皆の最後の一撃
「死ねぇ!!」
大量の炎の槍。前衛のルージュとルーネスが各々の槍を回転させ、後ろからユリメルが2人に魔力を付与する。
「ほ。」
ユリメルの固有能力は『流しゆく者』。大抵の魔術や物理攻撃は少量のダメージを受けつつ任意の方向に跳ね返したり流したりすることが出来る。
その効果は武器や人に付与することも可能で、手数が問題だったユリメルの弱点を補強できる能力である。
「はぁあ!!」
「せぇあ!!」
2人の槍捌きは世界一。炎の槍がぶつかる速度より速く2人の槍が回転して攻撃を明後日の方向に流していく。周りの木々が燃えていってしまうが、致し方ないと無視する。
「『緑結晶の階段』!!」
「『桃色結晶の防壁』!!」
炎の槍の猛攻を乗り越え、2人が巨大な階段で快斗達を守る。
「援護は任せてくださいね!!」
「久々だなこのメンツ!!」
「やってやりましょう!!」
「出来れば勝ちたいね!!」
「勝たなきゃ死ぬんだよ!?」
「ふふ。なんだか懐かしい。」
援護組はワイワイとしながら階段の横に構える。
「っしゃあ!!跳べぇお前ら!!」
「言われずとも!!」
「跳びまぁす!!」
快斗を先頭に、階段の最後の1段を踏みしめて跳び上がる。それに続いて前衛向きの戦士達がついて行く。
「太陽神を地面に叩き落とせ!!」
快斗が翼を生やして飛び上がる。空中のアテンは灼熱という自然的な防御を作り出し、大抵の戦士は近づく事ができないが、快斗と高谷は別だ。
「冷房つけような!!」
「何度!?」
「3度!!」
「無理!!」
振り下ろされた草薙剣がアテンの『陽剣』とぶつかり合い、バチンと音がして地面に落ちる。それと同速度で高谷が回転しながら拳と踵を叩きつけ続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ………!!」
「一旦休め!!高谷!!」
「了解………!!」
地面に降りた快斗がアテンが地面に落ちたことによって吹き上がった粉塵へ駆け出す。
その粉塵を貫くように熱線が飛び出し、快斗は首を傾けて紙一重でそれを回避する。が、すぐ側の右頬が熱線の僅かな熱を受けた瞬間に黒く焦げた。
「っつ!?サイコロステーキにする気か!?」
何度も何度も放たれる熱線をジグザグに走って躱す快斗。ようやく粉塵に辿り着いたかと思えばアテンが不意打ちのように『陽剣』を振るう。
体を逸らして躱し、そのままの勢いで地面に手を着いて回転。アテンの土手っ腹に蹴りを入れる。腹筋に魔力が集まり、ダメージは通ることは無かったが、快斗の蹴りによってアテンの魔力が闇に侵食されて崩れ落ちた。灼熱は消え去った。
快斗が足を捕まれ振り上げられる。それを地面に振り下ろそうとするがそれを仲間達が許すはずもない。
「『光の矢』!!」
「『刹那の弾』!!」
光よりも速いライトが雷のやと化してアテンの防御のなくなった鳩尾に凄まじい力の乗った蹴りをかました。
それに続いて、ライトの背後からヒナが放った2発の銃弾が飛んできた。アテンはライトの蹴りでくの字になりながらも炎で弾をかき消そうとした。
だが不思議なことに、その弾はアテンの視線が下がっていく最中、途端に見えなくなった。アテンが驚いていると、弾が肌に触れる感覚があり、その瞬間には右手の人差し指と薬指がへし折れていた。
「せぇあ!!」
そこに背後から踏み込んでいたヒバリが力強く風龍剣を振り下ろした。へし折れた指は動かず、あっさりと切り飛ばされてしまった。真ん中の中指まで巻き込んで。
『刹那の弾』の特徴は、弾が角度によって見えたり見えなくなったりするというもの。姿勢が変わり続けているのであれば、見えなくなる時があって当然。
ただ、ちょうど見えなくなったのはほとんど運だったが。
「くぅ!!」
初めて受けた大傷。アテンは表情をゆがめて苦しそうに呻く。その顔面に容赦なくライトがナックルから飛び出した雷の刃を突き刺す。
「邪魔だ!!」
「うるせぇ!!」
ガバッと起き上がってライトを突き飛ばすアテンの左肩を快斗がズバッと切り裂いた。大傷から大量の血が吹き出した。
