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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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ライトの本気

およそ5分の3を灰にされた魔道兵軍。後ろの狙撃手達までの防御は前衛がそれだったため、それが消された今、後ろから一方的に攻めるはずの狙撃手は剥き出しになっていた。


「凄いな……やっぱり暁さんが最強かな?」

「リアンさん来ます!!」


敵の惨状を見て感心するリアンを、ライトが必死に押して銃弾の軌道から外す。


「集中してください!!」

「あぁ、ごめんね。凄いなって思って………」

「みんなそれは同じですよ。負けないぐらい本気出さないと。」

「そうだね。それじゃあ……」


リアンは剥き出しになり、対処法を模索している魔道兵達を指さして、


「ライト君の本気を見せてみてよ。」

「えっと………」

「電撃で出来るでしょ?」

「………やってみます。」


ライトはリアンの傍から離れて正面に立つ。ライトの扱う電撃は魔道兵の弱点。暁のように大多数を消すことが出来るかもしれない。


「手伝うよ。」


リアンは影を作り出し、ライトを頂点に二等辺三角形の形になるように広がった。


「『鬼神化』!!」


額から美しい1本角が飛び出し、纏う雷は青緑色に。髪が浮かび、瞳光は鋭く光る。


「界雷よ!!」


ベールのような雷鳴が空へ打ち上げられ、それは一挙に雲をかきあつめる。真っ黒な大きな雷雲の中を駆け回るのは青い雷。魔道兵の真上でうねるように集まっている。


「ぐ………」


しかし大きな魔術なため制御が難しい。まだ1度を打った事の無い魔術なのだ。快斗の扱う見たことの無いような魔術を生み出す方法を聞いたところ、イメージと言われて大量殺戮できる雷技はこれしかないと雷雲を呼び寄せるまでは良かったが、魔力が持たない。


「ほれ。どうした我が息子。」

「わ。母さん。」


ふらついたライトを、後ろから優しく零亡が抱くように支えた。彼女は既に本気を出しているようで、角を輝かせ猫耳を隠すことを諦めているようだ。


「猫耳可愛い……」

「む、戦闘中じゃぞライト。魔力が足りんのか?」

「うん。」

「ほれ。」


零亡は豊満な胸にライトを埋めるように強く抱き締め、魂をすり合わせ、お互いを感じ合う。


共鳴するのは、互いに持つ神の因子。魔力も血が繋がっているため、溶け込むのは簡単だ。渡すことは容易だった。


「受け取れ。」

「うん………ありがとう。」


雷鳴が太く轟き、危うい操作は一気に静まり返した。


「穿ちます。」

「よいぞ。」


凄まじいエネルギーが空を埋め尽くす。界雷はライトの意に従い、敵を穿つ光の刃となる。


「ベリランダ!!もうひとつは頼んだよ!!」

「まっかせなさい!!」


リアンが叫ぶと、予め付けられていたベリランダの分身を通じて本体へと声が届き、ベリランダは極大魔術を展開する。


「重たい……」

「踏ん張りどきじゃぞ。もっと猛れ!!ライトよ。お前は男だ!!」

「うぅ……はい!!」


鬼親子ふたりは雷鳴に包まれ、砲台と化す。ライトが突き出している手のひらに『穿』という文字が浮び上がる。打たれれば即死。太陽よりも高熱な光線が放たれようとしている。


