最後の世界と想う
様々な機器類が置かれている空間。エレストの真下に設置された巨大施設。その中から遂に地上へと登りあがった『反逆者』達は、エレストを最初の拠点としてからはや1週間。各国の占領と虐殺を繰り返し、1つの国を残して全てを我がものとしてみせた。
エレストの城。今では前々から準備されていた固定砲台や遠距離用スナイパーなどが設置され、周りから攻めるのはなかなか困難である。
そこら中に監視カメラや魔道兵が解き放たれ、そして捕らえられた労働者達はエレストの城の真下の牢獄に監禁されている。空には電気で作り出された光の線が広がり、小さな鳥でさえ撃ち落とす。まさに完璧な防衛体制だった。
ここ数日、残り1つの国を攻めていないのにはある理由があった。それは単なる実力不足。何年間も地上で暮らしていたヴィクティムでさえ知らない実力者がうじゃうじゃと集まっているのだ。
特に高谷やライトは予想外の力を持っていた。『不死』だと聞いていた高谷は、どうにか『0-0-3』で抑え込めば勝機はあると思ったが、逆に破壊されてしまったようなので意味もない。
「ま、『0-0-1』を持って帰ってこられただけマシだよ。」
「………。」
王の間、その中で玉座に座る1人の青年、ヴァイスに向けて、ヴィクティムは軽く言った。その態度にヴァイスは怒ることも無く、ただため息をついて、
「あのなぁヴィクティム。『0-0-3』は『0-0-1』に比べて性能も低いし作るにあたってさほど苦労はしていないが、それでも一般魔道兵よりかは費用がかかるんだ。いつもの調子で部下を壊すな。」
「ごめんねって。でもほら、今は『0-0-1』!!あの子を見てあげようよ。」
両手を大きく広げて語るヴィクティム。その横で腕を組み胡座をかく男、ヴィレスも笑って、
「そうだそうだ。せっかく回収が終わったんだ。あれで征服までの道が随分と楽になった。器を回収し、人間は皆殺し。この世界の戦力のほとんどがこっち側に回った。もう心配は要らないだろう?」
「現に実力不足で攻めいれてないこの現状をお前は知らないのか。」
ヴァイスは頬杖をついて面倒くさそうに手をヒラヒラと動かした。するとどこからか飛来した、顔に真っ黒な仮面をつけた翼の生えた少女が1つの缶を持ってきた。それを受け取り、ヴァイスはその中身を一気飲みする。
「お前が捕まえてきた女。相当従順だな。」
「だね。羨ましいなぁ。」
「ヴィレス、お前だって女を捕まえてきただろ。ヴィクティム、お前には『0-0-1』がいるじゃないか。」
飲み干した炭酸飲料水、俗に言うエナジードリンクのゴミを少女、サリエルに渡して捨ててきてもらう。
「しかし、これでやっとかぁ。」
「感慨深いねぇ。」
「あぁ。まぁ、、そうだな………。」
3人はそう言うと互いを見合って笑った。その言葉には相当な重みがあるようなきがする。何故か肩を力を抜いて笑い合う3人の目じりには少し涙が滲んでいる。
「この世界の住人には悪いが、最後の最後まで気は抜けない。確実に全員を捧げるぞ。」
「あぁ。絶対にね、成功させるさ!!」
「行けるだろ。今までだって乗り越えてきた。この3人と仲間達でな!!」
拳を構えると、高らかに掲げた。いつからの知り合いなのだろうか。本当に長い時を過ごしてきたらしい。どんな事情があって、何をしたいのか、分からない事だらけのこの3人は、それぞれがもつ感情を余すことなく噛み締めている。
そして、ヴァイスは懐から銃を一丁取り出して、
「さて、盗み聞きをしているのは誰だ?」
銃口を向けた先には、稼働していない魔道兵達が置かれている管理場所。その隙間から、指摘を受けた盗み聞きをしている人物が顔を出した。
「あ?女じゃねぇか。」
長い金髪を1つに結び、真っ赤な瞳をもっている美少女、に見えるが、
「あー!!違うよヴィレス。彼は男だ。」
「は?マジかよ。」
「僕が吹っ飛ばした子じゃん!!なんでいるの?」
ヴィクティムが嬉しそうに美少年に話しかける。美少年、基ライトは何も答えずに、ただ3人を睨みつけている。と、ヴァイスがライトがもっている物を見た。
「待て。お前、その手に持っているものは……」
ライトは得意げに笑うと、それを掲げてみせる。それは黒くて1本の棒が突き刺さったような形状をしているもの、トランシーバーだ。
「なるほど。機器の弱点がバレていたから不思議に思っていたが……」
「あいつが弱点を前々から調べて伝えてたってことかよ。」
「でもこの世界の人間に、俺らの機器の弱点なんて分かるのかよ。」
「分かるよ。だって、彼、体術使いだからね。」
体術使いであるということはつまり、手や足を武器にするということ。陣営の組み合わせや機器の整備の時間に一つや二つ機器を盗み出し、自身で攻撃をして実験し、弱点を見い出す。簡単な方法だが、数で攻めるヴィクティムや、単身で突っ込むヴィレスは数を数えないために有効ではあった。
「でも、もうそれは出来ない。」
ヴァイスが銃を放つ。弾丸が1秒に11回回転するように作られている銃だ。軌道が逸れやすく、玉の速度も遅いが、それをカバーしているのがヴァイスの魔力だ。それによって、本来なら不可避の光の弾丸が放たれるのだ。
しかし、
「ふ………!!」
光など遅いとばかりに地面を蹴ったライトの姿が消える。虚空を飛ぶ弾丸が魔導兵をぶち抜き、3体ほど稼働不能にしてようやく止まった。
「よし、このまま!!」
やれるだけのことをしたライトは、そのまま逃げさろうと彼らとは真逆の方向へ全力で走り出した。しかし、
「うぐっ!?」
突然、何も無い空間に壁が生み出され、ライトが衝突した。
「アハハ!!逃がさないよ!!」
「ち………ヴィクティムさん……!!」
恨みを丸出しにしたライト。その表情を見てヴィレスが笑う。
「いい顔をする奴だな。その感情を忘れるな。」
「は?」
「恨みは何よりも人間を奮い立たせてくれる、本能以外では最強の感情なのさ。俺は恨みだけで神まで上り詰めた人を知っている。お前もそうであれよ。まぁ、お前は殺すがな!!」
ヴィレスが腰から取り出したのは、剣の柄のみだった。刃はなく、どう攻撃をしてくるのかとライトは警戒したが、前に踏み出してくるヴィレスは笑って、
「あぁ。警戒すんな。普段刃がないだけで……」
ヴィレスが柄に付いているボタンを押した。すると柄から紫色の光の刃が生み出された。
「ただの剣とさほど変わらん。さぁ、遠慮なくかかってきな。」
ヴィレスは楽しげに笑う。まるで獲物を見つけた猛獣のように。そして笑みは余裕から生まれるもの。ライトは自分が小さき獲物だと見られていると分かった。
故に、ライトも笑う。
「舐めないで、下さいね!!」
トランシーバーをしまい、手に着けた甲冑に魔力を注ぎ込むと、手の甲の穴から金色の刃が出現した。
「面白い武器じゃねぇか。」
「僕がいちばん尊敬している人から貰った大切な武器です!!」
対峙する2人の間に殺気がぶつかりあう。面白いことが起こったとヴィクティムとヴァイスは参加せずに観戦モードだ。
「行きます!!」
「おうよ来い!!」
互いの声を合図に地面を蹴った。常人には見えない速度の戦いに、観戦している2人は心躍らせるのだった。