生き残る
200部到達です。読んでくださっている方々、ありがとうございます。書き始め1年ちょっと。書き終わらせる予定は一応あるので、これからもよろしくです。あと、誤字があったら言ってくれてもいいんですよ?
「うわぁぁぁ始まっちゃいましたよぉ………」
戦場に打ち上がった汚い花火を見て、ヒナは戦争の開始を理解した。『耳長族化』したヒナの視力も聴力は格段にあがり、高谷が『0-0-2』を打ち上げるのもしっかりと捉えていた。
そもそも車が走ってきている時点でもう敵が来たことは理解したのだが、
「なんですかっ!!この量!!」
目の前に広がるのは銀世界。それが雪であれば何も感じることは無いが、今回はその全てが殺めるべき敵なのだ。
遠距離に長けているからと後方を任され、大抵は前衛が何とかしてくれる、取り逃した敵を倒せばそれで勝てると思っていた。
だがそんなことはなく、想定よりも断然多い数の敵に、意外と前衛といい勝負をしていて、しかも頼みの綱の四大剣将の最高実力の2人は敵の実力者の対処におわれているようだった。
前衛を務めているのは、高谷、リアン、エリメア、ライト、零亡だ。
高谷はまだ『血獣化』をしようせず、時折負傷した仲間に血を分けている。リアンとエリメアは魔獣を次々と薙ぎ倒し、しかしその数は底知れず、埒が明かない。零亡とライトはヒナには見えない速度で戦場を駆け回り、確実に敵の数を減らしていた。
実力者達が本気を出してこの程度。少しずつこちら側は押されつつある。流石にここまでの量を誰も予想していなかった。
誰かが大技で大部分を削ったりして見せれば士気が上がるというものだが、魔道兵の大部分を削る程の大技を放てる人物は、ヴィオラと暁、『勇者』リアンぐらいではないだろうか。
「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい!!」
「だーめ。」
「げぶっ!?」
ブルブルと震えて駆け出そうとするヒナを、真上から落ちてきたベリランダが抑え込む。地面にうつ伏せに押し付けられて尚抵抗するヒナにチョップをかまして、落ち着いたヒナを立ち上がらせた。
「全く。みんな頑張ってるって言うのに。」
「ううぅ……だって私はモブですし、私が逃げ出したって……」
「もう!!そんなこと言ってるけど、あんたにはやることがあるでしょ。」
「や、やること……?」
泣き出しそうな、というよりかは既に泣いて頭を抱えているヒナの服のポッケを、ベリランダは指さした。
「その手紙、渡すんじゃないの?誰か、この戦場にいる人に。」
「ッ!!」
ハッとしたようにヒナがポッケを見下ろした。そこには折られた真っ白な紙が入っている。この戦場に、もしかしたら来ているかもしれない1人の少女に渡す手紙を、彼女はそっとポッケに押し込んだ。
「逃げたら渡せないよ?ここで何かを起こさなきゃ変わらないかもしれない。」
「はい……」
「当たって砕けろよ?あたし、そういう人好きだよ。」
ヒナは戦場を見渡した。『耳長族化』して拡張した視力でも、サリエルは見えない。殺戮と復讐心が渦巻くこの戦場に、あの美しい微笑みは存在していない。
だが1つだけ、希望があった。魔道兵が出現した瞬間、車から飛び降りた2人のうち片方は、来ていた服や見た目がサリエルに告示していた。
本当に彼女なのかは分からない。しかし信じてもいい気がする。戦争中は失敗どうこう言っている場合ではない。当たって砕けろ。悪くない考えなのだとヒナは思った。
若干流されている節があるし、アドレナリンのせいで判断力が鈍くなってしまっているが、その選択をして間違いだと、誰も責めはしないだろう。
「後衛は私だけで十分。行ってきたら?」
「……すみません。私、行ってきます!!」
ヒナはそう言うと駆け出した。パタパタと足音を立てて、防壁の上を走っていく小さな背中を見つめながら、ベリランダは最後まで微笑んでいたが、ヒナが見えなくなったところで、誰にも見えないように俯いた。
「ごめんね………ヒナさん。」
いずれ来る絶望と渇望に、ベリランダという少女は1人、涙を堪えていた。
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「うわぁぁぁああああ!?!?」
「やっべぇぇえええ!?!?」
不可思議な動きを繰り返す魔道兵の攻撃に翻弄されるカリム達。なんとかサリエルに教えてもらった編成で安定して戦ってはいたのだが、それでも彼らは実力者にしごかれただけであって、実際余程強いという程でもない。
