『上』の戦い
「『下衆』と『屑者』の、殺し合いだ。」
そう評した快斗の表情は曇っていた。
見上げる海人は自分がどちらに当てはまっているか分からなかった。どちらとも取れるからだ。
だが、そんなのどっちでもよかった。なんだか清々しかったからだ。
この快斗が、自分をクソ野郎だと認めてくれたから。
「さっさと死ねよクズ野郎!!」
「そういうわけにはいかねぇよ!!」
拳を突き上げる海人。段差が砕け、地面を貫通して拳が快斗に届くが、快斗は踏みつけるように足を下ろした。
衝撃波が舞い、岩が吹き飛び、海人の立っている地面が大きく凹んだ。
海人は快斗の足を引っつかみ、それを軸に体を反転させて快斗の後頭部を蹴ろうとする。簡単に『刃界』を超え、その動作と言うより、彼らの行動はこの世界では速すぎる。
蹴られる寸前で右手を割り込ませガード。快斗は吹き飛んだが、森と山を2つ貫通して止まった。
「オォルルァァアッ!!」
振り返った瞬間、海人が拳を振り上げて飛んできていた。すぐ目の前、快斗は冷静に対処する。
「ふぅ。」
降り下ろされてくる拳。それ自体を真っ二つに切り裂いて、そのまま前に進む。
『消滅』を纏ったその刃は、海人の防御力なんて関係なしに、体を引き裂いた。というより、触れる部分が消えるので裂いてすらいない。
だが、『不滅』も強い。消された瞬間、またすぐに元に戻る。快斗はその攻撃を避けることは出来るが、反撃はできない。
「ハハッ!!」
躱された攻撃は地面に直撃。大爆音とともに森が壊滅。地面がそこら中割れて、震災の後かのように荒れ果てた。
地面を蹴り戻る海人。快斗も地面に足が触れた瞬間に回転して草薙剣を振るう。
躱され、受けて、流す。そんな攻防が、自然を大いに巻き込んで繰り返される。
『消滅』の斬撃が遠くの山をも斬り飛ばし、『不滅』の打撃が地面を遥か下まで砕き崩す。
1つの動作に1つの災害。まさに、天変地異だった。
「はぁあっ!!」
地面を殴った反動で飛び上がった地面の破片を海人は掴みあげ、快斗に向かって投げつける。
その岩を足場にして、快斗は風のように海人の真横を通り過ぎる。瞬間、海人の下半身と上半身が分裂する。
が、直ぐに戻る。これでは終わりがない。
海人は地面を踵を落とす。爆発したように余波が地面をつたい、土煙を上げながら岩の津波が快斗に押し寄せる。
「しッ!!」
草薙剣を横凪に一線振るうと、その津波はその部分だけ嘘のように消え去って貫通。そのまま海斗の胸も横一線に斬り裂かれて血を吹き出す。
瞬時に駆け寄った快斗が連撃を叩き込む。『消滅』を付与された斬撃は、無抵抗の運動をただその場で続けただけなのに、海人は簡単にバラバラにされてしまった。
血の粉塵と化す海人。が、それが直ぐにその場に集結して人間の形を作る。胸と頭以外を全て『血獣化』の甲羅で覆った海人が、仕返しとばかりに足を横凪に奮った。
右手で受ける快斗。勢いは止まらずに快斗は吹き飛ぶが、その勢いをそのまま利用して反転。大きく体を回して海斗の右肩に踵を落とした。
肉が潰れて骨がひしゃげた。が、そんなの屁でもない海人は快斗の足を掴みあげると、真上に振り上げてから地面に叩きつけた。
「ぐっ…………」
遥か遠くまで地面が跳ね上がり、岩が落ちる。
もう一度地面に叩きつけようと快斗を持ち上げると、海人の腕が斬り裂かれ、快斗が落ちる。
逆さの状態で『消滅』の斬撃が飛ぶ。が、受けても問題ない海人は貫通する斬撃を無視して拳を突き出す。
草薙剣で受け流され、腕の斜面の上を草薙剣で滑り落ちた快斗は離れ際に海人の首を掻っ切った。
