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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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再度また

「なぁ、あれってなんだ?」

「さぁ?」


前線に配置された兵士達は、前方から走ってくる1つの異物に目を向けていた。見たことの無い形状。不思議な進み方。砂漠の砂をまきあげながら向かってくるそれは、中に人を乗せているようだった。


「もしかしてさ、あれが敵なのかな?」

「たったあれだけか?」

「とりあえず、見たことの無いものなんだ。警戒するぞ。」


兵士達は数が少ないからと油断することはなく、十分な警戒態勢をしいて前方の物体に視線を向けた。何人かの兵士が後方の実力者を呼びに行く。


「ッ………あれって………。」

「来たようだね。」


異変に気がついて駆けてきた高谷とリーヌが、その物体を見て息を呑んだ。それはどこからどう見ても車だった。兵士達は魔力を練り、何時でも全力戦闘ができるように構えている。


安心とまでは行かないが、油断しているよりかはマシだ。高谷も新調した腰の剣を引き抜き、鞘を放り捨てる。 リーヌはリアンの聖剣に引けを取らないほどに神聖な剣を両手で握りしめている。


「ッ………」


と、車の屋根の部分に1人の人間が立ち上がった。その手に持つ得物を見て、高谷はすぐさま声を上げる。


「リーヌさん!!速度上げ!!」

「『風のように爽やかに』!!」


リーヌが叫ぶと、前線の兵士達と高谷の移動速度が上昇する。高谷が駆け出し、ベテラン兵士達はすぐさま対応してその場から退いた。


兵士達は相手が持っている武器の性能を知らない。だから知っているであろう高谷に対処を任せた。相手がこちらに向けている、高谷から聞いていた銃という武器に酷似した武器の対処を。


「ぉぉおおらあァァ!!」


敵は雄叫びを上げて銃の引き金を引く。瞬間、激しい音を立てて銃弾が大量に放たれた。銃口は左右に揺らされ、弾は横並びに打ち出される。高谷は左腕に剣を突き刺して血を塗りつけ、『崩御』の能力をあげる。


「『崩御の一閃』!!」


横凪に奮った青い炎の斬撃が、その範囲ギリギリまで拡散した銃弾を受止め消し去る。溶けた弾は地面に落ちて煙をあげる。


敵はリロードに入ったようで、追撃は来ない。攻めるなら今だろう。


「『炎閃』!!『氷閃』!!」


剣先から2つの属性の基本魔術を打ち上げぶつけ、炎の光を綺麗に反射した花火が出来上がる。それを合図に、背後に下がった兵士達が駆け出す。


「せぇえい!!」

「突かれたぜ。隙をな。」


突き出された剣を、敵の男は銃を盾にして防ぐ。銃は貫通し、使い物にならなくなった。


「らぁ!!」

「くっ!!」


敵の男、ヴィレスは縦に一回転して車の屋根に銃と高谷の剣を叩きつけ、穴が空く。


「へ……お前、『不死』のやつだな?」

「そうだけど?」

「俺はヴィレス。お前は?」

「名乗るほどの者でも!!」


高谷は思いっきり剣を振り上げる。ヴィレスは体を逸らしてその斬撃を躱した。空いていた穴を塞ぐものが無くなった。


「『0-0-2』!!パス!!」

「よいしょー!!」


その穴から1人の少年が飛び出し、小さなカプセルのような物をヴィレスに投げ渡した。それから見せた足裏がぱかりと開き、赤熱化した銃口が覗いた。


「じゃーねー!!」


少年、『0-0-2』は楽しげにそう言って極熱の弾丸を高谷の顔面に3発も打ち込んだ。肉が焼けて溶け、じゅうじゅうと音を立てて焦げ臭い匂いが立ちこめる。


「へへっ。頼んだぜ『0-0-2』!!」

「おっけー!!」


ヴィレスは『0-0-2』にそう言って車から飛び降りた。『0-0-2』は車の上に倒れて動かなくなった高谷を踏みつける。


「おにーさんまだ動けるでしょ?だって『不死』だもんね!!死んだフリー!!」

「バレちゃってたか。」


いつも通りの顔に元通りになっていた高谷が苦笑い。『0-0-2』もその笑顔に微笑み返して高谷の顔面を踏みつけ、銃を放つ。


顔面を、頭を貫通した。しかし白い蒸気が吹き出して、秒で高谷が再生する。


「ずるーい!!僕そんなに強くなーい!!」

「実力がない俺に対しての、ハンデってやつさ!!」


『0-0-2』の背中が開き、大量のミサイルが顔を覗かせる。高谷は殺る気に満ちた笑顔を見せ、『0-0-2』がミサイルを打ち出す前に蹴りあげた。直後に放たれたミサイルが空中で花火のように爆発する。


