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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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殺す

「っしょ。」


落ちてくるベリランダをキャッチして、快斗は地面に降り立った。


首輪が外れ、光線も消え、いなかったはずの快斗も出現して頭がパンクしたのか、ベリランダは気絶している。単に魔力切れなのだろうと判断した快斗は、ベリランダの懐に見える液体を取り出して口に流し込む。


「あ?上手く飲まねぇな。つか寝てる間ってどうすれば飲ませられるんだ?」


口の中にたまるだけの高谷の血液。中に入っていかないので、快斗は試験官のような細い容器をベリランダの喉に突っ込んで無理矢理体内へと取り込ませた。


「おぶっ!?」


喉を抉られるような感覚に、ベリランダが驚いて目を覚ました。体内に入り込んだ高谷の血液が反応して、魔力と体力が回復していく。


「はぁ、はぁ、死ぬかと思ったんですけど!?」

「生きてるからいいじゃん。」


咳き込むベリランダが快斗に憤慨する。快斗はそれを軽くあしらって、駆け寄ってきたライトを受け止める。


「快斗さん!!」

「ライト!!久しぶり!!」

「わっ!?」


受け止めると言うよりかは、快斗のほうからライトに抱きついたので、実際に受け止められたのは快斗の方だった。


「無事だったんですね!!」

「簡単に死ぬわけねぇだろ?そもそも魔道兵が出るような場所にはいなかったからな。」


歓喜するライトを抱きしめたまま快斗は会話を続ける。快斗の前には零亡がいるのだが、快斗がライトを抱きしめているのが気に食わないのか、猫のようにシャーッと威嚇している。


「悪魔。」

「ん?」

「あれ、どうやったのよ?」


ベリランダが立ち上がり、快斗にそう問うた。快斗はライトを名残惜しそうに離した。


「『真剣』だよ。俺の『真剣』。敵の攻撃を1日に1回だけ打ち消せる。ノーリスクでな。」

「………『真剣』?あれは斬嵜家だけのものじゃないの?」

「そういう訳じゃないでござるよ。」

「んにゃ!?」


ベリランダのすぐ後ろから暁が顔を覗かせていた。魔力枯渇で眠っていたのだが、今はもう回復したようだ。


「上手く習得できたのでござるなぁ悪魔。」

「そうだな。ヒバリも習得してたぞ。俺よりも強そうな。」

「存じてござるぞ。なんか見えない剣戟を放つ『真剣』でござろう?」


暁は面白そうに快斗とヒバリの『真剣』の話を続ける。話している口調からするに、暁は『真剣』をまだ保有してはいないらしい。


「でも思っていたよりも普通の『真剣』でござるな。やはり斬嵜家の『真剣』のほうが能力的には上でござる。」

「あえ?これって普通なの?」

「拙者が聞いたところによると、2代目斬嵜家当主の『真剣』は『時間停止』だったらしいでござる。」

「チートじゃねぇか。勝てっこねぇじゃん。」

「でも3代目当主の『真剣』により、無効化されたと聞いているでござる。なんでもタイプ?が似ていたとか何とか……」

「何……第3部の話してる?スター○○チナ?」


規格外の斬嵜家の当主達の『真剣』の能力と比較して、快斗の『真剣』は相当弱いものに思えた。1日に1回きりの絶対防御と、時間を自在に止められる能力なら圧倒的に後者が強い。


しかも、そんな能力の者が斬嵜家にはうじゃうじゃといたらしい。固有能力がないかわりに、斬嵜家には『真剣』が存在していたのだと。


なら固有能力のある暁は『真剣』を手に入れられないのだろうか。しかし快斗やヒバリが手に入れることが出来たのなら、暁だって『真剣』を手にできるはずなのだが。


「ともかく、『真剣』とは全世界の剣士の憧れ。それを手にしただけで十分胸を張って自慢できるでござるよ!!」

「それってなんかいいことある?」

「沢山の女性が寄ってくるでござるよ。『真剣』が現れるかどうかは努力次第でござるが、能力は遺伝子でござる。この世界にいる『真剣』持ちは貴殿と『剣聖』だけでござるから、子孫を強くしたい女性が寄ってくると思うでござる。」

