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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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揺さぶられる感覚に、キューはゆっくりと目を覚ました。


「おいキュー。いつまで寝てんだ?」

「キュイ?」


1ヶ月間以上寝ていたのだろうか。キューから見て、快斗が少し成長しているように見えたのだ。


「はよ。キュー。」

「キュイキュイ!!」


長い眠りから目覚めたキューは、快斗の頭の上で体を思いっきり伸ばして筋肉を呼び覚ます。兎にしては器用に動くものだとヒバリが感心している。


「ずっと寝ていたのか?そのフードの中で?」

「まぁ、存在にゃ気づいてたけど、流石に起きなさすぎて死んでんのかと思ってた。まさか生きていたとは、こいつ、できる!!」

「キュイ!!」


快斗がふざけてキューを天高く投げ飛ばす。キューは楽しそうに何度も回転すると、快斗の頭にちょこんと飛び乗った。


それからもう一度何度か伸びをしてから、快斗の頭の上で動かなくなった。


「ここが落ち着いたみたいだな。」

「不思議な兎だな。」


ヒバリがキューを撫でると、キューは嬉しそうにヒバリの手に自分から擦り寄りに行った。動物の可愛さに初めて触れたのか、ヒバリは頬を赤らめてキューを撫で回している。


「ヒバリぃ?もしもーし。」

「あ、あぁ。すまない。」


キューから手を離し、ヒバリは不貞腐れた快斗の詫びる。快斗はさして気にしてはいなかったが、何となく意地悪したくなったのだ。


さて、2人と1匹はこんなにものんびりとしている訳だが、彼らは今、セシンドグロス王国の保管庫の中に潜伏中なのである。


快斗の『別腹』が空腹を訴え、強く怨念を感じる方向に歩いていった結果、快斗達は『楽園エデン』へと久しく帰還した。


そこであらかた食事を済ませると、真夜中の森の中をセルス街目指して歩き続けた。


それから見つけたセルス街にいた魔道兵達をあらかた掃除したあと、死骸に纒わり付く怨念を快斗は喰らい続け、やっと腹がいっぱいになったかと思えばまたもや空腹を訴え、快斗は今度はもっと怨念を感じる方向へと歩いていった。


その場所はセシンドグロス王国。ヒバリは一旦引いて様子を見るべきと提案し、快斗も賛同したのだが、どうもそこの警備はあまり強固ではなく、見張り魔道兵を瞬殺した2人は、そのままの調子でこの国全体を占領できるのではと考えて突っ走った。


確かに2人とも浮かれていた節はあった。ヒバリは冷静だったとはいえ、『真剣』の獲得からというもの、些か戦闘狂へと近づいている。快斗は大量に喰らった怨念のおかげで能力が大幅に強化されており、そんな理由で2人は暴れ回ったのだ。


きっとここにいる魔道兵なら余裕なんだと、そう思って。


「そんな時期が俺にもありました。」

「他の魔道兵とは頭1つ抜けた奴が2人も居るなんてな。」


2人を襲った強い魔道兵は、男と女だった。片方は青剣を持ち、短距離の瞬間移動を繰り返して速度を圧倒的なものとし、片方は大剣で地面をえぐりながら2人の体勢を崩し続けた。


その特徴的な戦い方で、賢い2人は既にそれが誰なのか気がついている。また、その2人が、少なくとも体を自分の意思で動かしている訳では無いということがわかっている。


相手の2人は、ヒバリと快斗の攻撃を避けようともせず、ほかの魔道兵と同じように捨て駒のように突っ込んできた。


なんど傷をつけても、どんなに深い傷をつけても痛がる様子はなく、むしろ痛がろうともがいているようにも見えた。


それが何を表している行動なのか、今の2人にはんから無いことであるが。


そして相手2人の正体に気がついた快斗&ヒバリは、2人を傷つけることが出来ずに一旦退避。保管庫の中へと逃げ込んだということだ。


仮定として、あの2人が操られているとして、機械が頭に取り付けられていたというのに、決定的に知能が欠如してしまっているようだった。


だから簡単な保管庫の入り方も忘れてしまっていたらしい。


ちなみにヒバリは入り方を知らなかったし、快斗も当たり前のように忘れていたので、偉そうに考えている2人も入ったのは城からの逆転送。つまり魔法陣に立って魔力を流すだけの簡単な方しか覚えていなかった。


「ともかく、どうするヒバリ?」

「私はここから一旦逃げ出してから、ライト達と合流すべきだと考えている。セシンドグロスがこんな状態だと言うなら、他の国もあらかた同じような状況なのだろう。私達は微力であるが、戦力にはなるはずだ。」

「微力だと思ってたんなら俺以上にはしゃいで魔道兵挑発すんなよな。」


珍しく調子に乗っていたヒバリは、感情のない魔道兵に対して、剣を寸止めしたり、既に死骸となった魔道兵を踏みつけて見せしめしたりなどなど、バトロワ系ゲームでキッズがやりがちな幼稚なことを繰り返していた。


