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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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手紙

にゃー!!

「ふむ。なるほど、なぁ。」

「正直、信じられない話だね。」


会議室にて、毎日のように開かれる作戦会議や戦力確保の確認の中で、今日は一味違う議題が持ち出された。それは昨夜、ライトと暁が機関したことによって持ち込まれた情報だ。ちなみに高谷も出席している。


この世界中に蔓延る魔物達。今までそれらの存在は遥か昔、人間が登場するよりも前に神が作り出した生物だとされていたが、それが実は『反逆者トレイター』達が作り出したものだった、という話だ。


ライトがヴィオラに渡されたトランシーバーによって何度かこの話をしたが、ライトが帰ってきて実際に聞くまではヴィオラはこの話を信じようとはしていなかったが、暁とライトがいう、ヴィクティムの「僕が作った『十二支幻獣』」という言葉によってそれが確信に変わった。


「ヴィオラ。君がその、とらんしーばー?ってのを持っていた理由っていうのは………」

「戦場で拾った。それだけだ。」

「本当に……?」

「本当だ。余が嘘をつく理由がどこにある。」

「ふーん………」


そして今影で噂されているのは、ヴィオラが向こう側の人間なのではないか、という話だ。こじつけ、都市伝説のような信憑性の薄い話だが、各国を襲った幹部的存在、ヴィクティム、ヴィレス、ヴァイスは皆名が『ヴ』から始まっている。


だからヴィオラも仲間なのではないかと意味のわからないことを言い出す輩がいるのだ。だが、リーヌはトランシーバーをヴィオラが2つも拾ったことについて疑っている。


そんなに都合よく行くものなのか?ということだ。


「疑われることに対して疑念はないが、とにかく余は奴らの仲間ではない。」

「そ。ならいいんだけど。」


車椅子に座るリーヌは両手を上げてもういいと言った様子だ。零亡は昔からヴィオラとの付き合いがあり、彼女は嘘をつく性格ではないことを知っているため追求はしなかった。


それより気になるのは、魔物を作ったという話が正しかった場合のことだ。


「魔法少女。永劫の命と言うものは、そう簡単に手に入るものなのか?」

「できたら私だってやってるわー。今の可愛いベリランダちゃんで永遠生きていたいもの。でも、そんな禁忌は簡単には出来ないわ。ましてや、話に聞く限りその3人は魔術を使うのではなく魔力を武器に流して使うのでしょう?可能性はゼロじゃないけど、多分そんな類いじゃないと思う。だから考えられるのは……」

「彼らが人間ではない、ということですね。」


ベリランダの続きをライトが引き継いで言った。その瞬間、会議室の空気が重くなったような気がした。


少なくとも、この世界は出来てから300年は立っているのだ。現に斬嵜家が十四代まで続いており、1代目が産まれる前から魔物は存在していた。つまり、彼らは300年近くはこの世界で生きているのだ。


しかもライトの話を聞く限り、どうやら彼ら3人はこの世界を最後の世界と言っていた。まるで他のいくつかの世界を知っているかのように。


「『やっと』と、彼らは言っていました。何かを目標に、この世界以外の世界を旅してきたようです。」

「ふむ。現在、余らが知っている世界は2つ。この世界と……」

「俺らがいた世界か……。」


高谷が深いため息をついてそう言う。全員の視線が自分に向いたことを感じ、高谷は両手を上げて言う。


「俺らの世界じゃ、あんな連中の話なんて聞いたことないし、そもそも俺らの世界に、この世界のような戦闘能力が高い種族とかそういうのはないんだ。確かに彼らが持っている機器は俺らの世界にある機器もあるし、殆ど俺が知っている代物だったけど、実際に使われているのは見たことがないよ。だから俺は無関係だし、きっと俺の世界とこの世界以外にも沢山の世界があるんだろう。」


その言葉に全員は安心したように息をついた。と、隣に座っている暁が高谷に言う。


「不死殿の世界は安全な世界だったんでござるな。」


それを聞いた高谷は笑うでもなくなんでもなく、真顔で暁に言った。


「安全?そんなことないさ。こっちの世界じゃ、差別なんて当たり前。戦争だって起こりまくりだし、この世界みたいにみんな優しい訳じゃない。ずるい人間しかいないし、人間単体に力がないから、大衆に流される。みんな短気だから、1歩間違えれば死だし、文化は多くても争いが絶えない。魔力とか魔術とかがないからこれといった戦闘は出来ないからストレスで死ぬ。この世界の方がよっぽど安全だし、生きやすね。」

「うぇ、あ、そ、そうでござるか……。」


吐き捨てるように言った高谷に、暁は少したじろぎながら弱く返した。後ろから原野が心配そうに高谷を見つめている。会議室が黙りとしてしまう。空気が悪くなった。そんな空気を抜け出そうとリーヌが話を続ける。


「まぁ、彼らの種族についてはまた後ほど。ライト君の言うように1週間後にまた攻め入ってくるって話だ。それも全勢力をあげてね。」

「それに理由はあるのか?」

「あります。それは、今月が『神無月』だからです。」

「………なるほど。そういう事か。」


零亡の疑問にライトが即答する。『神無月』とは、聖神が休んでしまうことによって訪れる魔物が活性化する季節。聖神の祝福が緩み、魔物達の黒い魔力が本気になるこの時期に、彼らは攻め込んでくるというのだ。


