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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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共感覚

『神殺し』の中で、人間を纏めてきたヴァイス、ヴィクティム、ヴィレス。10歳に満たない時に被害を受けた3人は昔から仲が良かった。


感情が消えかけたヴァイス。タガが外れたヴィクティム。何にでも恐れを抱くヴィレス。


それぞれはその弱さを克服しようと努力した。


ヴァイスは出来るだけ他人と接し、常識的な感情というものを理解した。いつしか普通人として生きていけるようになった。


ヴィクティムはあまり治すつもりはなかったが、その狂気を生物よりも敵や研究を向かわせて上手く調節した。


ヴィレスは自身の根本から一新させた。根暗でひ弱な性格は、大雑把でキザったらしく。しかし憧れの人のように優しさは消さなかった。


互いに支え合って生きてきた3人は、他の被害者の人間とも直ぐにうちとけた。だから、人望も厚かったし、だからこそ纏め役に選ばれるまでになった。


そんな中、3人に不思議な能力が目覚めた。3人はそれぞれの状態がどこにいても察知できるようになっていた。不気味に思った3人はルシファーにその事を話した。


「あぁ、それは『共感覚』というやつだ。お前らは互いに近しい存在になり過ぎたみたいだな。まぁ悪いことじゃない。だけど嫌なこともわかってしまう能力だ。…………それはなにかって?そうだな……代表的な例は『死継』だ。3人のうち、誰かが1人死ぬと残りの2人の能力値が倍になる。最後の一人になった場合は、元の4倍だ。2の2乗だな。だが悪いことばかりじゃない。例えば離れていても状態がわかるし、『念話』することも可能だ。そういう点においては役に立つ能力だ………と、時間だ。済まないが、また今度話そう。」


ルシファーが教えてくれたこの能力、3人はどう使うか悩んだが、結局は調整の練習をするべきという話で片付けられ、それ以降は無意識に『共感覚』を消したり発動したりできるようになった。


戦いが起こっても、どこで誰がどんな状態で何をしているのかが把握出来た。しかし、『念話』は使えなかった。ルシファーの言っていた利点を生かせないことが3人は悔しかったが、それでも最大限活用してきたつもりだ。


本当に色々な戦いで活用してきたものだ。誰がどんな危機にあるか。どこで何してサボっているか。3人は兄弟かのようにずっと一緒だった。そして、それを繋げてくれている『共感覚』に感謝すらしていた。


だが今は違う。


憎い。ウザイ。わざわざ教えられなくとも、知っていることを頭の中でつらつらと分かりやすく説いてくる。こんな状態でどこをどう損傷して、どのように生命を絶たれたか。


全く嫌なものだ。しかも、それが糧となるかのように能力値が跳ね上がった。


ヴァイスは嫌気がさした。自分はなんて不幸なのだろうか。やる気さえ無くしかける。頑張って保ってきたものが不意に壊れれば、精神だってダメージをくらう。


人間にしては長く行き過ぎたヴァイスにとって、積み上げたものが多すぎた。守ってきたものが大きすぎた。背負っているものが重すぎた。


そして絶望する。悲しむ。嫌になる。本当なら寝たいし、死にたい。ヴァイスはヴィレスのような嘘の笑顔は苦手なのだ。自分に嘘をついて立ち上がれないのだ。


だから、ヴァイスは自分に嘘をつかないもう1つの感情で、自身を鼓舞する。『怒り』という感情で。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ざっけんなよ………」

「ッ………」


膨大な殺気に、ベリランダは一瞬怯んだ。その殺気は尋常なものではなかったからだ。歯をギシギシと鳴らし、その表情はベリランダが今まで見たこともないほど恨みに染った表情だった。


子供のように、泣き顔でヴァイスは怒っていたのだ。


「るるるぅぅああぁぁぁああああああ!!!!!!!!」


地面を殴って咆哮するヴァイス。ベリランダの作り出したドームは声だけで弾け飛んでしまった。水蒸気爆発に水素爆発まで受けて傷を受けなかったドームが、ヴァイスの叫び声で弾け飛んだのだ。


殴った拳の振動、それは大地を揺るがし、浮島のエレスト以外の地面を全て吠えさせた。


『神』を憎み、同じ『神』を憎んだ親友を殺した人間を、それと同じ生物を全て、ヴァイスは怒りで染め上げた。


全部嫌になった。前からあった不満だ。今ここで吐き飛ばす。ぶち壊す。何もかもを消し飛ばす。少なくとも、この世界は。


まだ、生き残りがいるというのに。


「クソっタレがァァァァァァァああああああああぁぁぁ!!!!!!」


どれだけ怒れば、そんな大声が出せるのだろうか。世界全てを鼓舞するその声が、たった今居なくなった親友を求めてやまなかった。


そばに居るベリランダは鼓膜が敗れて両耳から血が吹き出した。ベリランダだけではない。この戦場の誰もが、鼓膜を失った。脳へ直接声が響きわたり、言葉に表せられないほどの強い痛みが脳を襲い、兵士達はみな気絶してしまった。


