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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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量産型の『怨念』

インフレ

侵入してから2時間。高谷達は既にワープゾーンの安全を確保し、軽く拠点を建てて国へ隠密行動を保ったまま何体かの魔道兵を倒しつつ物資を獲得した。


リーヌのバフは多岐に渡る種類があり、『透明化』や『無敵』、『瞬足』に『圧鬼』、『生命』などなど。全ての計画と時間の短縮の成功には確実にリーヌが必要だったと改めて思い返させられた。


食料はそこそこ集まり、既に縄で縛りまとめて転送させた。装備、鉱石、その他もろもろの資源もたった今集めきって纏めている最中だ。


「お疲れ様です。リーヌさん。」

「うん。お疲れ様。」


リーヌに水の入った容器を投げ渡すと、高谷はリーヌの隣に座る。リーヌは嬉しそうに水を飲むと高谷に顔を向ける。


「君はよく僕の近くに来るね。」

「なんか落ち着きます。リーヌさんの傍は。」

「ハハ。ありがとう。」


柔らかく微笑むリーヌに、高谷も自然と笑みがこぼれる。


そんなこんなで、制圧とまでは行かないものの、ある程度目標を超えるほどの物資を得ることが出来た。順調だ。


このまま、物資を補給し終えることが出来れば、想定よりも早く立ち直しが可能となり、『反逆者トレイター』達への反撃も成功確率が上がるだろう。


高谷としては、物資を送るだけだというのなら、先に『鬼人の国』に乗り込みたいと考えているのだが、一応ここにいる通常の兵士や戦士達よりは実力と回復力が上なため、このば離れない方がいいだろう。


機材の進歩がどの程度までは知らないが、少なくとも物質を転送させることが出来るまでは進歩しているのだ。地球の科学力を優に超えている。


それに上位の3人には魔力がある。その他の人間は未だ確認はされていないが、まだ隠れていてもおかしくはない。


警戒態勢が解除できないのは分かりきっている事だった。


と、1人の兵士がリーヌに報告をしに走ってきた。


「リーヌ様。物資の転送は全て完了しました。」

「あーもう終わったんだ。ありがとう。お疲れ様。それじゃあ、一旦戻ろうか。」


リーヌはそう言って伸びをしたあと、車椅子で器用に方向転換してワープゾーンへと進んでいく。高谷も後に続き、次々と入り込んでいく兵士達と共にワープゾーンをくぐろうとした。


と、視界の端に捨てられた魔道兵に気がついた。


高谷が視線を向けるが、既に壊れた魔道兵はピクリとも動かない。


だが違和感があったのは、魔道兵の心臓部で淡く光る光体だった。


赤黒いそれは何かを探すようにその場をウロウロ飛び回り、通りかがった虫を見つけると虫に突撃した。虫はそれが見えていないようで、激突されてもたじろぎもせず、今までのように悠々と飛び続ける。


が、光体は虫に突撃すると同時に吸い込まれるように虫の体に染み込んでいき、そして3秒ほどして虫の体が派手に弾けてしまった。


その中から光体が再び出ることは無かったが、高谷はそれを見てなんだか妙な不安感を抱いた。人間の何かを感じたのだ。


なので高谷は魔道兵を掴み、持ち帰ることにした。もしかしたら、という高谷の考えが合っているかもしれないから。


その答えはきっとヴィオラなら分かるだろう。魂に触れられる彼女なら。今まで疑問視はしていたものの調べてはいなかった、魔道兵の原動力について、ついに解明されるのかもしれない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「んで、ここは何処だ。」

「分からん。」


木々が生い茂る森の中。快斗とヒバリは眠りから目覚め、気がついたらこんな辺鄙な場所にいた。


振り返っても脱出したはずの茨の壁はなく、代わりにあるのは頼りない小さな小川があるだけだ。


もう植物は見飽きた2人は、早く人工物がみたいという不思議な感情に駆られてその場を去る。邪魔な木々を切り倒し、通りすがりに出会う魔物は瞬殺された。


「やっぱり実力は上がってんだろうな。」

「天野の筋トレとやらで体力と筋力は格段に上がったからな。」

「筋トレじゃ体力って増えねぇけどな。」


筋トレと言うよりかは単に体に負荷をかけられるような動きをただひたすら続けていただけだ。ブレイクダンスがいい仕事をした。普段使わない筋肉をはち切れそうになるまで酷使したおかげで、今ではどんな柔軟な動きでも可能だ。


2人で鍛えた部分はそれぞれ違う。快斗は足や脇などの、回避に使う筋肉を。ヒバリは剣を振るために腕を。だがあれだけ振っていると、鍛える前に鍛えられているのだが。


「足が速くなったからモテるかな。」

「なんだそれは。」

「ん。小学生までだったらモテモテなんだけどなぁ。俺は50メートル走は6秒代だったのに、5秒代の化け物のせいで1位になれなかった………今思うとなんで小学生なのに5秒代とか出せるんだよ。」


