全力を賭けて
今日の深夜2時に書き上げました。
テスト期間も相まって眠気がパネェ。
黒く大きな太い腕を受け止めた暁は、今の自分が出せる全力を羅刹にぶつける。
「せぇえい!!」
振り下ろされる刃が羅刹の肌を穿ち、斬ることは出来ずとも、衝撃で吹き飛ばすことは出来るわけで、暁は斬撃というより打撃を羅刹に叩き込んでいた。
なにやら羅刹に対しての対抗策を行い始めたヴィオラを、羅刹はいち早く始末したいところなのだが、暁の全力の攻撃によってなかなか進めない。
羅刹が振るう腕を紙一重で躱し、隙間をぬって正確に体勢を崩しにかかる暁に翻弄されている間に、ヴィオラは並べられた5つの剣と連動して魔力をねっている。
暁はヴィオラが何をしようとしているのかはっきりとは分からないが、漠然と何をしようとしているのかは理解していた。
『無敵』という能力を持つ羅刹。どんな攻撃も無効化するという手に負えない能力。暁がどれだけ本気で斬りつけようと血が流れないのがその証拠。
こんな者が相手になってしまったら、どんな大軍でも必ず負ける。
しかしそんな最強の『無敵』にも倒し方はきちんとある。ヴィオラはそれに気がついた。
『無敵』に対抗する唯一の方法、それは封印である。
攻撃ではなく、魂そのものを特定の物や位置に固定することで無力化し、封じこんでしまえば、いくら『無敵』でも大人しく負ける。
その弱点を知っているから、羅刹は必死にヴィオラを狙うのだが、それ以上に必死な暁に阻止される。
「『天命斬』」
金色の斬撃が羅刹の胸板を真横に一直線に切り裂く。斬れはしないが、その威力自体は凄まじいもので、羅刹の体は地面に埋まってしまった。
本当なら『暁』をぶっぱなしてやりたいところだが、それでは展開した陣形が意味をなさなくなるので暁はそれを放っていない。
『全能陣』は万能故に限界が近い。今の暁が『全能陣』を行使し続けられる時間は約3分。『暁』は『全能陣』で開放された魔力を一気に放出する技で、『全能陣』を行使し始めてからの時間が短い方が威力が高い。
ここまで20秒経っている。暁は長くは持たないと判断して大技を何度も叩きつけて、『全能陣』が解けても対処ができるように全力ぶっぱである。
「はぁあ!!」
それに加え、羅刹に因縁がある暁は、怒りを全て力に変換して羅刹にぶつけているため、普段よりも荒っぽく、それでいて正確な、威力の高い攻撃を連打している。
羅刹も暁の鬼気迫る勢いに気圧されるように後退する。だが陣形から出ては行けないので、暁は攻める方向を転換して羅刹を押す。
しかし羅刹もやられっぱなしでは無い。『無敵』でダメージを受けないだけでなく、羅刹自身の攻撃力も伊達では無いのだ。
「くっ!?」
急に突き出された巨大拳を半ばから折れた刀で受け止める。刀を握る手と柄が強く擦れて手のひらの皮が禿げる。
真っ赤になり、血が滲み始めた手。それでも攻撃を弛めては行けない。
羅刹は全力でヴィオラに向かおうとしている。暁は気力全開で羅刹を抑え込む。まだ1分も経っていないのに、何時間も戦ったかのような気分だった。
「『雷鳴轟死線』!!」
青い雷が羅刹の硬い肌を何度も閃となって切り裂く。チカチカと光る斬撃は、見た目以上に速く振るわれており、1秒で100は超える。
「ッ!!」
「なっ!?」
羅刹は暁の小さな右手を握りしめて動きを止めた。空いている方の拳を握りしめ、勢いをつけて暁の土手っ腹にぶち込んだ。左腕を構え、氷と岩でガードを強くしたのだが、それらもなかったかのように突破され、貫通する勢いで腹パンをくらった。
「が………ッ!!」
意識が飛びかけるが、舌を噛んで意識を覚醒させ、地面に手を着いて進もうとする羅刹の顎を打ち上げる。重たいが、それでも意地と怒りで羅刹を突き飛ばす。
「ふっ………!!」
下から見上げる暁を見て、羅刹はこの小さな少女への見方が変わる。こいつは人間を超えている、と。
「せぇぇえええ!!!!」
これ以上ないほどの勢いと咆哮を放ち、地面が悲鳴をあげるほどの力で踏み込んで羅刹の左肩から右脇腹に抜けるように刀を振り抜いた。
当然斬れない。が、その勢いと気力が羅刹を初めて怯ませた。
動きが鈍くなった羅刹の脳天に膝をたたきつけて地面に埋め、ありったけの魔力を刀に収縮する。
「もう少しで出来上がる………正念場だ!!少女剣士よ!!」
