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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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悔いはない

()()()()()()みたいだ。ルシファー様。」


あちらこちらから雷を纏った剣がヴィレスを狙う。それを両手に持つ赤と青の剣で弾き砕く。


迂闊に攻撃をしてこないヴィオラ。最低限の攻撃だけでヴィレスを狙う。隙が出来れば即座に剣を放ち、そしてヴィレスは自分から隙を作り相手に攻撃させる。


結局今のところは、ヴィレスの能力が上がる一方なのだ。


ヴィレスの能力的に、ヴィオラの全力の速度で放たれた剣は簡単に弾くことが出来るまでになった。数々の世界を旅してきたが、その中でも1番の強さを誇るヴィオラの実力に着々と近づいているということに歓喜していた。


だから剣を弾くことが出来て嬉しかった。そう、1本ずつ放たれる剣を弾く事ができるようになったことが。


「ッ!!」


突如として雲海の底から剣で出来上がったドリルがヴィレスを穿った。回転する刃が圧力に負けて1本1本弾けて消えていくが、消えれば消えるほど、剣の威力と回転力が上がっていく。


そのまま受け流せればいいのだが、ヴィレスはドリルを流した際に移動するであろう体の位置にしっかりと剣の切っ先が向けられているのを感じていた。


この威力になってしまった以上、攻撃を受け流すようなことをすれば、その威力のあまり受け流したあとにすぐには体制を立て直せず、刃に撃ち抜かれてしまうだろう。


「死ね。」


デュランダルが背後から突き出される。流しも出来ないヴィレスはどうするかと考えた。そして考えた結果、


「おおおおお!!」

「ッ!?」


ドリルに対して全力を押し付け、出来るだけ剣の量を減らしてから自らの腹を突き出した。赤と青の剣のガードが無くなったため、ドリルはヴィレスの腹を綺麗に貫いた。そして、貫いた先にいるのは、デュランダルを突き出したヴィオラだ。


「愚物が。」


ヴィオラはデュランダルでドリルを粉砕する。壊れたドリルに乗じてヴィレスはその場から脱し、自己回復力で回復した。


腹に空いた大穴が、一瞬で塞がった。


「クソがよォ。」

「品のないヤツめ。」


ヴィオラはデュランダルを振るい、ヴィレスを吹き飛ばした。


「やはり、どうやっても簡単には死なないようだな。」

「てめぇが俺を殺そうとしている限り、俺は殺せねぇよ。」

「ふむ。そんなことはない。」


ヴィオラは剣を召喚する。ヴィレスはヴィオラの魔力が増大するのを感じた。剣の数はあっという間に千を超え、1本1本に魔力が注がれて金色に輝く。暗い雲海の中を、金の光が照らしだした。


「それは余の本気に、貴様が着いてこれた場合だ。つまりは、」


ヴィオラはデュランダルを掲げて、


「有り得ない。」


そう、宣言した。


「黙れよクソアマァ!!」


ヴィレスが空気を蹴飛ばして加速し、赤の剣を突き出した。その手首をヴィレスの見えない速度で金色の剣が撃ち抜いた。


「あがっ!?」

「貴様に教えてやる。」


ヴィオラの鋭い蹴りが、ヴィレスの顔面を撃ち抜いた。鼻血を出しながら吹き飛ぶヴィレスは、なんとか雲海に飲まれる前に留まった。


「あ?」

「余の固有能力は『剣王』だけでは無い。」


ヴィオラは剣を並べ、「おかしいと思わぬか」とヴィレスに問いかける。


「『剣王』は剣を従え、剣を統べる。つまり、剣に関することは全て余の思い通り。飛ばすも斬るも、何だって余は出来る。しかしその能力を持ってしても、剣を作ることには少なからず魔力を要す。」

「…………お前、もしかして……」

「そう、余のもうひとつの能力。余がこの世界最強である理由。」


ヴィオラは両手を広げ、金色の光に包まれ高らかに宣言した。


「『無限魔力』だ!!」


叫んだ瞬間、ヴィレス目掛けて音を超える速度の剣が何千と撃ち放たれた。ヴィレスは自身を囲うように剣を振り回すが、防ぎきれない剣が肉体を貫いて内臓を蹴散らしていく。


「くっそ………」

「逃がれようとしても無駄よ。」


回復能力に徹していたヴィレスは、剣の猛攻から逃れようと空中を駆ける。しかし、ヴィレスは何も無いところで足を綺麗に切断されてしまった。


「あ?」


不思議に思うヴィレス。切断されたヴィレスの足が落ちていく。その落ちていく足さえ見逃さず、剣達は足を粉々にしていく。


「クソッタレ……何しやがった………」

「余はただ剣を飛ばしただけだ。」

「俺の見えない速度でか?」

「違うな。見えなかったのは速いからでなく透明だからだ。」


ヴィオラが空中を指さすと、雲海の所々に穴が空いたが、そこには何も無い。ヴィレスは、魔力を目に集中させ、その場所を凝視した。すると、そこには途方に暮れるほどに繊細に縫いまとめられた魔力で作られた、美しい剣があった。


