表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
220/369

闇ヒバリ

「く………」


無音の中、ヒバリは苦労しながらもリンと対等に渡り合っていた。振るわれる一撃一撃にリンの感情を感じるものはなく、全てが機械的に最も効率的で命中率の高い部位を、様々な状況で選別して襲ってくる。


ヒバリはあえて狙われるであろう部位を作り出し、そこを狙わせることで攻撃を回避しているが、今はそれに専念しているせいで攻撃が全くできていない状況にある。


大斧が纏う紫色の瘴気。ヒバリはその大斧の効果を身をもって先程理解している。


その効果は『感染』。傷がどんな術を持ってしても回復しないのだ。これはきっと、高谷でも無効化のできない強い能力。『不死』が売りの高谷が相手をすれば一溜りもないだろう。


「ッ!!」


そんなことを考えているうちに、ヒバリの腹を狙って大きな斬撃が放たれていた。風龍剣で防ぎ、さらに2つの斬撃を重ねて斬撃をはじき飛ばす。


出来るだけ下からすくいあげるように弾いた。リンは一瞬体勢を崩して大斧は弱々しく空中を揺れた。


「『迅風切羽』!!」


風龍剣の纏う風が刃と化し、リンの体を真っ二つに切り裂こうと迫る。その風の斬撃は、リンの小さな体、それも大部分が大斧のガードで防がれている中、吸い込まれるように体に命中させられた。


が、確実に当たったかのように見えたその斬撃は、リンから溢れ出した瘴気によってかき消されてしまった。


「ち………魔術妨害か。厄介だな。」


地面を蹴り、魔術が効果ないと分かったヒバリは勝負に出る。『真剣』をふんだんに使って、リンの振り下ろした大斧を全力で止める。いわばゴリ押しだ。


大斧はそれをも破壊してヒバリを斬ろうとしてくる。なんとも強靭なその刃に感心しつつ、ヒバリはリンの懐へと滑り込んだ。


「はっ!!」


地面に手をたたきつけ、その勢いで横たわった姿勢からブレイクダンスのように逆立ちになり、そのままリンを蹴りあげる。修行中に、快斗が模擬戦でよく使っていた体術の1つだ。


ヒバリは腹筋に力を入れ、地面に両足を叩きつけるように起き上がり、バネのように上半身を跳ね上がらせ、風龍剣をリンの脳天に振り下ろした。


世界がモノクロになり、2人は『刃界』へと突入する。遅くなった世界で、思考だけは元の速度のため、ヒバリはこの状況下でリンがどのように動くのかじっくりと確認する。


リンへと迫る風龍剣の速度は、『刃界』の中では速い方で、常人なら見えないほどの速度のはずだ。しかし、リンはそれすらも超えてきた。


「ッ………」


素早く動く刃を、リンは『刃界』の中だというのに普段と何ら変わらない速度で風龍剣を掴みあげ、捻り返してヒバリを投げ飛ばした。


「何………!?」


持ち上がったヒバリに、小さな拳が何発も捩じ込まれ、それは全てが関節や急所を狙った的確な攻撃だった。ヒバリの強靭な肉体でも、その攻撃による痛みは隠しきれない。


「ちぃ………。」


全身を痛め、追撃は不可能と考えたヒバリはリンから距離をとる。感情を完全に消してしまった殺人鬼リンは、ヒバリを追い回すことはなく、ゆっくりと歩み寄っていく。


まるで散歩にでも出かけているのかのように、軽い足取りで。


ヒバリは唇を噛んで思考する。右足と左腕は先程の攻撃で関節が外れたのか動かなかったり動かしづらい。治ることの無い傷から流れ出た血の量も、気付かぬうちに相当多かったようだ。


なにより『真剣』の斬撃のストックがもうわずかしか残っていない。


リンの瘴気を引き剥がし、直接脳天を切り落としたいとヒバリは思っている。


だが正直、今はリンをどうすれば良いのかが分からない。勝っても生け捕りにする余裕はないだろうし、悠長にしていればこちらが殺される。


殺すか殺されるかの戦い。殺し合いに選択などは必要無いのだ。


ヒバリは思案する。リンは快斗とは親しい関係にある。だが快斗は、ここでヒバリと戦っているのがリンだとは知らない。だから原型がわからなくなるほどに切り刻めば分からないかもしれないが、記憶力のいい快斗は必ずかけたピースを見つけ出す。