「不毛だなぁ。」
「マジそれな。」
2人の気のない声と共に、2人の蹴りが真っ向からぶつかり合い、衝撃波に瓦礫が吹き飛んだ。
「しぇぇええらぁ!!」
海人は縦横無尽に拳を振るう。快斗は腕を組み、その攻撃を受け止める。
「『無限の攻撃』!!」
雨のように降り注ぐ攻撃の後、冥土の土産だと重たい一撃が快斗の両腕を貫いて本体にまで衝撃を伝えて吹っ飛ばす。
凄まじい速度で地面と平行に飛ぶ快斗。海斗は攻撃の手を緩めず、視界から真っ直ぐ消えていく快斗に走って追いついてきた。
快斗は地面に草薙剣を突き立て、ぐるぐると回転すると海人に近づいていく。
「っるァ!!」
「し………。」
海人が拳を勢いよく突き出す。が、快斗は真っ向から受けずにしゃがんで海人の踵を切り裂いた。腱が切られ、バランスを崩した海人は少し揺らぐ。
その瞬間を見逃さず、快斗は海人の後頭部をひっつかむと地面に勢いよく叩きつけた。吹き飛んでいる最中故に、地面にズルズルと海人の顔面は引きずられる。
「ぉぉおおお!!!!」
勢いを回転力に変え、地面に着いた右足を軸に遠心力を乗せて海人を岩山に向けて勢いよくぶん投げた。海人は岩山を大きく抉って崩れ落ち、快斗は追撃の『死歿刀』を連発した。
岩山は獄炎の斬撃に粉々にされ、紫色の炎に包まれた。快斗が手を上げると、それに答えるように炎は竜巻のように渦巻いて瓦礫を巻き込んで空高く舞い上がる。
その竜巻のど真ん中に風穴があき、全身火傷状態の海人が飛び出してきた。
「はぁあ!!」
「ふぅ……!!」
海人の蹴りをしゃがんで回避した快斗。背後からの追撃に草薙剣を添わせ、ノールックで受け流す。が、その追撃の陰に隠れていたフェイントが直撃。快斗はくの字に曲がる。
「く………」
「おらぁ!!」
更に超列な右足の蹴りが快斗の腹部に直撃。背骨を折る勢いで吹き飛ばそうとする。
が、快斗はすぐさま海人の右足に草薙剣を突き刺し、吹き飛ぶことを回避。勢いで跳ね上がった快斗は海人の顔面にかかと落としを叩きつけて地面と挟み撃ちにした。
ババーンと大きな音が響き渡り、超巨大なクレーターが出来上がる。
快斗は容赦なく、紫の炎の玉を海人に叩きつける。身をじりじりと焼き焦がしてやろうとした。
が、炎を突き破って1本の刃が快斗の右掌を貫いた。すぐさま離れると、炎が炸裂して海人が飛び出す。
そこら中に飛び散った炎が、海人と快斗の視界に移る全ての地面を焼いた。
「ってぇ………」
「油断禁物だよ。」
飛び出した海人は『心剣』を振り回しながら快斗に襲いかかる。剣技はデタラメなのに、一つ一つの斬撃が素早く重いため、快斗でも捌くのは余裕とは行かない。
「せぇあ!!」
「しぃっ!!」
振りかぶり、振り回し、振り抜く海人。
受け流し、叩き斬り、斬り飛ばす快斗。
お互い攻めにかけ、防御のことは一切考えない。
だがこれでは圧倒的に海人が有利。が、快斗はその場から逃げることを選択しない。
躱された斬撃が地面と炎を斬り裂く。大地が裂けて、地中の空洞に瓦礫が落ちて陥没する。
「しぃぃ………!!」
快斗は斬撃の速度を上げる。剣さばきはヒバリにも劣らない。海人の猛攻の隙間をついて、海人の指や耳、瞼に腕さえも斬り裂く。
「あれ?」
遂には両腕を斬り落とされ、その隙をつかれて全身バラバラに切り裂かれた。が、また直ぐに戻る。本当に無限の体力であった。
「せーの!!」
「ち………!!」
海人の蹴り。快斗は海人の首に刃を振り下ろしたが1歩遅く、辛うじて左腕でガードしたがまた吹き飛んでしまった。
地面を抉る。砂煙が立つ。遠くから見ればそれは砂埃の津波に見えるだろう。
