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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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『五神剣』

羅刹は歯を食いしばり、ゆっくりと立ちあがる。弱者としてしか見れなかった人間が、数分で自分をも凌駕するほどの力を手に入れて戻ってきた。


能力補正がかかってるのではないかと思うほどに、自分が悪役かのような追い詰められ方だった。


羅刹を悪人と思うか否かは、見る人によるが。


「………。」


鬼丸国綱を構える暁を遠くから見据える。強い覇気でひっくり返りそうな感覚を覚えた。今の羅刹に暁がかなうのかどうかは分からない。もしかしたら羅刹よりも遥かに強いのかもしれない。


しかし、最強の抗ってこその鬼。そのための『無敵』。ならば羅刹は暁と真っ向勝負を仕掛ける他なかった。


その姿勢を暁は感じ取り、距離は離れているが、その敵に敬意を評して目を閉じる。


羅刹と暁が放つ殺気が正面からぶつかる。決して巨大な破壊衝動ではなく、確固たる強い意志。


互いに目では見えない距離にいながら、互いの位置はひしひしと伝わりあっていた。


「「…………ッ!!」」


羅刹は地面を蹴り、暁は目をカッと開いた。その時点で羅刹は暁の眼前まで迫っていた。


鋭い鉤爪を振り上げ、暁の細い首を刎ねとばそうと暁を睨みつける。羅刹は、『刃界』の中で、暁の首を確実に捉えたように見えた。


もし、暁が羅刹よりも速く動いたのなら、『刃界』にいる限りは羅刹に見えないことはありえない。その時は『無敵』で対処できるだろうと判断していた。


だから、羅刹の右腕から気付かぬうちに深い切り傷が出来ていたのは、羅刹にとって驚愕の事実であった。


「ッ!?」

「拙者は貴殿には見えぬでござるよ。」


腕を眺めて驚愕している羅刹の後ろで、羅刹の血がついた鬼丸国綱を持つ暁がそう言った。


羅刹は振り返る。羅刹が驚く理由は、暁の動きが見えなかったことだけではなかった。『無敵』状態の羅刹の肉体を斬ったことだ。


『無敵』の肉体を切り裂くには、それ以上の力のある能力である能力でなければならない。


「驚いてござるか?」

「…………。」

「隠すのもなんだか釈然とせんでござるので言うでござる。」


暁は手を天にかざした。


「今のは、斬嵜家2代目当主の『時停剣』と、斬嵜家4代目当主の『絶斬剣』の合わせ技でござる。」


意気揚々と暁はそう言って、手を振り下ろした。天から落ちてくるのは、『絶斬剣』の能力を付与された他の4本の剣だった。


~~~~~~~~~~~~~~~


暁の脳裏に思い浮かぶ。今までの斬嵜家の当主達の台詞。それは暁も何度も書物で読み漁ってきた、斬嵜家当主の『真剣』の名前だった。


灰色髪の男が言う。


「13代目当主、斬嵜灰、『封印剣』。」


有していたのは、万物を自身を犠牲に封印する『真剣』。


紫髪色の男が言う。


「12代目当主、斬嵜紫暮、『透身剣』。」


有していたのは、どんな攻撃も絶対に当たることのないという『真剣』。


茶髪の男が言う。


「11代目当主、斬嵜茶釜、『未来剣』。」


有していたのは、誰のでも、どれほど先の未来でも知ることが出来る『真剣』。


桃色髪の女が言う。


「10代目当主、斬嵜桃姫、『夢幻剣』。」


有していたのは、どんな者にも、自分の思い通りの幻を見せる『真剣』。


青色髪の男が言う。


「9代目当主、斬嵜青華、『分身剣』。」


有していたのは、自分を含む全ての物体を、好きなだけ分身させる『真剣』。


緑色髪の男が言う。


「8代目当主、斬嵜緑光、『飛翔剣』。」


有していたのは、空を光よりも速く移動出来る『真剣』。


金髪の女が言う。


「7代目当主、斬嵜金美、『変力剣』。」


有していたのは、どんな動きの力も速さも自由に変えることの出来る『真剣』。


橙色髪の男が言う。


「6代目当主、斬嵜橙輝、『怪力剣』。」


有していたのは、大山をも拳撃1発で消し飛ばすことの出来る怪力を手にする『真剣』。


藍色髪の男が言う。


「5代目当主、斬嵜藍、『全知剣』。」