「つまりは魔物もけしかけてくるってことか。」

「ふむ。しかし心配入らぬだろうな。何せこちら側には魔物退治の天才がおる。」

「アハハ……。期待に添えられるように頑張ります。」


零亡に笑いかけるリアン。彼は自信なさげだが、彼の用いる神聖魔術は魔物には有効。魔物退治は彼が全般を担う形になるだろう。


「だが、戦力ではあちらが有利だ。どうする。奇襲するか?」

「いえ、奴らの本拠地の警備は厳重で、魔術による隠蔽も容易く見破られます。遠くからの狙撃も、エネルギーによって作られた壁によって受け止められ、反撃されます。」

「では、隣国を取り戻しましょう。『鬼人の国』を取り返すのですわ。あそこは戦力となる人材が豊富な上、セシンドグロスのように裏切り者がいた訳ではありませんから得ですわ。」


セルティアの案に皆が賛同する。


「フレジークラドも資源がまだ大量に残っているだろうし、あそこは森で自然の壁ができている。外界からは半ば隔たれた場所だから、あそこも取り換えそう。」

「その間に本軍が攻めてきたら?」

「各国にはワープゾーンがある。それで戻るんだ。この国に。」

「なるほど。」


大体の方針は決まった。そしてここから20分ほど話し合い、最優先はフレジークラド王国の奪還となった。奪還と言っても国自体も奪い取るのではなく、あくまで装備や食料などの確保だけだ。


3日後、最低限の人数で奪還に向かう。その殆どは素早さに自信があるライト、零亡、暁、『鬼人の国』の忍者達に、リーヌと高谷だ。


原野も行きたがったが、流石に足でまといになるという率直な意見に何も言い返せず、断念した。


零亡、ヴィオラ、リーヌの3人が国中に作戦全てを伝え、戦士達は活気づいた。あの魔道兵達に仕返しができるのだ。そうなるのは当たり前だ。


そして出来ればその足で『鬼人の国』も奪還したいということも話した。戦士達はそのことにも異論は述べず賛同して見せた。士気が高まり続ける。そんな光景を見ながら、高谷は1人、未だに帰ってこない友人を心配している。


「早く帰ってきてくれよ。快斗。こっちは今大変なんだ。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


それから1日、出発まであと2日。


城の中では、十字架に取り付けられた拘束具に縛られた高谷が大量の血を流していた。


「これは、あんまり、だよ!!」


それを見た原野が、ヴィオラに吠える。ヴィオラは面倒くさそうに表情を歪めて、


「彼奴が自ら望んだことだ。文句なら彼奴に言え。」

「そんなこと言っても、剣を口に差し込んでいるのはあなたでしょう!!」


高谷が流す血は大きなバケツに滴り落ち、そしてそれはどんな傷をも治す神薬となる。高谷は自らそれを望んでヴィオラに頼んだ。止める理由も特にないヴィオラはそれを承諾し、十字架を用意して、剣を差し込んでやった。


痛がってしまうから口を塞いでくれと言ったのも高谷だ。だが彼は猿轡をくれると思っていたが、ヴィオラは構わず口に短剣を差し込んで話せなくした。高谷は始め要望とは違う対応に困惑したが、何時間もその状態だと慣れたのか、今では眠っている。


だが、さすがの高谷でも体から血が抜けていく喪失感と痛みの中で寝るのは難しかったため、この眠りはベリランダに頼んだ催眠術によるものだ。


正直彼女は引いていたが、皆が助かるならと渋々賛同して実行した。だから彼は今神薬を生み出し続ける人形なのだ。


再生能力が通常の人間の何百倍かある高谷の血液生産力は凄まじく、既に何百人分かの血を流した。来たるべく戦争の時のため、1人3本まで使えるようにしたい高谷は明日の昼まではこのままでいる気であろう。


しかし原野は納得できない。そりゃそうだ。あれだけ泣いておいて、『愛してる』と言わせておいて、結局やることは変わらないのだ。原野は自分の告白が空回りしているような気がしてならない。


「はぁ………もう、高谷君……。」


部屋に1人戻った原野は、高谷のことを思い浮かべながらベッドへと入り込んだ。そして、高谷のことを考えているに連れ、いつの間にか湧き始めた感情に気がついて飛び起き、机に向かって文字を書き始める。


「もう、本当に、高谷君ったら……」


その紙を揃えて持ち、最後に『Dear サリエル』と書き、ヒナの部屋に向かった。


「ヒナ?入っていい?」

「?原野さんですか。どうぞ。」


原野はヒナの部屋にゆっくりと入る。ヒナは手に持つハーブティーをちょびちょびすすりながら窓の外を見ていた。原野がヒナのベッドに座ると、ヒナは振り返って原野に問うた。


「どうしたんですか?」

「あぁ、えっとね、これを、渡して欲しいんだ。」

「?手紙ですか?」


『Dear サリエル』と書かれた手紙。それを見てヒナは少し驚いたあと、悲しそうな表情になった。それから少しして頭をブンブンと振り回して頷いた。


「原野さんは、前線に出られないんですもんね。」

「うん。だからお願い。もしサリエルを取り戻せたら、サリエルにそれを渡して欲しいんだ。」

「もし、じゃありませんよ。」


ヒナが拳を握りしめた。


「絶対取り戻しますよ。ライトさんの話じゃ、ちゃんと生きてるみたいですしね。お世話になった分、今度は私が恩返しをするんです。」


決意の籠った表情と声音に、原野は強くなったんだと感じて少し寂しくなった。自分と同じ土俵に立っていた彼女が、今や快斗のように笑って走り出そうとしている。なら、原野はその背中を押すだけだ。


「うん。頑張ってね。」

「はい。頑張ります!!」


それから1時間ほど雑談をして部屋を出て、原野は自分のベッドにもう一度潜り込むと天井を見上げて独り言を呟き始める。


「お願い、サリエル。」


ここにはいないサリエルに向けて、原野は願うように手を合わせて呟いた。


「高谷君を支えられる人は、サリエルだけだから。」

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