関係の無いことをペラペラとしゃべり続ける快斗。もう慣れっこのヒバリは何も言わずに相槌を打ち続け、快斗は人知れず興味を失われ始めていることに気がついた。


そうして歩き続けて20分ほどたった頃、


「ッ。」

「んあ?」


2人が同時に足を止める。遠くの方で妙な音が聞こえた。気配は3つ。こちらに向かって歩いてきている。それになんだか感じたことの無い気配なのだ。


魔物でも人間でもない。だとすればこれは………


「せい!!」


考える前にヒバリが風龍剣を横凪に振るった。木々が斬れ、ずり落ちていく景色の中で、同じようにずり落ちていく物体があった。


銀色の甲冑のような見た目の人型金属。手には大斧を持っていて、目が赤く光っているそれは、


「魔道兵じゃん!!」


快斗が物珍しさに真っ二つになった魔道兵に躊躇なく触れる。それから切れた部分から手を入れて中身を弄ってあそび始めた。


「すげぇすげぇ!!これ改造したらスマホ作れんじゃね!!5G!!」

「大丈夫なのか?それに触れても。」


子供のようにはしゃぐ快斗に呆れながらヒバリが問う。見れば大丈夫だとヒバリも分かってはいるのだが、一応の確認を入れている。


「あぁ。問題ねぇよ。別にこれが顔に張り付いてゾンビになる訳じゃねぇし。」

「何仮面だそれ。」

「あれ?ヒバリ知ってんの?」

「知らん。」

「だよな。」


快斗は魔道兵の中身を放り出し、そこら中に散りばめて並べてみる。


「これ、鉄じゃねぇんだな。なんか知らねぇ金属だ。」


甲冑を叩き、鉄ではないと快斗は推測した。あまりに軽いし、脆い。量産型の魔道兵であることは一目瞭然だった。


「これは、何を原動力として動いていたんだ?」

「分かんねぇ。多分電池とか充電式なのか………んあ。」


と、快斗は不意に空腹を感じた。腹を抑えて近くに食べられる果物はないかと探したその時、気がついた。


空腹を訴えているのは『胃』ではなく、『別腹』のほうだった。


『別腹』は、強い怨念を近くに感じると減るのだ。快斗が周りを見渡してなんだなんだと思っていると、ふと魔道兵の心臓部に何かが飛び回るのが一瞬見えた。


よく見てみると、それは淡く光る光体だった。不思議と不安感が煽られ、快斗は何故だか目を離せなくなってしまう。そうして見続ければ見続けるほど、『別腹』が空いてくる。


「へぇ。なるほどな。」


快斗は納得したように頷くと、魔道兵の心臓部の周りを手のひらでかき集めるように仰ぎ、最後に何かを握って引っ張り出した。


すると壊れた魔道兵が一瞬痙攣したかのように震え、今度こそ完全に動かなくなった。


快斗は握ったままの手をヒバリに見せる。


「見えるかヒバリ。」

「何がだ?」

「んあ?ヒバリも『魔神因子』持ってるから見えると思ったんだけどな。」


快斗はそう言うと、手の中身を口の中に放り込んだ。噛み締めるわけでもなく、ただ不味いということが十分に分かる渋い顔をした後、無理をして飲み込んだ。


「まっず………」

「何を食べたんだ?」

「魔道兵の原動力を食べた。」

「?」


ヒバリが首を傾げた。快斗は口元を抑えてながら魔道兵を見て話す。


「原動力は『怨念』。汚れた魂。なんだろうな。よく分かんねぇけどキモイ。奥底からガチで気持ち悪い。虫を見た時みてぇな感じだ。多分、開発者は『怨念』系の能力者なんだろうな。しかもこれは量産型だろうし、相当沢山の『怨念』を使ってんだろうな。どうやってんのかは知らねぇが………嫌な気はしないな。何故か。」


快斗は顎に手を当てて考え始めた。嫌な予感がするのだ。規模が思っていた以上に大きくなっている気がする。それにこんな森の奥深くだというのに、量産型が彷徨いているとなると、既にここも占領済みか、調査済みだと言うことだろう。


ここは『鬼人の国』周辺なのだろうか。だとすれば『鬼人の国』も落ちてしまっている可能性もあるし、暁でも消しきれない程の規模の敵が存在しているということが分かる。


ヒバリも同じようなことを考えたようで、不安げな面立ちで辺りを見渡している。取り敢えず今は、仲間に会うのが最優先だろう。


「早くヒバリもライトに会いたいよな。」

「?まぁ、そうだな。」

「んあ?前だったら即答だったのに、随分と曖昧な言い方だな。」


ヒバリの口調に違和感を覚えた快斗が顔を上げて疑問を口にする。ヒバリは「そうか?」ととぼけ、それから懐かしむように口を開いた。


「昔はライトも未熟だったがな、まぁ私もそうだが、今では徒競走で私が勝つことも、腕相撲で勝ることも出来ない。この修行期間で色々と、そんなことを考えてな。」


ヒバリは気恥しそうにそんなことをつらつらと述べ始め、落ち着かない様子で体を揺らしている。

「つまりはあいつが自立したことに対する喜びと寂しさがあると。」

「む………そうだ。」

「親みたいなこと言いやがる。つか、本当の親がダメダメすぎるんだけどよ。」


リドルのことを思うと、自分が必死こいて金色槍に魂を移送したことを少し後悔してしまうような気がする。何故かは分からないが、常にルーネスの傍にいられるというのが、快斗は気に食わないのだ。


簡単に言うと嫉妬していて、同時に快斗は自分が思っている以上にルーネスを好いているようだ。


「まぁ、そんな自立したライトも限界はいつか来るさ。五月病みてぇになるかもしれねぇ。だから、姉貴がちゃんと導かねぇとな。」

「………そうだな。」


快斗は立ち上がると歩き始める。ヒバリもそれに続いて歩き始めた。


深き森の奥底で、2人の剣士に火がついた。残されていた最後の戦力が今、解き放たれた。


そして同時に、『反逆者トレイター』達が、喉から手が出るほどに探しているものも、同時に。

名:天野快斗 種族:悪魔 状態:正常

生命力:4700 魔力:4300 腕力:4200 脚力:4200 知力:800

獄値:9100


名:ヒバリ・シン・エレスト 種族:魔人 状態:正常

生命力:4800 魔力:4600 腕力:4600 脚力:4720 知力:620

獄値:9690

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