罪深い男の想像話

《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす

駆け出せ

「ルグァ!!」

高谷が拳を握りしめてアテンの脳天に腕を振り下ろす。アテンは炎で腕を消失させようとするが、真後ろからの快斗の攻撃にそちらに意識を向けられなかった。

「ぐっ!?」

「おらおらどっこ見てんだオラァ!!」

頭が地面に叩き落とされ、その上から快斗が容赦なく草薙剣で追撃を与える。アテンは地面をごろごろと転がり、炎を爆発させて空へと浮かんだ。

だが空は別の敵が占領している。

「『輝剣上昇《カリバー》』!!」

「『隕石《メテオ》』!!」

真下からサリエルの輝剣。真上からはベリランダの召喚した隕石が落ちてきた。アテンは瞬時に隕石の方が脆く弱いと判断し、隕石を炎をまとって突き破り、輝剣を回避した。

それを見越して、隕石の裏側にいたヒバリがアテンの右腕を斬る。もはやライトと同等の速度の剣速に、アテンは隙を突かれれば躱すことは出来ないだろう。

「やぁあ!!」

「ちぃッ!!」

空から光が落ち、ライトの強烈な踵落としが放たれる。アテンはその踵を引っ付かみ、地面に回転しながらライトを叩きつけようとする。

が、そう上手くいかない。

「よいしょおぉ。」

ライトが地面にぶつかる寸前、ユリメルが手刀でライトの体を撫でる。すると力が流され、地面に叩きつけようとしていたアテンが下に回ってしまった。

「なっ!?」

「りゃぁああ!!」

火力全開で超電気を放ちながら、その勢いのままアテンはライトに地面にたたきつけられた。踵が鳩尾にめり込み、そこから強い電撃が内臓らを焦がす。

「く……人間めぃ!!」

アテンを中心に灼熱の火柱が立ち上る。ライトはすぐさまユリメルを抱えて距離を取り、それと入れ替わりで高谷がアテンと交戦する。

普通人なら骨の髄まで燃えてもおかしくない灼熱の中、表面を血で固めて再生し続ける高谷は容易に耐えることが出来る。

アテンの振るう拳は凄まじい勢いで痛くてしょうがないが、高谷はもはや痛覚など無視して、相手を殺すことしか見ていない。

隣で見守る原野が願うように、高谷は皆を守りたいのだ。

しかし、高谷はここで小さなミスを犯す。アテンが下から放つ拳を見切っていたというのに、足を踏み外してもろに食らってしまった。

「ふん!!」

「ガッ!?」

アテンの太い腕が高谷の胴の大口を貫いた。先程までなら腕を掴んで背負い投げでもしているところだが、高谷はそれほどの力を出せなかった。

それは何故か。底なしの体力を持つ高谷には有り得ないと思っていたことだが、今の彼は間違いなく、疲弊していた。

が、それを知ってのことか、快斗が炎の中に飛び込んでいた。

快斗は炎の中に飛び込み、しばらく静止したあと、ニヤリと笑って駆け出す。

「この程度なら、俺でも耐えられるぜ太陽神？」

アテンは快斗が近づいてくることに危機を感じて飛び上がろうとするが、ここで高谷が力を振り絞って腕を引き止める。

「ッ、離せッ!!」

「断る!!」

「逃げんなクソ野郎!!」

快斗が草薙剣を投げつける。顔面に迫る草薙剣を、アテンは首を傾けて躱した。その瞬間に草薙剣に快斗が『転移《ワープ》』。背後から斬撃を放つ。

「『死歿刀』。」

アテンの炎とは違う、煉獄の炎。それに快斗なりの魔力が加わり、黒紫色の炎を纏った草薙剣が振り下ろされた。

それは肉体だけでなく、魂にまで直接ダメージを与えるため、通常よりも痛みが大きい。

「悪ぃ。」

「全然。」

快斗と高谷がそんな短い会話をした後、獄炎の斬撃がアテンと高谷の2人を飲み込んだ。火柱が消え、獄炎が竜巻のように高く高く立ち上っていく。

「くぁぁっ!!」

高谷は痛覚が内側から攻撃するかのように感じた。痛みに歯噛みし、それでもアテンを離すことはなかった。

が、傷口が獄炎にやられ、アテンの腕は高谷から引き抜けてしまった。その勢いで魂まで引き抜かれたかと思うほどに高谷が一瞬脱力した。

