『全能陣』
直ぐに勝利しちゃう
「いぇーい!!」
「せぇい!!」
爆撃を切り裂き、鎖を弾き、崩壊する地面を駆け回る。鎖で捕まれば氷でガードを作り出し、攻撃の隙ができた瞬間に雷の力で高速移動。それから大爆炎で敵にダメージを与える。
「『火炎陣・焼却』!!」
翳した手のひらから凄まじい温度の炎が放たれた。それは一直線に サリエルへ飛んでいく。鎖を絡み合わせ、瞬時に壁を作って防いだが、余りの威力にすぐさま壁が崩壊する。
そして、崩壊した壁の隙間から、サリエルの死角になるように移動してきた暁が刃を振るう。が、寸前で止めてその場から去る。瞬間、上から勢いよく落ちてきた『0-0-2』の構えていた刃が、暁の立っていた地面を抉った。
「速いなぁ。」
「『水流陣・大爆流』!!」
暁の動きの感想を述べ、会話に持っていこうとする『0-0-2』だが、それを完全に無視して青色髪の暁は大量の水をサリエルと『0-0-2』にぶっかける。
水流は巨大な渦を巻き、そこらの塵や石ころもすくいあげ、中心で強くすりつぶす。『0-0-2』とサリエルは抜け出そうとし、サリエルは鎖を自身の周りで回転させて水を薙ぎ払い、抜け出すことに成功した。
だが『0-0-2』はブーストが水によって使えないため、上手く抜け出せなかった。なのでサリエルにワイヤをひっかけ、引っ張って貰おうとしたが、
「『氷結陣・万年氷』!!」
水色髪の暁が水に刀を突き刺して叫んだ。水はそれに応えるように見事に氷り始め、一瞬にして『0-0-2』を巻き込んで大氷塊が出来上がった。サリエルが助け出そうとしたのが見えたが、サリエルのすぐそばを何本かの弓矢が通り過ぎ、サリエルはそちらに向かっていった。
「う………抜け出せな……」
「『岩石陣・陥没』!!」
茶色髪の暁が地面を踏みしめると、大氷塊のある地面だけが綺麗に真四角にくり抜かれ落ちてゆく。そして大穴に氷塊はすっぽりとはまってしまった。
「『雷鳴陣・黒死雷』!!」
黄色髪の暁が飛び上がり、黒い雷鳴と共に大氷塊へと衝突。奮った刃がそのまま雷となり、氷塊は一瞬にして破滅。超高温の光が『0-0-2』を焼き尽くす。
「いっ……たぁ………」
「まだまだァ!!」
想像以上の実力の暁に『0-0-2』が少し怯んだ瞬間、強く蹴りが『0-0-2』を打ち上げた。
戦場が一望できるほどまで打ち上げられ、雲を超えた。しかし『0-0-2』が上を見上げると、そこには既に、黄緑色髪の暁か刀を振り抜いた姿勢でいた。
「『暴風陣・竜巻』!!『雷鳴陣・轟雷』!!」
『0-0-2』の傍に小さな風だまりができあがり、それがすぐに巨大化。黒い雲をまきあげて竜巻ができ上がる。そこに落ちた雷が付与され、電撃が『0-0-2』を何度も穿つ。
「つ、よ………」
「『水流陣・大滝』!!」
竜巻や雷の更に上に浮かんでいた黄緑色髪の暁。髪色は青色に変わり、振り上げた刀の先端から水が滝のように流れ始めた。
重力の力を借りた水は、竜巻や雷をかき消して『0-0-2』を地面へと叩きつける。空から落ちてきた水柱は電撃を帯び、地面から広がり始めた水は魔道兵だけを痺れさせる。
「拙者の技の損傷の有無は、拙者が決めること!!仲間を傷つけることはしないでござる!!」
兵士達は、大量の水が押し寄せようと、不思議なことに体を押し出されたり持っていかれたりすることがない。対して魔道兵達は容赦なく水流に流され、纏われた電撃を喰らう。
それだけで、攻めてきた魔道兵の5分の1が再起不能となった。
「く、はぁぁ………」
びしょ濡れの『0-0-2』は手のひらを暁に翳す。手のひらからは水を一瞬で蒸発させるほどの超高温のレーザーが放たれたが、暁の真っ向からの斬撃が、それを切り伏せる。
「『暗黒陣・常闇』!!」
『0-0-2』の足場が真っ黒な沼のような闇に染る。すると文字でできた鎖が『0-0-2』を縛り上げてその動きを封じた。
「ッ、は………」
『0-0-2』が口を開け、その銃口から銃弾を放とうとしたが、その前に暁が『0-0-2』の顎を強く蹴りあげ、口が強制的に閉じられた。中で放たれた銃弾は『0-0-2』の可愛らしい口元を見事に貫通して口から煙が出てきた。
「こんな、強いなんて……えぇ……」
「相手を間違えたでござるな。拙者は無論、この戦場のどの実力者よりも、貴殿は弱い。高谷殿と互角かそれより下。『天使』殿頼みだったのでござろうが、それは拙者の良き友が引き連れてくれてござる。」
