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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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終わったあとの休憩

神斬刀草薙剣は、太陽神アテンの強靭なる魂を、いとも簡単に貫いた。


「おぐっ」


小さな衝撃が背中から伝わり、アテンは拍子抜けた声を上げた。


内側から暖かい何かが漏れる。血ではない何かが。


それが命そのものであることがアテンは分からず、1人でいつまでも抵抗する。


「まだ、まだだ!!死ぬことなどない………!!」


アテンは体を動かす。すると今までの不自由さが嘘かのように体が軽かった。


「この程度!!この程度だ!!人間など!!1度失敗すれば簡単に挫ける!!」


振り返ると快斗が草薙剣を手から落として血だらけになって倒れていた。今なら首を刎飛ばしてやれる。『陽剣』など使わずとも簡単に。


「雑魚め!!絶望は、貴様が味わうがいい!!」


アテンは手に力を込めて、快斗の首筋を捩じ切ろうと腕を振るった瞬間、アテンは不思議なことに首を傾げた。


腕が当たらなかったのだ。当たらないと言うより、すり抜けたの方が正しいだろうか。


「な、なんだ………」


何度も何度も腕を振るったが、その後も当たることは無い。


「はぁ~いそこまで~。愉快な屍ダンスもここまでだー!!」

「ッ!?」


元気な高い声が聞こえたかと思うと、今度はアテンの体がピタリと動かなくなった。


何かと思って目をうろつかせると、背後に何か、凄まじい気配を感じた。感じただけで恐怖を感じて体が震え上がり、振り返ることを本能的に拒否した。


「あぁーこっちは見なくていいよー。君の上司?的な人には秘密で会ってるからさ〜。」


その声の主は軽やかに歩いてくると、アテンの口をガシッと掴んで振り返らせる。その際に自分は後ろに回って、アテンには見えないように移動した。


そして、アテンは衝撃的なものを見る。


「は………?」


そこにあったのは、胸に大穴を開けて仰け反ったまま動かない自分の姿があった。幻覚なのかと錯覚するほど、それは衝撃的だった。


「あれ。もしかして死んでないと思ってた?ざんねーん。とっくに君はこの悪魔君に殺られちゃってるんだよ。しぶとくて魂の残り香が意志を反映しちゃってるんだろうけど。」

「き、貴様は………!?何者だ!!何処の者だ!!この太陽神アテンをこんなにコケにして何をしたいんだ貴様!!」

「あーうるさいうるさい。質問ばっかで自意識過剰。ウザイからさっさと連れていくよ。」

「連れていく………だと?」


アテンは未だ自身が死んだという現実を受け止めきれず、混乱しているところにさらに謎の人物が現れたせいで理解が及ばない。


「どこへ………」

「んー?どこって、君は多分嫌いだと思うけどぉ」


謎の人物がそう言うと、アテンの周りが赤黒い魔力に包まれた。高密度すぎる魔力にアテンが震え上がる。

体の芯からぐちゃぐちゃにされるかのような気持ち悪さが沸き立ってくる。


すると、地面が先程までの岩ではなく、硬い硬い鉄を踏んでいるかのような感覚を覚えた。


「ッ!?」


驚いて下を見ると、それは禍々しい文様が描かれた巨大な扉だった。その隙間からは悲鳴が聞こえてくる。それが怨念や瘴気となってアテンを誘っているように見えた。


首元を掴んでいる謎の人物は、アテンを持ち上げて指を鳴らす。すると、その扉がゆっくりと開いて中の様子が顕になった。


「ッ!?!?」


その中は、アテンが今まで見たどの惨劇よりも酷いものだった。常人なら見ただけでショックで死んでしまうほどの。


そこらかしこに溶けて内臓をむきだしにした人間や生き物が這い回り、食い荒らし、殺し合い、憎しみあい、犯し合い、人間も神も思いつかないかのような苦しみ全てを与えられている。