掴みかかろうとするアテンをヒバリが蹴飛ばし、起き上がったライトも拳を叩きつけ、アテンが吹き飛んでいく。
「『光剣落下』!!」
「『垂れ氷柱』!!」
大量の氷柱と、巨大な光剣が同時に落下。アテンは光剣を素手でつかみあげ、担ぐようにして光剣を持ち上げて耐える。氷柱は熱で溶かしていく。
「やっぱり氷は駄目ね!!なら!!」
氷柱を放ったベリランダが地面に手を着くと、アテンの足元が泥沼のようにどろけてアテンが体勢を崩した。
快斗が飛び出し、アテンの脚を蹴り飛ばす。地面からの支えを失ったアテンは、翼で宙に留まろうとしたが
、これも許してはくれないらしい。
「『神技・迅風伝染』」
穏やかに吹く風が、ウイルスの如く小さな斬撃を大量に運びあげ、それが翼全てに感染してバッサリと切り刻まれる。
「『魔技・穿つ闇柱』!!」
快斗が草薙剣を振り上げると、暗黒の魔力で出来上がった柱がアテンを穿ちあげる。アテンは光剣と柱に挟まれ、やがて大爆発を起こした。
快斗は攻撃の手をゆるめることはなく、爆煙の中に、飛び込んでいく。
「この………悪魔め!!」
「あぁ、悪魔様のお通りだ!!」
快斗が草薙剣を振り上げる。
「『魔技・殺戮の怨霊』!!」
アテンの左肩から右脇腹までが一気に引き裂かれた。
その傷は再生することはなく、大量の血がどんどん溢れていく。
「『魔技・壊滅の斬撃』!!」
草薙剣の一振で、約13の斬撃が放たれ狂う。もはや魔力すら使えなくなり始めているアテンは、両手で頭を守っているが、そんなのは簡単に切り刻まれる。
「でぇい!!」
宙で体勢を変え、快斗がアテンを蹴りあげる。小さな太陽を大量に放ってきたが、快斗は地面に降り立つと、右手を空にかざした。
すると、アテンの周りに真っ黒で濃密な黒い魔塊が出現した。
「『魔技・死滅の魔塊』!!」
「ぐぁ………!!」
大爆発が置き、それに耐えきれず太陽達も完全に消滅した。快斗が爆煙の中を覗こうと視線を上に向け、すぐさま前へと跳ぶ。
直後、快斗が立っていた地面がぱっくりと割れた。『陽剣』の斬撃がそれほどまでに強力だということだ。
「『死歿刀』!!」
「『陽滅斬』!!」
獄炎と陽炎がぶつかり合い、超熱が舞うが、やはり快斗の方が力量が低く、押し負けてしまう。
それは快斗単体であった時だけである。
「『奥義・神領風解烈』!!」
ヒバリが地面を踏みしめて風龍剣を誰を狙うもなく振るう。するとヒバリが振るった風龍剣の軌道と同じ斬撃が『死歿刀』を押し上げていく。
ヒバリを中心にある程度の範囲内ではヒバリの斬撃がどこにでも届くという技だ。気配を感じとることは出来ないので完全に見えていないと意味が無いが。
「押せェえ!!」
「上がれぇ!!」
「ぐぅ……!!」
陽炎の斬撃が押し上げられ、『死歿刀』とヒバリの斬撃が貫通してアテンに届く。アテンが『死歿刀』を左右から真剣白刃取りのように押さえつけ挟みこもうとした。
しかし、快斗が指を鳴らすと獄炎が破裂し、アテンの手のひらがボロボロに焼ける。
「ハッ!!太陽神でも火傷はするのかよ!!」
「く………黙れ!!」
「カリカリすんなよ。」
『陽剣』を振るうアテン。それら全てを躱してアテンの顔のすぐ側に快斗が顔を寄せて言葉を交わす。
「あんま起こりすぎるとハゲるぞ。」
「何を……!!」
「気張るなってんだ。人間の力を、これから思い知るんだからよ。」
去り際首筋を切り裂いてすれ違った。アテンが痛みに表情をゆがめ傷口を押さえつける。
「黙れ神敵め………貴様のせいで!!どれほどの犠牲が生まれたか!!」
「それは俺じゃなくて前の体の持ち主に言えよ。クソ野郎。」
地面を蹴りあげてもう一度上がる快斗。今度はヒバリもライトも飛び上がり、真上からはサリエルが襲来して完全に包囲状態となった。
「連携するぞ!!」
「出来るだけね!!」
快斗が草薙剣を投げつける。アテンが首を傾けて躱すと、アテンの背後に草薙剣が飛んだ時点で快斗が『転移』。