「くそ、なんだよありゃ!!」

「行かせぬぞ。」


それを感知して止めに行こうとするヴィレスを、ヴィオラが牽制する。


流石に量産型の魔道兵も危機感を抱き、銃口を向けて多重発砲。今ライトと零亡を守れるリアンは離れ、ベリランダは遠くで魔術準備をしている。


でも焦りはしない。何故なら誰よりも必死に駆け回っている彼を皆信じているから。


「『血壁』!!」


自らの首元を切り裂き、吹き出した血を倍増して壁を作る。赤い色素を含んだ赤壁は、裏から支える高谷によって防壁となった。


「俺には構わずに放って!!」

「消えちゃうかも……」

「血でガードするから。」


心配そうに見つめるライトに高谷は笑いかけたが、何かを思い出したかのように俯き、もう一度フッと笑うと、


「大丈夫。僕最強だから。」


と、豪語した。それが何を意味しているのかは誰もわからなかったが、高谷はスッキリした表情だった。


「打ちます!!」

「征け!!」

「どうぞ!!」


ライトは1度深呼吸をする。空間から音が消える。ライトの思考速度は音を置き去りにした。


それからフッと短く息を吐き、ゆっくりとを目を開けて、先にいる魔道兵を睨めつける。標的を確認し、快斗に教えてもらったことを実行する。


『力は怒りが1番効率よく引き出せるんじゃね?俺だって固有能力手に入れる時はガチギレだったから手に入ったしさ。』


心優しいライトには難しいことだが、それでも無理矢理引き出せる最高量の憎しみを以て、ライトは構える。


一瞬不安が過ぎる。様々な不安が、ライトの華奢な体によしおせた。武者震いの行き過ぎたバージョンだ。


だがそれはすぐに払拭される。すぐ後ろにいる、暖かい存在の吐息を感じた。それが励ましの意図があったのかは分からないが、ライトは快斗のようにニッと笑うと、小さく静かに口を開いた。


「『光ノ虎(ライト・タイガー)』。」

「音を超える我が息子、妾でなければ見逃しておる。」

「暁さんなら見れるんじゃないかな。」


他愛ない会話を最後に、世界を照らす白光が放たれた。


「………まずい。」


想定よりも強そうな攻撃に、高谷も思わず嘆息してしまった。


「まぁ、頑張ってみるか。」


白い光に包まれながら、そんなことを呟いた。


巨大な白い光の虎は、高谷を飲み込み、先にいるリアンに飛んでいく。


「早いなしかし、ギリギリ見えてるよ。」


そう言うと、リアンは虎に政権を振り下ろして嘯いた。


「『ダブルリフレクト』」


虎の威力が倍増し、方向が全く変わってライト達の方へ飛んでいく。そしてもう1人、この場にいる人間の中でリアンにしか見えないもう1人のリアン。


影と呼ばれるそのリアンも、本体のリアンと同等の力を持っている。故に、能力も同じなのである。


「『ダブルリフレクト』」


更に威力が倍増した虎が中に浮き、あっという間に雲を貫いて魔道兵の真上へ。魔道兵がそれを見あげようと視線をあげる最中に、ベリランダは最後の人推しを片付けた。


「『トリプルリフレクト』」


2倍の2倍の3倍。つまり12倍の威力の虎が、空から飛び出して魔道兵団の中心へ雷鳴の斗如く突っ込んだ。


白光は地面を溶かし、魔道兵を溶かし、壊し、散らし、機能を止めた。


その後盛大な爆発が起きたが、それはベリランダが形成したバリアによって爆破の衝撃は全て上へと誘導された。


「う、はぁ……」

「よく頑張ったぞ。我が息子よ。」


疲れて倒れかけたライトをもう一度抱き直して、零亡は嬉しそうにライトに擦り寄る。ライトも嬉しそうに笑っていたが、疲れがぶり返したのかすぐに寝てしまった。


「この所、皆戦場で寝ることが多い。じゃが………」


零亡は敵の惨状を見て苦笑い。それからライトを背負って本陣へ歩き出す。


「敵を全て殲滅したのなら、許されるであろう。ふ、流石は我が息子。自慢のライトよ。」


零亡はそう呟いてその場から駆けて行った。すぐ側では再生した高谷がゼェハァゼェハァしている。リアンが高谷を立ち上がらせ、ベリランダは疲れて座り込んだ。


「凄いね。もう、何も残っていない。」

「でもまだ電流は残っていますね。日本の冬場みたいな……」

「君の故郷の冬はこんなにビリビリしていたのかい?」

「はい。主に服を脱いだり、扉を開けようとした時にこんな感じに。」

「凄い時代だったんだね。」

「えぇ、まぁ、そうですね。」


少々食い違いがある会話。それだけ余裕があるということだ。目の前で煙をあげる場所には、魔道兵なんぞ一体も生存出来ていなかった。


光ノ虎(ライト・タイガー)』。あれは元の威力で『暁』に匹敵するほどの威力だった。それが12倍の威力に成り上がったのだ。耐えきれた個体は一体もいまい。


「みんな凄いな………俺もなにか必殺技が欲しいな。」


高谷はそんなことを呟きながら、急に暇になった戦場に立ち尽くしていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「なんだ、あれは…………」


