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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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理不尽なディストピア

「高谷君………それは………?」

「ちょっと無理した結果かな。大丈夫。気にしないで。」


鼓動を続ける赤い剣を見て、サリエルが恐る恐る高谷に尋ねる。高谷は振り向いてそう答えて微笑んだ。サリエルを安心させたくてそうしたのは誰にだって分かったのだが、それは逆にサリエルを不安にさせてしまう。


「はァァ………!!」


ミチミチと高谷の右腕が爆ぜ、真っ赤な甲羅が覆い肥大化する。『血獣化』によって身体能力が大幅に上昇し、顔は赤いマスクで覆われる。


「コレじゃ、ダメだ。」


高谷は右腕に意識を傾ける。肥大化した腕はどんどん縮んでいき、その分行き場を失った血液が関節から吹き出し、余った甲羅は腕から首を伝って顔の右半分を覆い隠した。腕の大きさは元の高谷の腕と差がなくなった。


「俺は勝つゾォ………1番大切な人の、為に、なァァァアア!!!!」


顔の右側には赤錆色の角が1本申し訳程度に生えのびた。右目は赤く光り、動くと線を引く。両足まで甲羅が行き渡り、それはもはや赤錆色の甲冑を纏っているかのような姿になった。


「行くぞぉ………。」


『心剣』を両手で握りしめ、赤いオーラを纏いながらアテンを睨みつける。その後ろ姿には確かな覇気があり、同時に寂しさが滲んでいるようにも見えた。


大切な人のため、もう居ないその人達のため、悲しみを押し殺して立ち望む。15歳には少々酷な話だ。だがそんなの、今の高谷には関係ない。


今の彼には、怨念『原野』が着いている。現に今、高谷にしか見えない原野が後ろから高谷を抱きしめている。


『行こ?高谷君。』

「ぶっ殺してやるからなァ!!!!」

「ふ………いい声だ!!」


胴が裂け、大口が開き、ギザギザの歯並びの口で高谷はそんな荒々しいことを叫ぶ。アテンはそれに乗っかりなんの躊躇もなく高谷に突っ込んでいく。


「『灼熱烈炎斬』」


アテンは自身の魔力で作り出した剣、『陽剣』を容赦なく振り下ろす。その速度はこの場にいた誰にも見えていなかった。光を超えるライトでさえ、その動きを全て捉えることが出来なかった。


精々アテンが地面を蹴って飛び出す瞬間だけだった。


だが、次の瞬間に全てを砕くような大声は、誰も彼も体の芯にまで響き渡るほど鮮明に聞こえた。




『「『ディストピア』ァァァァアアアアア!!!!」』




それは男女の声。男と女の声が重なって聞こえた。サリエルは一瞬だけ垣間見えたそんな異常に、何故だか心底悲しくなってしまった。


「ルァッ!!」

「ッ!?」


その瞬間、アテンが地面に高谷に顔面を掴まれた状態で叩きつけられていた。遅れて地面に衝撃が伝わり、町が全壊するほど地面が割れた。


「な、なんなんですか……この力は………!!」

「な、なんか、いつもの高谷さんじゃないですね………」

「そうだね………。」


後ろで見ている一行は、高谷を怯えたような顔で見ていた。豹変した高谷を、まるで怪物を見るような目で見ていた。しかし、サリエルだけは、高谷のその姿にちょっとだけ喜んでいた。


高谷が、とても楽しそうだったから。とても、歪んでいたから。


「…………サリエル。」

「ッ、う、うん。」


急に呼ばれたサリエルはビクンと肩を震わせて驚く。高谷は少しだけ首を傾けて言う。


「援護を頼む。」

「………うん!!」


『天の鎖』を召喚し、サリエリは高谷の指示を待つ。そんな彼女にヒナが驚いたような視線を向ける。


「サリエルさん!!いいんですか!!」

「いいって、何が?」

「だって、あんなの………なんかおかしいですよ!!急に心臓潰したかと思えばすごく怖い感じになってて………」

「それが、何?」

「え………」


サリエルは服を掴んで引っ張るヒナに優しく微笑んで言う。


「楽しそうなの。高谷君。あの二人が死んでから、ずっと嘘の笑いばっかりだったんだよ?なのに今あんなに楽しそうで……何もおかしくなんてない。あれが、高谷君なんだよ。」

「………サリエルさん。あなたは………」

「?」


ヒナはサリエルから手を離し、自前の武器、スナイパーを太陽神に向けて答える。


「相当、高谷さんに毒されてしまったようですね。」

「?」

「ァァァあ!!」


高谷がアテンを蹴り飛ばす。威力十分。地面が大きく抉れる程の力がアテンにぶつかり、アテンは山々を貫通しながら遠くへと吹き飛んでいく。


「ライト君。『鬼神化』を使っておきな。すぐに来ると思う。」

「は、はい。」

「ルージュさんも覚悟して。」

「分かりました。」

「メシルさんもね。」

「り、了解だ!!」

「エレジアさん。」

「分かってる。」

「ベリランダちゃんもしっかり分かってるわ!!」

「ユリメルさんは何時まで寝てるんだろ………」

「リーヌさんもですね………」


仲間達同士で士気を高め合う一行は、今この時、高谷を筆頭にアテン討伐を開始した。


「みんなに伝えておく。」


高谷はまた振り返らずに話す。返答は受け付けないという言葉の勢いに、誰も言葉を発しない。


「俺は普段は『不死』だが、今は違う。心臓が剣になってるため、心臓部には代わりに魂がある。それが壊された時は、俺は死ぬ。」


高谷は『心剣』を握りしめて魔力を高める。


「俺が死なないように守って。…………そっか、ありがとう。」

「?」


最後の言葉の後、誰もいない虚空へ返事を返した高谷に、ヒナが首を傾げた。瞬間、上空から凄まじい熱が降り注いだ。一行は真上を見上げる。


「なんですか………あれは!?」


夜空を昼間のように明るく照らす光。それは普段みなが浴びている太陽光にとても似ていた。そこにいるアテンは、太陽にかざされたように輝く『陽剣』を高谷達に向けて振り下ろそうとしていた。