『死歿刀』を振るう動作を見せるとアテンが背後に手を向けて炎をぶちかまそうとする。その瞬間目の前に雷が出現。空気を蹴って掛けてきたライトが拳を握りしめた。
アテンがそれを見て全員を薙ぎ払う方が楽だと考え陽炎を爆裂されようとした。ライトの拳の距離と速さで考えてとった作だったが、それは快斗達側のほうが1枚上だ。
ライトが拳をつき出そうとするタイミングで、ヒバリが回転しながら降りてきた。ライトが拳を突き出すのは殴るためではなく、降りてきたヒバリを突き飛ばすためだった。
「逃げるな。」
「なっ………」
風龍剣の鋭い斬撃が胸を裂く。その衝撃で生まれた動揺の間に、サリエルの『天の鎖』がアテンの両肩を貫いた。
「うぐっ!?」
鎖が中で大暴れし、肉と骨を砕いて腕の機能を停止させる。
「せい!!はぁあ!!」
「オラァ!!死ねぇ!!」
ライトと快斗が何度も何度もアテンを挟み撃ちで斬撃と打撃を与え続け、最後に2人合わせて踵落としで地面にまで突き落とした。
「殺す………!!」
アテンが動かない腕にイラついて足の力で立ち上がろうとした。が、空中の4人は追撃せずそれぞれ散っていった。
「な………逃げるの、かぁっ!?」
逃げるのかと糾弾しようとした瞬間、地面が裂けて桃色の魔力がアテンを突き刺し、結界のようにアテンを囲んで抑える。
「『破壊光塔』。」
遠距離から地面に魔力を流していたネガがアテンを押さえつけようと塔を立ち上げた。
が、アテンがその程度で止まるはずもなく、性懲りも無く動き出そうとする。
「我の『破壊』の神力の前にまだ動くか太陽神!!」
「若年が……舐めるなよォ……!!この程度で押さえつけられると!!」
「もちろん思っていない。ただの時間稼ぎだからな。」
アテンが立ち上がり、その塔の中から飛び出そうとした瞬間、右足が動かないことに気がついた。全く動かず空中に縫い付けられたかのようにぴったりととまって動かない。
何が起こったのかと振り返って足を見てみると、アテンは目を見開いた。
アテンの右足に、細く青い糸が沢山絡みついていた。
それが右足だけでなく、左足、右腕、左腕にも絡みつき始めていた。
「なんだこれは………!?」
「懐かしいよそれを見るのはよ。あんまいい思い出でもないけどな。」
ネガの居る位置まで下がっていた快斗が歩き出していく。
「それは、お前が散々見下してきたこの世界の人間達が団結して作り出した糸。」
快斗が草薙剣を突く姿勢で構えた。
「俺も昔受けたことのある、『不動の石』だ!!」
そこらじゅうに隠れていた『侵略者』達が手に持っている石。一人ひとりの石から伸びた糸が絡まって強く固く結びあってアテンの動きを封じている。
「お前の負けだぜ太陽神。」
「はぁ………はぁ………」
『破壊』の神力で肌がボロボロに砕け始めたアテンはもう神の神々しさも無い姿で両手をブランと下げて視線だけを快斗に向け、憎しみを含んだ表情で睨みつけて叫んだ。
「認めてたまるかァ!!貴様ら如きの羽虫の抗いに!!神たるこの私が死ぬわけでないのだ!!」
「黙れよ。周りみてみろよ。今お前が1番イタイから。」
「ウザったらしいぞ、この反逆者めぇえええええ!!!!」
『不動の石』がありながら、アテンが炎を纏って抵抗する。糸を引っ張り、ちぎろうとする。
「な………この本数の意思がありながらか!?」
「強すぎるだろうに……!!」
「こんなの……アリかよ……!!」
『侵略者』達の心が折れ始め、糸がどんどん脆くなる。流石に快斗もまずいと思ったのか、踏み出して皆に声をかけようとしたが、その必要はなかった。
「オラオラ皆元気だしてこー!!」
「こんなところでやられないでよー!!」
「終わったらみんな願い叶えてやるぞー!!」
「じゃー僕この世界全部欲しいな!!」
「いや無理!!無理無理無理やっぱりこの話なし!!」
元気いっぱいの4人組、カリム達が『不動の石』を握りしめながら全員に叫んだ。会話の馬鹿さに呆けてしまいそうになるが、そんな彼らでさえ本気で石を握りしめているのを見て、戦場の戦士達はまた力を込める。
「ああああああああぁぁぁ離せぇぇええええ!!!!」
