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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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彼と出会う前の日

最近、投稿頻度めちゃくちゃなのは単に高校生活が忙しいだけなんで気にしないでください。


…………家に帰ったら夜十時なんだよな…………。

「見てディオレス!!初めて見たよこの木の実!!」

「あぁ?」


檻から逃げ出して2年。ディオレスとダイはこの湖のほとりを拠点にして、木の実と魚を食料にして生活していた。


ダイは嬉しそうにディオレスの目の前に木の実を差し出す。ディオレスはその木の実を見て怪訝な顔をする。


「なんだァこりゃあ……」

「分からないけど、多分美味しいと思うんだ!!」

「………根拠は?」

「見た目!!」

「てめぇの目は腐ってんのか?」


緑と紫と茶色が斑になった色をしているその木の実を食べようとするダイを白い目で見つめるディオレス。


この2年ダイと生活して、ディオレスは徐々に自分に自信を持ち始めていた。そのお陰かは分からないが、口調はだんだんとキザったらしいものへと変わっていった。


そしてディオレスは、ダイがあまり頭が良くないこともわかった。


「はぁ………」

「美味しいと思うんだけどなぁ。」

「おいコラ食おうとすんな。魚の餌にでもしとけ。」

「毒があったら魚が死んじゃうじゃないか!!」

「毒があったらてめぇが死ぬじゃねぇか!!」


こんな馬鹿なやりとりを毎日していた。ディオレスはダイをそっけなくあしらうが、それでも大切なただ1人の友人であることに変わりはなかった。


「ダイ。俺らは一生ここで暮らすのか?」

「んー、そろそろ、僕らの仲間を探しに行くのもいいかも、ね。」

「仲間?」

「僕がディオレスを助けたように、同じように捕まってる子を助けるんだよ。」

「なるほどな。場所とか、分かんのか?」

「なんとなく僕は聞こえるよ。波長っていうのかな。僕ら鬼からは特別な声が聞こえるんだ。」


ダイは自分の耳を指で弾いてそう言う。ディオレスは首を傾げた。


たまにそう言うダイの能力が本当にあるのかどうかを疑ったことはディオレスはないが、見たことがないのも事実だ。


2年ほど使い古された言い回しだった。


「そんな能力があんのか?」

「あるよ。多分、ディオレスにもいずれ芽生えるさ。」

「そういうもんか。」

「そういうもんさ。」


ディオレスはこの時、あまり深く考えていなかった。


この能力とやらが、どういうことをきっかけに発現するのか、ディオレスは全く気にならなかった。


「出来るだけ、早く芽生えるといいね。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


2週間後、ダイに連れられやってきたのは、ある林の前だった。


「この林の先に、仲間の声が聞こえる。」

「それは確かなのか?」

「うん。残念だけど、ね。」

「はぁ…………」


ダイが指さした林の先には、ディオレスの故郷、生まれてから追い出された村がある。


もちろんいい思い出なんてこれっぽっちも無いので、ディオレスがため息を着くのも無理はなかった。


「無理強いはしないよ。嫌ならここで待ってくれてても………」

「いや、まぁ、行くしかねぇだろ。お前一人で助け出せる気がしねぇ。嫌な空気を感じるんだ。」


ディオレスがそういうと、ダイが身を少しだけ震わせた。


「ふーん………取り敢えず、行ってみようか。」

「おう。」


ダイに背中を押され、ディオレスは林へと足を踏み入れる。ダイもそれに続く。そのままずっと真っ直ぐ進んでいくと、崖の上に出た。


下を除くと、ディオレスが生まれた故郷が見えた。ダイが助けに来てくれた場所だ。


「戻ってくることになるなんてな。」

「やっぱり嫌?」

「嫌だけどなァ、お前と居れば嫌じゃねぇ。」

「そっか。」


ダイが村の外れの方へ指を指す。


「あっちから聞こえる。きっとディオレスのように………」

「閉じ込められてんのか。」

「うん。行こう。助けないと……」


焦る素振りを見せるダイに、ディオレスが頷いて崖の斜面を滑り降ちる。見上げると、少し遅れてダイも降りてきた。


そのまま村の住民に見つからないようにゆっくりと進んで行った。通りまわりをしつつ、できるだけ最短ルートを辿って。


「ここだ。」


少し行くと、そこには石造りの地下への入口があった。ドアは木製で、その前には2人の傭兵のような人が見張りをしていた。


「どうすんだ?」

「そうだね。僕が気を引くよ。」

「行けんのか?」

「ディオレスがどれほどの速度で助けられるかによるけど、普通の人間2人に負けることは無いよ。」


ダイはそういうが、ディオレスは不安を拭いきれない。助けて貰ってからというもの、ディオレスはダイの事が控えめに言っても好きだ。危険な役をさせるのはいささか気が引けるのだが、