見たことの無い赤い巨大な鬼がそれらの生き物全てを殺しては踏み潰し、それがどこらかしこで起こっている。


恐怖でなく者、怒りに叫ぶ物、苦しみに呻く者。赤く劣悪な世界。暑くて寒くて気持ちが悪い。毒素が舞い、排泄物で病が広がり、あまりの環境の悪さに魂自体が変形してしまった生き物も沢山いた。


悲鳴ばかり響く子の世界は、正に、


「地獄でーす。」

「ま、て………待て!!待て待て待ってくれ!!」

「待ちましぇーん。はい。地獄行きー☆」


アテンの首根っこを、その人物はゴミをゴミ箱に捨てるように、ポイッと放り投げた。


「は………」

「ごめんねー。僕は、君達とは違う側の神様だからさ。」

「貴様は………まさか………!?」

「ふふふー☆」


落ちる時、回転したアテンは、自身を投げ捨てたその人物を見て目を見開いた。


その人物は、可愛く頬に指を当ててウィンクをして言い放った。


「無間地獄へ。行ってらっしゃーい!!」


ゆっくりと鈍い音を立てながら扉が閉まっていく。閉じていく現世の光を求めて、アテンは手を伸ばす。


「閉じるなぁァァああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!」


扉は大きな金属音を立ててガッチリと閉まったのだった。


「さぁーて。1人収容完了ってか、ほとんど死亡だけどさー。」


そう言ってその人物は扉をトントンと蹴ってゆっくりと消えていく。


「はぁ。君はいつ、僕の所まで来てくれるかな。」


振り返って、倒れている快斗に言う。


「待ってるよ。君が迎えに来てくれるまで。」


その言葉を最後に、その人物は扉と一緒に消え去っていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あぐっ。」


アテンを貫いた時の覚醒の反動が帰ってくる。快斗の全身から血が吹き出し、神斬刀草薙剣が草薙剣となって、快斗の手から離れた。


地面に倒れ伏し、全身から力を抜いて、仰向けになる。後ろではどさりと言う音と共に誰かが倒れた。


「ッ、は!!」


快斗はその音を聞いて起き上がり、急いで振り向いた。


そこには、とてつもない恐怖に絶叫した表情で命を失ったアテンと、その死体の穴に剣を刺したまま胸に大穴を開けたメシルの姿があった。


「メシル!!」


地面を急いで這って、その死体を抱えあげる。その体からは熱を感じられず、もう命はそこには残っていないのは明白だった。


快斗はメシルの顔にかかっている髪を払い、そして俯いた。


「快斗!!」

「快斗さん!!無事ですか!?」

「生きてますかー!?」

「天野!!」


皆が駆け寄ってきた。メシルを抱え俯いたままの快斗を取り囲んだ。


「快斗……。」

「あぁ。」

「………血、飲んで。」

「おう。」


高谷の避けた手首から溢れる血を吸い、快斗は全身の傷を治していく。


「天野………その、その騎士は……」

「あぁ。死んでるよ。」

「………犠牲を、出してしまったな………」


ヒバリが悲しそうな表情で視線を逸らした。すると、快斗が顔を上げた。


「そんな顔してやんなよ。こいつが報われねぇや。」

「しかし………ッ」


ヒバリが快斗を見ると、その表情に驚いて目を見開いた。


「最後まで笑ってたよこいつ。すげぇよ。片足しかねぇってのに。誰もがしり込みするあの状況で駆け抜けてさ。」


肩を震わせ、メシルの死に顔、凄まじいほどの満面の笑みを見て言った。


「嬉しそうだよなぁ……かっこいいよなぁ……」


ボロボロと涙を流して、快斗は俯いた。


最小にまで抑えられた犠牲を伴って、この戦争は集結した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ご冥福をお祈りします。」