「ショータイムだ人間ども。灰になれ。」


アテンはそう呟くと、そうそうに『陽剣』を振り下ろした。とてつもない熱が覆いかぶさり、皆、それだけで死を覚悟してしまうほどのものだった。


が、それだけだった。大した衝撃はなく、暑いと思っただけで実際火傷すらしていなかった。何故なのか。


「え………」


それは、盾に形質変化した『心剣』が全ての熱を弾いたからだ。


全員を覆い隠せるほどの大きさの盾を剣に戻し、高谷はアテンを睨みつける。


「これでは傷すらつかないか………」

「つかないんじゃない。つけられないんだよ。」

「ふん。生意気な。」


高谷が地面を蹴って飛び上がる。一瞬でアテンの鳩尾に蹴りを入れられるまでの距離まで近づいたが、流石に防がれた。


「死にたくなければ抵抗するな。」

「死にたくても死ねないんだよ!!」


残った足で脳天をかち割ろうと、高谷は人体の限界を無視して足を振り下ろす。が、当たる前にアテンが炎を放出して高谷は燃やし突飛ばす。


「ふん!!」


威力は先程の高谷とほぼ変わらない。町の跡を抉り、山を貫通して視界から消える。


「口ほどにもない。………さて、次は貴様らだ。」


アテンはため息をつくと、ライトの真横まで一瞬で移動する。避けきれないライトは、横凪に振るわれる『陽剣』を小手でガードしようとしたが、ガードの構えをとった時点で攻撃が貫通することが分かってしまった。


(は………)


焦るライトの思考は時を超える。走馬灯だ。死か生かを分ける瞬間である。


ライトを小手を見つめる。昔の宴で、快斗が色々なお金で作ってくれた特性武器。あれ以来ほとんど肌身離さず持って使っていた武器だ。


守るだけでなく攻撃にも使える最高の武器。そこでライトはある言葉を思い出す。快斗から教わった言葉だ。


「『攻撃は最大の防御』」


光の刃(ライト・セイバー)』を出現させ、金色に輝く魔力刃が2本出来上がる。それを軽く振るわれた『陽剣』に叩きつける。


「む。」

「ああぁぁあ!!」


軽そうに見えても実は重い攻撃。そこに斬撃という、あまりライトには馴染みがない攻撃手段を持って対抗する。バチバチと火花が飛びかい、ライトは地面に足がめり込むが必死に耐える。


「全員攻撃!!」


ベリランダの声で皆が一斉に最大出力の攻撃を繰り出す。が、それらは当たることなく、大半が熱でかき消されてしまい、唯一届いたサリエルの『天の鎖』は、アテンが振るった腕で簡単に弾かれてしまった。


「な………」

「なんて強さだ……。」


絶望しながらもなんとかダメージを与えようと奔走するベリランダ達。それらをウザがったアテンは皆を貶す。


「人間共が。羽虫よりもうるさいぞ。」


そう言ったアテンの腕力が高まり、ライトにかかる負担がどんどん増えていく。


「く……このままじゃ………」

「雷の子!!」


ベリランダが氷結魔術をアテンに放つが、溶けた瞬間から蒸発して水も役に立たない。なによりライトを巻き込む可能性があって大技は放てない。


うまく人質を取られてしまった。


「この程度か人間。ただのうるさい蝉のようだな。貴様らは。」


その言葉に皆が歯ぎしりする。その怒りをぶつけようと、なんとかライトを救出する方法を考えていたその時。


ライトがふと顔を上げると、アテンの顔の真横に高谷がいた。


「うるせぇのはお前だよ太陽神。」


首が吹き飛ぶほどの威力でアテンの頭に蹴りが入れられ、兜が砕け散る。高谷と同じように山を貫通して吹き飛んでいく。


「あ、ありがとうございます………」

「よく耐えたな。」

「………へへ。」


高谷はライトの頭をポンポンと叩く。それがなんだか嬉しくて、ライトは照れくさそうに笑う。


「みんな、今みたいに時間を稼いでくれ。ダメージは俺が入れる。」

「「「了解!!」」」


全員高谷の言葉に頷く。20秒程度の今の瞬間で、太陽神に真っ向から行けるのは高谷だけだと分かった。なら、全力で高谷をサポートする。これが正解だ。


「大丈夫だ。絶対に勝てる。」


皆の心配を払拭するように高谷が言う。そして「何故なら……」と付け加え、高谷は得意げに言い放った。


「『ディストピア』は理不尽なもの、なんだから。」

名:高谷?? 種族:悪魔 状態:血獣化+ディストピア+怨念『原野』

生命力:20000 魔力:23000 腕力:20200 脚力:21500 知力:650

極値:42675

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