立っているのは、ライト、ベリランダ、セルティア、リアン、エリメア、零亡、ヒバリ、リン、高谷、暁、サリエル、そして快斗だ。空にはヴィオラが居る。原野は倒れたは倒れたが、気絶はしていなかった。


その中で動ける者が、ヒバリ、リン、高谷、暁、ヴィオラ、快斗だ。


「ッ………音が………」

「消えろ。」


ヴァイスが足を振って一回転。瞬間、その蹴りによって生まれた真空の刃が円状に広がっていった。どんな金属でさえ真っ二つにするその空気の刃は、立っている者達を容赦なく殺しにかかる。


聴力を片耳失っているヒバリと快斗はすぐさま対応ができた。耳は片耳が聞こえないだけで割と聞こえなくなるものだ。何も聞こえなくなったところで、今更反応できないほど弱くはない。


高谷はすぐさま鼓膜が元に戻り、頭痛が消えたため、周りを助ける余裕が出来た。リアン、エリメア、セルティアの口に血を投げ込み、近くのライトを抱き抱えて飛び上がった。リアン達3人もすぐに回復して同じように対応した。


零亡は無防備だったが、痛みを無視して暁が助け出したため、無傷ですんだ。ベリランダとサリエルはあえて倒れることで刃を回避し、リンにはそもそも鼓膜は関係ないので無影響だった。


「やっべぇ……どうするベリー!!」

「………何か言った!?」

「鼓膜破れたのか、クソっ」


気配だけで快斗が叫んでいると分かったベリランダ。しかしその内容は分からなかった。とりあえずベリランダは『転移ワープ』を繰り返し、ヴァイスから距離をとった。


『あ、あああ。聞こえる?悪魔。』

「あ?」


快斗は脳内に響く声に一瞬驚いたが、それがベリランダの『念話』であることはすぐに分かった。


『割とこんなこともあるのよ。対応できなくもないわ。』

「流石。」

『とはいえこれは流石にまずいわよ。暁レベル。』

「やっぱそうか。」

『暁も超えてるかもしれない。どちらにしろ私達では手に負えない。』

「化け物って事だな。でも引く訳にもいかねぇだろ?」

『当然。私があいつを殺す。』


『念話』ごしでも分かるベリランダの高揚感。強敵であればあるほど燃えるタイプなのだろう。確かに見たことの無い次元の強さを相手取ることは楽しいかもしれないが、同時にその強さへの恐怖だって同じくらいあるのだ。


それにヴァイスは急激に能力値が跳ね上がった。トリックがなんだったか分からないし、どれほどの力を手に入れたのかさえ理解できない。ベリランダの言う通り、本当に暁を超えるのであれば、暁を呼ぶ他ないが………


「あっちはあっちで敵がいる。」


暁は、ヴァイスの蹴りの波動を受けても微動打にしなかった巨大な『ヒト』と交戦中だ。巨体の割に素早い動きと、見た目通りの力強い攻撃を、零亡を背負いながらいなしている。


しかも当の暁だって耳が聞こえていないし、鼓膜が破れた痛みだってあるはずなのだ。嫌なくらい耳鳴りがしているはずなのだ。


「流石に邪魔出来ねぇよな。」


快斗は目の前でゆっくりと体を起こすヴァイスを見つめる。快斗の本気と、ベリランダの魔術でどうにかなる相手だろうか。否、他に対応できる者が居ない以上はやるしかないのだ。


と、快斗の方へ振り返ったヴァイスと快斗の目が合った。交差する視線、そこに純粋無垢な殺意を感じて快斗は震え上がった。


『悪魔、後ろ!!』

「………おっと、」


ベリランダの『念話』が届いている時には、既に快斗の視界は逆さまになっていた。地面を見上げると、足を伸ばして今まさに立ち上がろうとしているヴァイスがいた。


快斗の見えない速度でヴァイスが足払いをかけたようだ。早く強すぎるそれは、快斗が足を蹴られる痛みを感じさせることも無く

快斗を回転させた。


(やっべぇ……)


そう思った時にはもう遅い。ヴァイスは拳を握りしめ、快斗の土手っ腹にその拳をねじ込んだ。肋が4本は折れただろうか。内臓も酷い有様になっただろう。快斗は盛大に吐血しながら吹き飛んでいく。


「く、は………」


吹き飛んでいく最中に、口の中に生暖かい液体が入るのを感じてそれを飲み込むと、体内の痛みが一瞬で消え去った。


「ナイス、高谷。」


遥か遠くに、ライトをお姫様抱っこした高谷がいた。こちらを振り返りもせずに、手首から滴る血を的確に快斗に飛ばしたようだ。そのエイムに感心しつつ、快斗は『魔技・極怒の顕現』を発動する。


