終わりの後に………
「………ん、あぁ。」
八岐は体に熱を感じて目を覚ました。体を動かすことは出来ないので、頭をだけを傾けて横に佇む男を見上げた。
「………やぁ。ディオレス。」
「んだよ。起きたのか。まだ、生きてんのな。」
「ふ………私はしぶといんだよ。」
体がぱっくりと割れてドクドクと血を流す八岐は、軽快に笑ってそう言った。体には火がついており、だんだんと体を包んでいっている。
それは『焼却』の炎。燃えた場所は完全な灰と化す。両腕を失い、体の機能も途絶えて、もう八岐は助からない。
「そう言っている君の方こそ………なぜ生きているのか分からないな………。」
「知らねぇよ………動けねぇが、辛くねぇんだ。」
対するディオレスは、身体中が焦げて炭となっており、少し衝撃を加えると崩れて消えてしまいそうだった。
今はまだ顔も上半分しか燃えていないが、このまま行くと完全に燃えカスになってしまう。これはもう止められるものでは無いが。
ぶつかりあった2柱の神は、同じ死に方をするようだ。
「ここまで、よく、上り詰めたもんだね………無理だと思っていたよ………」
「だろうよ。裏切り者。」
「ははは、相当恨んでいるようだ。」
「………兄貴はなぁ、最後までお前の不満を漏らさなかった。」
「?」
八岐はディオレスの話を聞いて首を傾げたが、そのまま聞き入ることにした。
「俺ァ許せなかった。お前をよォ。でも兄貴はお前が敵に回ってもお前を恨みもしなかった。人は考え方がそれぞれ違うってな。」
「それは………なんにでも当てはまってしまうと思う。そんなこと言い続けていたら、いつまで経っても結果に辿り着くことは無い。」
「違ぇよ。もう着いてたんだ。兄貴はな。それが兄貴の………最も大事にしている事だった。」
「何をされても、それは人それぞれだと………個性だと認めて言及しなかったと?」
「大罪人も、超善人も、悪役も、主役も、脇役も、正直者も、捻くれ者も、俺みてぇな奴も、お前みてぇな奴も、みんなみんな、兄貴は愛してた。それが人のあるべき姿だってな。」
「…………。」
「優しいなんてもんじゃねぇよな。兄貴は誰に何されたって怒らねぇと言ったんだ。………あいつはすげぇよ。この世にいる誰よりも、俺はアイツが1番良い奴だと思っている。」
「その彼の持論の例外が、私達神だったのか。」
八岐は悲しげに呟いた。演技ではなく、本当に、何かを後悔するかのような顔で。
「兄貴を殺したやつはクソ野郎だ。裏切った奴も、敵も、みんなクソだと思ってた。」
「うん。」
「でも、な………」
ディオレスは残った手で顔を覆って呟いた。
「やっぱ、仲間は、嫌えねぇよ………」
「……………。」
八岐はディオレスの言葉に、複雑な感情を、とても複雑な感情を抱いた。嬉しさと悲しさと面白さ。それ以外にだって、頭の中を渦巻く感情は数え切れないほどあった。
「…………私はなんと言えばいい?こういう時、私はなんというのが正解なんだ………?」
「知るかよ………。さっさと死ねよ。裏切り者。」
「…………君は優しい。」
八岐は目を閉じる。どんどんと死が迫る感覚がある。ジワジワと登ってくる。
「私が言っても、君は嫌がるだろうが………」
八岐は全身の力を抜いた。いや、抜けてしまった。
「私に、彼のことを話してくれて、ありがとう、ね…………」
その言葉を最後に、八岐は消え去った。風に煽られて、焼けた体は灰になってどこかへと飛んで行った。
それをディオレスは、穏やかな眼で見つめていた。
「あ、ぐ………」
「ディオレス様!!」
ふと、体から力が抜けた。倒れかけたディオレスを、ネガ優しく抱き留めた。
「ディオレス様!!」
「あぁ………最後に、一撃………ありがとうな………」
「そんなこと、今はあなたの体が!!」
「いいんだよ。俺ァ………。」
ディオレスを担ぐネガはディオレスに必死に呼びかけるが、ディオレスは垂れた頭をあげることが出来ない。
「なぁ………ネガ………。」
「はい。」
「頼みが、ある………2つだ………1度だけ、言うぞ………」
「はい!!なんなりと!!」
