戦少女
セシンドグロス王国の鉱石採掘所にて、
「はぁあ!!」
凛とした雄叫びが響き、押しかけた魔道兵らの上半身が一瞬で吹き飛んでいく。あまりに呆気ない手応えに、ヒバリはやや物足りなさそうだ。
「セシンドグロスは、この程度の軍勢に圧倒されたというのか?」
一般兵士の強さがどの程度かまでは知らないが、少なくともエレジアなら一掃できる程度の実力だった。
攻撃も単純で、連携は取れているものの、戦闘員なら対処できないレベルではなかった。厄介なのは遠くから放たれる銃弾だが、それも何らかの方法で壁やらなんやらで防げる。むしろそういう魔術はヒバリよりもエレジアの方が慣れているはずだ。
そう首を傾げていると、ゼルギアが嘆息して言った。
「1人、そこらの雑魚兵よりも一線を画した戦士が1人居た。エレジアが負けるほどだ。俺は到底敵うまい。」
どうやらゼルギアもその戦士にやられたようだ。セルティアは覚えている限り、上手く逃げることが出来たらしい。
「それに、この国の兵隊も、その武器に対応しきれなかった。兵隊の半分以上が寝返り、敵の味方に着いた。途中なんども我らを襲ってきた人間は全て、我が国の兵士だったもの達だ。我と同じように操られているかと思っていたが、我のような機械はつけていなかった。つまりは元より裏切る予定だったのだろうな。」
大半の裏切り者はこの国に残っているらしく、監視を続けていたらしい。その統率者もいるようで、今はヒバリ達を躍起になって探しているようだ。
見つけた魔道兵は、見た情報を共有できる能力があるらしく、指示を出している者に情報を与え、ヒバリ達の居場所に兵を送り込んでいるのだ。
今のところは同じ敵を送られてくるだけでまだいいが、他の形態の敵が現れてもおかしくはない。何とも面倒なことになってしまったと、ヒバリは頭を抱える。
「その統率者を殺せば、ここは一時安全になるのか。」
「分からん。少なくとも、魔道兵が連携して襲ってくることはなくなるだろうが……貴様からすれば、ここの魔道兵など屁でもないだろう?」
「そうだな。」
風龍剣を振り回し、ヒバリは笑みを浮かべる。改めて自身の強さを実感したからだ。あの修行でだいぶ力が着いたようだ。
それから半壊した城を隙間から除く。小さなドローンが動き回っており、1歩でも外に出ようものなら、居場所が一瞬でバレて魔道兵が送り込まれてくる。
そうなれば、圧倒的数の暴力に押し負けてしまうだろう。
だがヒバリには関係ない。ヒバリの能力は元々、複数の敵に有効なものだ。それに今は実力が上がっており、まだ本気は出ていない。
ここはひとつ。挑戦してみようとヒバリは思った。ヒバリは自身の本気の力を再確認するために突っ込むことを決心する。
「エレジア殿を担いで『龍の都』へ向かえるか?」
「問題ない。幸い両脚は動く。」
行こうとするヒバリを止めることなく、ゼルギアはエレジアを背負って背を向ける。と、ゼルギアは立ち止まると、振り返らずに少し顔をこちらに向けて小さく呟いた。
「我に諦めさせたのだ。負けるなよ『剣聖』。お前は我らの希望である。」
「………あぁ。負けないさ。」
その言葉が激励となり、ヒバリは本気の表情になる。鋭い目付きで敵の本拠地を見据え、風龍剣を鞘に収める。
「どうかご無事で。」
「それは貴様に言われるべき言葉だ。征け。」
「それもそうだな。」
最後にそんな他愛ない会話をして、ヒバリは風に紛れて城へと駆けていったのだった。
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少し戦場から離れたところで、2人の強者が睨み合っていた。
「あんたが『剣王』だな?」
「そうであればなんだ?」
「お前の魂はでかそうだから使えるんだ。俺らの仲間になるというのなら話は別だけどな。その能力、普通に羨ましいしな。」