「全く何してんだよ『剣聖』。」

「む………すまない。」

「へっ。」


素直に謝るヒバリが可愛くて、快斗は思わずから笑が出てしまった。


そして金で出来た山に寄りかかって、自分らが入るよりも前にいた先客に話しかける。


「んで?あんたはどう考えるんだよ。」

「………どうにもこうにも、我には力がない。能力のある2人が護衛しながらなら、我をここから連れ出すか、ここに留まるか。どちからではないか?」


大柄で剣を握りしめた大男。セシンドグロス王国の国王、フレイムが弱気にそんなことを呟いた。快斗はフレイムが持っている剣を見つめて怪訝な顔をする。


視線の先にあるものに気がついたフレイムが剣を持ち上げて、弱々しく答える。


「我には確かに剣の心得はある。それもお前ら程度にはな。しかし我は魔術や魔力の操作が皆無でな。どうしても、大量の魔道兵に押し込まれたら勝機がない。」


民を守ろうと、彼なりに必死に抵抗はしたらしいが、敵の数での押しには耐えられず、悔しさをかみ締めながら保管庫に1人隠れているらしい。


だが怯えている訳では無いらしく、単に冷静に分析して、自分が死ぬ可能性が高く、世界は今少しでも多くの戦力を必要としているため、安易に死ぬ訳には行かないという考えの元、ここにいるわけだ。


「まぁともかく、あの2人の頭についてる機械をどうにかしねぇとな。」


思い出されるのは、ヒバリと快斗を襲った強い人間2人。目隠しのような形をした機械を装着させられた2人は、知能こそ奪われたが、戦闘能力はきちんとそのままだ。


「あの機械が、脳に何かしらの影響を与えているとして……」

「なんだ?」

「いや、安易に破壊するのもどうかなって思ってよ。」


快斗はなんだかそんなストーリーが、前いた世界にあったような気がした。大人気アニメで、快斗も一応全巻揃えたラノベ。1番好きだった技はスターバー○○スト○ー厶。


「まぁいいや。」


その大人気ラノベのことは一旦忘れ、今は頭に取り付けられた機械をどう外すかということだ。それがない可能性もあるが、無理に外したり壊したりすると脳が破壊されるということは十分に有り得る。


戦闘用の兵を作り上げ、それを一瞬にして格好に送り付けるほどの科学力があるのだ。超電磁波を放つことくらい容易だろう。この世界の人間の脳の強度は知らないが、それでも体よりは弱く、また最も重要な器官であることに変わりはない。


「外すよりかは捕らえて、大元をぶっ壊して機械の機能を停止させてから外すのが1番いいだろうな。」


快斗はそう結論づけた。ヒバリも安易に手を出すのは危険だと分かっているため、その快斗の案に頷いた。


フレイムは不思議そうに快斗を眺めている。快斗はその視線に首を傾げ、フレイムに向き直る。


「なんだよ?」

「貴様にとって、この世界の住人はどうでも良いものだと思っていたのだが……」

「んなわきゃねぇだろ。少なくとも、俺の知り合いと友達を悲しませたくねぇんだ。」

「ほう。………ゲームの敵のみ倒せれば、他はどうでもいいと考えている悪魔だと思っていた。」

「悪魔ってのは間違っちゃいねぇけど……そうだな。俺としては誰が死のうが関係ねぇけど、仲間とか、友達とか、死なせたくない。それに、守るだけじゃダメだ。笑わせられるように、その人の繋がりも守らなきゃならねぇんだ。」

「…………。」

「ヒバリも守るとしたら、ライトも守らなきゃならねぇし、その伝でエレストの仲間達を守るってなったら、暁とかあんたとか、まぁとにかく、俺のわがままだってこと。俺が守るものは、殺すものは、俺が決める。」

「…………なるほど。」


何を思ったのか、フレイムは立ち上がり、金でできた山を指さした。快斗とヒバリは意味が分からずに困惑していると、フレイムは嫌々口を開いた。


「我をこの国から救い出し、今生きている人類の本拠地まで護衛をすれば、ここにある金や宝をいくらでもやる。もちろん、前払いだ。」

「よしやろう。ヒバリ、やろう。」

「あ、あぁ……。」


金があると聞いた瞬間、快斗はすぐさま立ち上がって『魔技・アンデッドホール』に入るだけの金品を詰め込んでいく。ヒバリはため息をついて立ち上がり、フレイムの前に跪く。


「『剣聖』ヒバリ・シン・エレスト。そして我が友、天野快斗は、これよりフレイム様の護衛を務めさせていただきます。」

「うむ。」


正式な契約は済んだ。後は抜け出すだけ。快斗は金を全て詰め込み終え、草薙剣を握りしめる。


「んじゃ、行こう。金を貰ったことだしな。」

「ふ……あぁ!!」


愉快に叫び散らかす快斗に少し微笑み、ヒバリも力ずく声を上げて歩いていく。フレイムは重い腰を持ち上げて、ゆっくりと2人の後を追っていく。


「これが悪魔か………到底、我はそう思えんな。」


そして、思った以上に人間味のある快斗の態度に、調子が狂い始めるのだった。

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