「よし!!」


大爆音が響き渡り、光る爆光に遠くの味方まで戦闘が開始したことが伝わっただろう。あとは『0-0-2』を引き止めるのが、今の高谷がやれることの中で最も味方に貢献できるが、


「あーあ。花火になっちゃった。終わりー。」

「逃げるのかい?」

「僕は相手する人が決まってるのー。じゃーねー。」


そう言って『0-0-2』は背中からブーストを噴射して直ぐに飛んでいってしまった。翼を生やしても追いつけそうにないため、高谷は追うのを断念した。


「まぁ、あの子の相手ってことは相当の実力者だろうし、ヴィオラさんか暁さんかな?まぁ、どっちもすごく強いし、そこは任せても良さそうだな。あとは………」


上空から落下しながら高谷は思案する。目を開けると、窓から銃を打ちまくりながら無理矢理に進み続ける車が見えた。今のところ死亡者は居らず、皆ベテランということで、高谷が全然に飛び出したおかげでどう言った武器なのかをすぐさま理解したようだ。


理解すれば対処はそう難しくはない。ベテラン兵士達は剣で弾いたり砂にもぐったり躱したりしている。中には銃弾の雨の中で反撃を打つ者も。


「よし、俺も加勢を………」


地面に降り立ち、駆け出そうとした高谷。その時、真後ろでガシャンと大きな音がした。


直ぐに振り返ると、そこには驚くべき光景が拡がっていた。


「嘘、だろ………」


こちらの軍勢の約10倍の量の魔道兵達が、何も無いところから急に出現したのだ。


そして高谷は、車の上で投げ渡されたカプセルを思い出した。ヴィレスが持っていったそれから、魔道兵達が転送されたのだろうか。


と、魔道兵達の目が光り、各々の武器を握りしめて歩み始める。魔道兵だけでなく、そこには魔物も紛れているようだ。そこそこ面倒な魔獣もいるため、手を出すことは少し嫌ではある。それに、後ろを走っている車も不安なのだ。


「…………ッ、いや、大丈夫だ。強い人達が沢山いるのだから!!」


高谷は頭を振って嫌な考えを捨て去り、後ろで構える仲間達を信じて剣を握り直す。と、高谷の真横に長く白い剣が突き刺さった。全ての光を清く反射するその剣は、すぐさま持ち主が迎えに来てくれた。


「やぁ。大変そうだし、僕も参加するよ。」

「リアンさん……。」


その持ち主はリアン。『勇者』が駆けつけてくれたようだ。戦力が増えるのはありがたい。後ろからはどんどん味方達が走ってくる。鉄甲兜を被った敵達に恐れを抱くことなく、ただ倒すと躍起になっているようだ。


「よし、それじゃあ………」

「始めようか!!」


リアンと高谷が構える。目の前の魔道兵が飛び出した。それを難なく切り飛ばし、それから、遂に始まったのだと実感して、高谷は叫んだ。



「戦争を!!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


真っ暗な牢の中、ルージュは格子の隙間から見える、壁に出来た大きな傷を眺めていた。


それはかつて、快斗と高谷がヒバリに会おうとしてから脱出した場所だ。一応完全に塞いだのだが、元あった壁と埋めた場所が上手く噛み合っておらず、不自然に浮き上がっていた。


それからルージュは自身の膝に顔を埋めて呟いた。


「本当に、あの方が現れてくださったらどんなに良いか。」


ただの独り言。だが、皆が昏睡している今、そんな小さな悲しみも虚しく牢獄に響き渡ってしまう。


ルージュは涙を流さない。だが、これ以上ないほどに心を傷つけていた。姉が乗っ取られたのだ。それも見たことの無いような動きで圧倒され、気がつけばこんな暗い牢に閉じ込められているという悲劇。


己の無力さを痛感し、ルージュはただ祈りを捧げる。


「お願いします。快斗殿、高谷殿………どうか、姉を……救ってください……」


虚空に向かってそう呟いてから、地面に視線を落とした。そのつぶやきに誰かの言葉が帰ってこないことはもう分かっていたから。


だが、今日は一味違った。


「あぁ。分かった。任せろ。」

「………へ?」


明るい少年の声。何度も願って欲しがったその人の声を聞いて、ルージュが顔を上げる。白髪でオールバックの、左右が赤青の瞳の特徴的な風貌の少年。彼は担いでいた魔道兵の残骸を投げ捨て、牢を殴って破壊した。


「でもそのためには、少しでも戦力が欲しい。」


ルージュは口を開けたまま動けなかった。本当にその人がいたから。姉が愛していると告げまくっていたその人が、信じられないことにここにいるのだ。


その人は、暗い空間でも分かるくらいに明るく二っと笑って、


「出てきてくれ。ルージュさんよ。一緒にルーネスさんを救い出して、もっかいハグしてもらおうぜ!!」


少年、快斗はそう宣言して、草薙剣を掲げて笑ったのだった。

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