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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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皆の絶望☆#2

絶望は続く。


1つ目の絶望は快斗の死。この世界に来て有名になりすぎた『悪魔』の騎士の死は、彼を知るもの達に大きな衝撃を与えた。


それからもう1つの絶望は、原野花凜の死だった。


快斗ほど有名ではなかったものの、転生者の1人にして、実力もないというのに体を張るその勇姿に憧れている兵士も少なからず存在していたのだ。


この2人の死は、最後に残された転生者の高谷の心に大きな傷を残して歴史に刻まれた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……………。」


揺れる馬車の中で、高谷は黙りこくって、流れゆく景色をただ呆然と眺めていた。目の前には、顔に白い布を被せられ寝かされている原野の死体がある。


無惨にも、その華奢な体は真っ二つに分断されており、もはや体の機能を停止していたそれを、高谷は治すことが出来なかった。


「うぅ…………っ、う………」

「…………。」


同じ馬車の中には、原野の死を受け入れられずに未だ泣いているヒナがいる。その横ではサリエルが背中をさすってやってはいるが、なんと声をかけるべきか迷っているようで、馬車の中にはヒナの嗚咽のみが響いていた。


こんな時、快斗ならどうするかと高谷は考える。笑って励ますか、共に悲しむか。多分両方なのだろうと高谷は思う。


「はぁ………」


思いため息が高谷から零れる。朝日に照らされる世界は、こんな悲しい雰囲気に合わない輝かしさを放っている。美しいその景色を、高谷は居なくなった2人と眺めたかったと悔しく思う。


もはや2人を殺した相手を憎む気力もない。


目の縁、涙の流れた跡に触れて、高谷はエレスト王国に着くまで、ずっと外の景色を眺め続けていたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


エレストに着いた瞬間、ヒバリは地下牢へと自ら飛び込んで行った。


処刑される覚悟で、ヒバリは快斗が助けてくれた時に入っていた牢屋に自分をぶち込んだ。


エレストには快斗と原野の死は伝わっておらず、到着した瞬間に皆がそれを理解した。


言わずとも誰がどんな反応をするか分かるだろう。それを見たくない一心で、ヒバリは牢屋に入ったのだ。


「ごめん、なさい………」


自分の顔を膝に埋めて、ヒバリは泣き声でそんなことを呟いた。誰にも聞こえるはずのない、小さな泣き声は、静かな牢屋の中で随分と長い間反響した。


そして反響する声を聞く度、ヒバリは自身の犯した罪を思い出し、心痛め、思い出すのだ。快斗の死ぬ瞬間を。


「………お、ぇぇ………」


牢屋の便所に腹の中身を吐き出して、ストレスによる鬱を発症。ヒバリはこもってから1週間で、以前の『剣聖』としての威厳も威圧感も強さも無くなっていた。


1週間の間に、誰一人としてヒバリを尋ねては来なかった。しかし牢屋に着いている、空気を通すための小さな穴からは、外で騒ぎ立てる人々の声は聞こえていた。


ヒバリは、皆にどう言って許してもらえるかではなく、どう死ねば罪を償えるのかをずっと考えていた。


最終的に思いついたのは、快斗の死を悲しむ皆の手で殺してもらうこと。


それが唯一、快斗に届くであろう謝罪のように感じて、ヒバリは無意識に立ち上がって牢屋から出ようとした。しかし、1週間何も食べていなかったヒバリは身体的に限界を迎えていた。


水は飲んではいたものの、人間が何も食わずに生きていられるのは約1週間。ヒバリは餓死寸前までに追い詰められていた。

…………否、自分を追い詰めていたのだ。


「あ、うぅ………」


こんな滑稽な姿を見て快斗はどう思うのだろうかとヒバリは考える。笑うのだろうか。そうしてくれた方が、今のヒバリにとっては嬉しくもあったが、そうはしてくれないのだろう。