「それめっちゃいいけど、その考えで行くとヒバリにも男がよってこねぇか?」


その言葉で快斗の肩に乗っかっていたライトの手に力が入る。こう見えてこの中では1番手の力が強いライトの握力は岩も簡単に潰せる。快斗の肩も骨がぎしぎしとなり始めた。


「ら、ライト?」

「ハッ!?すいません!!」

「うーん……姉のこと好きなのはわかるけどよ、もうちょっとあいつに任せてやろうぜ……。」

「はい。姉さんのお相手はしっかりと僕が審査します。」

「審査員がお前だったら全部ダメになっちゃうだろ。」


きっとライトはどんなに誠実な男性でも、姉を取られると考えるとダメと言ってしまうだろう。しかも厄介なことに、ヒバリもライトにヤキモチを焼かせたくないと考え、ライトの言う通りにしてしまうだろう。


いつまで経っても結婚ができない状態の完成系だ。シスコン故の、珍しいタイプ。


「じゃあもうお前とヒバリで結婚すりゃいいじゃん。」

「姉弟間での結婚はできないんです………。」

「あちゃ~。」


この姉弟は既に詰んでいるようだ。


「てか、ヒバリはどこだ?」

「『剣聖』ならあの壁の向こうで戦闘中でござる。」

「戦闘中?残党でもいんのかよ。」

「残党というよりかは、多分メインの敵のうちの1人でござる。」

「メイン?幹部かなんかか?」

「分からないで………なんでござるか。」

「あ?」


2人が話している間に、強い邪気がどこからか放たれた。快斗と暁が最も早く反応し、その後にライト達も邪気に気がついてその方向に視線を向ける。


快斗が振り返った先、壁の奥から、赤紫色の魔力の光が放たれていた。凄まじい邪気の量に、普通の兵士達は吐いたり気絶したりしている。


「やべぇなぁ……なんかやべぇ。」

「ボキャ貧?」

「『邪神因子』を感じる……。」

「ッ…。」


『邪神因子』というフレーズに、その場の空気は凍りついた。あの凄まじい邪気は、何者かが『邪神因子』を取り込み、固有能力を発現させたから起こったものなのだろう。


「なぁ、あそこにいるのは……」

「姉さん!!」


快斗がベリランダに聞こうとした瞬間、ライトが駆け出した。快斗もそれを見た瞬間に納得して駆け出そうとした。


が、それをする前に事態は急変する。


「待て。人間。」


かけているライトを、空から落ちてきた魔力弾が突き飛ばした。


「見つけたぞ。『天野快斗』ォ!!」

「?」


降り立った青年が、快斗を睨みつけてそう叫んだ。吹き飛んできたライトを優しく受け止め、快斗はその青年を睨み返した。


「フルネームで呼ぶなんて、随分と俺に怒ってる見てぇだな。」

「その体を俺と称すな……お前のような弱小に、畜生の魂に、その体を使う権利はない!!」


青年、ヴァイスは苛立ちを隠そうともせず本気で快斗に殺気を向けた。あまりに強いその殺気に、流石の快斗も怯んでしまう。


「俺はお前の魂を壊す。この時をどれだけ待ちわびたことか………魔神様のこのゲームは予想外ではあったが、結果的に上手くいったわけだ……魔神様も、我らのこの動きを察知して、あの方の体をこの地に下ろしてくださった!!」


