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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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破壊光線

「ッ!!」

「鬱陶しい。」


轟速のヴァイスの回し蹴りを、ネガはなんの動作もなく腕で受け止めた。衝撃が体をつきぬけ、しかしその程度ではネガにダメージを追わせるどころか、痛がらせることさえできない。


とはいえやはりヴァイスの回し蹴りの威力は相当なもので、ネガの立っている地面が大きくひび割れて崩壊した。


土煙が舞い、ネガがそれに嫌そうな顔をして咳き込んだ。


「我は煙は苦手だ。」


ヴァイスは今やライトの全力と同等以上の速度で行動出来る。なのである程度の早い攻撃なら見えるのだが、ネガの真下からの一直線の攻撃は全く見ることが出来なかった。


顎が強く打ち上げられ、体勢が崩れる。そこにネガの拳が3発ねじ込まれた。やはり不自然とも言えるほどに、ネガの1発1発の攻撃はヴァイスには見えなかった。


「な、ぜぇぇぇ…………!!」

「知りたいか?」


ネガはヴァイスを蹴って吹き飛ばし、瓦礫にまみれて動かないヴァイスにそう問いかける。


「貴様もそれだけ長生きしているのなら、それこそ貴様のような出自の者なら、『神力』を知っていてもおかしくはないが………どうだ?」


その言葉にヴァイスは体をピクつかせて顔を上げる。ネガは「はぁ。」とため息をついて、


「予想はできるだろう。我は破壊神ネガである。我の『神力』は『破壊』。我に対抗するには、これを超える力を持っていなければ勝つことは出来ないぞ。」


ネガは得意げにそう言って豊満な胸を張る。ヴァイスはしばらく黙っていたが、いきなり地面を蹴り飛ばしてネガに踵を落としてくる。


「勝てないと、聞こえなかったか?まぁちょうどいい。見せてやろう。」


ネガはヴァイスの踵が自身の脳天に落ちるよりも速く手を振りあげ、落ちてくるヴァイスの足を軽くタッチした。タッチと言うよりかは、叩いたというのが正解だろうか。


そして、叩かれた部位は嘘のように簡単に破壊された。骨がひしゃげ、肉が爆発し、皮が剥がれ落ちる。


「ッ!?」

「貴様は私に触れるだけで負けるぞ。もちろん、その逆でもな。」


ヴァイスは一旦ネガと距離をとる。ネガは逃げるヴァイスを鼻で笑い、戦闘中のヴァイスよりも自身の後ろの方で一悶着している快斗を気にしている。


「『魔神因子』の暴走………どうなることやら。どっちにしろ、いい結果ではないだろうな。」


片足が壊れても知らないとばかりにヴァイスが駆け出し、圧倒的剛力で地面を砕いてその隙間に潜む。その小賢しさにネガは更に溜息をつきつつ、真後ろに回り込んできたヴァイスの顔面を殴り飛ばした。


「面倒だ。早く終わらせるに越したことはない。」


ネガの表情と姿勢が変わる。それをヴァイスも感じ取ったのか、またもやネガから遠く離れる。ネガから放たれる大きな圧と殺意に、本能が危険だと判断したのだろう。


ネガはヴァイスを消し去ろうと本気でけしかける。今度はネガ自身が、ヴァイスに向かってゆっくりと歩んで行った。


外してしまっていた腕輪は上に投げあげ、その間にネガは薄ピンク色の長髪を1つ結びにする。


「簡単に終わらすために、貴様も斬り殺す。今から10秒間。残りの人生を楽しめば良い。」


腕輪が巨大化し、その外周にピンク色の魔力刃が4つ形成され、その2つをキャッチする。ネガの体の半分以上もの大きさのある手裏剣のような武器が出来上がった。その名は、『双輪輪廻』。


「貴様を殺すのに5秒も必要ない。」

「ッ!!」


ヴァイスが地面を蹴りあげる。ジグザグに駆け出してネガの顔面に拳を叩き込もうとする。全く学ぶことの無いヴァイスを憐れに思い、ネガは双輪輪廻を左右に投げ飛ばす。超回転するその刃は、ヴァイスの超高速の拳よりも何倍もの速度で世界を駆け抜け、ブーメランのように起動を大きくねじ曲げてヴァイスの左右に迫る。


『刃界』に突入した2人。ヴァイスは左右の双輪輪廻に気が付き、飛び上がって回避しようとする。0.5秒。


「遅い。」


ネガが左脚を軽く振るってヴァイスの両足を破壊する。血が吹き出し、ヴァイスはその場から移動ができない。1秒。


それでも死ねないと、今度はヴァイスは空気を殴って地面に伏せようとする。1.5秒。


それをネガが許すはずもなく、振り上げた右拳がヴァイスを打ち上げる。2秒。


ヴァイスは眼光を鋭くし、魔力を両手に込める。最終手段。魔力壁を作り出し、双輪輪廻を受け止めようとした。2.5秒。


それが、ヴァイスの限界だった。


「っ、がぁ…………!?」


ヴァイスが作り出した分厚い魔力壁。しかし不思議なことに、双輪輪廻はそれが出来上がった瞬間に速度と回転力を上げ、いとも簡単にその壁を突破した。


突破した先にあるのは、当然ヴァイスの体。左右から微妙に高さがズレた2つの刃から挟み撃ちされる。結果は言うまでもない。どす黒い臓腑と排泄物をぶちまけて、ヴァイスの上半身と下半身は分断された。