だって、最後にあんな言葉を言った快斗が、ボロボロのヒバリを見て喜ぶはずがない。


心配して、自分が出来ることを全て尽くしながら、ヒバリを助けられるであろう人に助けを求める。


快斗は自分が出来ないことは直ぐに他人に頼る癖があるが、それは割と周りにとっては嬉しいことでもあるのだ。頼られていると、そう感じられるから。


「……ふ…………」


それに比べ自分は、ヒバリはどうだったのだろうか。『剣聖』という呼び名と能力に、少なからず浮かれていたところもあったのではないか。自分ならできると驕っている部分もあったのではないかと、ヒバリは自分を攻めることしか出来ない。


「私は…………」


もうどうすれば良いのか分からない。死ぬしかないのか、いや、死にたい。そう考えている。地上に上がることさえしたくない。ここで出来るだけ無様に死ねればそれでよかった。


ヒバリは薄れゆく意識の中でそんなことを思った。その瞬間だった。世界に、最後の巨大すぎる試練が与えられたのは。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「フーリエ。私ね、あなた以外にもベリーって呼んでいいって言える人が出来たの。」


黄色い鼻で囲まれた、少し大きな墓の前で、ベリランダは紅茶を飲みながら墓に話しかける。


「あんまり好きじゃないんだけど、なんかこう、一緒にいて楽しくなるみたいな………よくわかんない。」


思い浮かぶのは白髪でオッドアイの少年。今は亡きその少年の話を、ベリランダはフーリエの墓に延々つらつらと話していた。


「フーリエ、彼はあなたと同じ世界に行けたかな………いや、無理ね。悪魔だもの。地獄行きで当然か。」


そんなことを言って、ベリランダは空になった水筒を片付けて、その他の荷物をまとめたバックに押し込んで立ち上がる。


「またねフーリエ。私を守ってくれてありがとう。」


ベリランダは深々と、自身の師匠の墓にお辞儀をして、その場を後にする。沢山の小さな花に囲まれた花畑から帰るのは少々名残惜しいが、ベリランダは仮にも世界最強の魔術師。街の修復などの作業もまだまだ残っている。


「いかなくちゃ、ね。」


そう自分に言い聞かせて、力強く歩み出した、その瞬間だった。




『聞け人間。』




「ッ!?」


直接脳内に響く大きな声に、ベリランダはすぐさま魔力を解放して警戒する。ベリランダの気配に、周りの小鳥達がいっせいに飛んで逃げ始めた。


『我は、聖神ラメリアン。』

「せ、聖神!?」

『この世界に開かれた遊戯は終了した。よいな人間。』

「な、なにこれ………」


頭に響く声に言葉を返すが、聖神と名乗るこの声は、ベリランダの呼び掛けに反応しない。


きっとこれはベリランダだけではなく、全人間に聞こえている声なのだろう。


『我は感動し、死んでいった勇気あるもの達を賞賛する。』

「…………はぁ?」

『そして生き残った者達よ。よく生き残った。』


それは心からの賞賛なのか、はたまた快斗と原野の死に打ちのめされている今のこの状況を煽っているのか。


『我は、生き残った人間達に希望を感じたのだ。さらに高みへと、のし上がってくるという希望を。』

「マジで意味わかんない………何が言いたいわけ?」


真意が読み取れない聖神の話し方にイラつきを覚えるベリランダ。同じようなことを思った人間達もいるだろう。だから、聖神が再び話すのを今か今かと待ち侘びる。




『故に、我は貴様ら人間に………試練を与える。』




「…………は?」


ベリランダはその言葉を聞いた瞬間に、頭が真っ白になった。その理由は聖神の言葉があまりに唐突すぎるというのもあるが、それよりも大きな要因がある。


魔術師のベリランダは人一倍魔力に詳しいため、魔力感知能力も高い。故に分かったのだ。


あの、1週間前の戦場で見たネガよりも強い存在が、南に現れたことに。


「ッ!!」


ベリランダは荷物を投げ捨てて飛ぶ。王国へ一直線に。きっとベリランダ以外の人々も、これは異常事態と分かっているだろう。神からの最悪なお告げ。ベリランダは歯噛みし、絞り出すように呟いた。