全身が軋んで、凄まじい重圧がかかったかのように感じ、意識が一瞬だけ飛んだ。

眠りに落ちたのだ。一瞬だけ。だがその一瞬が、ここでは項を制したと言えるだろう。

「ッ………は、面白いね!!」

高谷は獄炎をかき分けて攻撃しようとするアテンを見てから、自身のすぐ後ろに右腕を振るった。出来るだけ強く。

すると面白いことに、そこにはいつの間にかアテンがいて、高谷の手は顔面をぶち抜く勢いでぶつけられていた。

アテンが吹き飛び、地面を抉って岩山に直撃する。

「なんだ今の!?」

落ちてくる高谷を受け止めか快斗がそう聞く。高谷は得意げに笑って答えた。

「『未来視』……原野から貰った能力だよ。」

一瞬だけ眠りに落ちた時、本の一瞬先の未来を見ることが出来た。アテンがどこにどの姿勢で現れるのか完璧に把握した。

が、その分脳への負担が大きく、眠っても眠れないため、休むことも出来ない。

「まぁ、こんな状況じゃ休んでらんないよね!!」

快斗の腕から立ち上がり、再び魔力を全開する。腹に空いた大穴が塞がれ修復し、元通りに戻る。

ドォンと音が響いて崩れた山が爆裂する。赤い光の線が空に伸び、大量の炎の槍が作り上げられた。

「群がる弱小生物めが………貴様らは神によって作られた下僕!!我らの思い通りにならないのなら、貴様らに生きる価値などないわ!!」

腕を振り上げ、アテンは癇癪を起こした子供のように叫び散らかしながら炎の槍を放った。

その言葉を聞いて、快斗の動きがぴくりと止まり、そして動き出した。快斗とは別の意識を持って。

「それは違うな、太陽神。神が人間を作ったのではなく、人間が神を作ったんだ。」

右目が黒く染まり、十字架を形成。髪が黒く染まり、爪や牙が伸び、左目は細くなってスパークを放つ。

「『獄怒の顕現』。『赤《スカーレット》』。」

ステータスが伸びる。

「俺は、人間を神よりも上だと考える。貴様らのような私利私欲にしか動かない概念とは違う。人間は豊かで面白くて優しく残酷で脆い生き物だ。酷いものだ。だが、それでも俺は、何もしない神よりも、何かしようと考える人間が好きだ。負けても死んでも裏切っても、必ずいつか、目指していたものをどんな形であっても成し遂げる。素晴らしいことだ。」

ニヤリと笑い、残っていた魂の残り少ない魔力を消費して、快斗、否、ルシファーはアテンに言い放った。

「神は、面白くない。下品だ。」

アテンがイラついたかのように眉を動かした。それを見て満足したのか、ルシファーは快斗の魂の奥底に降りていった。

「とんだ地雷落としていきやがったなこいつ。」

戻った快斗がそう言って前を見る。大量に落ちてきている炎の槍。どう捌くべきか考えていると、ルーネスとルージュが快斗を追い越すように前に歩んできた。

「我らがあれらを流します。」

「その間に、快斗様は『侵略者《インベーダー》』の皆さんを連れて前へ。」

「………分かった。ヘマしないでくれよ。」

快斗は何か言いたげにしたが、意味が無いと分かって言わずに2人の背後に立った。ベリランダが快斗の意思を汲み取って戦場にいる全員に快斗のかんがえていることを共有した。

「よし。それじゃあ…………行くぞお前らァ!!」

「最終決戦だ!!」

快斗と高谷が駆け出すと、後ろの方に待機していた人々やヒナ達が駆け出し、ルージュとルーネスは先頭を各々の槍を持って走っていく。

「ルージュ。」

「なんですか姉上。」

「ここで攻撃を流し切りましょう。高谷さんにいい所を見せる機会ですよ。」

「姉上。」

「ふふ。冗談がすぎました。」

真面目な顔でルーネスに怒気を向けたルージュに、ルーネスはその視線を無視した。

『まぁ心配するでない。いざとなれば、わしも出来るだけサポートする。』

金色槍に封じられたリドルがそういう。気休めでしかないが、今のふたりには希望の光のように思えた。

「では行きますか。我ら姉妹の本気を見せてやりましょう!!」

「はい!!姉上!!」

世界の最高戦力VSアテン。この戦いに、快斗達は終止符を打つのだ。

世界の命運は、今、ここで決まることになるだろう。