彼に会いに行くまで
「が………あ?」
ディオレスが目を覚ますと、そこは小さな洞穴の中だった。外を見ると既に夜で、知らない木々が目の前に沢山生えているのがわかった。
「ここは……」
「あ、おはよう。ディオレス。」
後ろから声がかけられ、振り返るとそこにはディオレスを襲った時の衣装を脱いだダイが焚き火を挟んで逆側に座っていた。
「お前………服は………」
「燃やしたよ。あの服は嫌いだからね。」
「………これか。」
焚き火の真ん中でしなしなになって消えていく布を見て、ディオレスは怪訝な顔をした。
「お前は………なんなんだよ。ダイ。」
「うん?」
「あれはなんだ。羽が生えた人間みてぇなやつがいた。天使とか言ってたよな。」
「そうだね………順を追って説明するよ。」
ダイはディオレスの質問に真摯に答えた。
「僕は昔……ディオレスと同じように親に捨てられて崖から突き落とされたんだ。」
「崖から?」
「生きられたのはあの天使達のおかげでね。気まぐれだったみたいだけど、そこは感謝してる。………今となっては憎い相手だけどね。」
「憎いって………」
「僕は鬼だ。天使達は僕を育て上げて、この剣を僕に渡した。」
ダイは黒い刀身の片手剣2本を持ち上げてディオレスに見せた。ディオレスには武器の良さはわからなかったが、切れ味の良さは感じられた。
「ディオレスにとっては聞きたくない話かもしれないけれど………」
「あぁ………」
「僕は鬼を何人も殺してるんだ。」
「…………。」
「本当は、君も殺す予定だった。」
「俺も………?」
「鬼を一旦集めて天使に献上し、駄目だと突き返されたものは処分しろと命令されていたんだ。」
「集めるために………俺と2年過ごしたのか………?」
「違うと言えば嘘になるよ。でも、怒らずに聞いてくれ。最後まで、僕に猶予をくれないか。」
「………あぁ。」
ダイはディオレスが怒ることを懸念して動いているようだった。ディオレスはどんな話が降りてきても、ダイを信頼すると決めているのでそんな心配する必要は無いのだが。
「天使から聞いたよね。彼らには寿命があって、それを回避するには強い力を持つ人間の魂を奪って肉体に自分の魂を移すことが必要なんだ。」
「………それに選ばれたのが、俺?」
「そう。鬼にはそれぞれ能力があってね。それが発現すると全ての力が上がるんだ。要するに強化が入るんだ。」
「俺は、能力なんてもっちゃねぇが………」
「そう。そこなんだよ。君が選ばれた理由は。」
ダイの目が細くなる。
「僕の能力は、鬼の声が聞こえるとかそういうのじゃないんだ。」
「………というと?」
「僕の能力は『圧倒的な超過』。相手が強ければ強いほど、僕の能力も強くなるんだ。今までの鬼を殺す時も、一瞬だった。誰一人として、僕の最初の一撃を防げたものはいなかった。」
「あぁ。」
「分かるかい?この意味。天使達が君を狙う理由。」
「………。」
ディオレスは考えた。敵が強ければ強いほどダイが強くなれる。
ディオレスを背後から襲ったあの一撃が、今までの鬼を全て一撃で葬っていたのなら、それを能力の発現なしで避けたディオレスは………
「やべぇほど強いのか?」
「そう。だから僕は、君となら天使の寝首をかけると思ってね。」
「2年過ごした理由は?」
「君との信頼関係を築くため。君の能力の発現を待つため。君がどういう人なのかを知るため。君が、僕の天使殺しに役立ってくれるかどうか、見定めるため。」
ダイは容赦なく、本当のことを述べた。ここでは嘘ではなく本当のことを全て話すのが1番いいと信じたからだ。
ディオレスにとっては、それが1番の正解だった。
「そう、か……」
「ごめん。僕は酷いことをした。君を騙してあの場に誘い込んだこと、反省してる。僕の心臓にかけられた呪いを解くたった1回の機会だったんだ。許してくれとは言わない。ただ、謝らせてくれ。」
焚き火の横で、ダイは地面に綺麗に土下座をした。額を地面につけ、誠心誠意謝った。そんな謝罪を受けて、ディオレスが許さないわけが無い。
「過ぎたこと気にすんなよォ。あの天使共っつか、もう一人しかいねぇか。アイツを殺すのが、ダイの人生のゴールだってんだな。」
「………うん。」
「協力する。俺後必要ってことだろ?今のお前にとって。」
「………いいのかい?望んでおいてなんだけど、おすすめは出来ない。危険だし、怖いし、僕と行くのは嫌でしょう?」
「何言ってんだよ。」
ディオレスはダイの肩をポンポンと強く2回叩いた。
「俺にとっての正義はお前なんだよォ。」
「え?」
「正義を信じてるやつに悪いやつはいねぇ。これは俺の持論だがよォ。まぁ、俺も生きる目的もねぇし、お前について行くのが、多分1番楽しくて1番いい。」
「………今、本当に実感したよ。」
「あ?」
ダイはディオレスの手を握り、満面の笑みでこう言った。
「君と友達になれて、本当に良かった。」