青い瞳が黒く染まり、それを中心に十字架が顔に描かれる。髪は黒く染まり、歯と爪が長く伸びた。


「マジでやんなきゃ死ぬなァこれは。」

「殺す。」


草薙剣を抜刀した快斗がそう呟くと同時に、背後から短く殺害予告が放たれる。快斗は苦笑し、左足を軸に地面を草薙剣で殴って回転し、ヴァイスが放った拳を蹴って威力を減らし、快斗はその反動で距離をとる。


右足の脛がジンジンと痛むが、死ななかっただけマシだろう。


振り返ると、視界からヴァイスが消えた。快斗は勘を信じて背後に草薙剣を振るうと、ちょうど訪れたヴァイスの左腕を切り裂くことが出来た。


「っしゃ!!」


骨が半分絶たれた。相当な痛みを伴い、流石のヴァイスも一瞬は怯むだろう。そう思った快斗が甘かった。


「は?」


快斗が草薙剣を振るった反動。少し地面から浮いてしまっている今、快斗は即座にその場から動くことは出来ない。コンマ1秒、快斗の顔面を捉えた拳が顎骨を捩ってぶち抜いた。


痛みに快斗の方が怯んでしまい、その威力のあまり、快斗の顔面は地面へと叩きつけられ、頭部に甚大なダメージを負う。


しかし意識はとんでいない。こんなにすぐに負けてたまるかと、快斗もまた、一般人よりかは圧倒的に高い回復力で傷を修復し、ヴァイスに食ってかかる。


ヴァイスは足を振り上げて快斗を蹴り飛ばそうとしたが、大抵、次の敵のしたいことが分かる快斗は、その射程からすぐさま移動し、刃を振るう。


振り向くヴァイス。殺意のみが籠った瞳。その横顔にベリランダが作り出した氷の槍がぶち込まれ、体勢を崩したヴァイスのうなじを、草薙剣の刃が切り裂いた。


「ナイス、ベリー!!」

『こんなの朝飯前。次!!』


『念話』で一喝され、快斗は俄然溢れ出した殺る気を刀に乗せて振り回す。ヴァイスも傷はつけたくないのか、その刃の猛攻を必死に交わし続ける。


「ぉぉおおお!!」


雄叫びを上げて快斗が地面を蹴る。ベリランダのサポートのもと、ヴァイスを着実に追い込んでいく。快斗もあの修行でベリランダの半分程度の力は手に入れている。


ヴァイスの足を切り裂き、頬を切り、殴られ殴る。そんななんの特徴もない戦いが始まった。


このまま押しきれば勝てる。快斗はそう確信していた。それはベリランダだって同じだし、快斗に血を飛ばした高谷も同じ気持ちだっただろう。


まだ、この時は。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ひ、ぐ…………あぁ…………」


ずるずると、不気味な音を立てて何かが闇夜を蠢いている。


それが通った後には何かが這ったかのような跡が出来ていた。そしてその色は、決して鮮やかとは言えない血の色だった。


「く、るぅぅ………ぃぃ……」


なんと言っているのかさえ聞き取れない小さな声。しかし、着々と進んでいくそれは、その形からは想像出来ないような速度でこの場所まで進んできた。


相当強い念が無ければここまでは出来ない。死んだっておかしくないのに、ゾンビの如く生き続けている不気味なそれは、ある場所を目指している。


「らぁぁ………ぇ……つ……」


不気味なそれは、手に持つ最悪の魔力、『狂神因子』をある場所に投げ飛ばした。


漣がいい音を奏でる、静かな浜辺。その真ん中に落ちた『狂神因子』。それに反応したように砂が盛り上がり、そして登場したのは巨大なハサミ。


ハサミといっても、金属でできたハサミじゃなく、ヤドカリかカニの甲殻類のハサミだ。それは『狂神因子』を見つけ、数秒止まった後に、それを挟んで持ち上げて砂の中に持ち帰った。


「こぇぇ………で、」


何かは脱力したようにへたりこみ、そして命の最後の力を全て消費して大声を出した。


「僕の私の俺の吾輩の小生の己の役目はァ!!終わりである!!」


血を吐き、その流れ出る血が最後の命であることも重々承知で、彼は叫び続ける。


「捧げたこの命、どうか、貴方様に!!」


顎が外れるほどに、目玉が飛び出すほどに開けられた口と目。血走ったその無様な顔面で、最後に()()()()()()は彼の名を呼んだ。




「『羅刹らせつ』!!」




砂がぶちまけられ、黒く太い腕がヴィクティムの顔面をすぐに握りつぶした。これで本当の終わり。ヴィクティムは自分の脳がお釈迦になるまで、生まれ直した彼の顔を見つめていた。

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