強く締め付けられてなお、アテンは抵抗を止めない。
「私も加勢に!!」
サリエルが『天の鎖』でアテンを拘束しようかと思った時、ベリランダが必死にそれを止めた。何かと思ってアテンの背後を見ると、その理由がわかった。
誰もが大暴れするアテンに近づかず距離をとっている中、1人の戦士が何かを加えたまま片足で駆け出していた。
「ぉぉおぉぉおおおおおお!!!!」
その男は、『破壊』の塔に飛び込んでもすぐに砕けずにアテンと同じようにボロボロになりながら、アテンの胸を持っている剣で貫いた。
「必殺!!『メシルの全力封印術』!!!!」
「ぐあっ!?」
その勇気ある男、メシルが唯一持っていた封印術をアテンの胸を貫いた剣から流し込み、アテンの動きを完全に封じこんだ。すぐに砕けないのは、血が流れる高谷の片腕を咥えているからだ。
命をかけた最後の糸。やると分かっていても、1度話しただけだが親しくはなっていたその騎士の勇姿に、快斗は涙ぐんでしまう。
「いいぞ!!俺のことは無視してな!!ぶっかませ悪魔共!!俺はお前らを信じてる!!」
「メシル………」
「やってあげよう。快斗。」
『破壊』の神力の中で痛みを堪えながらそう叫んだメシルを見て躊躇しかけた快斗の肩を叩き、片腕がない高谷がそういった。
快斗は歯を食いしばり、自身の心臓を草薙剣で突き刺した。草薙剣が解放され、『神斬刀草薙剣』へと進化する。
「最後の一撃、外しはしねぇよ。」
快斗の力が最大限にまで引き上げられ、『怨力』が増加する。
「いいな。テメェら!!」
「うん!!」
「はい!!」
「当然!!」
「いいよ!!」
「おけです!!」
「さぁ往け!!」
「ぶちかますぞ!!」
快斗が駆け出す。アテンのいる場所に向かって、草薙剣を構えて踏み込む。地面が割れてバランスが崩れかけたが、地面はすぐに修復された。
振り向かなかったので分からなかったが、恐らくエレジアが地面を支えてくれたのだろう。
「リーヌさん!!お願いします!!」
「おっけー任せて!!」
高谷の声にリーヌがううんと声を整えて、ゆっくりと呟いた。それは、駆けていた快斗の耳にも明瞭に聞こえた。
「『貴方に祝福を。最後まで、前へ。』」
「『風神』!!」
「『雷神』!!」
「『血獣化』!!『心剣』!!」
「『耳長族』!!」
「『天の鎖』光あれ!!」
「『破壊衝動解放』!!」
背後の全員が覚醒する感覚を感じて快斗は笑う。左足を前に草薙剣の切っ先をアテンに向け、『怨力』を解放する。
「っしゃあこいやぁ!!」
1歩近づく。
「『超雷虎月牙』!!」
放たれたのは、雷でできた金色の虎。
「『崩御の剣』!!」
放たれたのは、精神を切り裂く青い炎。
「『勝利の剣』!!」
放たれたのは、何よりも輝く美しい剣。
「『緋亡の弾丸』!!」
放たれたのは、完全オリジナルのスナイプショット。
「『破壊光線』!!」
放たれたのは、全てを破壊する最凶の光線。
「『天の快楽と、一斗の絶望』。」
放たれたのは、絶対不可視の、残酷な死の風。
それら6つの魔術が、『神斬刀草薙剣』の1文字1文字を埋めていく。
世界で最も強いもの達の最後の一撃全てを乗せた刀が今、突き出される。
「やっちゃぇええええ!!」
「ぶっかませぇえええ!!」
「いけぇええええええ!!」
「貫けぇ!!」
「あとは任せたよ!!」
「見せてみろ。天野快斗の力!!」
「おお。任せろよ。」
快斗が草薙剣を握りしめてアテンの目の前で踏み込んだ。アテンは至近距離からの攻撃だと理解しすぐに口を開いて熱線を放とうとした。この距離なら快斗の『魔技』より熱線のほうが速いと思ったからだ。
しかし残念ながら、快斗は草薙剣をアテンの背後に投げていた。
「あ………」
気づいた時にはもう遅い。アテンはここで、完全に詰んだのだった。
「やったな。天野快斗。」
背後に『転移』した快斗に、メシルは振り返らずにそういった。声色だけで、メシルが笑って喜んでいることが、すぐに理解出来た。
「『魔技・絶望の一閃』。」
この場の全ての力を持って、今やっと、絶望の光が放たれた。