ディオレスに出来るだけ無理をさせまいと、ネガは必死にディオレスの言葉に食らいつく。
「1つは………あの、ガキンチョを………守るんだ………」
「天野快斗の、ことですか?」
「そうだ………聖神に、気をつけろ………あいつはきな臭せぇ………」
「分かりました、警戒します!!」
「ハハ、いい、返事だ…………それと、もう1つ………」
「はい!!」
ディオレスは首をゆっくりと上げて、ある方向を顎で指した。
「あっちに俺を………連れて行ってくれ………。」
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「本当に………これで、終わりかよ。」
「あぁ。私は役目を全うした。」
消えゆくエレメロを見て、快斗は眉をひそめた。エレメロはやりきったという顔だが、快斗としては、不甲斐なさでいっぱいだったのだ。
「俺は………お前らを助けるために来たのに………助けられなかったな………」
「なぁに。私は何も生きて帰らせることを『助ける』とは言わないさ。敵を倒す。刺し違えてでも、敵を薙ぎ倒す。自分がどうなろうと、もう敵が果たせれば私はそれでいい。」
「………ダメだ。快斗。俺の血じゃこれを止められない。」
エレメロの手首に指を突き刺して血を流し込んでいた高谷が辛そうにそう言った。
「そりゃそうさ。私の兄さんの力だもの。君の血じゃ『消滅』を止められない。」
「…………ごめんなさい。」
「責めたわけじゃないよ。これは、変えられない事実なんだ。」
エレメロは快斗の顔を眺めて、その頬に冷たい手を添える。
「美しい顔だよ。その顔を、体を、大事にして欲しい………」
「俺は………この先どうすりゃいい?『神殺し』だとかなんだとか、俺には分からねぇ。お前の兄さんの話とか、やってたこととか、仲間とか、全然分かんねぇんだ。」
「それは、私の、説明不足だな。困ったものだ、兄さんの姿相手だとこうなってしまう。兄さんは話さずとも私の考えを理解してくれていたからね。」
エレメロは楽しそうに語る。
「その不思議な髪型、兄さんが元からしていたものだ。最初は不思議なものに見えたけれど、今ではそうでなくてはしっくり来ない。2つ結びにした兄さんも、可愛かったけどね。」
目を細めて笑う。
「赤と青の瞳。そのどこまでも澄んでいる右目と、情熱に溢れた左目が、私はとても好きだった。その瞳で見つめられると、思わず動けなくなってしまうんだ。兄さんは容赦がなかったな。こんな話をしても、目を見て話そうとするんだから。」
エレメロの目には快斗が写っていない。写っているのは、彼女がいう『兄さん』だ。
「あぁ。懐かしいね。あれはそう、雨の日だったかな。あの時兄さんにあってなかったら、私はどうなっていたかな?もうとっくのとうに死んで、転生でもしてのんびり暮らしているかな。」
両手で頬を挟む。とても壊れやすく、されど愛おしいものを優しく包むように。
「私は、兄さんが大好きだよ。今も昔も、誰よりも貴方を愛してる。私はあなたを死んでも消えても忘れない。たとえ貴方が私も忘れても、私は貴方を覚えている。たとえ貴方が私を嫌っても、私は貴方を愛している。」
快斗は悲しくなった。もう居ない過去の人物に縋るように語るエレメロが、哀れに思えたからだ。
そのエレメロの頭を撫でてやる。すると、エレメロは目を見開いて笑った。
「私としたことが、君を兄さんと勘違いしてしまった。………もう、終わりが近いようだ。」
「………なぁ、お前が消えることはもう認める。力をくれたのも感謝してる。でも、2つ教えて欲しい。2つだけ、教えて欲しいことがあるんだ。」
「なんだい?私が答えられることなら、なんでもどうぞ。」
笑いかけるエレメロに、快斗は深呼吸して口を開く。
「先ず、俺はこれからどうすればいい?お前は俺に何を望んでここまで来たんだ。」
「『神殺し』の再来。兄さんの仇を討ち取ること。そう………憎き最高神を殺してくれることを望む。」
「それが、お前が俺を世界で1番の指名手配犯に仕立てあげた理由か?」
「そうさ。私は君に、この世界で最もな無理難題を頼んでいる。」
「…………そうかよ。」