「……………。」


あの戦争から1週間後、ほとんど破壊された鬼人の国は更地に戻され、そこの中心には巨大な石碑が建てられ、しかしそこには誰の名前も刻まれなかった。


その石碑の前にはルーネスが代表者として立ち、その後ろには沢山の人々が並んでいた。


並んでいるとは言っても、ただ石碑の前に誰もが静かに黙って立っているだけだった。


しかし全員がこの悲惨な戦争に悲しみ、祈っていた。


それから1時間後、皆が生き残った仲間と話しながら仮設された宿や、ベリランダの転移魔術で国に戻っていく中、快斗は石碑に触れて黙っていた。


「……………。」

「そこまで、あの人間の死が衝撃的だったか?」

「………なんだろうな。」


後ろからネガにそう言われ、快斗は首を傾げた。


「多分、あそこまで嬉しそうにスッキリ逝かれるのが初めてだったからかもな。」

「………そうか。」

「なんだよ。からかいに来たんじゃないのか?」

「我をなんだと思っているんだ。」


ネガが快斗の隣にたち、同じように石碑に触れる。


「お前はこれからどうするんだ。」

「俺は………エレメロ達を助けに行く。もう高谷には話をつけてあるからな。」

「………。」

「その後は知らねぇ。決めてねぇし、まぁ、なるようになると思ってる。この世界でゆっくり過ごしたり、元の世界に戻る方法とか探ってみるのもありだな。」

「そうか。楽観的な事だな。」

「少しぐらい軽く生きている方が楽だぞ?」

「………そうかもしれんな。」


ネガは快斗に視線を向けた。


「きっと、この先お前は、自分の思い通りに行かないような、理不尽な現実にたたきつけられるだろう。」

「?」

「だが忘れるなよ。お前にはいつだって、笑って信頼してくれる誰かがいることを。」

「…………あぁ。」


最後に笑っていたメシルの顔がよぎる。でもなんだかその言葉は悪い気はしなかった。


「我もお前達と共に行くぞ。」

「あ?エレメロ達を助けに行くってことか?」

「不満か?」

「いや。そこまで協力してくれるとは思ってなかったんだよ。出会った当初は全部お前がやれみたいな他人任せだったのに。」

「ふん。結果的には良かったじゃないか。」

「まぁな。」


ネガがすっと手を差し出す。輝かしい腕輪が付けられたその綺麗な手を、快斗もまた綺麗な手で握る。


「これからは仲間として、よろしく頼むぞ。天野快斗。」

「フルネで呼ぶなよ。快斗でいい。」


固い握手を交し、2人は言葉には刺があるものの、その中にはほんのりとした温かさを感じられる会話をした。


「おーい!!そこの2人ー!!帰るなら早く来なさーい!!」

「夕飯作った母親かよ。」


遠くから呼ぶベリランダに手を振りながら、快斗が歩いていく。その背後から快斗を見つめるネガは少しだけ空の星を見たあとに、小さく呟いた。


「やっと、ラインに立った。」


綺麗な星々の光る夜空は、どこまでも広く拡がっていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふ~~。疲れたぜぇえええ。」

