最期の『獄怒の顕現』
「は?」
体が歪んで崩れる。それは、体が限界を迎えて自壊したかのように見えた。
「なに………!?」
海人はその心当たりのない現象に表情を歪め、崩れた足をもう一度くっつけた。それから立ち上がろうと地面を踏み締めた瞬間、
「ッ、!?」
またもや足が崩れて立ち上がることが出来なかった。
「なんで………!!」
「っしィィ!!」
歓喜と気合いが込められた息と共に、快斗の蹴りが炸裂する。顔面に食らわせられた海人は岩を貫いて遥か遠くへ。
爆音と共に地面が弾け飛んで、破片がいくつも快斗に迫る。血が付着したその破片は赤紫色の炎を纏い、流星の如く地面に降り注ぐ。
駆け回り、何度か草薙剣で捌きながら進み、目の前の大岩を飛び越える。そして、快斗は海人の姿を捉えた。
瓦礫と血に塗れた海人は未だ体が再生しきれず、イラつきながら自身のくっつかない足に怒声を上げていた。
「クッソ!!なんでくっつかないんだ!!」
快斗は『ヘルズファイア』を海人に放つ。海人はギロリと真上に視線を向け、左腕を掲げて『崩御の炎』で打ち消そうとした。
その時、その掲げた勢いに耐えられなかったのか、腕がそのままとれて吹っ飛んでいった。
「なっ!?」
予想外の事態に対処が遅れ、速度を落とさない獄炎に海人は押しつぶされた。
「破裂しろ!!」
快斗が拳を握りしめる。黒い炎が凝縮され、超破裂を引き起こす。積み重なった瓦礫が焼き尽くされ、一瞬にして塵と化した。
そこら中が黒紫色の炎に包まれた地面に降り立ち、快斗は海人を探す。炎だらけだと言うのに、夜の暗さを照らすほどの明るさはなかった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
炎の中から聞こえた悲鳴。それに快斗が振り返ると、血の刃が回転しながら飛んできたので草薙剣で切り落とした。
刃が飛んできた方向には左足と右腕がない海人が快斗を睨みつけていた。
「なに、したんだよ!!」
「何が?」
「俺の腕と足がくっつかない理由はなんだ!!快斗が何かしたんだろ!!」
「んー………いや、敵に言うわけねぇし。」
「チッ!!」
突き放した快斗の言葉に、海人は残った左手で頭をかきむしった。
「俺は『不滅』なんだ!!何者にも縛られることない、最強の力!!完全無欠!!効くモノなんてあるわけが無いんだ!!」
「それを打ち砕くのが俺の『消滅』だ。」
「くっ!!」
原理の分からないその症状。再生しない理由が分からない以上、海人はこれまでの様な戦いは出来ない。
どれがその根源なのか、海人は見極めなければならない。これからは海人にとって厳しい戦いになる。
そんな時に、更に追い打ちをかける。
「『魔技』」
「ッ、」
魔力が収縮し、快斗の力がどんどん増していく。『消滅』も神に対抗するほどの力も手に入れた。その上がり幅も、馬鹿にできない大きさなのだ。
「『獄怒の顕現』」
真っ黒な魔力が空から落ちてくる。世界のどこからでも見える黒い巨柱が快斗を中心に展開される。
爆風で海人が吹き飛ばされる。岩なんて紙屑かのように簡単に吹き飛ぶほどの風圧。世界が轟く。
全ての生物が心の底から嫌がるその感覚。腸を握られているかのような気色悪さがある。
その柱はだんだん細くなり、やがて快斗に全て吸収される。
「はぁ………」
闇が晴れて涼しくなった快斗は溜息をつき、顔を抑えて俯いた。
「く…………」
すぐそこに海人が居るのが分かる。もうある程度の範囲なら息しただけでも何がどこにいるのかが分かるぐらい感覚が鋭く強化された。
圧倒的な力。その力を手にして、快斗は今からしなければならないことに気分が重くなる。
が、そんなことも、苦しんでいるヒバリ達のことを考えるとどうでも良くなった。
「お前をこの世から退かす。」
快斗はゆっくりと顔を上げ、2本の線が交わる右目、
十字架の中心、その真っ黒な瞳を、海人に向けてそう言った。