快斗は少し俯いて、また深呼吸をする。
「最後の1つだ。…………俺を選んだ理由は、なんだ。俺の魂がお前の『兄さん』に似てたとして、それがなんになる?それだけが、知りたいんだ。」
「それは、君が、これから先の苦難に耐える言い訳が欲しいんだね?」
「…………。」
「ごめんね。少し、意地悪なことを言ったね。」
エレメロは空を見上げて言う。
「実の所、それは、嘘なんだ。」
「…………は?」
「私にも、分からない。君を選んだ理由が。君が選ばれた理由が。それが当然であるかのように、当たり前であるかのように感じてならなかった。」
本当に不思議そうに、エレメロはいう。
「偶然でも、奇跡でもない。そう、本当に不思議なんだ。君を選んだ理由を、私は覚えていない。」
「………なるべくしてなったとでも?」
「分からない。………ごめんね。知識量だけが私の取り柄なのに。」
「いや、もういい………客が来たみたいだしな。」
そう言って快斗が立ち上がる。高谷は快斗の見ている方向に視線を向けて、すぐさま立ち上がった。エレメロもゆっくりと、頭を傾けてそちらを見て、目を見開いた。
「ディオ、レス………」
「エレメロ様は、いるか!?」
「いるぞ。ここに寝てる。」
瀕死のディオレスを担いできたネガが慌てて快斗と高谷に呼びかけた。快斗は足元を指さしてエレメロがいることを伝える。
ネガはそれを見て安堵したようにため息をついたあと、ディオレスの体をそっとエレメロの体のそばに寝転がした。
「………ディオレス。君………」
「あぁ………その声は、エレメロだな?ネガ、ありがとうなァ………」
「いえ、ディオレス様!!」
ディオレスの感謝に、ネガは本当に辛そうに返事を返した。
「なぁ、ガキンチョ2人………前に来い。」
高谷と快斗は、言われるがままに前に出た。
ディオレスは自身の角を掴むと、最後の力を振り絞って角を引っこ抜いた。炭化した肌は思いの外簡単に角を手放してくれた。
それを地面にたたきつけ、綺麗に半分に割ると、手のひらに乗せて掲げた。2人に手渡すように。
「オラ、受け取れ………」
「これは?」
「俺の力全部が入ってる。食うなりなんなりして、力を取り込め。………お前らなら、神に匹敵する力を得るだろうよ。」
2人はそれを受け取った。ディオレスは手のひらから重りが無くなったことを確認して、ゆっくりと手を下げた。
「んじゃあ、ネガ………頼んだぞ………」
「はい!!命に代えても!!」
「そこまではしなくていい。お前はお前を大事にぃ………しろよォ………」
「ディオ、レス、様…………」
「達者でなァ………ネガァ………」
「………では、ディオレス様………お疲れ様でした。」
「おう、よ。」
最後にネガは優しく微笑んでそう言うと、快斗と高谷を強引に引っ張るようにしてディオレスとエレメロから離れた。
「な、おい!!」
「うるさい!!着いてくるんだ!!」
快斗は少し抵抗したが、顔をぐしゃぐしゃにするほど泣いているネガの強い言葉に、快斗は抵抗をやめて従った。
そして、取り残された2人は、最期の会話を交わす。
「いいのかい?君の角は、君のアイデンティティだろ?」
「いいんだよ………あいつらが、強い生きてくれてれば、なァ………」
ディオレスとエレメロは互いに瀕死ながらも小さく笑いあった。
「消えかかってるってのに、減らず口だな。相変わらず。」
「む。それはお互い様じゃないかな。私はあくまで、君の死ぐらいは楽しく彩ってあげようとね……」
「あぁ………じゃあ、成功してるぜ………」
ディオレスは口角を上げた。
「兄貴、良い奴だったよなぁ。」
「当たり前さ。兄さんは完璧だ。」
「俺はなにも、兄貴にゃ及ばなかった。」
「乱暴さは君が上さ。」
「力も、ルックスも、人望も、魔力も、信頼も………男としても負けちまったな。」
「しょうがないさ。兄さんなんだから。」
「あぁ………最後まで、お前を兄貴から奪うことは、出来なかったなぁ…………。」
「…………え?」
「ずっと考えてた………どうやって兄貴にご乱心なお前を奪うか………頭を悪ぃ俺は、何かで勝つしかねぇと思ってたけどよぉ。」
