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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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開幕

「ヴィクティム、そちらの準備は終えたか?」

『今終わったよ!!』

「了解だ。装填を始めろ。」

『じゃあ、始めよう!!そろそろ!!』

「分かった。こちらも用意はできている。」


耳に着けたワイヤレスイヤホン。そこから響く声に返事をして、ヴァイスはハンドルを掴む力を強くする。


走っているのは砂漠のため、速度は通常よりもだいぶ遅い。乗っている車には様々な武器が積み込まれており、後ろではヴィレスがそれらの武器を弄り回している。


「お前、銃なんて使わないだろ。」

「敵が俺の近くに来るまでは銃で応戦する。」

「確かに、前線は俺が引き受けるし、何かあったらヴィクティムが殺ってくれるからな。銃で十分なのかもな。」


他愛のない会話をしながら、ヴィレスは窓の外を見る。砂埃でよく見えないが、その奥には自分が提案した構造の魔物が戯れている。ヴィレスは杜撰な性格とは裏腹に、提案した魔物はどれも可愛い動物の姿だ。


人間に対しては敵対心がむき出しだと言うのに、動物に対しては情があるのだ。


「でもよ、相手にお前も警戒してる奴が2人いるだろう?」

「確かに、奴らには銃程度は聞かないだろうな。」

「剣女は俺が殺る。お前はどうするんだ?」

「雑魚処理だ。」

「?戦少女はどうするんだ?」

「それは………」


ヴァイスは隣に座っている少女を一瞥した。黒いアイマスクのようなもので目隠しされた少女、サリエルは微動だにせず、前を向いたままだ。


「そいつを使うのか?」

「それだけじゃ足りない。『0-0-2』を使う。」

「『0-0-1』は?」

「穢れ魂に使う。」

「あぁ。確かにいいかもしれないなぁ。」


ヴィレスは楽しそうに口元を歪めた。ヴィレスの隣で同じように武器をいじっていた『0-0-2』も一緒に笑って言う。


「おねーちゃんをそのにーさんに使うのかー。面白いねー。」

「なぁ?ヴァイスも残酷なことを考えるもんだな。」

「あぁ。」


ヴァイスは視線を離さずに黙り込んだ後、決意を胸にハンドルをきる。


目の前に現れた魔物を避けるためだ。車が大きく揺れ、後ろにいたヴィレスと『0-0-2』が壁にぶつかった。


「いってぇな!!曲がる時は曲がると言え!!」

「いたーい!!」


後ろの2人がガミガミと発言する。適当に相槌したが、ヴァイスはその言葉にちゃんと反応していない。頭にあるのは全て命の恩人へ対しての忠誠心しかない。


「必ず助け出す。あの方を、必ず………!!」


いつにもなくワクワクした様子で、目の前に現れる魔物を避けるため、ハンドルをきり続けるのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふふ、どこ行ったのかなぁ。穢れ魂。」


装置の整備を終えたヴィクティムは高揚した様子で自身が創造した装置に座った。入れたばかりのコーヒーを飲みながら、小さなモニターに文字や座標を打ち込み、探し物の位置を確認しようとしている。


あの人物に助けられてからもう何度もこの作業を繰り返してきた。同胞、ヴィレスとヴァイスと出会ってからずっと、考えることの半分はある人物をことを考えている。


救ってくれた。こんなに歪んだヴィクティムさえも許し助けてくれたのだ。感謝尽きず、助け出したい。そしてまた始めたい。

あの、壮大な仕返しを。


「会ったなんて言ってくれるかなぁ?褒めてくれるのかなぁ?」


喜び方は非常に幼稚で、落ち着かない様子で足をじたばたと動かしている。そうなってしまうほどに、ここまでの道のりは長かった。


ある人物の妹が1つのゲームを始めてくれたおかげで、想定よりもずっと早く救出が出来そうだ。


「きっと彼女も、あの方の復活を心待ちにしているはずだ。だからずっと!!守ってきてくれたんだ!!あの、方を!!」


広い空間に響き渡る声。ヴィクティムは本当に落ち着けないようで、壁を殴って平常を保つ。


後ろではそれをじっと見つめる様にして立っている女性がいる。その女性にはアイマスクのようなものが付けられており、目を隠している。全く動かない彼女を見て、ヴィクティムは高笑いした。