だから限界というものがある。
前衛のトリックの体力が底を尽き、トリックを助け出す時にノヴァが負傷し、今はその2人を高谷の血を吸わせながら背負って走っているところだ。
後ろからの銃弾や魔術がかすれる度、背筋がスっと冷たくなる。
血に飢えたかのように人間に固執して狙い続ける魔道兵に、大半の兵士が嫌悪感を抱いていた。
カリムらも例外ではなく、ここまで数が多く面倒くさいとなると、陽気な彼らでも対処しきれない。
黙々と死の気配は近づいており、それを持ち前の元気さで塗りつぶしていたがもう限界だ。今は逃げに徹しよう。
「走れ走れぇ!!」
「トイレ行っていいー!?」
「なァに!?このタイミングで!?」
戦う前のカリムのようなことを言って、インが息をあがらせる。インの発言を聞いて、自分がどれほど無駄なことをしたのだろうかと思い知らされた。
「クッソおめぇ!!」
でかい図体のトリックを背負ったカリムの体力が大きくそがれる。インが魔術でトリックの重さを軽減させ、カリムの能力をあげるバフを付与し、なんとか堪えている。
周りにはあまり他の兵士がいない。調子が良かった4人を見て、他の兵士達は手助けは必要ないと判断して、違う場所の対処をしている。
守れる範囲が広がるいい判断だったが、カリム達のことを信用しすぎた。あまり体力には自信が無い4人を残して言ってしまったのは愚策だ。
「大丈夫!?交代する!?」
「いや!!今この凄まじい尿意を力に!!」
「なにそれかっこいい!!」
「いやどこが!?」
「行くぜ!!俺の膀胱はもう限界だ!!」
絶望しかけた他の2人を元気づけようと冗談をかますカリム。実の所尿意なんてものは無い。既に戦闘中に怖くて漏らしているからだ。
「ッ!?」
と、そんなカリムの右足が不自然に浮き上がり、体勢を崩して倒れてしまった。必死に起き上がろうとしたところで、右足に痺れるような激痛が走った。
「いっ!?な、なんだ?」
と、足を左右に傾けて見せると、右足の脹ら脛側面に、血を流している穴があった。銃の流れ弾が当たってしまったらしい。
「カリム!!」
「カリムゥ!!」
「ちょ、マジやべぇ……」
痛みに動けなくなってしまったカリム。絶叫したないだけ耐えている方だ。だがそれ以上のことは出来ず、後ろから迫ってくる魔道兵に恐怖する。
「俺はいい!!多分どうにかなる!!なるから!!トリックだけでも!!」
全く説得力のない言葉をインとノヴァに叫び、トリックを後ろに投げ飛ばした。
2人がトリックを持ち上げた音が聞こえた。さて、これからどうするかとカリムが思案を始める。正直抜け出せる算段なんてないし、そもそも動ける気がしないし、痛みに脳が支配されているせいでまともに思考できない。まともに出来ても同じだとは思うが。
本当の死を覚悟せざるを得ないのだろうかとカリムは思い、せめてと自分が放てる1番大きな魔術の準備しようとした所で、
「げっふ!?」
「バッカ野郎!!」
カリムの頭を思いっきりインが殴りつけ、襟を掴んで走り出す。引きづられるカリムの足が擦れて痛むが、今はそんなことはどうでも良い。
「おい!!俺ってば動けねぇから足でまといでしかねぇぞ!!」
「関係ねぇってそんなこと!!仲間だろ!?」
「そう!!今はとにかく走るよ!!」
トリックを担ぐノヴァが息を上げて走っている。インも負けじと駆けるが、この4人の中では最も体力のないインは魔術のサポートがあってもすぐにバテてしまう。
「もういいって!!いやガチでどうにかスっから!!」
「見捨てられっかよ!!カリム!!」
「な、なんでそんなにさ……」
「前に話したでしょ!?だって君はさぁ!!」
インは振り返り、いつもの天真爛漫な笑顔ではなく、女の子らしい可愛らしい微笑みを浮かべて、
「初めてできた僕の友達なんだからァ!!」
「ッ!!」
その言葉を聞いてハッとするカリム。そして同時に感激する。友の自分に対する情がここまで深いとは、カリムも思っていなかった。
インのそんな恥ずかしい発言を聞いて、カリムもいつも以上の元気が出てきた。
「そういえばお前、ぼっちだったなぁ!!」
「あぁ悪かったなぼっちでぇ!!」
いつも通りの冗談を兼ねて、カリムとインは走り出す。足の痛みなんて忘れて、今ここにいる仲間に迷惑をかけぬように生き抜く。
「うぉぉおお!!ぜってぇ生き残る!!」
「そうだな!!」
「はしれぇぇええ!!」
改めて友情を紡ぎ強くしたところで、3人は仲良く全力疾走し、退却していった。