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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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始動

この前部活のために学校に歩いていったら「部活ないよ」って学校で言われて絶望した。


「しばいたろかこいつ」思たけど何とか耐えて歩いて帰ったら倒れた。


病院行ったら熱中症と脱水症状と貧血だった。部活より登下校が辛いんだが。

空の光が入ってこない空間の中で、超高速の刃とバチが、黒い大男の肌を穿つ。しかしその効果を感じることは出来ない。


「くっ!!」

「……………。」


全く刃が通らないのだ。暁の斬撃は世界最強とも言っていいほど強いのだが、その刃が大男、羅刹から血を吹き出させることは無い。


「『火炎陣・獄炎』!!」


赤黒い炎を纏った刀が、羅刹の首筋に鋭く叩き落とされた。空気すら切り裂く速度の斬撃が、太い血管の位置を正確に穿った。だと言うのに、金属がぶつかるような音の後に、暁が弾き飛ばされる。


「ッ!!!!」


そして、待っていたとばかりに突き出される、暁の胴体程の大きさのある大拳。その速度は零亡でさえも避けられるかも危ういもので、暁も本気で対処して頬を掠めてしまうほどだ。


空気を蹴って体勢を変え、すぐさま『暴風陣』で距離をとる。殺気で空間が震える。


暁にしては珍しく、戦いというものに恐怖していた。それと同時に怒りもあった。普段の余裕さはどこにもない。


「ふー、ふー、ふー…………」

「落ち着け!!暁!!」


暁のすぐ隣に現れた零亡が暁にそう語り掛ける。息を荒くしていた暁はその言葉でハッとすると、自身の頬をパンっと叩いて正気を取り戻す。


「………すまぬ。女帝殿。」

「お前が怒るのもわかるが、今は死ぬ気で戦わなければ死ぬだけじゃぞ!!しっかりとせんか!!」


背中をはたかれる暁。折れた刀を握りしめ、暁は羅刹を睨みつける。


「必ず、拙者が我が手で貴殿の首を斬るぞ!!羅刹!!」


カッと目を見開き、暁が地面を強く踏んで踏み出そうとした瞬間、ガラスが割れるような巨音が響いた。


「「ッ!?」」


零亡と暁が揃って音の下方向を見上げると、そこは、あの謎の空間と外の世界を分けていた障壁が破壊されていた。そこからゆっくりと降りてくる1人の人影。


その悠然たる姿と気配に、その人物が誰なのかはすぐにわかった。


「ヴィオラ殿!!」

「騒ぐでないぞ少女剣士。」


数本の剣を自身の周りで回転させ、ゆっくりと地面に降り立ったのは、『剣王』ヴィオラだった。


「して、なにやらてこずっているらしいが………」


ヴィオラは動かずこちらを見つめるだけの羅刹を見て、口元をニヤリと口元をゆがめて笑う。


「これは………余でも少々手に余るであろうな。手を貸せ。世界最強。」

「合点承知!!世界最強!!」


剣を20本ほど作りだし、ヴィオラが闘志をむき出す。暁は『氷結陣』を展開し、殺気にも似た戦意を向ける。


「女帝。お前は外側を纏めていろ。ここにお前の役目はない。」

「承知した。暁を頼むぞ。」

「余に指図するな。」


ぶっきらぼうにそう言いつつも、零亡はヴィオラの小さな優しさに感謝した。


羅刹の反撃に暁でさえギリギリ回避できた程度だったのだ。零亡は速度はあっても暁ほどのアクロバティックな動きは出来ない。体は限界だし、それにヴィオラの言葉には言外に足でまといという意味があった。