「全く、穢れ魂に惚れるのは構わないけど、命かけるような真似はしないで欲しいね。」


ヴィクティムは強くそういうが、表情は笑顔のまま。どんな邪魔事も、今では高揚感に塗りつぶされてしまうようだ。


「ヴィクティム。」

「?」


と、その奥の扉から1人の老人が入ってきた。酷く衰退したその体を必死に動かし、ヴィクティムのそばまで近づいた。


「なにさおじいちゃん。」

「既に整備は終えたのか?」

「終わったよ。まだやることはひとつあるけどね。そろそろ報告するよ。」

「はぁ………」


ヴィクティムの言葉を聞いて、老人はため息をついた。機嫌のいいヴィクティムは「どうした?」と聞いた。


「大事な時であろう。整備や報告は逐一するもんだ。今までもそうだっただろう。油断するな。実力を見誤るな。」


老人は杖を向け、ヴィクティムにそう指摘する。楽しげだったヴィクティムの表情が一気に曇った。


「なにさ……ここに来て説教?」

「緊張感をもてと言っているんだ。ここまでの道のりは長かった。それを全て無駄にしたくはあるまいて。」


老人はそう言い残し、扉へ向かう。どうやらそれを確認するためだけにここに来たようだ。


ヴィクティムはさっきまでの嬉しさや高揚感を全て忘れ、頭の中に苛立ちを生じていた。


「何もしないで後ろで見ているだけのジジィが……なにをぺちゃくちゃと………!! 」

「ふん。老人といえども、儂はこの防壁を張る、重大な役割がある。儂は大いに、お前らに貢献しているのだぞ。」


浮き上がったエレスト王国には、一応外部からの攻撃を跳ね返すバリアが張られている。そのバリアは、この老人が作り出したものだ。


あの時代でも良く活躍はしてくれたが、ヴィクティムはこの老人が好きではなかった。何かと若者を見下すし、臭い。正直嫌いだ。


だから、この老人が仲間に加わるとなった時は反対しかけたが、あの人物を復活させられるのならと約束したのだ。戦闘ではめっぽう弱い、この老人を殺さないと。


だが、それは今までの話だ。


「むッ!?」


老人が転んだ。その拍子に頭を強く地面にうちつけた。目はクラクラとしたが、脳にダメージがいってしまった訳では無いようだ。


「たく、なんだと言うんだ……?」


老人がゆっくりと顔を上げると、そこには不思議なものが転がっていた。いつの間に現れたのか。よく毎日見ているそれは、無造作に目の前にころがっていた。


人間はそれを、足と呼ぶ。


「ぬ、ああぁぁぁぁあああ!?!?」


遅れてやってきた激痛に視界が赤く染まり、脳が灼熱に焼かれる。血が留まることなく流れ続ける足に回復術を掛けたが、少々流血の勢いが緩んだ程度で、痛みの緩和も傷の修復もできない。


「な、何故……!!儂はこの程度のはずでは………」


そんな時ハッとした。さっき注意したばかりの青年の能力を。一定範囲内の全ての対象の能力値を全て減少、又は無効にする。


老人が青年の方をむくと、青年は包丁を振り上げた姿勢で笑っていた。


「やっとお前を……!!殺れる!!」

「ま、待て!!儂を殺せばこのバリアは消え去る!!それでよいのか!!出来心で儂を殺すな!!」


ヴィクティムに必死で命乞いをする老人。命乞いといっても、かなり上から目線のものだが、老人にはきちんと殺されないという誓約があるはずだ。だが、ヴィクティムは首を傾げて大笑い。


「出来心?前々からずっと死ねって思ってたよ老害!!いちいちムカつくんだよ雑魚が!!」

「ぬぅ……」


頭を踏みつけ、ヴィクティムは包丁を首筋に突き立てる。


「なに、を………」

「実はさ。ヴァイスがお前を殺していいって許可を下したんだよ。」

「!?」

「お前はもう用済みさ。俺の装置の邪魔になるし、だったら糧にするべきだしね。アッハハ!!」

「糧……だと………?」

「そうさ。」


ヴィクティムはさっきまで座っていた装置を指さした。エレスト王国の城に寄りかかるように設置されたそれは大きな砲台のような形をしていた。


「あれはさ。人間の魂でエネルギーを蓄える装置なのさ。」

「く………」

「お前の魂も、あそこに入れてやるよ。経験が多いお前は中々使えそうだ!!」


そう言ってヴィクティムは老人の首を包丁で掻っ切った。足以上の流血。もはや助かることは無い。


「ばいばい老害。精々生まれた自分を恨むんだね。」


そう言って、老人の最後に飛びっきりの笑顔でヴィクティムはウインクした。


老人は息絶え、その魂は装置へと吸い込まれた。エネルギーに変換され、もはや転生もできない。だが、ヴィクティム達の計画には大いに貢献する。


「ふふ、邪魔はなくなった。」


ヴィクティムは笑って装置に寄りかかる。


「そうだ。あの方の位置情報を………」


再度モニターを操作して、探している人物の居場所を正確に把握しようとした。


その人物が来ていた服の切れ端。それを媒体に念を辿って位置を計測する。今まではどの世界にいるのかしか分からなかったが、今はその世界にいる。あとはどこにいるのか調べるだけだ。


「さぁて、どこに……」


と、検索と出たバーを押しかけた瞬間、左耳が疼いた。触れると、ワイヤレスイヤホンが振動している。応答すると、送信主はヴァイスだった。


『ヴィクティム、そちらの準備は終えたか?』

「今終わったよ!!」

『了解だ。装填を始めろ。』

「じゃあ、始めよう!!そろそろ!!」

『分かった。こちらも用意はできている。』


その言葉で通話は終わり、ヴィクティムは装置の装填を始めようとする。が、あの人物の居場所を知りたくて留まった。


モニターに写った検索バー。そこにはあの人物の名が入力されている。あとは検索を押すだけなのだが、ヴィクティムは装置の充填を始める。


「まぁ、後でいいか!!」


鼻歌交じりに、そんなことを言って検索するのを辞めた。戦闘中、援護しながらでも検索は出来る。だから準備に徹しようと、彼は装置を弄り始める。


そして、ヴィクティムは検索を辞めたことを、一生後悔することになる。

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