「はぁぁぁあああああ!!!!」
暁は地面に埋まった羅刹の顔面目掛けて『全能陣』の魔力を全て乗せた『暁』を放った。発動から50秒。そこそこ削れた魔力量。
しかし暁は気力だけで魔力を新たに練り上げ、作り出し、『暁』の威力を上げた。広範囲にぶっぱなすのではなく、1点に集中した、ドリルのような攻撃が、羅刹を杭のように地面におさえつけようとした。
しかし、そこまで羅刹は待ってはくれなかった。
「なっ!?!?」
「ッ………!!」
羅刹が暁でさえ反応できないほどの高速でヴィオラの前まで駆け抜けた。暁のディフェンスを越え、むき出しになったヴィオラは目を閉じて封印に集中していたが、それでもこの羅刹の雰囲気を感じ取って不安げに表情を歪めた。
羅刹が腕を振り下ろそうとする。このままではヴィオラの首が、羅刹の鉤爪で刎ね飛ばされてしまう。そんなことを暁が許すはずがない。
「らぁぁあせぇぇえつぅううう!!!!!!」
『全能陣』は解けてしまった。『暁』を纏った刀がその魔力を全てすいとってしまったからだ。
しかし暁は諦めない。速攻で『時空陣』を発動。時空に振れるようになった暁は時空に向かって頭突きをし、時空をぶち破って羅刹とヴィオラの間と繋げる。ヴィオラはその気配に気がつき、暁を信じて封印を続ける。
羅刹とヴィオラの間に移動した暁は羅刹の拳を受け止めようと刀を構える。と、羅刹は拳を振り下ろそうとはしなかった。
ここまでくれば暁がどうするのか予想後できるわけで、羅刹は暁が現れた瞬間に今まで溜め込んでいた魔力を一気に放出する。
紫色の禍々しい巨大魔力弾が羅刹の真上に出現し、それを羅刹が振り下ろす。
重々しい口を開いて、羅刹は初めてこう言った。
「『破滅弾』」
「はァァァあああああ!!!!」
暁は全力で『破滅弾』に『暁』をぶつける。暁の何十倍もある重さがのしかかる。バキバキと、足のどこかの骨が折れていく音が聞こえた。
それでも止まらない。暁が抱える羅刹への因縁。それを今果たすため、暁は血眼になってでも羅刹を倒す。
「せぇぇええええええええええええええぃ!!!!」
押して押し返され、それでも信念と気力で暁はボロボロになりながら羅刹を押し返す。そんな時、不意にヴィオラが口を開く。
「チェックメイト。ここで終わりだ。羅刹。抑え込むぞ!!」
ヴィオラが展開した封印の陣が動き出す。後は押さえつけるだけ。発動まで5秒。暁の限界はとっくに超えている。その上からデュランダルの輝きを上乗せする。
「超えろぉぉおおおおお!!!!」
「せぇぇぇえええええぃ!!!!」
世界最強が本気で重ね合わせた攻撃。それを一挙に受け、羅刹が劣勢へと回った。どんなに気張っても、ここから巻き返すことは出来ない。
そして、残りもう1秒もない。ヴィオラと暁は完全に勝利したと確信した。
しかし、羅刹はそんなに素直に負けてはくれなかった。
「あ…………?」
急に今までの大きな衝撃が消えた。羅刹がその場から退いたのだ。暁は羅刹がいる場所を見て絶望する。
そこは、ヴィオラが展開した封印の陣の外側だった。
パリンと音がして、封印に用いられた白い剣4本が粉々に砕け散った。
封印は不発。陣から抜け出した羅刹を封印することが出来なかった。
「そん、な………」
絶望で弱音を吐きかけた暁。ボロボロの瀕死の小さな体に、羅刹は容赦なく拳を叩きつける。
「ぐはっ」
血を吐き、暁が吹き飛んで瓦礫に突っ込んだ。衝撃で内臓がいくつも破裂し、大ダメージを受けた。『全能陣』のせいで魔力切れに陥り、ただでさえ体の様々な機能が低下しているというのに瀕死まで追い込まれ、吐血が止まらない。
「少女剣士!!」
ヴィオラが暁を見てそう叫ぶが、羅刹が襲ってきたせいで手当に迎えない。
「あ…………う…………」
暁はほとんど垢で染った視界の中で、羅刹を唯一動く左腕で指さした。
「ちち……うえ…………面目、ない………」
小さくそんなことを呟いた。その間に血は流れ続ける。ふと横を見ると、先程まで使っていた刀が柄まで刃が消えていた。完全消滅してしまったらしい。
そしてそれを病気と思えるほどの力で握り続ける左手。暁は急激に眠気に襲われ、暁の名前を呼ぶ声や戦うヴィオラ達の姿をぼんやりと眺めながら、暁は瞼を閉じてしまった。
「ちち………うえ………」
果たして、朝の2時は深夜と呼ぶのだろうか。