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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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ベリー

突き出された拳を、快斗は両腕でガードした。


「いってぇ、な!!」


ヴァイスの拳は簡単に岩を砕く威力をもっているのだが、身体的に強化された快斗はなんとかそれを受け止めている。


ベリランダはタイミングを見て魔術を割り込ませ、ヴァイスは思うように動けない。そのストレスが、ヴァイスの心情を大きく揺さぶっている。


「ち………!!」


邪気と狂気で全ステータスが大幅に上昇し、圧倒的な力でねじ伏せるつもりだったが、快斗とベリランダが思いのほか粘る上、反撃さえも喰らいそうになる始末だ。


「ふ………!!」


地面を蹴って蹴りをかましてきた快斗。その足を掴み取り、空中に思い切りぶん投げた。


「死ね。」


逆さまになって落ちてきた快斗の顔面に拳が吸い込まれるように迫っていく。快斗は両手の代わりに草薙剣の刃を拳に向けてガードした。


並の刀なら拳を斬るより先に折られるが、草薙剣はそうはいかない。指を切り裂き、骨にヒビを入れた。しかしヴァイスは痛みを感じないかのように拳を突き出し続け、快斗の予想以上の力で押し出した。


吹き飛びながら体勢を整え、地面をえぐりながらもなんとか留まることが出来た。が、ヴァイスは快斗の真後ろにいつの間にか移動していた。


「ふぅ。」

「マジか……。」


凄まじい速度で振るわれた拳が快斗の顔面に迫ってくる。だが快斗はもう1人の戦友を信じて草薙剣を振るおうとした。


「遅い。」


悪足掻きと捉えたヴァイスはそう言ったが、その意味をすぐに理解することになる。


快斗の顔面間近。2ミリほどの薄い小さな魔力壁が出来上がった。花の形をした美しいそれは、見た目以上の硬さを誇っている。簡単にヴァイスの拳を受け止めた。


「クソが………!!」


快斗が振るう草薙剣の斬撃が何十と放たれる。ヴァイスは空気を蹴り飛ばしてその斬撃を宙を舞いながら全て躱し、その間に召喚した短剣で快斗を切りつけようと振り返った。


がしかし、そこには既に快斗の姿はなかった。なのでヴァイスは、真上から迫る微弱な殺気を感じとって短剣を担ぐように構えた。


そこに強い斬撃が叩きつけられ、ヴァイスが立つ地面が窪み、刃と刃が擦れて発生した静電気がバチバチと散った。


「次!!お前の番だ!!」


ヴァイスが長い足を振るって快斗を蹴飛ばそうとした。その足が快斗に当たる寸前で、そこにいたのは快斗ではなくなった。


「ざんねーん。私でーす。」


快斗のいた位置には、ベリランダがいた。『転移ワープ』の応用で、自分と快斗の位置を入れ替えたようだ。


「これからはマジックショーの始まりよ!!」

「邪魔するなァ!!」


足を止めることなく、ベリランダの小さな頭を狙うヴァイス。そんな彼を余裕そうにベリランダはあしらう。


「先ずは氷。」


足を凍らし、地面まで伝った氷はヴァイスの動きを一瞬止めた。


「次は波動。」


ベリランダが前に手を差し出す。その手のひらから強い波動が放たれ、ヴァイスが吹き飛んだ。吹き飛んだ先にベリランダは『転移ワープ』して先回りし、何度も波動でヴァイスを吹き飛ばした。


