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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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一旦、別れ

「ひーっ、ひーっ。マジでまずい。」


足の傷を見つめながら、死の危機を感じているその男は、怖いを超えて笑ってしまった。


左足は再起不能で、隠れてはいるもののすぐ側には魔道兵が目を光らせて歩いており、その手には自身の部下の首が握りしめられている。


無様で情けない自身に歯噛みし、男、騎士団長メシルは半ば折れた愛剣を握りしめて立ち上がる。


「部下が死んだなら、部下の恨みがあるのなら!!俺が生きているのなら!!!!今は敵を討つのみ!!!!」


メシルは馬鹿と呼ばれることは多かったが、実力自体は本物であり、その実力を部下達はしっかりと理解していた。仲間であったゼルギアやエレジアもだ。


そんな皆の触れ合い方がメシルは好きだった。それをぶち壊したのがこの戦争だ。魔道兵が次々と乗り込み、信じていた仲間達が実は敵であり、正しく能力を理解されていたからこそ、彼は追い詰められた。


「おぉおお!!!!」


雄叫びをあげ、動かなくなった左足をぶら下げるようにして走り出す。その不格好さに彼自身、笑みがこぼれてしまうほどだ。ただ、殺せればいい。死ねば負け。負ければ死なのだ。


振るった剣の長さはいつもより短く、踏み込む距離も長い。相手は既にこちらの存在に気がついていたようで、持っていた大斧を振り上げていた。


しかし速さはメシルのほうが速い。持っている信念と恨みが、彼の刃の速度を上げた。


首に当たった刃は、硬い金属を切り裂き、魔道兵の重大機能を備えた機関を破壊した。


「ふぅ………さぁて」


メシルは周りを見渡した。1人壊したことにより、周りの魔道兵達が一斉にメシルに視線を向ける。その瞬間、魔道兵全員が銃や剣や斧などを取り出し、メシルに向かって飛び出した。


しが近づいてくる感覚。世界の動く速度が遅くなり、魔道兵の攻撃の隙間が見えた。だがそれに体が着いてくることは無い。これは走馬灯。死の直前の超覚醒。


メシルはゆっくりと目を閉じてその時を待つ。瞼の裏には今までの幸せな日々。笑顔が絶えない面白おかしな日々。いつかこうなるだろうと分かってはいたが、いざそうなると悲しい。


でも、そんなことを、死んだ部下に知られたくなくて、メシルは馬鹿みたいに笑顔を浮かべた。指導者として生き、慕われ、敬われ、敬愛されて、頼られて、この上なく、幸せだったと、メシルは笑い続ける。


「悔いはねぇな!!」


死を受けいれ、向かってくる刃に抵抗を見せない。メシルは自身の死を許容した。


だが運命はそうもいかないらしい。


「ラァアア!!!!」


短い咆哮が聞こえた途端、地響きとともに魔道兵達が吹き飛び、メシルの立っている地面以外が見事に陥没した。ほぼ片足立ちのメシルはバランスを崩し、耐えようと試みるがそれを無理で、陥没した地面のそこに落ちかける。


そのメシルを、跳んできた少年が受け止めて持ち上げる。


メシルはその少年を見上げ、目を見開いた。


「お前、あの悪魔じゃねぇか!!」

「およ?俺のこと知ってんの!!」


快斗は回転しながら、メシルにそう呟く。メシルは数秒彼を真顔で見つめたあと、二っと笑って面白げに快斗を見つめ直した。


「面白ぇじゃねぇか!!悪魔に助けられるなんてな!!ありがとよ!!」

「礼にゃ及ばねぇよ!!」


性格が似ている2人はこの瞬間に打ち解け、楽しげに笑いながらその場を去っていく。メシルは予想外の助っ人によって命を保った。


これが喜ばしいことなのかどうなのか。快斗は喜ばしいことだと思ってこの行動をしたのだが、メシルとしては死んでも良かったと思っている。


どうだろう。そっちの方が良かったのだろうか。彼は自分の答えも見つけられない。だがそれでいいと思った。曖昧なのが自分でとにかく笑ってればどうにかなる。


だからこの瞬間は、面白くなったこの瞬間は、精一杯笑っていようと、そう思った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「見つけたか。」

「おう。」


ぐったりしたメシルを放り投げ、快斗はフレイムに笑顔で答えた。


フレイムはメシルが未だ生きていると信じ、ここから抜け出す前に探してくれと快斗に頼んだ。


キューの『高物探知』で、メシルを探すと直ぐにわかった。キューの固有能力の『高物探知』は形のあるものだけでなく、概念的な、簡単に言うと、誰かが求めているものは全て『高物』と判定される。


実力も相まって、メシルはこの国の中で一際大きく反応した。


死ぬ前に間に合って良かったと、快斗は一息ついた。


「連れてきたようだな。」

「あぁ。キューのおかげでな。」

「キュイ!!」


周りを見ていたヒバリが戻ってきた。快斗はキューを持ち上げ掲げ、手柄は彼のものだと表明する。微笑ましい姿に、フレイムはなんだか不思議な感覚だ。


「で、そこで寝ているのが……」

「騎士団長だってさ。左足が死んじまってるから、この戦いが終わったら、片足生活だろうな。ま、なんかこいつは片足でも根性で戦うタイプな気がする。」

「…………。」


快斗は痛みも忘れて呑気に寝ているメシルの頬をつつく。傷口には布が巻いてあり、止血はしてあったが、病原菌やらなんやらが入り込んだら大変なことになる。


そうわかっていた快斗は、メシルの許可を得た上で左足を切断した。今は掘り出した回復薬を塗りたくって傷口を塞ぎ、多少の違和感と痛みはあるものの、死ぬことはなくなった。


