表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
235/369

これも始まり

太陽神アテンの進行方向の先にある小さな町、グラドルという町に到着した高谷達は、住民の避難の手伝いをしていた。


いつアテンが速度をあげるか分からないので、住民達は手際よく荷物を纏めてエレスト王国へと旅立ち始めていた。


「我らはこの者達の護衛をする。すまないが………」

「そちらは頼めますでしょうか?」

「はい。」


ゼルギアとセルティアは移動する住民達を護衛することを選択した。正直あまり意味はないが、聖神がアテンだけを召喚したとも限らないので、2人は住民達とここを去るという。


このようなことを言い出せばキリがないし、逃げているだけではないかと言われそうな事だが、これを提案したのは高谷なのだ。


先にも言っていたように、高谷はできるだけ人々に無駄死にして欲しくないのだ。この戦いはこの2人が対等に戦闘できるほど小規模なものでは無い。数は圧倒的に少なくとも、戦力的にはあの戦争よりも大きいかもしれない。


なかなか説得に乗ってくれなかったが、到着寸前でやっと納得してくれた。元々2人は、自分らでは戦力不足であることは分かっていた。逃げることは嫌だったらしいが、もしここで一気に負ければもう戦力が残っていないという状況になってしまう。


いわば戦力のスペア。余分に残しておいても損は無い。


「死んではならんぞ。」

「ご武運を。」

「…………はい。」


2人の言葉に胸を痛めつつ、今更変更は出来ないので高谷は潔く返事をして2人を送り出した。既にベリランダがこのことをエレストに報告しているので問題は無い。


「若いヤツらは生き残って欲しいな!!」

「あの2人って若いんですか?」

「お前より年下だぞ?」

「うえ!?」


見送る高谷の後ろでは、メシルとヒナが話している。馬鹿な話だと高谷は思うが、張り詰めすぎる緊張感をほぐすには、騒ぐのが一番いい。


「ベリランダさん。どうですか?」

「今のところ見えないわね。でも場所は魔力の動きで把握できるわ。この速さならあと2日はここには来ないでしょうね。」


町で1番高い町長の家の屋上にはベリランダとライトがスタンバイして望遠鏡を覗いている。


それはただの望遠鏡ではなく、ベリランダが1から魔力を込めてつくりあげた特別な望遠鏡だ。距離が伸びるのはもちろんのこと、どこに生物がいるのかが色つきでわかるという優れものだ。日本で言うサーモグラフィーのようなものだ。


「最大で2日後。早くて今から戦闘開始よ。みんな大変だろうけど、気を張って。」

「あいよ!!」

「はい!!」

「了解です。」


ベリランダの言葉に、皆が元気に返事する。


「なんて面倒な神なんだろうな?『不死』。」

「そう、ですね。」


高谷は物資の上に寝転がって寝ていたネガにそう声をかけられた。それを笑顔で短く返して、高谷は自分が寝る予定の宿の部屋を整えに向かうのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「2時間後に起こしに来ますので、それまではどうぞごゆっくり。」

「はい。よろしくお願いします。」


その日の夜、夜の見張り当番でルージュの後の高谷はそう言われた。皆が寝ている宿は町の端に近い場所に建てられており、これは天使が来てもすぐに反応できるようにするためである。


2時間で交代なのだが、これではあまりきちんと寝れない。皆には高谷の血の入った小瓶を5個ずつ持ってもらい、更にベリランダが調合したスタミナ剤を飲んでいる。


この2時間という時間は精神統一や身体の調子を整える時間であり、天使がくる2日間の間、ここにいる皆は徹夜をするつもりである。


「ふぅ………」


緊迫感がのしかかる時間だが、高谷は割と落ち着いていた。ルージュが出ていって5分後、夜風に吹かれたくなって外に出た。


暗い町の中を歩んでいく。火の灯った松明が当たりを照らし、細くて長い道を高谷は適当に進んでいく。


「こうしていると、前世を思い出すなぁ。」


暗い夜道は何度も歩いたことがあった。塾の帰りや夕飯の買い出し、遊びに行った帰りもこんな感じだったなと、高谷はそう懐かしんだ。


高谷が最も印象に残っている道は、夕日を見ながら快斗と一緒に話しながら自転車を押していた土手の道だ。あそこはほぼ毎日と言えるほど通っていたので鮮明に覚えていた。


しかし高谷がそれ以外に隣に人を置いて夜道を歩いたことは無かった。そんなことを考えていると、快斗のことを思い出して悲しくなってしまう。


しかし高谷はその考えをやめようとは思わなかった。


10分歩いたところで、町の中心地の噴水のある広場にたどり着いた。普段ならここは夜でも周りの店が賑わって騒がしいらしいのだが、今は誰も来ないため、松明も着いてはいない。