有していたのは、この世界の人間が辿り着いた心理全てを知る『真剣』。


銀色髪の男が言う。


「4代目当主、斬嵜銀、『絶斬剣』。」


有していたのは、万物を必ず斬る『真剣』。


黄色髪の女が言う。


「3代目当主、斬嵜黄乃、『弱明剣』。」


有していたのは、万物の弱点となる部位を自身の攻撃場所に移動させたり広げたり出来る『真剣』。


白髪の男が言う。


「2代目当主、斬嵜白音、『時停剣』。」


有していたのは、いつどこでもどんな時でも、際限なく時間を止めることが出来る『真剣』。


最後に、暁とほぼ身長の変わらない小柄な赤髪の少年が、暁の目の前に立った。しばらく少年は暁の顔をじっと見つめたあと、二っと元気に笑って言った。


「1代目当主、斬嵜赫羅、『五神剣』。」


有していたのは、天下五剣を操る『真剣』。天下五剣はそれぞれ1本ずつ『覚醒』させることができ、1本『覚醒』させるごとに、当事者の能力は5倍に跳ね上がる。


書物に残っていた記録では、1代目が5本全てを『覚醒』させたのは、生涯で3回が限界だったそうだ。


計算が苦手な暁でも納得がいく。


天下五剣を全て『覚醒』させた時、当事者の能力値は、なんと最初の3125倍になるらしかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


「本物はこんなものではないでござるぞ!!」


暁はまだ天下五剣全てを『覚醒』した訳では無い。手に持つ鬼丸国綱だけを『覚醒』した状態だ。


これだけでも十分実力は高く、現に他の『真剣』を使いこなすことが出来ている。


しかし暁の体にも限界はある。今では『真剣』の同時発動は3つが限界。しかもそれぞれの『真剣』を当主達のように完全に使いこなすのも未だ無理だ。


歴代の『真剣』の保有者達の『真剣』は暁という少女の体に収まりきっていない。


故にわかるのだ。どこまでが大丈夫で、どこからが危険なのか。


確実に、『五神剣』を最後まで発動させれば、死は免れない。


今はできるだけ限界スレスレの範囲まで力を引き出して羅刹を倒す他ない。


が、そう上手くは行かないようだ。


「ッ…………。」


鬼丸国綱を除いた、天下五剣が、羅刹の腕に弾かれた。今度は『無敵』を貫通せず、傷をおわせることが出来なかった。


羅刹はゆっくりと暁に視線を向ける。放たれる圧は確実に増していた。


今までも強かったが、本気ではなかったということだろう。


『絶斬剣』を打ち破った訳では無いようだが、『無敵』が本当の『無敵』になろうとしていることは確かだ。


その前に仕留めるか、それ以上の能力でねじ伏せるか。暁は天下五剣を浮かばせる。


「赫羅殿の『真剣』にかかってくるでござるな。」


口元をゆがめて笑う今の暁は狂戦士。対する羅刹は盾従者。


「…………!!」

「ぐ、おぉ………!?」


真っ向から退治したとき、暁の体は一瞬重くなり、暁は体勢を崩して倒れてしまった。


膝を持って立ち上がろうとすると、暁は気がついた。増した羅刹の殺気に、無意識に体が脅えていることに。


「はは……まだまだ、拙者は貴殿のいる場所には到達していないようでござるな………」


鬼丸国綱を構える。天下五剣が暁の上で回転して輝き出す。


「貴殿は小さな拙者に本気の殺気をぶつけてくれ申した。ならば拙者も死ぬ気でかからねばならぬでござる!!」


体に内側から圧がかかる。骨がきしみ、傷口から血が吹き出し、目が充血した。全身くまなく痛みが充満したが、暁はそれを辞めなかった。


「ぉおおおおおお!!」


魔力の量は増えて増えて増えていく。まるでヴィオラの『無限魔力』のように。


そして始まる。この世界で最も強いもの達の戦いが。


「…………。」


羅刹は驚きも焦りもしない。ただ静かに、足元の少女に視線を向けていた。圧倒的な殺意をもって。


その殺気を跳ね返すように鋭く羅刹を見上げる暁。魔力の量は計り知れず、腕力も、脚力も、生命力もどうなっているのか分からない。


ただ、これだけはわかる。暁はたった今、誰よりも強い存在になっていた。先程まで考えていた、自分の死という代償すら忘れて。


「『五神剣』。最終『覚醒』。拙者は今、神になった!!」

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