「もう、生きててよ、天野快斗!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


天野快斗が死んだ影響は意外と大きい。暁もその影響を受けた人間の1人だった。


「…………む。」


揺れる馬車の中、向かう先は『鬼人の国』。久々に見るその国の景色は、秋に差し掛かったことで紅葉が美しく彩っていた。


そんな綺麗な景色を見てもため息を着いてしまう暁。出会った中で最も期待を寄せていた人物に死なれたことで、暁は今は少し虚無感に襲われている。


暁は全属性を操れると言っても、回復技は使えない。精々痛みを和らげる程度。だから快斗のことを助けられなかったことを悔しく思っていた。


「今は一旦忘れるが良い。暁。」

「………女帝殿。」


同じ馬車の中で爪を弄っていた零亡が暁にそういった。既に戦場で大勢の人々に真の姿を見られた零亡は、隠すことなく大きな耳をちょこちょこと動かしている。


「妾らにはまだやることがある。我が国に残っている残党を倒さなければならぬ。それに、未だ囚われている流音も心配じゃ。」

「それはそうでござるなぁ。」


零亡の少し軽めな口調と話題に、暁は顔を上げた。今は絶望より民に安心をもたらすべきだと、そう自分に言い聞かせた。


馬車は進む。カラカラと音を立てて進んでいく。それが、国が見えるまで続くはずだった。だというのに、


「………お?」


馬車が急に止まった。


「なんじゃ。何故停めた。休憩は先程したばかりじゃろうて。」

「それが女帝様。なにやら厄介なことになってるようでして。」


馬車を運転していた武士がそんなことを呟いた。暁は馬車の窓から飛び降りると、先頭のほうでつっかえている馬車のところまで走った。


1番前のところでは、なにやら武士の3人が空間を叩いているようだった。


「貴殿ら一体何を?」

「む。四大剣将様。実はですねぇ。ここに魔力で出来た透明な壁がございやして。」

「壁………でござるか?」


暁は全く見えない壁が本当にあるのか、不思議そうに近づいていくと、確かに壁はあったようで、暁は歩く勢いで壁に顔をぶつけた。


「なるほど、これは厄介でござる。」

「なんでしょうかねぇこれ。」

「敵の残党が結界を張ったんでしょうか。」

「これほどまでに濃く強く編み込まれた魔力壁を、魔道兵如きが作れるとは、到底思えんのぉ。」


追いついた零亡も壁に触れてそんなことを言う。暁は壁に叩きながら思案する。


そういえば、戦場で少し違和感を覚えた時があった。なにやらゾワゾワとする、不安感を煽るような魔力の波紋を感じたことを、暁は思い出した。


「これは………一体………?」

「本当になんなんですかねぇ。これ。」


1人の武士が忌々しそうに壁に寄りかかる。すると、少し壁がぐにゃりと動いたのを、暁は見逃さなかった。そして気がついた。この壁の目的を。


「離れるでござる!!」

「え?」


暁の叫び声に武士が反応して壁から離れようとする。疑問の声を上げつつ言うことに従ったのはいい判断だった。


次の瞬間、壁が急にぐわっと開いて、寄りかかっていた武士の右手を捕食した。


「あ、ぐぁぁああぁぁぁ…………」

「なっ!?すぐに手当を!!」

「ここから離れるでござるよ!!」


ベテランの武士達はすぐさま止血と治療を始める。暁は壁を睨みつけ、どうするかを思案する。


「これは、生き物、なのか?」

「魔力で象られた偽生物でござるよ。その習性は、待ち伏せする鮟鱇によく似ているでござる。きっとこの壁には、今のような口がいくつか着いていて、この壁の表面上を移動できるのかもしれないでござる。」