「はは、なんで僕、こんな惨めになってるんだろ。傷一つ与えられてないや。本気で叩きのめすとか言ったのになぁ………」
そんなことを呟き始める『0-0-2』。その表情は悲しそうな暗いもので、しかし暁はそんなことを気にしている場合ではないと、最後の大技を練り始める。
『0-0-2』はうつ伏せになり、体を変形して地面に突き刺さった。
「やっぱり、おねーちゃんみたいに強くはなれなかったなぁ。」
顔が無くなり、矮躯の中から砲台のようなものが出現した。銃口にはいくつかの光が集まり、凄まじいエネルギーを凝縮し始める。
「光り、燃えて、吹き抜け、染みて、凍てついては、砕け、痺れては、沈む。」
「『0-0-2』。損傷75パーセント。本体の意志により、最終銃撃を開始します。」
「聖光に笑え。爆炎に走れ。辻風に乗れ。清流に静まれ。零度に震え。岩石に潰え。轟雷に消え。暗黒に沈め。」
「エネルギー充填中。加速します。目標を捉えました。」
2つの巨大な魔力に、周りの兵士達は動くことが出来ない。しかしこのまま動かないのもまずい。それがわかっているのに、体がすくんで逃げられない。
「しょうがないわねっ。」
そんな兵士達を見兼ねたのか。『遠目』を使用していたベリランダが両手を振り上げる。
「『多重転移』!!」
身なものを転移させる極大にして究極に難しい超高難易度魔術。作り出したのはフーリエで、使えたのは彼女とベリランダだけだ。
ベリランダは交戦していた魔道兵を抜いて、兵士達だけを、自分のすぐ後ろに転移させた。これで被害は敵陣にだけ残ることになる。
「やっちゃいなさい!!」
ベリランダの声が『念』となって暁の脳内に響き渡った。暁を笑みを浮かべ、腰を低く刀を強く握りしめる。
「往くぞ機械の少年よ!!」
「充填完了。目標へ『破壊光線』を放ちます。」
「『全能陣』!!」
暁の髪色が元に戻る。一見するといつも通りの暁に見えるが、その実態は全く違う。
瞳は漆黒に染った。
「3、2、1、」
「三、二、一、」
2人のカウントダウンが始まり、同時にゼロに到達した。
瞬間、暁は刀を振り下ろした。『0-0-2』は安全装置を捨てた。
「『暁』」
「『破壊光線』」
全属性を纏った、純粋な威力を誇る斬撃が飛んだ。
無差別に平等に全てを破壊する超魔力が放たれた。
結果は、両者が魔術を放った時点で、ベリランダには分かってしまった。圧倒的に暁が強かった。
紅色の斬撃は光線とぶつかり、そして大した衝撃波を産むことも無く、ゆっくりと光線をかき消して言った。
『0-0-2』の攻撃は簡単に押しつぶされてゆくが、耐えていた方である。ベリランダが躱さずに真っ向からぶつかり会うとしたら、1秒と持たなかった。
この世界最強の斬撃は、ゆっくりと残酷に、それまで脅威として数えられていた兵器の存在をかき消した。
そして、その先にいた魔道兵らをことごとく消し炭に変え、敵の5分の3を消滅させて、暁は大勝利を掴み取った。
爆発をせず、ゆっくりと蝕むように消えてゆく美しい斬撃に、この戦場の誰もが10秒も動きを止めてしまった。
「ほう。」
その斬撃を見て、ヴィオラは楽しげに笑った。相手をしていたヴィレスは絶句している。
「は?あんなの聞いてねぇ……。ヴィクティムのレーザー並じゃねぇか……あれを人間が?マジか………」
ヴィレスは地面に跪き、絶望した様子で呟いた。
「最後の最後で……難易度高すぎるだろォ!!」
癇癪を起こすヴィレス。ヴィオラは醜態を晒す彼を見下ろし、剣を作り出した。
「おい。ボンクラ。」
「ち……俺のことか。」
「よく見ておけ。余はあれと同じ威力の魔術は放てまいが、あれと同じぐらいの脅威にはなれるぞ。」
腰の剣に手をかける。ヴィレスは「へへっ」と笑うと、両手剣を構えて笑った。
「負けることはねぇ。いつだってそうだった。今回もやってやるよ人間!!」
「余を、人間だと舐めるなよ。足元をすくうのは余だ。」
再び強者がぶつかる。遠くでそれを察知した暁。本当はすぐに向かいたいが、あれだけの大技を放ってノーリスクなわけがなく、地面に力なく倒れ込んだ。魔力消費が激しすぎた。
「ひひ………父上、少しは、拙者を見てくれたでござるか。」
そして、訪れた短い静寂に、暁はゆっくりと眠りに落ちた。
名:斬嵜暁 種族:魔人 状態:全能陣
生命力:18000 魔力:20000 腕力:19200 脚力:18900
知力:380 獄値:38240