「ぐ………」

「次は重力。」


常人なら推し潰れてもおかしくない重量の重力で、ヴァイスは地面にたたきつけられた。更に分厚い氷で顔以外を凍らされた。


「次は炎と闇。相性いいのよ?この2つ。」


赤黒い炎が、氷ともどもヴァイスを穿つ。溶けた氷が地面を水浸しにし、ヴァイスは高温と低温に挟まれ、その温度差でダメージが増す。


「次は雷。」


水を雷が伝い、濡れたヴァイスが感電する。身体中の筋肉が異常をきたし、ヴァイスが吐血する。


「よいしょっと。」


ヴァイスと自分を囲うように岩のドームが作り出され、その表面を氷で覆う。


「次は光。」


ベリランダの周りに光の針が10本出現し、ヴァイスを狙って放たれる。


「く………」


ヴァイスは飛び退き、そのすぐ真下を針が通り過ぎた。が、その光の針は壁に当たると、壁を反射して軌道を変え、ヴァイスに向かってきた。


忌々しげにヴァイスは肘と膝で針を挟み撃ちして破壊する。魔術を体術で破壊するのは至難の業で、タイミングを間違えれば直撃を食らうため、集中力が必要だ。


それを、あと9回もしなければならない。ベリランダを相手に取りながら、だ。


「なら、魔術を使うまでだ。」


ヴァイスが指を鳴らす。すると、地面から黒い犬が3匹出現し、向かってきた針3本を噛み砕いた。


「へぇ、器用ね。じゃ、こんなのはどう?」


ベリランダが両手を広げる。左手には雷。右手には光が宿り、その2つが合わさって強く発光する。


巨大なそれを、ベリランダは意気揚々とヴァイス目掛けて投げ飛ばした。ヴァイスは短剣でその魔術を両断しようとした。が、ベリランダはそれを予想していた。


「はい、雷。」


地面は未だ濡れたまま。大きな水たまりは雷を存分に伝え、短剣を振り下ろそうとしているヴァイスを死角から攻撃した。


雷によって動きが鈍ったヴァイス。上から迫る魔術を受けるしかなくなり、両手を顔の前で組んでガードした。


凄まじい光と雷鳴。ベリランダは『障壁バリア』で守っていたので無傷だったが、ヴァイスはそうもいかず、全身の所々が黒焦げだった。


そして、帯電した雷は長い間ヴァイスを苦しませ続ける。が、ヴァイスも神の因子を2つ受け入れた身。そう簡単にやられはしない。やられはしないのだが………


「な、ぜ………」


体が上手く動かない。


内側で蠢く嫌な感覚。それはきっと、因子がヴァイスを拒絶し、受け入れた気になっているヴァイス自身もまた、因子を拒絶しているからだろう。


S極とN極が反発し合うように、ヴァイスの内側と外側が反発しあっているのだ。


元々人間のヴァイスと、神の一部である因子。どちらが強いかは一目瞭然。ヴァイスの体は少しずつ因子の支配に呑まれつつある。そして、ベリランダは更に追い打ちをかける。


「『強奪ハント』。」


ヴァイスのステータスを奪い、自身のものにした。今ヴァイスは攻撃力などのステータスが低くなっている。


免疫力や精神力まで全て落ちているため、因子に対する抵抗力も落ちた。ベリランダは、ヴァイスが苦しむ理由を理解しているため、弱点を上手くつき続けている。


「ねぇ、天野から教えてもらったんだけど、『水素』って知ってる?」

「何?」


ヴァイスは知らない単語に聞き返した。ベリランダはにっと笑って手のひらに小さな透明の魔力球を作り出し、その中に岩と炎を混ぜてつくりあげた『溶岩マグマ』を満帆に詰めた。


「『水素』って言う気体と、普段私達が吸ってる『酸素』。そのふたつが混ざっている空間に火が入ると爆発するんだって。」


ベリランダは動けないヴァイスを超重力で地面におさえつける。帯電したままの水面に全身から覆いかぶさり、体がさらにダメージを食らう。


「で、今がそんな状況なわけ。さっきの雷とか、全部『水素』出すための事だから。『電気分解』?ってやつ。」


超電力により、元々水素原子と酸素原子が合わさって出来上がっていた水の2つの原子を分解する。割と簡単にできる方法だ。


「この『溶岩マグマ』を解いたら、どうなると思う?」

「…………。」

「私は知らないの。だから………」


ベリランダは魔力球をヴァイスに投げつけて、


「あんたで試させてよ。」


魔力球がヴァイスに当たって割れる。瞬間、小さかった魔力球に詰まっていた少量の『溶岩マグマ』はその量を増大させ、ドーム内全体を覆い尽くすように噴出した。


ベリランダはすぐさま『転移ワープ』でドームの外へ。ドームを魔力で強化し、内側の爆発を抑えんだ。


地面が振動で震え、相当な爆発が起こったことを体が感じとった。


「本気だな。ベリランダ。」

「本気ならこの戦場全部吹き飛ばすことだってできるわ。」

「じゃあそれすればいいじゃねーか。」

「そうしたら、あいつを痛ぶれないでしょ?」


尋ねてくる快斗にそう言って、ベリランダはドームを見つめる。


「フーリエの仇よ。苦しんで死なせてやる。あいつは絶対許さない。それと、私のフーリエに対する謝罪でもあるの。」


ベリランダは強く拳を握りしめてそう言った。


「見届けて。邪魔をしないでそのまま。」

「分かったよ。まぁ、俺が判断したらすぐに行く。」

「それと、ありがとう。私に、仇を討つ機会をくれて。」

「それは時の運が良かっただけだな。感謝は俺じゃなくて運にしな。」


快斗はそう言ってベリランダの背中を押した。


「多分あいつは、『水素爆発』と『水蒸気爆発』の2つをくらったはずだ。割とダメージが入ってる。でも多分仕留めきれてねぇ。だから、殺ってこいよ。ベリランダ。」


強く押される背中。それが有難くて、ベリランダは振り返ってお礼を言う。浮かび上がり、ドームの中へ『転移ワープ』しようとしたところで、ベリランダは思い出したかのように口を開いた。


「あのさ、ベリランダって、気安く呼ばないでよ。」

「は?今更そんなこと言うのかよ。」

「あんたにはあまりそう呼ばれたくないわ。」

「じゃあなんと呼べと?」

「…………ベリー。」

「あ?」

「ベリーよ、ベリー。私のことはベリーって呼んで。そう呼んでいいのはあんただけだから。周りにはちゃんと言っておく事ね。」


そう言い捨てて、ベリランダはその場から姿を消した。その言葉を聞いて、快斗は頭をかいて苦笑いして呟いた。


「素直じゃねぇなぁ。」


快斗は仲間が増えて、心から嬉しく思った。

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