救援へ
「そろそろ、時間っぽいな。」
「ん、もうそんな時間か。」
アテンとの戦闘から1ヶ月後。季節は冬真っ只中で、そこらじゅう雪だらけだ。
快斗は草薙剣を背負い、服を着て、少々動いて違和感がないかを確認する。
「問題なし。」
「では行くか?」
「おう。」
ヒバリが扉を開ける。外へ出ると、冷たい空気が快斗の肌を貫くように吹き抜けた。
「さっっっ…………………………む。」
「そんな溜める?」
快斗のコメントに高谷が苦笑い。マフラーを首に巻いた高谷は快斗に比べて寒さが軽減されているのだろうか、余裕そうな様子だった。
「ネガは?」
「向こうでゲートを用意してる。皆もそこにいるよ。」
高谷に連れられ、深く積もった雪を踏みしめて歩いていく。
しばらくして、エレスト城手前の公園に到着すると、世界各国から沢山の人々が見送りに来ていた。
「遅い。」
「寒い。」
「理由にならん。」
ゲートを開き終わったネガが快斗に文句を言うと、快斗も負けじと反論したが意味がなかった。
「女と戯れているからそうなる。」
「そんなの高谷だって同じだろ?」
「こいつは外で戯れていたから間に合った。」
「なんだそれ。」
快斗が高谷に視線を向ける。ゲートを見つめている高谷の左にはサリエルがくっついており、腕を組んでいる。
「ラブラブだなアイツら。」
「お前も大概だろう?」
「そうか?」
高谷に文句を言う快斗だったが、ヒバリとずっと手を繋いだままなのでどっちもどっちだった。
「ヒバリの手ぇ暖かいんだもん。」
「それは、褒めてるのか?」
「褒めてる褒めてる。ヒバリのいい所沢山知ってるから俺。」
「そ、そうか。」
「ヒバリ以上にいい女知らん。俺は。」
「………そ、そうか。」
「他所でやれ。そういうのは。」
二人の世界を作り始めた快斗とヒバリを引き離し、ネガがため息をついてゲートを地面にまで下ろす。
「さぁ、行くぞ。2人とも。」
「おう。」
「うん。」
高谷と快斗がゲートの前に立つ。だがやはりすんなりと入ることはなく、2人とも後ろを振り返った。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
「高谷さん、頑張ってくださいね。」
サリエルが手を振り、ヒナが祈るように言う。
「『不死』というなら心配はないだろう。」
腕を組み、ヴィオラは高谷に窘めるような視線を向けた。高谷はその視線に微笑んで返した。
「帰ってきたら何がしたい?ヒバリ。」
「そうだな………天野がしたいことでいい。」
「んじゃ、世界一周旅。」
「了解した。」
快斗とヒバリは相変わらず2人でしか話さない。
「快斗さん、姉さんのためにも帰ってきてくださいね。」
「そう簡単にゃ死なねぇから心配すんな。」
ライトが心配そうに快斗に声をかけた。
「心配されているだけ、期待もされている。しくじるなよ?義理息子。」
「口だけじゃねぇって見せてやるよ。」
零亡が快斗に釘を刺すが、快斗はのらりくらりとそれを躱す。一応、零亡は血は繋がっていないが表面上はヒバリと母親関係なので、その相手の快斗は義理の息子にあたる。
「本当なら拙者もついて行きたいでござるよ!!」
「いや無理だろ。」
零亡の横で暁がぴょんぴょんと跳ねる。羅刹との戦闘で負荷を抱えすぎたため、今はもう暁は刀を振るえなくなった。両腕が消滅したからだ。
最初こそ凹んでいたものの、しばらくして直ぐに慣れたようで次の斬嵜家は誰が次ぐのかやら、暁は誰と子を作るのかやらで今は忙しいらしい。
「快斗様。」
「ん。」
「ご武運を。」
「おう。」
ルーネスが礼儀正しくお辞儀をして、それを最後に快斗はゲートへと歩き出す。既に高谷は、半身をゲートに通していた。
「どんな感じ?飛んでる感じ?」
「いや、向こう側にも世界がある感じ。」
「そういう感じか。」
「早く入れ。」
ゲートに手を入れて出し手を繰り返して遊んでいる2人にネガが耐えかねたのかそういった。高谷は躊躇いなく飛び込み、快斗は一度ふりかえって視線を下に向けた。
そこには鼻をぴくぴく動かしているキューがちょこんと座っていた。
「戻ったら、また冒険しような。」
「キュイ!!」
キューの元気な声に後押しされ、快斗はネガと共にゲートをくぐり抜けて行ったのだった。
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空気の澄んだ、美しい風景が広がる山岳地帯。
そこでは大きな轟音と、軽く息を吐く音、肉が裂ける音、血が吐き出される音。速すぎるせいで姿を見えずとも音は聞こえてくる。
「っしゃアラァ!!!!」
雄叫びと共に空気が揺れ、そして直後に1つの山が大穴を開けて爆裂した。
「はぁ………はぁ………」
地面に膝まづく金髪の鬼、ディオレスの体力は既に限界を迎えていた。
「流石だね。ディオレス君。君の体力量は驚異的だ。」
「ヘッ!!体力には自信があんだよ。兄貴に死ぬほど扱かれたからな。」
「君はまだ彼に固執するのか。確かに彼の存在感は凄まじいものだったが、既に終わってもう何億年と経つ。諦めてこちら側につきたまえ。」
「やなこった。………兄貴と約束したんだよ。必ず成し遂げるってなァ。」
両手片方ずつに大剣を持ち、得意げに笑いながら荒い息を吐くディオレスは、目の前に浮かぶ邪神を見つめている。
「理解不能。生き残るにはこちらが正しいはずだ。」
「生き残るのが俺の目的じゃねぇ。」
「生物としての本能だ。馬鹿な人間でもわかる。」
「俺らは『神』。既に人間を超越した存在。だからこそ、人間には出来ないことを目的にし続けるべきだ。あとなぁ………」
ディオレスが消える。
「兄貴が守ってきた人間を、馬鹿にすんなぁァァ!!」
邪神を背後から両方の大剣で切り飛ばそうとする。咄嗟に邪神の武器である鎌を突き出されてガードされてしまったが、邪神はディオレスの馬鹿力で吹き飛んで行った。
「キャハハハ!!!!」
「ちっ!!またテメェかよ!!」
するとディオレスの足元に粉塵が巻い始め、その奇妙な笑い声に舌打ちしつつ、ディオレスはその場から飛びず去る。
地面を裸足で駆け抜け、粉塵から逃れる。
「くそっ、流石にきついな……」
こんな戦闘が既に3週間ほど続いている。そろそろディオレスも限界に到達しかけている。なんなら超えている。
ディオレスからすれば、一刻も早く、助けが来て欲しいものだ。
「早めに来てくれよ………ガキンチョ共ぉ。」
そう呟きながら、ディオレスはまた大剣を振るうのだった。