つまりはどう頑張っても、リンの存在を隠蔽するのは難しい。しかし、いちいちそのことを相談しに行く余裕もない。本気を出せば勝ってしまい、手加減すれば負けてしまう。


互いに微妙な立ち位置にある。どうしようかと、ヒバリはひたすらに悩み続ける。


「く……っ!!」


リンが跳び上がり、大斧を振り子のように回してヒバリに振り下ろした。遠心力とリンの怪力の乗ったその攻撃は、風龍剣でガードをしたヒバリを容易く吹き飛ばした。


いくつかの家を突き抜け、勢いが収まった頃にはリンからの強烈な蹴りを受けて地面にめり込んだ。


「く、は………」


吐血し、しかし痛みに悶える暇もなく、ヒバリは地面を殴って起き上がり、リンの斬撃を躱し流し受け止める。重い攻撃はヒバリの手足に強い負担をかけ、筋肉が断裂しそうな程に痛んだ。


そして最悪なことに、リンはヒバリと戦うほどに強くなっていっている。簡単に言えば、力の制御の仕方を覚え始めているのだ。

因子を取り込んだ瞬間は、ただ邪気を纏った攻撃を叩きつけるだけだったが、今では防御も移動も、全て応用して使いこなしている。


「このままでは………!!」


負けると分かっているが、助けを求める相手も時間も余裕もない。切り札の『真剣』ももうストックがない。新たな力を手に入れて早々に大ピンチ。修行しても届かない境地がある。


ヒバリは歯を食いしばり、必死にリンの隙をつこうとするが、動く度に増すその機動力についていけず、ついには左腕の関節を撃ち抜かれ、動かなくなってしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ………!!」


血が滴り、視界がぼんやりと歪む。歩いてくるリンに、恐怖は感じずとも悔しくて歯を食いしばった。


機械とはいえ、自分よりも実戦経験の少ないリンに負けるのは、『剣聖』のヒバリにとってはかなり自信が削がれる出来事だ。


それにもう死にそうだ。リンが迫ってきている。動かない体を今更酷使してももう遅い。割と本気で戦ったつもりだったのだが、あまりにリンの因子を操る能力が高すぎてついていけなかったようだ。


風龍剣を地面に突き立て、バランスをとり、しかし無意味であるとわかっている。このまま死ぬ訳には行かないと、心で叫んでいる。


そして、リンが大斧を振り上げた瞬間、ヒバリは瞬きをした。


時が止まる。


『…………の、を、………え。』

「?」

『お……の、を、……つ……え。』


微かに聞こえた声、その瞬間に、体の奥底で何かが蠢いたのを感じた。そして思い出す。自分の中に、何があるのかということを。


「賭け、だな。しかし、やるしかあるまい!!」


ヒバリは自分の中にある異物、『魔神因子』を解放する。制御しきれるか、リンを倒せるか、ヒバリは細い頼みの綱に賭けて、闇を体に染み込ませた。


それを、最後に、リミッターが外れた。


「…………は。」


変化は一瞬、コンマ1秒もかからなかった。ヒバリの来ている服が、白と黒しかないカジュアルな服装へと変わり、髪は何故か1つ結びにされ、その色は白く、両目は真っ赤に染まって牙と爪が伸びていた。


「ふ…………。」


リンの大斧の刃がヒバリに届くより早く、ヒバリが風龍剣を横凪に振るい終えていた。リンの聞いている防具が破壊され、その威力にリンが吹き飛んだ。


家と瓦礫を吹き飛ばし、砂埃を上げて瓦礫の底へと落ちた。ヒバリは天を仰ぐように見えを見たあと、リンの吹き飛んだ方向へとゆっくりと歩んでいく。


いつの間にか風龍剣も真っ黒に染っていた。闇の神職は思っていたよりも早く、ヒバリに絶大な変化をもたらした。


そしてその結果、ヒバリは自我を失ってしまった。


「ふふ。」


小さく微笑み、ヒバリは起き上がったリンを見た。


リンを超えるヒバリの圧力が、場を支配する。その殺気は、リンが本能的に逃げたくなるような強いものだった。機械だというのに、怯えて動けもしない。


故に、ここから先は、ヒバリの独壇場となってしまった。

名:ヒバリ・シン・エレスト 種族:悪魔 状態:暴走

生命力:9900 魔力:10200 腕力:9700 脚力:9850 知力:720

獄値:20185

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