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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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重複

「………ォォ!!」

「はッ!!」


下から抉るように振り上げられる鉤爪。当たらず暁は絶対に見えない速度で羅刹を背後から切り裂く。暁は時を止めて攻撃し続けるのをやめた。止めるのは移動の時だけ。でなければ先程のように突き破ってくるかもしれないからだ。


羅刹はもう攻撃を無視はせずに躱すようになった。空を切る斬撃が、瓦礫をかき分け空を覆う魔力にぶつかって弾けた。


羅刹は目にも止まらぬ速さで暁を殴る。しかし時を止められる限り暁に攻撃が当たることは無い。何千何万の攻撃を全て躱す。


「ッ!!」


長い攻撃の雨の最中、羅刹は突然踏み込んで抱きしめるように固い肉体で推し潰そうと迫ってきた。


逃げ場は普通ならないが、今は当たらない。まだ今は。


「余裕!!」


声をはりあげ、時を止める。掴みかかってきた羅刹を飛び越えて後ろに移動しようとした。その時、


「むっ!?」


羅刹の黒瞳がギョロっと暁を見据えた。暁は瞬時に術を解く。克服されるのは流石にマズイ。


「?」


暁はここで疑問を抱く。いつから暁は、時を止める『真剣』に頼っていたのだろうか。時を止めてばかりで、他の力を使っていない。それは実に勿体なくて、先祖にも申し訳ない気がした。


羅刹が体ごと傾けて暁を潰そうとしてくる。重い体に彼の剛力が加わって、速さと威力が増す。視線は暁を捉えていた。


なのに、腕が暁に直撃した途端、その攻撃が暁の体をすり抜けた。空ぶった攻撃が地面を砕く。


「これは、随分無理なものにござるなぁ!!」


暁が足で地面を強く踏みしめると、その姿がぶれて暁の体が分身した。その瞬間に、羅刹は本体を見失う。本体を潰せば分身も消えると判断したからだ。


だがその考えも甘い。暁は羅刹が分身を一旦無視するのを知っていた。


「「せぇあ!!」」


3人の暁が、鬼丸を羅刹に叩きつける。1本は弾かれ、2本は肉を薄く切り裂いた。瞬間羅刹の打撃が分身を吹き飛ばしてかき消した。


「残念。分身はそのまま、拙者の複製でござるよ!!」


してやったりと喜ぶ暁の声が真上から聞こえた。羅刹が顔を上げると、そこには空中に飛翔する暁の姿があった。速度も凄まじい。まるで燕のようだ。


『透身剣』、『分身剣』、『未来剣』、『絶斬剣』、『飛翔剣』の4つの掛け持ち。大分脳に来たが、そんなの無視して暁は飛び回る。それに混じえて分身して、全部で6人の暁が空を飛んでいた。


鼻血を舐め、暁は思案する。ここまで使ってきて、1番脳にダメージが来たのは『透身剣』だった。


すり抜ける部分は全てがすり抜けるため、全身に発動すると地面の中に落ちてしまう。なので出来るだけ発動区域を減らしたいので、当たる場所を正確に知らなければならない。


そこで活躍するのが『未来剣』。1秒、1分、1時間先の未来を見て、次の動きを把握する。まるで『透身剣』の欠点をカバーするかのように噛み合ったこの2つの『真剣』は、セットで使う必要がある。


だが、どちらも頭脳をよく使うもの。頭の悪い暁では処理落ちしかける。


ならばと暁は次に思いついた組み合わせを試してみる。


「はぁあ!!」


宙から落ちる暁が羅刹に真正面から斬り掛かる。羅刹が腕で受け止めると、斬ることは出来なかった。ここは『無敵』の勝ちだ。


羅刹は間髪入れず反撃してくる。未来を見据え、攻撃が当たる部位は顔面だ。『透身剣』を発動する前に、暁は『全知剣』を発動する。


頭の中の痛みが消え去り、思考が澄み渡って領域が広がる。暁の小さな容量を、この『真剣』は極限まで広げてくれた。


そのおかげで正確に『透身剣』を発動できた。脳にダメージもなく、これで1連の流れが完成した。


だがやはり手順が長い。これを1秒にも満たない時間内に行うのは至難の技。暁の直感もあってこその行動だった。


「せぇい!!」

「やぁあ!!」


次々に分身が追突し、一度に6人の暁を羅刹は相手する。『全知剣』のおかげで6人がフルで能力を使っても処理落ちはしない。


次に、暁は別のことを試す。


「「はッ!!」」


2人の暁が『怪力剣』で増強した脚力で羅刹の両足の脛を思いっきり蹴り飛ばした。『無敵』で通じず、羅刹はビクともせずに飛び上がり、宙から蹴りで2人の暁を踏み潰した。


その隙に回り込んだ暁が左肩に鬼丸を振り下ろす。が、察知されて鉤爪のガードが入った。が、先読みなら暁が上手。その腕をもう1人の暁が蹴りあげた。


「当たれぇ!!」


首筋に刃がめり込む。『絶斬剣』は入った。首筋にある大きな血管を見事に切り裂き、羅刹は体に初めて深い傷を負った。


吹き出す血を見て、しばし羅刹は呆然としていた。


「覚悟ッ!!」


最後にたんっと地面を蹴って、静かに突き出された鬼丸が羅刹の腹に突き刺さった。固い腹筋を貫いて、腸などの内臓を串刺しにした。


外側をどんなに鍛えても、中身は柔らかい肉しかない。羅刹とて、内側からの攻撃は流石に通じるはずだ。


「『火炎陣』!!」


赤色に染まる瞳で傷口を見つめ、鬼丸の先端に魔力を集める。それは『五神剣』と『無限魔力』によって、威力と魔力量が爆増したその攻撃は、確実に羅刹を殺せると、暁は思った。


その瞬間だった。暁の視界が真っ暗になり、直後壮絶な痛みを感じたのは。


「がはッ!?」


硬い感覚。顔面に染みた暖かい液体。時をとめ、触って確かめてみると、それは大量の鼻血だった。どうやら、いつの間にか地面に叩きつけられていたらしい。


見上げて見てみると、羅刹によって分身が一瞬にして砕かれ、本体であるこの暁にゲンコツを落としたようだった。


『弱明剣』によって首筋に弱点を寄せ、更に『変力剣』で刀の動く力を増やして威力を増大。『全知剣』によって分身に『未来剣』でみた未来を共有。『怪力剣』と『絶斬剣』を加えて羅刹の首筋と腹を斬ることができた。


そこまでは見えていた。なのに、叩きつけられた時のことは覚えていない。


羅刹の両腕は青黒い魔力がまとわりついている。ひと目で何かの術を発動したのかがわかった。


あまり長く時をとめていたくはない。暁は少しばかり、その大きな壁に焦っていた。


「一体、何をされたでござるか。」

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