「1週間立っても、抜けない疲れってあるんだねぇ。」


エレストの城の中で、快斗と高谷が他愛のない話をしながら歩いていた。


「なーんか、色んなことがあった気がするな。」

「実際あったじゃん。異世界転生とか、太陽神討伐とかね。」

「ありすぎてやばいわー。俺ってば1回死んだしな。」

「まだこの世界に来て1年もたってないんだよね。俺達。」

「そう、か。そんくらいか。」


その程度かと快斗が思った。実際、この世界に来たのは5月で今は11月の末。約7ヶ月ほどしか、まだこの世界にはいなかった。


だというのに、とてつもなく長い冒険をしたような感覚だった。


「大事なヤツ、失っちまったよな。」


いつもなら高谷のとなりにいたはずの少女も、懐いてくれていた幼女もいない。


「あー。そうだね。でも、まぁ、大丈夫。」

「大丈夫ってなんだよ。」

「うーん。なんて言ったらいいのかな。」


高谷は頬を掻きながら悩み、そして思いついたと手を叩いた。


「いつでもそばに居てくれる。そういうこと。」

「んあ?どういうことだ?」

「まぁ、いずれ実感するんじゃない?」

「?」


そんなことを話しているうちに、快斗の部屋の前まで着いてしまった。快斗は高谷の不思議な話に追求することが出来ずに悩ましく感じた。


「それじゃあ、おやすみ快斗。ゆっくり休んでね。」

「おう。お前もな。」


小さく手を振って2人は別れた。そしてしばらく高谷が歩いていると、その隣には高谷にしか見えない少女が一緒に歩いていた。


『快斗君。本当に私が見えないんだね。』

「これが実際の怨念か、はたまた俺の幻覚か。どっちなんだろうね。」

『高谷君はどっちがいい?』

「んー?そうだなぁ。」


高谷はまた悩んで、しばらくしてからその少女、原野に振り返って言った。


「恋の未練がある『可愛い女の子』の亡霊、かな。」

『…………え?』

「あ、雪。」


寒気を感じて外を見ると、白く柔らかそうな雪がゆっくりと落ちてきていた。11月末。確かに日本と同じ季節通りに行くのなら、雪が降ってもおかしくはない。


前の世界なら受験期真っ只中。そう考えると、この世界でゆったり暮らすのも悪くないと高谷は思った。


「まぁ、どっちだって、友達がいれば満足だけど。」

『ねぇ高谷君。さっきの何?どういう意味!?ねぇ!!』


隣に騒ぎ立てる亡霊を抱えた高谷は笑って部屋へと向かっていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「んーっ、はぁ~。」


快斗は大きくて広い自室に入り、寝室へと向かっていた。風呂にはもう入っていたので、あとは寝るだけだった。


「ルーネスさん。張り切りすぎなんだよな。」


エレスト城に泊めてくれと快斗が頼むや否やすぐに1番いい部屋を用意してくれた。感謝はしているが無理はしないでくれと伝えたら更に張り切ってしまったが。


「さぁて、今日も頑張った俺。ベッドという無敵の疲労発散グッズで今夜も疲れを癒そう。」


そう言って扉を開いた瞬間、快斗は寝室を見て目を疑った。


「ん。天野。」

「………あれ。俺部屋間違えたか?」


快斗が踵を返して出口に向かおうとする。それを寝巻き姿の女性、ヒバリが呼び止める。


「ま、待て天野。部屋は間違えていない。ここは間違いなくお前の部屋だ。」

「じゃあ何でヒバリがここにいるんだよ。」

「それは………その、なんだ………まぁ、話をしよう!!座ってくれ。」

「………嫌な予感とは言いつつ満更でもないです。」


快斗は奇妙な独り言を言いながら、ヒバリの隣に座った。


その瞬間、背負い投げかと勘違いするほどの勢いで快斗がベッドに押し倒された。というより押し付けられた。


「はっ!?なになにどったの!?」

「む………や、やるぞ!!天野!!」

「何を!?」

「男女の交わりを!!」

「待て待て話が飛びすぎだ!!一旦落ち着けぇ!!」


それから10分後、力では完全に上の快斗がヒバリを押し返し、1悶着2悶着あってようやく落ち着いた。


「はぁ、疲れてるってのに、何させんだ全く。」

「す、済まない……」

「んで?なんだって急に?」

「いや、そのだな……」


ヒバリは少しずつ話し始めた。何でも、快斗に感謝の念を伝えたいがどうすればいいかとベリランダに尋ねたところ、「とりあえず交われば喜ぶんじゃない?あいつ巨乳好きそうだしぃー。」と、ヒバリの体を睨みつけながら言っていたので実行したらしい。