「ほらほらさっきから俺ばっかが優勢じゃない?」
「ふぅ………」
海人の挑発的な物言いにも快斗は反応せず、息を整えて気を伺うように低く構える。その様子にいつもの快斗らしさを感じられず、海人はむず痒さを感じた。
「オラァ!!」
地面を踏みつける。地震が起きて、地盤が変化する。てこの原理で持ち上がった地面が持ち上がり、快斗目掛けてなだれ込む。
大量の巨大な岩達を、快斗は草薙剣の斬撃だけで切り抜けた。が、砂煙に混じって落ちてきた海人の存在は見えなかった。
「せい!!」
海人が突き出した『心剣』が快斗の左腕を貫く。力の割には細い腕から血が吹き出すが、快斗は痛がる様子を見せず、すぐさま『心剣』を腕から抜いて、傷口から溢れた血を目くらましにしてその場を離れる。
が、砂煙にまみれたこの空間でも、海人は的確に快斗に攻撃を仕掛けてきた。
「クソ………なんでだ………」
「教えてくれるんだよ。原野がまだ居てくれるから!!」
「ッ、そういうことかッ!!」
海人に憑いてる怨念の女王。原野は未だに海人に執着し、敵とみなされた快斗を追い込んでいく。
どこに逃げても快斗の位置は原野を介して海人に伝わるのだ。
「まぁ、逃げる気なんてサラサラないけどなぁ!!」
「その意気やよし!!喰らえクソ野郎!!」
砂煙が吹き飛ぶ。それは、海人が出した『崩御の炎』の塊の仕業だ。
それが1つではなく、海人の背後の空間に大量の腕が生え、海人自身が作り出した『崩御の炎』以外にもそれは沢山生み出された。
「クソ……」
放たれる炎弾を躱し、駆け回る快斗。狙いが上手く、どんどん快斗は遠くに追いやられる。
遠くに行けば遠くに行くほど見えなくなるので狙いは定まりにくいはずなのだが、炎弾は正確に快斗を狙ってくる。
「どこにいやがる………原野!!」
今もどこかで見ているであろう原野を探そうと『赤』を発動させ、周りを見回すが原野は見えない。
相当隠れるのが上手くなったのだろう。つまりは海人に全面協力しているのは確定した。快斗としては説得でもして欲しかったが、あくまで彼女は海人のゆく道を応援するスタンスのようだ。
「しぃあ!!」
休む間もなく続けざまに飛んでくる炎弾にイラつき、快斗は草薙剣に獄炎を纏わせて『死歿刀』を放つ。
獄炎の斬撃は炎弾とぶつかり、炎弾を簡単に斬り裂いて共に爆裂した。快斗は何度も何度も繰り返し、炎弾の連発が止まるまで持ちこたえようとした。
が、炎弾の中から海人が飛び出し、その蹴りを快斗は顔面にモロにくらってしまった。
「ぐぁっ!?」
「警戒してね?しっかりと。」
余裕綽々な海斗はそう言うと、残りの炎弾とその破片をかき集め、快斗と自身を囲んで両腕を広げる。
「そして、ドーン!!」
炎弾は光り、青い炎を竜巻のように撒き散らし、世界を揺るがすほどの大爆発を起こした。灼熱の爆煙がドーム上に広がり、キノコ型の爆煙は空を突きぬけ、地面を深く掘り起こした。
溶岩が湧き出し、熱でドロドロに溶けた地面と合わさる。目に見える範囲にあった森は焼け落ち、まるで蒸発したかのように灰になって消え去っていた。
「あはは。耐えられたかな?」
肉の破片が集まり、元の姿に戻る海人。世界最大の爆発を引き起こした張本人は全くの外傷なし。自爆技も、海人にとってはただの安全圏からの一方的な虐殺に過ぎない。
ぶくぶくと煮えたぎる地面。その縁を歩き、中に快斗が居ないかを確認する。
「まさかこの程度で死んだりしないよね?」
そう懸念した海人だったが、その必要は無いとすぐに分かった。
「あれ?」
