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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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2人の神力

なんか、こんだけ休んだのに進んだのこれだけっていうね。

「ふむ。」


邪神が大鎌を振るうと斬撃が広がりディオレスが吹き飛ぶ。山に激突して砂煙を上げては衝撃で口から血が吐き出される。


「ってぇ………」

「君はそこまで弱かったな?」


へたり込むディオレスに邪神がゆっくりと近づきながら話しかける。ディオレスは血がこびりついた口元を歪めて笑いながら言う。


「るっせぇな。ちょっと疲れてきただけだ。」

「体力には自信があるって、昔は豪語してたのにねぇ?」

「歳とると体は弱ってくるんだよ。」

「人間でもないのに何を言ってるんだ。」


邪神はディオレスの戯言を鼻で笑う。


「ちょうど君の仲間も来てくれたみたいだけど……みっともない姿を見せるのかい?」

「そうはいっかねぇな。俺ァ頼りになる先輩だからよォ。」


ディオレスが大剣の片方を担いで立ち上がる。すると、地面が少し陥没した。


「お?」

「ごめんごめん。もうそろそろ、こっちも終わらしたいと思ってね。増援の方も面倒な能力持ちだし、エレメロちゃんも動き出す頃だろう。」


邪神は空を見上げてニヤリと笑うと、ディオレスに視線を戻す。


「私の神力、覚えているよね?」

「あぁ。忘れるこたァあるわけねぇ。でもこっちもそれと同じくらいの力はあるんだぜぇ。」

「ほう?」


邪神の周りに黒い砂のような粒子がまい始める。それはたちまち周りの草木を枯らし、岩でさえも炭化させ、水も汚濁してどんどん消えていく。


自然が崩れ、凄まじい速度で朽ち果てていく。腐った草木を喰らうハエさえも湧かない。


その忌々しい効果を持つ神力の名は、『腐蝕』。


「私の『腐蝕』に対抗する力があると?君は神力を持っていないはずだが?」

「馬鹿言えよ。俺もこう見えて神の一端だ。不本意だがなぁ。」

「教えてはくれるのかい?その力を。」

「どうせ見せるからなぁ。いいぜ。」


ディオレスが笑うと、腐って崩れた地面がぼうぼうと音を立て始め、炎が吹き出す。それが壁になるように吹き上がり、ディオレスを囲む。


橙色の炎は辺りを灼熱の空間に変え、邪神が少し距離をとる。


「それは、予想外だったな。それは君の……」

「あぁ………師匠から受け継いだ神力だ。」


全てを焼き尽くす。上も下も関係なくひっくり返す、その神力は、『焼却』。


「さぁ!!ゆっくりと味わえよォ……てめぇが殺した師匠の炎をよォ!!」

「懐かしい……昔を思い出すよ!!」


邪神が鎌を振るう。ディオレスが大剣で鎌を受け止め、体を捻って踵を邪神の顔面に振り下ろす。


飛びずさって踵を躱し、邪神が空へと飛びあがる。踵は地面を穿ち、近くの森にまで炎が広がり焼き尽くす。


「森が可哀想だね。」

「てめぇの『腐蝕』よりはマシだろうがよ!!」


ディオレスがジャンプして、両手の大剣に炎を纏わせ車輪のように回転しながら邪神に迫る。


「『大車輪』!!」


邪神が鎌を構えて回転するディオレスを受け止める。炎が舞い、邪神に迫るが、それを『腐蝕』の粒子が壁を作り出し炎を受け止める。


「うぉ……重い……」


ディオレスの勢いが凄まじく、邪神が吹き飛ばされる。地面を抉り、木々を薙ぎ倒しながら鎌を地面に突き刺して勢いを止める。


「がぁぁああ!!!!『炎斬百連弾』!!」


炎で作り出した翼で浮かび上がり、両手の大剣に纏わせた炎を振るいまくって炎の斬撃を飛ばす。


速度も攻撃力も高く、邪神は地面を駆け回る。


「ははは。やり方が彼にそっくりだ!!」

「てめぇが!!師匠を!!知ったような口で!!語るなぁ!!」


邪神が駆け回る地面の背後の山が炎に支配される。斬撃でばらばらに砕けて雪崩のように邪神の逃げ道を塞いでいく。


「オラァ!!」


『焼却』は炎を自由自在に操ることの出来る能力。だがそれは炎だけに限らず、炎に包まれたものも操ることが可能。


砕けた山々は炎を纏う土の津波となって邪神を真上から押しつぶさんと迫る。だが、邪神も逃げ回るだけじゃない。


「概念というものは実に難しい。沢山ある概念は、全てが噛み合っていないと成立するはずがない。だが世は必ずともそうとは限らない。例えば今もそうだ。君の神力『焼却』は、どんなものも焼き尽くす。それは水も空気も時空も、ましてや他の概念までもね。でも、それは私の『腐蝕』も同じ。今ここは、多く手を持っているほうが上だ。つまりは、」


