落ちろよ
「ッ…………」
ディオレスの体が一瞬震えた。遠くの方でエレメロが解放した1つの能力を感知して体が精神よりも早く反応した。
「これは………なんて懐かしい………」
これには思わず八岐ですら動きを止めてしまった。
それほどまでに、その神力、『消滅』の存在感は大きかった。
既に日本列島1つ分ほどエレメロ達から離れてしまっているというのに、ディオレスに鳥肌を立たせるほどなのだから。
「殺り始めたな。負けてられねぇなぁ!!」
「先ず、君は私に負けないようにしなね!!」
ディオレスが大剣を縦に振り下ろす。巨大な炎の斬撃が飛び、八岐は地面をかけて回避する。山を貫通し、野原を焼き焦がし、海を蒸発させる炎が、視界全体に広がった。
八岐が鎌を地面に突き刺す。すると、地面から凄まじい勢いで色が消え、炎ですら消えていく。
「やぁあ!!」
「ぐらぁ!!」
鎌と大剣がぶつかる。互いの力が強いため、地面が陥没する。
振り回される鎌。速度が早く、大剣では到底対応できないように見えるが、ディオレスの大剣は今繋がっている。全身の上を這うように移動させ、体全体で大剣を回転させてぶつける。
今や動く斬撃だ。
「ぐっ」
八岐が弾き飛ばされた。ディオレスは怯まず踏み出し、炎を大剣に付与して飛び込んだ。
「甘いね。」
八岐が地面に手をつける。すると陥没した地面が地面下から腐蝕の粒子に押し上げられる。
地面から足が離れていたディオレスは地面に激突し、2人は天空にまで昇っていく。
「油断したね!!」
「てめぇもな!!」
昇る速度が速く、中々立ち上がれないディオレスに八岐が鎌を振ろうとしていた。しかしディオレスは昇っていく地面の更に上に巨大な炎の玉を作り出し、自身諸共八岐を焼こうとする。
「全く面倒なことを………」
八岐はディオレスを狙うのを諦めて鎌を奮って腐蝕で炎の玉を切り裂いた。ディオレスはその隙に立ち上がり、八岐に炎を放つ。
それを鎌を振り回して弾き飛ばし、八岐はその地面から飛び降りて腐蝕の粒子を展開。ディオレスごと地面を包み込む。
が、腐蝕の粒子の壁は炎に貫かれ、全焼する。ディオレスが飛び出し、空気を蹴って八岐に突っ込む。
「『餓炎狼』!!」
炎がディオレスを包み込み、巨大な狼が形成され、落ちていく八岐にかぶりつこうとする。
「待ってくれよ!!」
地面に到達する寸前で狼が腐り始めるも、距離的にもう遅い。八岐は地面と狼に挟まれて大爆発。山や湖、海岸を全て飲み込んで炎が爆裂する。
「熱いな………」
「そりゃそうだろうなぁ。」
炎の中心。1番の熱が蔓延する場所で、2人は悠々と話す。とはいえ悠々と入っても、八岐は腐蝕の粒子で全身を守りながらではあるが。
「君も大分焼けてきたようだけど?」
「あぁ………そうみてぇだな。」
炎の中で何も防ごうとせずに立っているディオレスの体は徐々に炎に蝕まれている。
「やっぱり借り物じゃキツイかな?」
「そうだな。」
八岐は挑発気味にディオレスにそういうが、ディオレスは否定せずに素直に肯定する。それが面白くなかったのか、八岐は不服そうな雰囲気だった。
「いつまで耐えられるかな?」
「そりゃこっちのセリフだ馬鹿野郎。」
今も腐蝕の粒子の壁は炎に焼き尽くされつつある。厚さを失い、穴が少しでもあこうもんなら八岐は一溜りもない。
しかしジリジリと焼け消えていくディオレスも似たようなもので、実際どちらが長く耐えられるかは分からない状態だった。
「師匠なら、もっと上手くやるだろうがよォ。」
『焼却』の元の持ち主。今は亡きその人を思い出し、ディオレスは2つの大剣の溶接した部位を再び溶かして2つに分ける。
「そろそろ殺るかぁ。」
「まだ勝つ気なのかい?」
「勝つさ………俺だけの力じゃねぇけどな。」
大剣を掲げ、身動きの取れない八岐の真上から振り下ろす構えをとった。
もう黒く焼け焦げてほとんど顔が分からないディオレス。しかしそれでも、今のディオレスが笑っているのは見て取れた。
その笑顔を見て、八岐は息を呑んだ。
「君………」
八岐に悪寒が走る。しかし身動きが取れないのでどうしようも無い。
焦る八岐に、笑うディオレスは言い放った。
「落ちろよ。八岐。」