「我の双輪輪廻は標的が大きな魔力を持てば持つほど威力が上がる。残念だが、貴様の命もここまでだな。」


あまりに簡単に生が途切れたヴァイスは、自分の敗北を受け入れられない。その頭を踏みつけて、ネガは語る。


「だが喜べ。今まで我が戦った中で、最も長い時間耐えられた人間は貴様だけだ。もちろん、あれだけ暴れたのもな。」


ネガは双輪輪廻の片方、右輪を掲げた。


「賞賛しよう。貴殿はよく戦った。我を手こずらせ、我をムカつかせ、我に迷惑をかけたことを……ここに罰する。………ん?」


冒頭で放った言葉と、最後のセリフが全くの逆方向になってしまったネガは首を傾げたが、気にしないとばかりにヴァイスに向き直る。


「ともあれこれで終わりだ。」

「っ……がぁ………ぁ!!」

「死ね。」


右輪がヴァイスの頭にぶち刺さる。血が湧き出し、脳みそが穴から引きずり落とされる。


「うぅ、がぁぁぁあああああああああ!!!!」

「うるさい。」


耳を抑えたネガ。その腕を誰かに掴まれ、ネガは振り返る。そこには真っ白な気が1本生えており、そこからまた1本の真っ白な腕が生えていた。


その腕が、ネガの腕を弱々しく握っている。まるでヴァイスから気をそらせようかとしているかのように。


「はぁ………これが、『ヒト』と言うものの原点、か。」


沢山の怨念で練り込まれた、高密度の樹木。近づくと気分が重くなり、嫌な声が聞こえて気色悪いが、ネガはその樹木に躊躇なく触れると、『神力』を発動する。


樹木の半分が消え去り、大ダメージを受けた樹木は息絶えたかと思われた。が、


「ん?」


樹木は少ししなったあと、地面に伸ばした根でヴァイスを持ち上げ、ネガから遠ざける。ネガは『ヒト』がヴァイスを手助けしているのかと思った。


しかし違うらしい。どうやらこの『ヒト』の原点は、生物に寄生して生きるらしい。


「全く、気色の悪いことったらありゃしないな。」


ヴァイスの体を媒体に、最後の力を振り絞って人型へと姿を変えた『ヒト』。その能力は、この世界の『ヒト』全てを集めても届かないほどだ。『ヒト』は、ヴァイスに残っていたありったけの魔力を集めて、ネガを狙う。


「がぁぁぁあああああああああ!!!!」

「どんな姿になっても叫び声はうるさいままか!!」


流石にイライラしてきたネガは、真正面から『ヒト』を受け止める。『ヒト』の放った極太の紫色の光線が、ネガを中心に地上に降ちてくる。


ネガが周りを見渡すと、大抵の兵士達は怯えた表情で岩陰に隠れていた。ネガからしてみればよく見る魔力の量でも、この世界の住人ならば驚異でしかないのだろう。


流石に、カルチャーショックに怒るほど、ネガも心は狭くない。故に、ネガは大声で叫ぶ。


「聞けェ!!人間共!!ここは、我の魔術を持ってして勝利へと導こう!!」


双輪輪廻を重ね合わせ、ネガは笑って宣言する。


「我が名は破壊神ネガ!!全てを壊し、均衡を保つ者。我は、貴様を異物と判断した!!」


ネガはそういうと、地面に腰からどっしりと構えた。双輪輪廻が互いに逆方向に回転し、そのど真ん中にピンク色のスパークが生まれる。


「見よ!!刮目せよ人間共!!これが、破壊神ネガの、力である!!」


充填完了。ネガはそう思って、迫ってくる光線を見据えた。そのど真ん中にスパークを向け、小さな声で呟く。


「『破壊光線ブレイク・レイ』」


時が止まる。それは、一時的に『神力』がこの世界の時間を破壊したからだ。光線は『ヒト』が放った極太の光線のど真ん中に直撃。


押し引き問答があるかと思えば、『ヒト』の放った光線は、糸がゆっくりと解けていくように壊れて消えてゆく。


「ッ………!!」


気がつけば、『ヒト』の腹には大穴が空いており、その縁からゆっくりと体の崩壊が始まっている。あまりの痛みに絶叫すらあげられず、死ぬまでの地獄の時間を過ごす。


そして、時は動き出す。


雲をつきぬけなお止まることの無い『破壊光線ブレイク・レイ』。一体どこまで飛ぶのだろうと納期なことを考えたネガは、落ちてくる『ヒト』に向かって双輪輪廻を投げる。


互いに逆方向に屈折した双輪輪廻は、緩やかな弧を描くように飛び、地面に着く寸前の『ヒト』を切り刻んだ。


「お、おぉぉ………」


死ぬ瞬間、自我が少しだけ残っていたヴァイスが、空に向かって手を伸ばした。


「ルシファー、様………!!」


その言葉を最後に、本当にヴァイスの生は幕を閉じる。双輪輪廻を腕輪に戻し、髪を解いて首を鳴らす。


「さて、これにて一件落着、か。」


そう言って欠伸したネガ。悠然と歩み、腰が抜けた兵士達を一括して起き上がらせた。こうして、ネガは初めて魔神と鬼神サイドの『駒』として活躍したのだった。そしてそんなネガが、快斗の生命反応が消えたことに気がつくのに2分もかからなかった。

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