首が少し冷たくなったかと思えば、首を触ると喉仏から上がなかった。首がちょんぎられて頭が浮かんでいるのだ。
「わぁ。」
楽しげに驚いて首を戻す海人。振り返ると、少し高いところにまた快斗がいた。快斗の瞳に情は宿っておらず、冷酷なものだった。しかし、今度はさっきのように万全な状態ではなかった。
「へんなの。」
そう評した海人は快斗を嘲笑った。
快斗の服はなんら影響なく、先程までと変わらずに綺麗なままなのに、本体の快斗は、半身を火傷で真っ赤に染め、肩には残骸の岩やらなんやらが突き刺さり、頭からは血が流れていた。
まさに満身創痍。荒い息を吐きつつも、快斗の闘争心は消えていない。親友を殺すという意思に変わりはなかった。
「面倒くさいなぁ。早く死んでくれないかなぁ?」
「それは俺も言えることだ。早くお前を殺して、ヒバリ達を助けてやりてぇからよ。」
「ヒバリさん達を助ける為じゃなくて、自分が殺されそうだから戦ってるんじゃないの?」
「そう思うなら、それでもいい。俺は平気で他人のせいにするし、嘘だって意地悪だってする。そういう野郎だ、俺は。そしてお前もな。」
「はっ。君と一緒にしないで欲しいね。」
快斗の言い分に、海人は眉をひそめた。
「君があの時、激情に駆られなければ、俺はこの世界にも来ることは無かったんだけどね。」
「あれか………悪い事をしたとは、」
「思ってるだろうね。分かるさ。快斗なんだからそう言うよ。それが嘘なのも知ってるし。」
「…………。」
「君は正直言ってこの世界のほうが楽で楽しいはずだ。確かに、俺らがいた世界は本当にクソで救いようのない地獄さ。俺だってこの世界で生きるのは楽だし好きな人もいる。オマケに死なないときた。楽しくないわけが無いよね。」
「………何が言いたいんだよ。」
「この世界で幸せなのは、俺と快斗と原野だけなんだよ!!」
そう海人が叫んだ瞬間に地面が割れた。赤い斬撃がそこら中に蜘蛛の巣のように張り巡らされ、地面が不規則な形に崩れて溶岩に落ちる。
すぐさま快斗は翼を生やして空に浮かび上がった。
瞬間、海人が凄まじい速度で跳び上がり、快斗に強烈な蹴りをお見舞する。
「俺はあの世界に、母さんを置いてきた。」
「あぁ?」
「最後の俺の家族だったんだ………姉さんが死んで、ばぁちゃんも死んで!!猫でさえ死んで、友達も失った………俺に残ってるのは、母さんだけだったんだよ………」
海人はそう語り出す。しかし、攻撃の手は全く緩まることはなく、むしろ速度も威力も上がっていた。
「守るって決めてたんだ。精神的にも身体的にも無理させた。俺が、中学を卒業してからは働いて支えようと思ってたんだよ…………」
「……………。」
「でもそれを君が!!君がその機会を奪った!!俺に残ってるものはもうほとんどない!!この世界でのうのうと生きるのも、死ぬのも嫌なんだ!!君のせいで!!俺は人生を失ったんだよ!!『高谷海人』の人生は、『天野快斗』、お前に狂わされたんだ!!!!」
言葉と攻撃の勢いが増す。『心剣』の斬撃が頬をかすめ、繰り出される蹴りに翻弄され、たまに飛ぶ炎に魔術で対応する。
それがどんどん速く、どんどん強くなっていく。快斗は歯を食いしばった。
「でも、感謝もしているところもある。こうして力を手に入れることが出来たこと、姉さんの言葉を実行できるということ。そう!!俺は姉さんのあの言葉の完成をさせることが出来る!!」
突き上げられる。下から飛んでくる岩と炎を切り裂きながら落ちると海人の姿はない。と、地面から腕が生えて快斗の足をホールド。