壁を越えた先に轟いた白光を見て、ヴァイスは顔を顰めて思考していた。対するヒバリは羨望の眼差しを雷鳴へ向けていた。


「ライトか。あれほどまでに………大きな魔術を………」


雷が嫌という程に拡散している魔力でライトだとすぐに分かった。そして轟雷により大量の怨念が消え去ったことも。


「?」


なぜ怨念の存在に気がついたのか。今の一瞬でヒバリは疑問になったが、少し思案してすぐに分かった。


「私はもう人間じゃない。」


手を開いたり握りしめたりして感じる。奥底で蠢く大きなどす黒い魔力。快斗がよく使うあの黒い魔力。『魔神因子』。


「私は今、悪魔だ。」


受け取った側は悪魔になるのだろうか。だとしたら戦場で駆け回っているのがよく分かる、もう1つの『魔神因子』も悪魔ということになるが、彼はこれといって悪魔のような黒い魔力を使っていない。


『魔神因子』は、対象に取り込まれた時点で解放する能力は様々なようだ。ヒバリは互いの感知。『魔神因子』所持者の位置がわかる。


高谷と快斗はなんなのだろうか。


「隙あり!!」

「く………!!」


鋭い斬撃がヴァイスの首を狙う。ヴァイスはすぐさま取り出した短剣でその斬撃を防いだが、完全に不意をつかれたために吹き飛んでしまった。


「ち、『剣聖』……!!」

「私をしっかりと見ろ。敵であるぞ。背を向けるな。罠だと言うならわかるが、そうでも無いのだろう?」

「思案癖があってだな。俺の軍が壊滅したことに驚いていた。」

「私の自慢の弟が為したことだ。私は誇りに思う。」

「俺は忌々しく思うがな。」


短剣が振るわれる。飛ぶ斬撃を防ぎ流してヒバリは剣を振るう。


しかしそこにヴァイスの姿はなく、代わりに背後に回り込まれていた。


「死ね。」

「そうはいかん。」


突き出される短剣。が、見えない斬撃によって弾き飛ばされた。体勢を崩したヴァイスの足を払い、腹を蹴りあげて竜巻の餌食とする。


「く………何を……」


風と共に地面に叩きつけられたヴァイスは苦悶の表情だ。ヒバリは得意げな顔で剣を構える。


「どうした幹部!!その程度ではないだろう!!」

「あぁ、当たり前だ。だが、お前の相手をしてもこっちとしては得はない。」


ヴァイスは口端から滴る血を拭い、ヒバリを指さした。


「お前の相手は、一先ずそいつに任せる。」

「何?」


背を向けあゆみ出すヴァイスに、ヒバリは剣を振りかざそうとしたが、背後から迫る死の気配を無視できず、振り返って斬撃を受け止めた。


「ッ………お前、は!!」

「…………。」


その相手は『0-0-1』。みすぼらしい姿の少女だった。


「いっちゃ、ダメ。」

「な、何故お前が、あいつの渦中に……同じように操られて?」


脳内には、自身が助け出したエレジアなど、精神を侵された人々が映し出された。目の前の、快斗と仲が良かった少女がそれにかかっていてもおかしくは無いが……やはり一緒にいただけに、混乱はしてしまう。


「ヒバリさん!!」

「ッ、」


ヒバリの横から声が響き、そちらに視線を向けると原野が立っていた。


「リンちゃんはロボット!!元々敵の子!!でも記憶改竄なの!!だからリンちゃんは悪くない!!」

「…………分かった!!」


大斧を弾き、足払いをして体勢を崩して蹴り飛ばす。『0-0-1』の小さな体は民家を貫き、瓦礫の中へと消えた。


ヒバリは思案する。元々敵の者だったというのなら、奪い返すのは難しい。エレジアのようにあとから付けられたのではなく、元からあったものを再度引き戻したと見える。


つまり、何らかの方法で、引き戻された記憶などを抹消しなければならない。


「これは………厄介なことになったな。」


脳内に浮かぶのは最悪の結末だ。そうならないことを願いつつ、ヒバリはもう一度剣を構えた。

ちゃんと誤字直しましたー。

『ノ』ってあれ漢字じゃないの!?

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