真っ暗な空間に、噴水の水が下の水面に打ち付けられる音だけが響いていた。


その縁に座り、高谷は星の光る夜空を見上げてため息をついた。見上げたまま、あるものを見つける。


「あ、オリオン座。………オリオン座?」


中心の3つ並ぶ星が印象的な有名星座。前世では高谷が何度も見てきたその星座を見て、高谷は首を傾げた。


確かにそれはオリオン座出会ったのだが、高谷の知っているものとは少し違っていた。


オリオン座の向きが反対だったのだ。


「………オリオン座が反対で見えってるってことは………俺が今いるここって………へぇ。」


面白くなってニヤついて顔を抑える高谷。分かったところで誰に言っても「へぇ。」で終わる話題だ。でも高谷は直ぐに誰かにこのことを話したくなった。


急に誰かに電話したくなるように、高谷は誰かにこのことを話したくてたまらなくなった。


だから高谷は、()()()()()()()()()()()()()


「ここって、オリオン座を挟んで地球の反対側みたいだよ。」

『え!?そうなの!?』


返ってきた声に驚くことなく、高谷は自分の隣を叩いて座るように促した。それは高谷に促されるがまま隣に座り、高谷の手を握った。


『私がいなくなってから何かあった?』

「大変だなって思うけど………特にはないよ。」

『そっか。良かった。』

「君もいつまでも俺に固執しない方がいいと思うけど………」

『高谷君の願い事が叶うまでは、一緒にいるよ。』

「………嬉しいな。」


高谷は照れ笑いをして隣の彼女に言う。彼女、原野も高谷に笑い返して頭を撫でる。


『頑張ってるんだね。偉い偉い。』

「俺は子供じゃないんだよ?」

『む。子供だから頭を撫でてる訳じゃないもん。』

「はは。そっか………」


他愛のない会話で笑顔になっていた高谷だったが、そろそろ本題に入りたくて無理矢理笑顔を辞めた。


「それで?何かしたくてきたんでしょ?」

『何時でもいるよ。』

「まぁ、それはそうみたいだけど。」

『まぁ時間も短いし、すぐに終わらせよっか。』


原野は高谷の心臓部に透けた腕を突き刺した。肌と骨に触れることなく、原野の手は高谷の心臓を優しく撫でる。


「ん。」


感じたことの無い感覚で、高谷はおかしな声が出た。それを恥ずかしがって原野から顔を逸らす。原野は微笑み、事を続ける。


『あなたの中に蔓延ってるもの。解放してあげる。………好きに使ってね。』


原野は心臓を握りつぶす。内側から血が拡がっていく感覚を味わいながら、高谷は原野を見つめ続ける。


『私の力を全部あげる。あなたに尽くすのが、今の私のいる意味だから。』

「…………ありがとう。」

『頑張って………あなたのお姉さんの為にも。』

「………あぁ。」


心臓が再生するのと同時に、原野が高谷の心臓に吸い込まれていく。最後まで微笑む原野が原型を無くし吸い尽くされるまで、高谷は絶対に目を離さなかった。


入り終わった後は、少し体が軽い感じがした。もやもやとしていた部分が、涼しい風を受けて気持ちよくなった。


何も嫌なことが無くなった高谷は、暗闇に笑いかけた。


「これで………完成する。」


立ち上がり、宿へ歩き出す。少しの間の面会。神か閻魔が許してくれたのか、死んだ原野の霊に会うことが出来た。嬉しくてつい笑ってしまった。


高谷は心臓部を抑える。今は一緒に鼓動してくれている原野を感じながら、広場を出る。最後にこう呟いて。


「『ディストピア』。これから始まるのは、嫌な世界。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