ヴィオラが階段上に浮かべた剣を足場に飛び跳ね、ヴィオラが突入してきた穴から零亡が外に飛び出す。


「…………。」


出る瞬間、暁に振り返る。羅刹から視線を離さない暁がどんな動きをするのかが不安で仕方がなかった。


「………信じよう。」


そう言い聞かせて、零亡は珍しく神頼みで奇跡を信じたのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


岩手囲まれた山岳地帯の一角に、気温が急激に上昇した場所があった。


真ん中に立つ、美しい真っ白な天使の翼を広げた男の足元は既に溶け、ボコボコと音を立てて溶岩がゆっくりと重力に従って流れてゆく。


遥か高くに生えた木からの落ち葉がその上を通り過ぎる瞬間、その落ち葉達は一瞬で燃えて消える。


その様子を、岩陰からこっそりと見ている人物がひとりいた。『不死』の騎士、高谷だ。


「あっ………つぅ………」


通常ではありえない気温の高さに、汗をダラダラとかきながら天使を見張る。


『つついてみます?』

『いやダメですよ!!』

『えーでも高谷さんは不死ですよ?』

『そっちの問題じゃなくて天使が起きるかもって話をしてるんですよ!!』

『あはは………』


脳内に響く会話に、高谷は頭を抑えた。『念話』ができる魔術師が、高谷とヒナとサリエルと自分を繋げているのだ。


『ナナミさんもっと考えて話してくださいよ。』

『うーん?考えてるんだけどなぁ。』


朗らかに喋る魔術師ナナミ。その会話を聞き流しながら高谷は立ち上がってからまた動かなくなった天使を岩陰からもう一度覗いてみる。


やはり天使は全く動いていない。俯いたまま、手足に力は入っていないらしい。被っている兜のせいで、その表情すらも伺えない。


『高谷さん、もっと近づけるなら近づいてくれませんかぁ?』

『大丈夫?高谷君。』

『うーん………まぁ、やってみる。』


見かねたナナミが高谷に命じ、高谷は仕方なく岩陰からゆっくりと出て天使に近づいていく。


歩んでいく程に上がる熱気に意識が飛びそうになるほどだったが、高谷なら大丈夫だ。


熱中症に似た症状はとっくのとうに発生しているが、そんなのは今は気にしていられない。


「はぁ………はぁ………ふぅう………!!」


『血獣化』で背中に翼を生やし、溶けた地面の上を通る。服の裾に火がつき始めたので、ちぎって捨てる。


そして遂に、天使の目の前にまで接近した。暑くてどうにかなってしまいそうなので、高谷は急いで命令を急かす。


『次は?』

『ここまで近づいて反応がないなら………そうですねぇ。つついてみましょう。』

『結局!?』

『まぁ、でもそうしてみないと何も分からないからね。』


反対派のヒナはあまり気が進んでいないようだが、高谷はその意見には納得している。このまま見ているだけでは進展はないだろう、そう高谷も理解しているのだ。


『どこを触る?』

『うーん………股間?』

『絶対ダメです!!』

『えーじゃあ無難に胸で。』

『わ、分かった。』


少々独特なナナミの意見に従い、高谷はそっと天使の胸を指でつついてみる。反応はない。もう一度つついてみる。反応はない。少し強めにつついてみる。反応はない。最後にどついてみる。そしてこれも反応がなかった。


『どうやら完全に止まっているようですねぇ。』

『どうする?』

『ひとまず放置で。対処は後々考えましょう。あれをどかすって言うのがしれんかもしれませんし。』

『分かった。』


高谷は天使から視線を外し、すぐに離れようとした。高谷は冬派なので、暑いのが苦手なのだ。だからなるべく早く離れようと勢いをつけたその瞬間、


「………あれ?」


高谷の下半身が消滅していた。上半身の断面から内臓がボロボロと雪崩落ち、高温の地面に落ちて蒸発した。


「ごりぁ………あ、ずいぃ………」


翼を何とかはためかせ、天使から距離をとる。何が落ちたのかと思ったが、高温の熱に下半身自体が蒸発したのかもしれない。


振り返ると、天使がゆっくりと顔を上げ、振り抜いた左手をそのままに、更に右手を広げて魔力を高め始めた。


『高谷君!!』

『無事ですかぁ?』

『なんとか生きてるけど………て、やっぱり不味かったんじゃないかな?』

『どれだけお寝坊さんでも、あれだけ触れられたら起きますからね。』

『ていうか、これ触って起こさない方が正解だったんじゃない?』

『そうですが?』

『じゃあなんで触れなんて命令を?』

『だって触んなくったっていずれ起きるじゃないですか。なら早い方がいいかなって。』

『全然そんなことないけど!!』


再生した下半身。その足で高谷は天使から距離をさらにとる。予め用意してあった着替えを着て構える。


「さぁて、どうしようかな………」

『取り敢えず高谷さん。これは国に報告しなければならないことなので、私は取り敢えず皆の元に戻ります。時間稼ぎはできますよね?』

『ある程度は………』

『大丈夫高谷君。私もいるから。』

『ひ、ヒナは、ナナミさんと一緒に行きますね!!』

『それじゃ。』


ナナミが念話を解き、脳内の声は綺麗さっぱり聞こえなくなった。


「さて、頑張ろう高谷君。」

「うん。」


空から降りてきたサリエルと天使に向き合い、戦意を滾らせる。天使は両手を広げたまま2人を見つめ、次の瞬間魔力を爆発的に高めた。


それを感じとった2人はすぐさま地面を蹴って飛び出した。何かの術を放つ前に、その顔面でも殴ってやろうかと、そんな意気込みで。


それが間違いだった。


『ダメッッ!!!!』

「ッ!?」


突然の頭痛ともに響いた誰かの声。その声は高谷にしか聞こえていないようだ。


それに気がついた瞬間、視界が急に明るくなっていくのを感じた。その光源は主に、今も凄まじい熱を放っている天使のほうだった。


『守ってッッ!!』

「ッ!!」


その声に言われるまでもなく、咄嗟にサリエルを抱きとめて自分を天使側にした高谷。


瞬間、高谷は世界が消滅したのではないかと思うほどの衝撃と痛みと苦しみを、一瞬だけ感じた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


動き出した天使、太陽神アテンの波動は、世界中に広がった。


エレストに天使が立ち上がったという報告から1日後、南の拠点全てが火の海になったという話が飛び込んできた。


その話を持ってきたのはわずか数名の残った兵士だった。万全な状態の、だ。

『熱中症』って、ゆっくりと言うとなんて言葉になるでしょう。


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