「足斬っても叫ぶどころか余裕だって言ったんだぜこいつ。すげぇよな。」


根性の差か、気合いの差か。快斗では出来ないような強がりをこの男はしてみせる。凄いやつだと、快斗は感心しながらメシルを背負う。


「んじゃ、行こうぜ。救出も出来たことだしよ。」

「そうだな。」

「ほら行くぞ。フレイムのおっさん。」

「あぁ………。」


フレイムは快斗の背中で気持ちよさそうに寝ているメシルを見つめる。紆余曲折あって古き友であるメシルが生きていて、フレイムはホッとしている。


同時に、助けてくるまでの短時間でメシルの良いところを見抜いた快斗にまた感心しているのだ。だから意味深な視線を向けてしまうし、何か裏があるのではと疑ってしまう。


だが快斗はそれを気にしていない様子だ。いや、実際気づいているし、気にもしてはいるのだが、そう思われても仕方が無いと彼自身が割り切っているのだ。


多様性、価値観、人がどう思うかなんて自分には分かりっこないと知っている。決して全部許容できないし、かと言って全てを否定することも無い。


彼はなぁなぁで生きている。朗らかに生きている。奔放に生きている。そんな生き方に、フレイムは少し憧れたのかもしれない。


昔から、性格故に様々なことを任され、期待され、1度逃げ場をなくした彼は現代のゆとり教育で育った若者の生き様に、心惹かれている。


「そうだな。」


答えフレイムは立ち上がり、歩き出す快斗達の後を追う。快斗とヒバリはそれを確認すると、歩み続ける。


国を抜けようと、3人は不思議な関係のまま進み出した。


助けたい人を助け、仲間は強くなって、何もかも順調だ。運が回っている。運勢の山が来ているのだ。


だからこそ、今度は谷が訪れる。


「ちょっちヒバリ頼むぜ。」

「あぁ。」


快斗はメシルをヒバリに預け、フレイムを突き飛ばした。フレイムは驚いて目を見開き、快斗を見つめる。と、快斗が大剣に弾き飛ばされて視界から消え去った。


「く……何奴……」


フレイムが見上げた先には、頭に機械が取り付けられたエレジアだ。彼女はゆっくりとフレイムに視線を向け、大剣を振り上げる。


「舐めるな!!」


流石にフレイムでも単純な剣技を見逃すほどの雑魚ではない。剣の腕は、メシルに勝るとも劣らない。


速度と小回りの良さ。その点においては完全に大剣よりも優位性がある。逆に、威力ではこちらに負がある。


一進一退。エレジアが魔術を使わない間は対等に戦えそうだ。


そして、もう1人の黒ずくめの男の相手は、当然ヒバリだ。


だが、男の能力を持ってしても、今のヒバリの剣技に勝るものはそうそういない。単純なものや、流派に則ったものだけではなく、快斗のように意外性のある剣技も今や対応可能。


「済まないが、相手にならない!!」


黒ずくめの男、頭に機械を取り付けられたゼルギアは、ヒバリの斬撃によって纏っていたアーマーを砕かれ、同時に壁をめり込むほどの力で殴り飛ばされ撃沈。しばらく起きることは無いだろう。


「はぁあ!!」


フレイムもなかなか戦えており、エレジアの大剣を弾いては肌に擦り傷を与える。まだ部下を助けられる手段がきっとあるのだと、フレイムは信じているから、殺さない。


「悪ぃ飛ばされた!!」


帰ってきた快斗がその勢いのままエレジアを突き飛ばす。瓦礫を突き抜け、強いからだの持ち主は傷つくことなく、ただただ無力に転がっていく。


「よく来てくれた。」

「あとで酒奢ってくれ。」

「お前はまだ飲酒禁止年齢だろう?」


フレイムに酒を媚びる快斗に、ヒバリがダメだとピシャリと言い聞かす。快斗はえー、と言って落ち込んだ。


それと同時に妙な身震いを感じる。


「あ?おい、ヒバリ足!!」

「?」


ヒバリの足を指さした快斗。ヒバリが首を傾げて足元を見ると、地面から木の根っこのような黒い紐が、ヒバリの足を絡めとっていた。


「ゼルギアに仕込まれていた魔術か!!」

「く………」


以前よりも格段と強くなったはずなのに、ヒバリはその紐を振り払うことが出来ない。


それの力は増していき、地面が陥没。ヒバリが血に埋まっていく。


「ヒバリ!!」


快斗がヒバリの手を掴み引き上げようとするが、そこまで紐が伸び、快斗の手まで絡め取ろうとする。


「手を離せ天野!!お前も埋まる!!」

「クッソ………ヒバリ、1人で行けるよな!?」

「当たり前だ!!」


別れを惜しむこともなく、快斗はヒバリに全霊の信頼を託して手を離す。ヒバリは地面に埋まり、どんどん魔力が離れていくのを感じる。


快斗は歯を噛み締めるが、頭を振って頬を叩くと、メシルを背負って振り返る。


「行くぞフレイムのおっさん!!死にたくなきゃ走れぇ!!」


フレイムは返事もせずに走って着いていく。後ろからは大量の魔道兵が迫ってきている事がわかったからだ。


「はぁ……ったくよ。ついてねぇ。」


快斗はそう悪態づいて、フレイムを引き連れて国の外へ全力疾走を続けるのだった。

名:エレジア・グレイシャール 種族:魔人 状態:機械化

生命力:3500 魔力:3200 腕力:4100 脚力:4400 知力:100

獄値:5650



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