気がして、ついに膝が地面に落ちてしまった。


「やはり………そなたは桁外れだ…………」


快斗は歩み寄る。暁を上から見下ろし、今にでも踏み潰しそうな勢いである。


「……は…………」


暁は頭を上げて周囲を見回す。火に包まれた都は堕ち、完全に潰された。暁と快斗の死合によって、街は跡形もなく消え去った。


戦闘中、両腕を無くしたとて足がある暁は決して弱くない。それを簡単に捌きつつ、視界に映りすらしていない場所に隠れている人に瓦礫を蹴飛ばしたり炎を飛ばしたりで殺し回っていた快斗は末恐ろしい。


その度激昂するも、暁では到底及ばず、こんな形で敗れてしまった。


炎は紫色。暁が出した水では消えなかった。暁は思う。あれはきっと絶対に消えない炎なのだと。


あの中に、どれほどの人が堕ちたのだろう。


暁は快斗の目をもう一度見る。


やはり、その目に生気はなく、目の前の敵を殺すだけのゴーレムと何ら変わりはない。


「……………。」


快斗がゆっくりと草薙剣を振り上げる。暁は俯き、振り下ろされる刃を待った。


そしてふと、思い出した。


「~~~♪~~~♪~~~♪」

「…………。」


快斗が止まった。暁の下手くそな鼻歌。それが轟轟と音を立てる炎のど真ん中でも、何故か大きく耳に届いた。


止まった快斗を見て、暁はいつもの無邪気な笑顔を浮かべて言う。


「いつかの日、貴殿が歌っていた歌でござるよ。」

「…………。」

「歌詞も覚えてはござるが、歯がかけて歌いずらくござって、それでは歌にも失礼故に、拙者は音程だけで結構でござる。」


音程も、あってはいなかった。


「とても悲しく、されど美しく清い歌でござった。拙者はこの歌、好いてござるよ。」

「…………。」

「なんて、どうでもいい話題で止めてしまって、申し訳ないでござるなぁ。」

「…………。」

「いやはや、でも実際、安心したでござる。好きな歌を忘れないくらいの自我はあったんでござるね。」

「…………。」


快斗はもう一度、草薙剣を振り上げる。


「貴殿のそれが、貴殿の意思であろうとなかろうと、」


刃は、もう止まらない。


「拙者は貴殿を、」


眼前に迫る。


「恨みはしないでござるよ。天野快斗。」


刃は方向転換。最後に向けられた笑顔を縦に割ることはなく、横にずれた刃は暁の細い首を簡単に切り飛ばした。


最後のはまるで、せめてその笑顔だけは、壊したくないと願ったかのようだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「くくく………ははは…………」


下界の様子を見ていたリアンは腹を抱えて笑った。


惨めな抵抗が、なんとも惨めな形で自分の望みを叶えていた。


涙すら流さないくせに、内側ではそんな無理な抵抗をしても無意味だと言うのに滑稽だ。


「ついに始まったねぇ………僕の悲願への道。」


リアンは満面の笑みで呟く。


「さぁ、始めるんだ天野快斗!!君の大罪はここから始まる!!」


両手を広げ、高々と言い放つ。


「君が傷つけた人々からの仕返し!!反撃!!どんでん返し!!そして君に対してのそれは何か!!楽しさに溢れたそれを成すのは何か!!」


リアンは下界で歩く快斗に向かって言った。


「それは虐殺さ。」

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