真後ろから強烈なパンチが快斗の背中に直撃。背骨に致命的なダメージを受けて吹き飛ぶ。
砂埃に汚され、溶岩に焼かれ、快斗は傷だらけの不格好な姿となった。
「この力で、全てを壊す!!あの腐った世界も、このへこたれた世界も!!全部俺の手中にある!!俺が潰せる!!誰も俺を止められない!!」
体が傷ついても服だけは再生する。痛みに歯を食いしばり、快斗はそれでも草薙剣を構える。
攻撃の手がどんどん強まる海斗を見据える。その瞳には諦めの気配はなかった。
「残念だったな。俺がお前を止めるからよォ!!」
絶体絶命に立つ快斗。しかし高温の空気に包まれたその場でも構える草薙剣を海斗に向ける凛としたその姿は、とても、格好良かった。
「なんで?」
「あ?」
「なんで、君は諦めないのさ………早く死んで欲しいのに!!」
「悪いがな、ヒバリもライトもルーネスさん達も、誰一人として失いたくねぇんだよ。俺は。」
「殺さないさ、君以外は。」
「嘘だ。世界全部壊すんだろ?」
「調子狂うな。君が敵だと。」
「あぁ、俺もだよ!!親友を殺したくなんて、ないからな!!」
「そう思ってんのはお前だけだぁ!!」
海人と快斗はお互いに死ぬほどの大声を出してまた跳んだ。
煙に塗れて目を開けると痛みが伴う。姿も見えにくい。劣悪な環境は、体の傷の状態を悪化させていく。
吸う息も熱く、喉が焼ける。気分は悪く、熱中症にもなるだろう。
そんな空間の中で高速で動く2人。互いに敵を殺そうと活気づいている。
だが海人は妙なものを見た気がした。気のせいだったかもしれない。
快斗が涙を流しているように見えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あぁ………あ、ぁ…………」
「……………。」
遥か遠くに見える爆煙。先程に現れた急な病に加えてのその景色の衝撃に、零亡は震えて呻いていた。まるでこの世の終わりかのように。
これには暁も何も言葉を発せなかった。体内に渦巻くどす黒い何かは、暁の体を蝕むが、そんな痛みはとうに忘れていた。
「これ、は…………」
暁の膝が震える。見えてしまったのだ。強者ゆえに見える、強者の世界を。絶対に届かぬであろう絶壁の頂点を。
そこに立つ2人が、こちらに向かってこないか。そんな最悪の事態を考えて震え上がる。
暁ほどの強者であっても、あの2人の戦いを恐怖なしには見れなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なんだ、あれは。」
赤髪の『剣王』、ヴィオラは目を見開いて、彼方の爆煙を見つめていた。
天を衝くその爆煙の麓から発せられる強烈な殺気と魔力の波動。ヴィオラでさえ体が上手く動かなくなるほどの濃度の濃いものだった。
その麓に、ヴィオラは向かうことはない。悟った。自分程度では瞬時に死んでしまうと。
「世界最強も、聞いて呆れるな………はは。」
ヴィオラは生まれて初めて絶対的な『上』を知り、そして生まれて初めて、乾いた笑いをした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……………。」
エレジアは苦しむ病人達を回復術士の施設に運び終えた後、じっとその爆煙を見つめていた。
姉が消え、脅威が再び舞い戻り、しかし助けに行けるほど兵は出せず、自分が行っても役立たず。
意味が無いと、そう思ったから動かなかった。
そんな傍観者のエレジアは、立ち上がり、爆煙に背を背けた。
そして1度だけ振り返ると、『天野快斗』に向かったこう言った。
「やっぱり、君は人を不幸にする。」