「信じてよ。2年間、一緒に暮らしてきたじゃないか。」

「………それもそうだなァ。」


ディオレスは納得したように頷いた。ダイはそれを見てニコリと笑い、立ち上がる。首を傾けて「行こう」と促すと、ディオレスも立ち上がり、入口の裏へと回り込もうとする。


と、ダイがここで口を開いた。


「………ねぇ、ディオレス。」

「あぁ?」

「人はどうして嘘をつくと思う?」

「………何だ急に。」


振り返って聞き返したが、ダイの表情がいつも通りで何も変わらなかったので、ディオレスはいつも通りの雰囲気で返した。


「さぁな。欲望のため、助かるため、生きるため、得をするため……人によってそれぞれじゃねぇか?」

「昔話したよね。人にはそれぞれの正義があるって。」

「あったな。そんなことも。」

「その言葉を、ディオレスは信じてくれる?」


ダイの言い回しが少し妙なのが引っかかったが、ディオレスはダイの言うことだと思って頷いた。


「当たり前だろ。俺にとっちゃ正義は好きなものだ。お前のことだって大事な奴だって思ってる。お前が思っていることは出来るだけ信じるって決めてんだよ。」

「そっか……嬉しいな。」

「あの木の実は今後食おうなんて思うんじゃねぇぞ。」

「美味しそうなのに………」

「てめぇの目は腐ってんのか?」


他愛のない話をある程度楽しんで、ディオレスはダイの肩を叩く。


「じゃ、囮頼むな。」

「うん。気をつけてね。」

「どっちが、だよな。」


ディオレスは歩き出す。ダイは早々に姿を消した。手際の良さに、何度か助けたことがあるのだろうかとディオレスは思った。


入口裏に回りこみ、ゆっくりと確認すると、そこに見張りの姿はなかった。たとえ魔獣が出ようとも、1人はそこに残るべきではないかとディオレスは思ったが、ダイが心配なので、出来るだけ早めに中にいる仲間とやらを助けたかった。


「っし。」


鉄のドアの隙間をすり抜け、階段を下って中を駆ける。


鉄格子に挟まれた暗い道が姿を現し、それを見てディオレスは小さき頃の絶望を思い出した。


あの時、ダイが来てくれなかったらと思うとゾッとする。間違いなくダイはディオレスの命を救ってくれた。今でもこれからも、そう信じている。


「さて、どッこにいやがんだァ?」


ある程度走ったところで姿が見当たらず、ディオレスは鉄格子一つ一つ見ながら歩いていく。暗いせいでよく見えないが、生物は見えるだろうと思っていた。


「オーい居んのかー!?生きてたら、つか生きててくれねーと困るんだがなー!!」


狭い道は声が響く。そして歩き続けて二三分。ディオレスは鉄格子に挟まれた道の突き当たりにまで到達した。


「………居ねェが?」


おかしいと思って首を傾げ、ディオレスが振り返ろうとした瞬間、


「ッ!?」


背後から突き出される何かに脊髄が反応して首を動かした。鋭いそれはディオレスの頬を引き裂いて、血が吹き出した。


「がらァ!!」


瞬時に起こったことで理解が追いつくことは無かったが、ディオレスは全身をバネのようにして回転してその鋭いものを突き出した人物を殴り飛ばした。


理解より先に、生きるための選択をした。


「なんだテメェ!?」

「…………。」

「ッ、逃げんなッ!!」


すぐさま駆け出したその人物を追いかける。


「てめぇ!!ここにいた奴殺しやがったのかッ!?」

「………。」

「なんとか言えよゴラァ!!」


無言で走り続ける相手に怒り、ディオレスは鉄格子を引っ掴んだ。鉄格子は掴まれた瞬間にバリンと音が出てへし折れ、ディオレスはそれを相手を向かって投げつける。


「ッ!?クソッタレ!!」


と、投げつけられた鉄格子の破片はその人物の持っていた短剣によって切り裂かれ、当たることは無かった。


「クソっ、ダイ………」


こんな戦いに特化した人間がいるという事実に、さらにダイの身元が不安になる。


そんなことを考えているうちに、出口に着いてしまった。相手はドアを蹴破り、外へ飛び出して行った。


暗い道から走ってきたため、外の様子は逆光で見えなかった。それでもディオレスは恐れることなく、ダイのことを考え続けながら飛び出した。


ダイに危険を知らせようと、着地した瞬間に顔を上げたその瞬間、


「あ?」


強い衝撃が、ディオレスの硬い頭を真上から直撃したのだった。

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