邪神の脳天に集まる粒子。ドリルのように回転して尖った粒子の塊は、押し寄せる津波を勢いよくぶち抜いた。


そしてそれに伴って、広がる炎が黒い粒子によって消されていく。否、()()()()()


「全てを焼き尽くす炎は、全てを腐らせる私の『腐蝕』に負ける。」

「それはてめぇが後出しした時だけだけどなァ!!」


ディオレスが天に大剣を掲げ、その切っ先から炎を収縮した球を空に放つ。それは太陽のように巨大化し、限界まで達すると弾け飛んだ。


「『大流星群』!!」


輝く橙色の炎の塊が、隕石のように邪神に大量に押し寄せる。


「ド派手だね。ならばこっちもそう行こうか!!」


宙に浮かび上がる邪神は鎌を回転させ、粒子を集めて空へと向ける。


「『死の舞踏』」


粒子が集まり大量の骸骨を形成。宙を駆け回り隕石に捨て身で突っ込むと、炎が腐って落ちていく。が、全てがそうなる訳ではなく、いくつかは炎が勝って焼き尽くされて消える。


「手がす勝負だ!!」

「望むところ!!」


流星群と骸骨の大軍。空で交わるそれを、ネガは遥か遠くから眺めていた。


「ディオレス様………」


邪神とディオレスの戦いに踏み入ることはいつでも出来るが、それはディオレスの足でまといになる気がしてならない。


仲間思いなディオレスが、実力不足のネガをかばいながら戦って損傷を負う姿など想像もしたくない。だからネガには、虎視眈々とチャンスを待つ以外にやるべき事がない。


エレメロならば、上手く援護できだろうが。


「おぉお!?」


と、ディオレスが流星群に混じって大剣を振るい、骸骨達を粉砕していった。捨て身の行動に邪神も驚き後ずさり、そこに飛び込んで刃を振るう。


「がらァ!!」

「流石に真っ向すぎ!!」


当たらず空を切り、余波で山々が跳ね上がる。燃えカスへと化す自然は、炎の波となってディオレスを手助けする。


「わぁわぁすごいすごい攻めようだ!!何故そんなに必死なのかなぁ!?」

「てめぇをぶっ殺したくて堪らねぇからだよ!!」


自由自在に蠢く炎の波に乗っかり、ディオレスが邪神を追い詰める。文字通りの天変地異。世界が橙色に包まれていく。


殺気立ったディオレスを見て、邪神はニヤリと笑う。


「いいや、違うね。君には急がなくては行けない理由があるんだ。」

「あぁ!?」

「その神力、君にはさぞ暑苦しいものだろうね。」


ディオレスの左腕を指さして、邪神が言う。


「ほら、君の腕、焼け焦げてきてる。君の神力、体にあってないんじゃないかな?無理矢理使ってるから炎が体まで侵食しているんだろう?」

「だったらなんだってんだよ?」

「ははは。確かに、どうって事ない。私を早く殺そうとする理由にはなり得ないかもしれない。けどね、」


邪神は粒子を全身から放出して真っ向から突っ込んでくる。炎は瞬く間に朽ち果てて消え去り、振り回される大鎌がディオレスの左腕を捉える。


大剣で防いだが、左腕自体の耐久力が減っているのか、受け止めた時に血が吹き出した。


「私にとっては、君を殺すための糸口となるのだよ。」

「それこそだな。だったらなんだってんだ!!」


波を踏みしめ、全身を使って大きく回転する。邪神を弾き飛ばし、そのまま炎をいくつも叩きつける。


邪神の肌に触れた瞬間に、炎は朽ち果てて崩れゆく。


「ははは。」


邪神はカスとなる炎を見下ろしながら、ディオレスに言う。


「どれほど師匠を真似たって、それは君の欲求が満たされるだけで実力は遠く及ばないよ。」

「ッ!!」

「おわぁっと。」


炎の渦ができあがり、邪神に覆い被さるように押し寄せ、邪神を飲み込む、それはフェイクで、本命はそれらを一挙にぶち抜くディオレスの大剣の突き。


それを身を翻して躱し、邪神はまたも笑う。


「君は師匠の話を出すとすぐに怒る。未熟な証拠だ。」

「黙れ。」


波が地面に到達する。凄まじい轟音と熱を放って、炎が山を超え海にまで広がった。『焼却』は止まることなく、海水をみるみるうちに焼き尽くして干上がらせてしまう。


炎で作られた龍がその干上がった海の上を這い、その頭の上にディオレスがのっかって吹き飛んでいく邪神を追う。


「そらァ!!」