「どうする?暁。」

「正面突破と行きたいでござるが………これは、時空魔術で飛び越えた方がいいかもしれぬ。」

「そうか。聞けぇ!!皆の衆!!貴殿らの中で時空魔術が使える者は、すぐさま集え!!」


零亡がそう叫ぶと、6人ほどの武士がその場に集まった。


「拙者も時空魔術は使えるでござる。そこの6人は、女帝殿を中に飛ばすでござるよ。」

「ですが四大剣将様。我らは行かなくても良いのでしょうか。」

「これほどの壁をこの範囲で作り出せる輩じゃ。お前らは言って無意味に死ぬより、ここで何が来ても無事なように体勢を立て直せ。」

「了解です。」


零亡の指示に頭を下げる武士。零亡は頷いて、暁を促す。


暁は頷くと、魔力を解放する。


「『時空陣・飛び越え』」


暁がその場でぴょんと跳ねる。6人の武士もそれに合わせて魔術を発動する。


「「「『ひとっ飛び』」」」


零亡と暁が同時に飛ぶ。壁を越え、零亡と暁は同じ場所に着地する。


「想像していた場所が同じで何より。」

「あぁ。そうじゃな。」


時空系統の魔術で、場所を移動したい時に重要なのはイメージ。かなり鮮明に、強く行きたいと望まなければ別の場所に飛んでしまうこともしばしばある。ベリランダの場合は、使いすぎて考える前にその場に飛んでいるが。


「さて、………随分と荒廃しておられるな。」

「魔道兵が死んでおる。何が起こっているのじゃ。」


2人は崩れた街の中で、そこら中にころがっている魔道兵の死体を眺めながら進んでいく。


向かうは60重塔。雲に届きそうなほど高いその建造物が、何故か今は見えない。おそらくは、


「十中八九、何者かに崩されてしもうたか。」

「ならば、あそこに向かってみるでござるか。」


2人は家の屋根を飛び越え、沢山の瓦礫を踏み台にして、60重塔が崩れたであろう場所に辿り着く。そして、2人は絶句する。


「なんじゃ………これは………」


そこには、人間と魔道兵の死体の生が5つほど出来上がっていた。どれも体の一部が何かに貫かれたり潰されたりしていた。大抵は撲殺のようで、見るも無惨な姿になっている死体もあった。


零亡はその死体の山に近づき、その特徴を調べようとした。その時、なんだか生暖かい風が、暁の頬を撫でた。何かと周りを見渡しても何もない。


右、左、前、後ろ。どこにも何もいない。そりゃそうだ。

何故なら敵は上にいるから。


「ッ!!!!女帝殿!!!!」


暁は『雷鳴陣』を発動。雷と化した暁は零亡の体を抱き締めてその場から脱する。その瞬間、上から落ちてきた大きな黒い塊が、地面を抉った。


「かは………な、なんじゃ……。」

「急いで構えるでござるよ女帝殿!!………此奴は本気でマズイでござるよ。」


暁が今までに見たことないほど真剣な面立ちで言った。零亡は上体を起こして、何がいるのかと視線を向けた。そして目を見開いた。黒く大きな体。恐ろしい顔に長い爪と足。服装は局部を隠しただけの簡単な衣装で、額には黒く大きな角が1本生えていた。


「グルルルァァァああああああああぁぁぁ!!!!!!」

「く…………」


暁が歯を食いしばる。それは相手が放った咆哮に耐えるのもあるが、もっと別の理由もあった。


それは何故か。


「ついに出てきたのでござるな…………父上の仇!!」


暁が怒りに燃えてそう叫ぶ。それを受けた相手、羅刹は黙って立っているだけだった。


「女帝殿。何かあれば拙者を置いて逃げるでござる。拙者より、女帝殿の方が足は速いでござる。」

「じ、じゃが………」


暁はそれだけ言うと、地面を蹴って羅刹へと飛び込んでいく。


「往くぞ!!羅刹!!」


暁が全力で刀を振り下ろす。その威力はひとつの山を真っ二つにするほど強力だ。その斬撃は、羅刹が滑り込ませた右腕へと吸い込むように振り下ろされ、


次の瞬間、折れた刀が宙を舞った。

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