「ディオレス………君は、もしかして………」
「ハッハ。情けねぇ。好きな女の前でこんなこと愚痴ったってよォ。結果は変わらねぇってぇのに。」
「そんな………気が付かなかった………君が、わたしをそんなふうに想っていたなんて………」
「隠してたからなぁ。ばらすのはお前が初めてだ………」
「………ディオレス、私は………」
「わぁってる。お前は兄貴のもんだ。今更どうこう言うつもりはねぇよォ………ただ、お前に気持ちを、最期に言いたくってなぁ。」
ディオレスはエレメロに顔を向ける。
目は焼け落ちて無くなっていた。鼻も潰れて、口も頬が焼け落ちてほとんど中が丸見えだった。
それでも、口角がつり上がっているその輪郭を見るだけで、エレメロの頭には豪快に笑うディオレスの姿が浮かんできた。
「ディオレス………」
「最後だ………エレメロ………。」
エレメロは思わずディオレスの燃えている手を握りしめた。ディオレスはそれに気づいて少し照れたあと、きちんと口を開いてこういった。
「俺に、本当に豊かな人生を恵んでくれて、ありがとうな………愛し、てるぜ………エレ、メ……ロ………」
ディオレスの体は炭になるでも灰になるでもなく、そのまま炎となってどんどんその大きさを縮めていった。
エレメロが握りしめていた手も人なり、空気の中に消えていく。最後には、小さな火がついた、ディオレスの首飾りが残っていた。
エレメロはそれ拾い上げ、胸で抑えるようにして抱えた。
涙が流れた。それに驚いて、そのあと面白くて笑って、それから、今までの、波乱万丈な人生を振り返って、エレメロは穏やかに消えゆく。
「あぁ。ディオレス………君も私にとって………大切な人、だったんだね………。」
はらはらと消えていく。
「兄さん………さよなら…………」
最後には世界で1番大好きな人を呟いて、エレメロは、魂は、完全にこの世から消え去った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「………消えた。」
「………消え、たんだ………」
「あぁ。今、流れ込んできた。えげつねぇ力が。」
ネガが元の世界に戻るゲートを広げている中、快斗は悲しげにそう呟いた。『消滅』の神力を手に入れたことを感知して、エレメロの死に気がついたのだ。
「………彼女は最後まで、世界のために戦ったんだね。きっと………」
「かもな………俺は、どうするかまだ決めてねぇ。」
「快斗は、快斗の行きたい道に進めばいいさ。俺も、俺の行きたい道へと進むから。」
高谷はディオレスの角を飲み込んでそう言う。
「悲しむのも、後悔するのもいいさ。でも、自分を責めるのだけはダメだ。快斗のせいでああなった訳じゃない。それこそ、なるべきしてなったのさ。」
「…………俺は、これから幸せになったり、笑ったりしていいと思うか?」
「いいさ。その権利を得るかどうかは、君の生き方次第だけどね。」
ネガがゲートを開き、振り返る。高谷は開かれたゲートに向かって歩み出す。
「全部、自分次第さ。」
「そう、だな。」
快斗は高谷の隣へと駆け寄ると、顔を少し拭ってからいつもの笑顔に戻る。
「俺は、頑張ってみるよ。エレメロが願ったことを、叶えてみたいと思った。」
「いいじゃん。叶えて見せなよ。」
「あぁ。頑張るさ。」
快斗は笑顔でそう言った。完全に振り切れたと言うわけではなかったが、それでも、先程よりかは大分マシだった。
「ネガも、よろしくな………」
「………あぁ。我もお前も何も知らない弱者だが………共に登りあがって行けると信じている。………改めて、よろしく頼むな。」
快斗が差し出した手を、ネガが握り返す。ここで初めて、2人には神々の命令や運命に関係なく、友情というもので結ばれたのだった。
「………っし、帰るか。」
「帰ろうか。」
「うむ。」
3人はゲートに飛び込んだ。それぞれの思いを、心の内に秘めながら。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「姉さん。あれ!!」
「ッ………」