その剣は、純粋で複雑な魔力の構造により、透明になっているのだ。切れ味も金色の剣の比ではない。その剣を作るのに、一体どれだけの魔力が必要なのか。


しかも、それが見えているだけで10本。彼女のいう『無限魔力』というのは本当のようだ。


「『真剣』。それは斬嵜家が扱う剣の極意の1つ。」


ヴィオラは絶望した様子のヴィレスを睨みつけて、


「余が、この『剣王』である余が、手に入れていないとでも?」


透明な剣は、『真剣』は、ヴィレスの扱う赤と青の剣よりも格が高い。赤の剣で受けようとしたが、真っ二つにされてしまった。


「余の『真剣』は『超魔力』。魔力に関する能力全てが上昇する。」

「意味が分からねぇ………ぶっ壊れすぎるんだよ………」


ヴィレスの全力を出し尽くして魔力をぶつけても、きっとヴィオラでは簡単に防がれてしまう。そうなれば、そうなった瞬間にヴィレスはおしゃかになる。


否、そうなったら、ではない。既にそうなっている。


つまりは詰み。王手。チェックメイト。どう足掻いても、ヴィレスの能力を持ってしても、どれだけの信念と恨みがあっても、ヴィオラを倒すことは、最初から出来なかったのだ。


「余は、神をも超える『剣王』。雑魚の中で強いだけの貴様が、いきがって余に挑むな。せめて………」


ヴィオラはニヤリと不敵に笑って言った。


「余の3割でなく、5割の力を出させられる程度にはならなければ、余は貴様を敵と認めない。」

「………は?」


ヴィレスは後悔した。自分達が作り出した文明のなかに、自分を超える実力を持った化物を生み出してしまったこと。それに挑んだこと。そして、彼女に『神を超える』と言わせたことを。


「確実な負けだ。でもぬけぬけと負ける訳にもいかねぇんだ………」


ヴィレスは頭を押さえ、乾いた笑いをこぼす。その笑いをヴィオラは汚物を見るかのような視線を向けている。その悪寒と余裕さに、ヴィレスは絶望してもしきれない。


出来れば自分でなく、この人間が、自分の代わりになって生きてくれていたらいいのにと、そう思ってしまった。


「…………愛してるぜ。ルシファー様。」


それが嫌で嫌で仕方がなくなって、ついには精神も崩壊しかけて、惨めで恥ずかしくて、だからそれを打ち消すために、ヴィレスは死ぬ気で死にに行く。


「愛してるぜぇ!!ルシファー様ァ!!」


首にかけたネックレス。逆十字が付けられたそれを握りつぶし、ヴィレスは空を駆ける悪魔と化す。


「全ては終焉を迎える。貴様の命運も、運命も、世界も、人生も、何もかも、ここで終わりを迎える。」


ヴィオラはデュランダルを掲げる。とんでもない量の魔力がその剣先に集まり、そしてヴィオラは全力で剣を召喚する。


空を金の光が埋めつくし、雲があることさえ分からなくなるほどに剣が空を塗りつぶす。


「おい、なんだあれ………」

「まさか……ヴィオラ様?」


地面の兵士達、魔道兵、快斗や高谷、ベリランダやヴァイスも、攻撃のその手を一瞬止めた。


「我が名はヴィオラ。唯一無二の『剣王』であり、唯我独尊を往く孤高の剣士。」

「死ねぇぇえええ!!」

「そなたに終焉を。」


ヴィオラはデュランダルを振りかざす。総数1億を超える剣達が、ヴィレスに切っ先を向ける。ヴィレスだけでなく、このまま魔道兵まで消すつもりなのだろう。魔道兵の数は3万程度。それを有に消せるほど、ヴィオラは強かった。


「ヴィオラ殿………。」


地面から空を見上げる暁は、高揚した表情で笑っていた。


「いつか、本気の手合わせを願いたい!!」


ヴィレスは折れた赤剣を捨て、青い剣を突き出す。


「『蒼き悪魔の抗い(ブルーデッド)』!!」

「ッ………ヴィレス!!」


最後の技に、ヴァイスが反応した。その言葉は聞こえていないはずなのに、ヴィレスにはヴァイスがそう言ったのが何故かわかった。


「ぶっ殺してやらァァァァああああああああぁぁぁ!!!!!!」

「それは貴様だ。」


スっと微笑み、ヴィオラはデュランダルを振り下ろす。蒼く光るヴィレスを正面から受け、そして、消し去る。


「『終焉の剣(ソードオブエンド)』。」


世界が金色に染る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『なぁ、ヴィレス。』

『あ?』

『………悔いのないようにな。』

『………できるだけな!!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…………悔いはねぇよ。ヴァイス。」


そっと自身の体が崩れて消えていく感覚を味わいながら、抗ったヴィレスは笑っていた。


「ありがとな。皆。」

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