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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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力の在処

「理不尽、て………」

「ちょうど鬱憤が溜まってたんだ。ここで発散する。」


『心剣』を握りしめ、高谷は仁王立ちしてアテンを待つ。何度でも立ち向かってくる挑戦者を待つボスのように。


しかし、待つ必要は無いようだった。


「その理不尽な力は、この力を封じ込めるか!!」


高谷の背後に瞬間移動したアテンが『陽剣』をうなじ目掛けて振り下ろす。が、高谷は避ける素振りも見せずにニヤリと笑って呟いた。


「当然。」

「ぐっ!?」


瞬間、アテンが何かに押しつぶされるかのように地面に叩き落とされた。大きく美しい翼がひしゃげ、白い羽根に赤い血が滲む。


「これが見えてないなら、そうだな……簡単には負けはしないな。」


今ものしかかる重圧に呻くアテンを踏みにじり、高谷はそんなことを言う。顔面は左目しか見えていないので、笑っているのかどうかは分からない。


「ハッハッハッハ!!!!」


一方で、アテンは誰にでも分かるように大声で高笑いした。


「この程度の力の俺を押さえ込んで、勝った気でいるのか。面白い。」

「おっと。皆離れて。」


アテンが不敵に笑った瞬間、彼を中心に爆炎が立ちこめる。ベリランダの『転移』でなんとか被爆を免れたサリエル達だったが、高谷はその渦中にいた。


しかし、遠目で見てもわかるが、高谷はその炎に一切興味が無いようだった。赤くも青くもない、ほとんど半透明の白い炎の渦の中で、地面に埋もれて動かないアテンを見下ろしていた。


「この程度では効かないか。」

「暖房はもっと暖かくするんだけどな?」

「ふん。舐められたものだな!!」


アテンが力ずくで起き上がり、高谷に拳をぶち込む。それを右腕1本で受け止め、振り上げられた『陽剣』を『心剣』で受け止めた。


衝動が地面を揺らし、熱を放出し、大気をふるわす。


そんな激動のど真ん中の2人は、サリエル達には到底分からない速度で剣をぶつけ合わせている。


近づくことも出来ず、声も届かないということに、サリエルはもどかしさを感じる。


「どうにか………!!手助けしたいのに!!」

「流石にこれじゃ、私の弾も届きませんね!!」


遠距離タイプの2人は援護役なのに、援護すら届かないんじゃ意味が無い。ライトやエレジアも近ずけず、ベリランダの魔術もあの白炎の前には打ち砕かれてしまう。


「本当に、これじゃ私達お荷物ですよ!!」

「うーん………」


悩みながらサリエルは空を見上げる。白炎が上がる先には、新月になりかけ薄くなった月が見えた。


かつてサリエルが封印されていた月。無理矢理弱い力で引っ張り出されたため、あまりちゃんとした召喚はされなかった。


そこでサリエルはハッとする。なぜ今まで気づかなかったと頭を叩く。


そこには、サリエルの全盛期に戻れるだけの力がまだ残っている。


「ベリランダさん!!私とエレストに飛んで!!」

「え、なんで?どうしたの急に?」

「高谷君だけしか戦えないって訳じゃなくなる!!」

「………よくわかんないけど分かったわ。『侵略者インベーダー』二番!!ここの指揮は任せるね。」

「はい。」

「ありがとう。」


サリエルはベリランダと手を繋ぎ、展開される魔法陣の真ん中に立つ。


「少しの間だけ、離れるね。」

「ちゃんと帰ってきてくださいね!!」

「うん!!」


絶大な信頼を置いているのか、ヒナはサリエルが逃げる可能性すら頭にないほど清々しくサリエルを見送る。サリエルも強く頷いて、ベリランダと共にエレストへと転移した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


暗い道を少しずつ進んでいく。テクテクとではなく、ピョンピョン、と。


折れた耳を揺らしながら、小さな白い兎、キューは鉄格子ばかりの暗い道を進んでいた。


目的は、ここに閉じこもっている人物に会うこと。その人物の近くにさえ居られれば、それでいい。目的はそれで叶う。


ここに収監されている人は居らず、自ら閉じこもった彼女しかいない。だから人を選別しなくともすぐにわかった。


「………キュイキュイ。」

「………ん…………?」


ある暗い牢の中、小さく鳴いたキューの声を聞いて、奥の方からやせ細ったヒバリが四つん這いで近づいてきた。


「………兎、キュー殿か。」

「キュイ!!」


まだ自我がしっかりとあるようで、キューは牢の鉄格子の隙間を難なく通り抜けてヒバリの膝の上に座る。


「どうしたんだ?こんな所に来て。」

「キュイキュイ。」

「………ふふ……何を言っているかさっぱりだ。」


声では笑っていても顔が笑っていないヒバリ。キューはみすぼらしくなった『剣聖』を慰めるでもなく、ヒバリの膝の上に座って動かなかった。


ヒバリはキューを見ているうちに快斗を思い出していく。フードでよく寝ていて、何かあっても中々起きない兎の魔物キュー。人の言葉を理解し、話すことは出来なくとも、何かしら分かるようなコミュニケーションをとってくる不思議な魔物。


サリエル曰く月の魔物だと言うが、本当のところはどうなのだろうか。


「………ふ…………」


キューを膝の上に乗せていると、ヒバリはいつものことを思い出す。ヒバリの膝の上にやたら乗ってくるキュー。そのキューをどかそうと快斗がヒバリの膝の上でキューと小さな戦争をしている微笑ましい光景を。


もう見れないであろうその光景を。


もう涙は枯れた。だから出てくるのは涙ではなくため息だった。キューをどかす気力すら湧かず、そのままぐだりと力を抜いた。


「はぁぁ…………」


思いため息は牢屋中に響き渡った。ヒバリは牢屋から唯一外が見える小さな窓を見上げる。その先には、新月になりかけて細くなった月が見えていた。


ほとんど真っ黒になった月を見て、ヒバリはこう思った。


あそこに兎はいるのだろうか、と。


その瞬間に、異変が起こった。


「キューちゃん!!」

「ッ!!」

「キュイ!!」


牢屋の鉄格子がガタンと大きな音を鳴らした。驚いたヒバリがその方向をむくと、汗だくのサリエルが鉄格子に寄りかかって肩で息をしていた。


「本当に、探したんだから!!」

「キュイ!!」


キューは待ってましたと言うばかりにサリエルに飛びついた。サリエルはキューを肩に乗せたあと、牢屋の中で座り込んでいるヒバリを見る。


「ヒバリさん………」

「………サリエル殿。」


サリエルを呼ぶ声は酷く小さく消えかかっていた。弱々しいその姿を見て、サリエルは歯ぎしりをする。


『剣聖』だったヒバリはもっと生気に溢れていて、活気強く、落ち着いていた美しい人だったのに。今ではもう、こんなに廃れてしまって。


だから、少しサリエルは、直ぐに行きたいと言う気持ちに少しブレが生じた。


「キュイ。」

「?」


と、そんな時、キューがサリエルを見上げて小さく鳴いた。そして動きづらい前足を、ゆっくりとヒバリに向けた。


サリエルはキューを見つめてからヒバリに視線を向ける。そんな動きを2、3回繰り返して、サリエルはため息をついて牢屋の前に座った。


「ヒバリさん。」

「…………。」


改めてその名を呼び、ヒバリの意識を自身に向けさせる。俯いてばかりのヒバリの視線がサリエルの目に集中し、サリエルはそれを感じて微笑んだ。そしてそれに続けて、こう言った。


「あまり時間はないけれど、少し話しませんか?」

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