ヴァイスは歓喜するように手を握りしめて叫ぶ。


「邪魔をするな人間………お前らの相手は、これで十分だろう。」


ヴァイスはそう言って小さなカプセルを取り出して、自身の後ろへと投げた。


それが地面に落ちた瞬間、その内部から飛び出したカメラのような場所から粒子のようなものが放出され、それが少しずつ大量の人型を形成した。


それは、最初に出現した大量の魔道兵と同じ量の魔道兵達だった。


「かわりはいくらでもいる。お前らの相手はこいつら。俺の相手は『天野快斗』、お前だ。」


快斗を誘うように手を動かし、ヴァイスは快斗に戦闘を申し込む。快斗は恐れる様子もなく歩き出し、ヴァイスの申し込みを了承する。


「別にいいぞ。」

「よし。」


ヴァイスはその答えに満足すると、暁の足のそばにカプセルを投げた。


「戦少女。お前はこれの相手だ。」


カプセルが魔道兵を出現させたのと同じように1つの生物を形成した。その生物は、快斗が久しく見ていなかった懐かしい生物だった。


「あれは………『ヒト』?」


真っ白な巨大な体に4つの顔がついており、背中には4本の職種のようなものが生えていた。4つの顔は皆苦しげな表情で呻き声を上げている。


「快斗さん……」

「ん?大丈夫じゃねぇかな。お前は魔道兵をどうにかしてくれ。暁も一人でそれ殺れるよな?」

「拙者は1人ではない。獅子丸がいるでござる。」

「その犬?いつの間に拾いやがった。『勇者』!!ライトを守れ。あと猫耳さんもなぁ。」

「分かったよ。」

「おいベリランダ。お前は俺に協力しろ。」

「へ?」


座り込んでいたベリランダを足で蹴って立ち上がらせる。首を手を当てているところを見るに、先程皆を殺そうとした事を少し後ろめたく思っているようだ。


「お前が操られてたってはみんな分かってんだよ。」

「うん……。」

「だからここで貢献してそれチャラにしようぜ。」

「………それで許してくれるの?」

「そもそも多分みんなお前を怒ってないと思うぜ?でもお前は納得しないだろ?」

「………悪魔に励まされる方が腑に落ちないわ。」

「その口叩けるのなら協力しろ。」

「………もう!!しょうがないわね!!」


ベリランダはそう言って立ち上がる。魔術で浮かび上がり、ヴァイスを睨みつける。あの首輪をつけた張本人を。


「フーリエにも悪いもの。私が殺ってやるのよ!!」

「その意気だな。」


快斗は草薙剣を引き抜いて構える。


「正々堂々勝負だぜ。」

「そう行きたいが、そうもできん。」

「あ?」


ヴァイスはそう言うと、懐から2つの何かを取りだした。見覚えのある零亡と快斗はそれを見て目を見開いた。


『邪神因子』と『狂神因子』。それぞれを両手に持ち、ヴァイスは悠然と快斗達の方へと歩いてくる。


「神の力を借りるなど不本意だ。しかし、我らは使えるものはなんでも使う。力が転がっているなら、喜んでその力を使おう。」


ヴァイスは2つの因子を持ってそう言った。嫌な予感がして、快斗は静かに尋ねた。


「それ2つ、両方取り込む気か。」

「そうだ。」

「適性がなけりゃ即死らしいぞ。」

「大丈夫だ。俺の体は特異体質でな。どんな魔力にも耐えることが出来る。死ぬことは無い。」

「理性消えるかもしれねぇぞ。」

「俺の理性が消えようと、ヴィレスが……いや、あいつは無理かもしれん。やはり俺が理性を保とう。」


軽くそう言うヴァイス。彼からして、神の因子など軽く押し込めるものなのかもしれない。昔から生きている人間のようだ。


「お前を殺すぞ。『天野快斗』。」

「うぅ………なんとか生きてみせるさ。」

「では……始めるか。」


ヴァイスが因子を取り込む。汚い色の光がその場にいる全員を飲み込み、自身の体をも見えないほどに強くなった。そんな時でも、快斗は目の前で確実に能力が上がった敵の存在をひしひしと感じ取っていた。

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