エレスト城から見えた紫色の光の支柱。ライトは誰よりも早くそれに気がついてヒバリを呼んだ。
2人はこれが3人の帰還であると気がついた。『因子』が共鳴したのだ。
直ぐにサリエルやヒナ達にもそれは伝わり、全員で3人を迎えに城を飛び出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ただいま。」
「帰ってきたね。」
「なんかちゃんと疲れたな………」
「ね。お風呂に入りたいなぁ………。」
エレスト国内の中央通りに帰ってきた快斗と高谷は見慣れた景色に安堵し、地面にへたり混んだ。ネガは腕を組んで立っていたが、2人を見下ろす視線には見下すような感じはなく、ただ見守っているようだった。
「お、あれって………」
「うわぁ………気づくの早いね。」
遠くの方から進んでくる軍団。もう誰がいるのか簡単にわかる。
「快斗様ー!!」
「天野!!」
「快斗さん!!」
「高谷君!!」
「お二人共ー!!無事でしたかー!!」
ルーネス、ヒバリ、ライト、サリエル、ヒナ。それ以外にも沢山の人々が2人の帰還に大いに歓喜した。
ヒバリは快斗と目を合わせた。快斗は笑って見せた。するとヒバリは快斗を力強く抱きしめた。
「よかった………生きて帰ってきてくれて………」
「大袈裟だなぁ………ありがとうな。」
最初は馬鹿にして笑ってやろうかと思ったが、本当に力強く抱きしめてくるので、快斗は苦笑いしてヒバリの頭を撫でた。
「高谷君は死なないと思ってたけど………大丈夫?」
「なんともないよ。痛むところもないし、違和感もない。」
サリエルが心配そうに高谷に喋りかけるが、高谷はなんともないと笑っている。
「よがっだ~いぎでだぁ~~~~」
号泣するヒナ。それだけ心配してくれていたのかと、2人は嬉しくなった。
「本当に、良かったですよ………ええ、本当に。」
ルーネスも目尻の涙を拭いながらそう言った。快斗は弄りもせずに、「ありがとう」と感謝を口にした。
「今日は宴です!!英雄の帰還を評しての大宴を開催しますよ!!」
「え、今日やんのか?」
「当たり前です。喜びが薄れる前にやらなければなりません!!」
「一理あるが、流石に休ませてくれねぇかな?」
快斗が頬を掻きながらそう言う。
「まぁでも、いいかもな。」
そう楽しげに微笑んだ。
「城に戻りましょう。取り敢えずお二人はお風呂に。」
「だな。はぁ、ヒバリ、一緒に入らねぇ?」
「な………い、いいのか?」
「おいおいマジになんなって怖いよお前。」
ヒバリと話す快斗は本当に楽しそうだった。それを後ろから見ている高谷も、自分の事のように嬉しがっていた。嬉しがって、いた。
「んじゃ、行きますか。」
快斗がそう言うと、皆がぞろぞろと城へと方向転換した。
歩き出し、わいわいとはしゃいでいる。皆が幸福感に包まれていた。
そんな時、快斗の左耳に、生暖かい物がついた。
「あ?なんだ?」
指で拭って見てみた。瞬間、背筋が凍りついた。
「血、だと………?」
真っ赤な鮮血。それはたった今どこかから飛び出したもの。
快斗の耳に着いたということは背後だ。そして、背後に居るのは………
「おい、高谷………何してんだよ…………」
快斗は目を見開いたまま目の前の男にそう話しかけた。
皆が振り返る。戦慄。沈黙。何が起きているのか、誰一人として理解出来ていなかった。
それはそうだろう。
高谷の腕が、サリエルの心臓を抉り出していたのだから。
「高、谷………く、ん………?」
「ごめんね。」
高谷は振り返り、サリエルの体から腕を強引に引き抜いた。サリエルの体は地面に無惨に転がり、大きな風穴から大量の血を流していた。
快斗が草薙剣を震えた手で握りしめる。
高谷は笑う。笑う。笑う。笑う。嗤う。嗤う。嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
サリエルの返り血が頬にこびりついた顔で、高谷は大きく笑っていた。
「俺は向かう。俺の、姉さんが示してくれた、向かうべき、罪深き道へ。」
あぁ、なんということだろうか。
また、新たな神が生まれてしまった。