ディオレスが乗っているのと同じのが2体、邪神に迫る。邪神はそれを鎌で簡単に切り落とし、腐らせて完全に再起不能にする。


「私の力量を知って尚力技か。君らしくもあり彼らしくもあるね。」

「さっきから師匠の話ばっかりだな。話のネタが同じなのは酔ったジジイと同じだな!!」

「確かにお酒は好きだけど、酔いつぶれるほど飲んだ記憶はないな。それに酒は美味だが体に悪い。私はそういったものは好まないんだ。君とは違ってね。」

「へっ。昔、兄貴にされたのがトラウマになってやがるだけだろうがよ。」

「うん?」


今度は先程まで言われっぱなしだったディオレスが、好き放題言う番だ。ディオレスは獣のようにニヤける。


「てめぇがその姿になる前、それはもうお粗末だったらしいじゃねぇか。酒と人間の女肉に溺れて、挙句それを悪習を利用されて呆気なく地獄行き。だっせぇもんだよな。」

「………なに?」

「てめぇは怖いもんから逃げてるだけだ腰抜け野郎。だから簡単に俺らを裏切れた。強い方に着いた。兄貴の覚悟も、師匠の決意も知らねぇで、簡単にそれらを踏みにじって、てめぇはのこのこと手のひらを返した。まぁ、そりゃそうか。」


ディオレスが邪神を、睨みつけた。邪神の背中に寒気が走った。


ディオレスの瞳は、殺意で大きく輝き、まるで邪神しか見えていないかのようだった。


「てめぇは!!兄貴に!!のされた!!『臆病者』!!

だもんな!!なぁ!?『八岐』!?」

「黙れぇ!!」


八岐、基、邪神、『八岐大蛇』は、ディオレスの嘲笑に、怒りの限界値を超えた。


八岐の周りに大量の粒子が出現。大鎌が一閃そこに振るわれた。ディオレスが飛び上がった瞬間、真下の炎の龍は朽ち果てる姿すら見せず灰と化した。


「おうおうそんなに癪に触ったかよ?八岐?」

「ぽっと出の若年が………私を侮辱するか!!誰の許しがあってそうしている!!」

「俺は俺がしたいことをする。本当の自由は手に入れられなかったが、限られた自由も悪かねぇ。兄貴がそう教えてくれた。」


ディオレスが荒い息を吐く八岐に歩み寄る。


「兄貴は俺を救って、一緒に戦って、いい酒も飲んで、語り合って、競い合って、俺を……俺の事を誰よりも大切にしてくれた奴なんだ。てめぇはそんな良い奴の覚悟をひっくり返しやがった。俺はてめぇは、てめぇだけは絶対に許しはしねぇ。地獄に落としてやるよ。もう一度な……!!」


命すらかけて、ディオレスは目の前の獲物を狩りたいと願う。いや、獲物ではない。エサ?食料?ゴミ?


違う。もぞもぞと蠢く不快極まりない害虫だ。


「やってみせろよディオレス。私はもう二度とあそこには戻らない。落ちるのは貴様ら反逆者だ!!エレメロちゃんも!!お前も!!助けに来たヤツらも!!みんなみんな地獄行きだ!!」

「地獄がそんなにこたえのかよ。ったく、兄貴はよくそんなところで修行なんてしてやがったな。」


ディオレスは虚空を見つめてそんなことを言ったあと、大剣を両方の切っ先を外側に向けて扇風機のように構えた。


「ん?」


遠くの方で地鳴りが聞こえた。ついで爆発音も。きっと助けに来た3人のうちネガではない方が奮闘しているのだろう。


「へっ。ガキンチョの割にはいい時間稼ぎ、いや、討伐だな。」

「狂神……なにをしている……!!あんな小童共に……」


おそらく戦っているであろう狂神の手際の悪さに、八岐は頭を抱えた。


「んじゃま、あっちも盛り上がっているみてぇだし、そろそろこっちは………もう、カタをつけるか。」

「同意見だ。」


八岐の背後から八本の龍の形をした粒子が生え伸びる。粒子の数は増え続け、八岐はスーツのような形になったそれを体に纏う。


ディオレスは大剣の持ち手同士をくっつけ、『焼却』で少し熱して溶接する。すると、両端が大きな刃の巨大槍が出来上がる。


それを頭の上で回転させると、そこらじゅうから炎が湧いてくる。


「やるかぁ!!」

「ふん!!」


ディオレスが巨大槍を握りしめ、八岐が大鎌を握りしめて飛んだ。


神の戦いは、まだまだ終わりを見せないのか、それとも、あと少しで簡単に決まってしまうのか、それは神であるこの2人でさえも分からなかった。

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