「ヒバリってそんなに知能低かったか?」

「なっ!?私は馬鹿ではないぞ!!」

「馬鹿じゃなかったらそんな嘘みたいな話に乗るな!!あと俺は巨乳だけじゃなく貧乳もOKなオールラウンダーだ!!」


快斗は未だ勢い衰えないヒバリに呆れながら、ベッドに横たわる。


「全く………なんてこった。」

「………天野。」

「なんだよ。」

「その、体で表せないので、口で言おうと思う。」

「今更感あるけどな。」


ベッドに座り、ヒバリは快斗に向き合って頭を下げた。


「天野、お前を斬ったこと、死なせたこと、この場を持って謝罪する。私にとって一生の不覚。罪は償うつもりだ。」

「………あぁ。もう許したから、もう謝らなくていい。」

「………お前は慈悲深いのだな。」

「まぁな。許しはするさ。許しはな。」


そう言って、快斗は起き上がる。


「だがな。見返りというか償いはしてもらう。」

「………あぁ。覚悟の上だ。」


快斗の言葉にヒバリが身構える。今この場で死ねと言われても死ぬ覚悟だ。それほどにヒバリには罪の意識があった。


快斗はじっとヒバリを見つめたあと、小さく呟いた。


「抱かせろ。」

「……………ん?」

「面倒だから言うのは1回だけだぞー。」

「待て。話が食い違う。先程まで全力で私の夜這いを拒否していたのはなんだったんだ。」

「知らねぇ。なんだっていいだろ。言われたらなんだかそういう気分になっただけだ。」

「む。やはり、男心とは、難しいな………」

「いや、単なる性欲だけども。」


それから2分ほど沈黙が続き、気まずくなった快斗はなんと言葉をかけようかと必死に思案していた。するとヒバリが寝巻きを少しだけ脱ぎ、髪を結んでいた紐を解いた。


「その、天野。私はその……処女だ。だから、やり方を知らない………。」

「………おう。」

「その………教えてくれ。そうすれば、少しは上手くやれると思う………」

「………つまりは、いいってことかよ。」

「………天野ならいい。」

「なんだそれ。」


快斗はヒバリのその言葉を最後に、完全に理性のストッパーを外した。


ヒバリを引っ張り、ベッドに押し倒して上から抑える先程とは逆だ。そしてヒバリに顔を近づけて呟く。


「今夜は、長くなりそうだな。」

「あぁ………そうだな。」


互いの顔を近づけてそれから目を瞑る。唇に柔らかい感覚があった。


こうして、2人は今宵、長い夜を過ごすのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おかえり。」

「ただいま、かな。」


高谷が部屋に戻ると、そこにはサリエルが立っていた。風呂上がりなのか、ホカホカと湯気が体が出ていた。


「どうしたの?俺の部屋なんかに来てさ。」

「本当は察してるんでしょ?」

「俺の隣の亡霊がサリエルが居るって喚いてたからね。」

「そう。じゃあ、そこにいるの?」


サリエルは高谷の隣を見てふっと微笑んだ。そこにいる原野は嫌な予感に表情を歪ませた。高谷はその一連の流れをみて苦笑いだった。


「ベッド。もう用意してあるから。」

「俺、初めてだけどいい?」

「大丈夫。私もだからさ。」


サリエルがベッドに飛び込む。高谷は目巻きを脱ぎながらベッドに座る。サリエルはそれを見たあと、虚空に向かって言った。


「大丈夫だよ原野ちゃん。あなたも参加すればいいんだから。」

「いや、亡霊は無理なんじゃ……」

「頑張れば行けるよ。ね?原野ちゃん。」


サリエルはそんなことを言って笑った。高谷は目の前で悔しそうにしている原野を見て苦笑いが止まらなかった。


「高谷君は、私が初めての相手で嫌じゃない?」

「………どうだろ。本当は原野が良かったかも。」

『ッ!?!?』

「原野ちゃん喜んでるんじゃない?」

「ううん。失神してる。」


目の前でピクリとも動かなくなった原野を見て高谷が言う。


「そっか。いいなー見えて。楽しそう。」

「見えないよりかはいいね。」

「本当は嬉しいんでしょ?」

「そりゃそうだよ。好きな相手なんだから。」

「いいの?好きな子放ったらかしで。」

「原野が認めてるんだし、誘ってきたのはサリエルのほうだろ?」

「確かに。それもそうだね。」


サリエルはゴロンと転がる。高谷もその横に寝転がり、2人は顔を近づけた。


「じゃあ、今夜はよろしく。」

「こちらこそ。」


快斗達と同じように、高谷とサリエルもまた、今宵は長い夜を過ごすのだった。

なんだこれ。

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