「たわけ。戦場での他話など、お前は戦いをなんだと思っている。」
へらへらと言葉を連ねるヴィレスに、ヴィオラは椅子から立ち上がって真っ向から受け持とうと剣を作り出した。
「余は今眠い。少しは目が覚めるようなことをして見せろ。」
「はっ。話には聞いていたが、自身の実力を信じて疑わないようだな。」
ヴィレスは心臓部に手を当てて何かを祈るように目を閉じた。すると、彼の前に暗いワープゲートの様なものが展開され、そこからゆっくりと赤と青の剣が姿を現した。
それを掴み取り、鋭く睨むように構えて、ヴィレスは戦いの前に一言忠告した。
「あまりに自信を過信すると、いずれ足元をすくわれるぞ。特に、お前のようなやつはな。」
「そうか。ならば余の足をすくえるように努力することだ。」
そうして、強者がぶつかり合い始める。強い覇気が舞い、周りの者共は実力の差を見せつけられる。
そんな戦闘が、この場所以外にも起きていた。
「ぬぅ?」
「あ、いたいたー。」
戦場に似合わぬ明るい笑み手を振る少年。舞い込んだのかと思った暁は少年にゆっくりと歩み寄った。
「如何なされた少年。こんなところで危ないでござるよ?」
「うん。すごーく危ないのは知っているよ。」
そう言った少年、『0-0-2』の右でが変形してチェンソーになった。そして何かを言わせる暇もなく、『0-0-2』はチェンソーを振り回した。
「おねーさんがね。」
「うむ。」
得意げに言ってのけてチェンソーを叩きつけた『0-0-2』。だが、その獄速の攻撃を、暁は即座に引き抜いた刀で受け止め、切断していた。
「拙者が危ないと言ったのは、ここにいると拙者に敵と察知され、切られるからという理由でござるよ?」
「へぇ。強いねーおねーさん。でもねー、僕も引く訳には行かないのさ。」
チェンソーを捨て、新たに出現した腕は、エネルギーで作られた刃だ。不思議な音を奏でるその刃を振り回し、『0-0-2』はニヤリと笑う。
「僕と、にーさんが連れてきたおねーちゃんで、お前を殺す。」
「むぅ?どれか誰だか分からんでござるが………」
「分からなくてもいいよー。死ぬもん。」
暁はまた1つの気配を感じとって振り向いた。そこには光を纏い、白いローブに身を包んだ、恐らく美しい女性。背中から生える大きな翼が印象的で、すぐ側には鎖がぐるぐると回転している。
「鎖、翼、その神聖魔力……『不死』殿が言っていた、『天使』殿でござるな。」
暁は嬉しそうに笑うと、サリエルの頭に付けられた機械をじっと見つめて、少しつついた。
途端に鎖が猛威を振るい始め、咄嗟に避けた暁の足場は一瞬にして粉々になった。
「なんとも乱暴でござる。」
「まだ慣れてないんだよきっと。」
強者の余裕なのか、2人はそんなことを言い合いながらも本気の殺し合いを始めている。高速の斬撃が舞い、火花が散る。たまに乱入してくる鎖を上手く躱しつつ、しっかりと『0-0-2』の相手をしてみせる暁。
そんな彼女に、『0-0-2』は驚いたように目を見開いて距離をとる。
「驚いたー。思ったいじょーに強い〜。」
「拙者は未熟なる少年に負けるほど、弱くはないでござるよ!!」
「へぇ?未熟かぁ。」
『0-0-2』は少し考え込むような仕草を見せたあと、何かを思いついたかのようにパチンと指を鳴らした。
「よし、決めたよおねーさん。」
「?」
「お前のことは本気で、叩きのめそうと思う。」
その矮躯からは想像も出来ないほどに低い声でそう告げた瞬間、殺気と気配が膨張した。戦場で強い的に会うとワクワクしてしまう類のものらしい。
相手にとっては辛いこと。だが、暁には通じない。なぜなら、
「面白くなってきたでござるな!!」
彼女もまた、戦少女に恥じぬイカレっぷりを持つ少女だったからだ。