2人の才能
「しぃっ!!」
「ふぅっ!!」
短い息の音と金属がぶつかり合う音が響く。空気を切り裂く剣と刀は、その速度が高すぎて音が聞こえないほどだ。
既にこの空間に籠ってまだ一週間ほどしか経っていないというのに、快斗の超スパルタ筋肉トレーニングのおかげで体の隅々まで鍛え上げられ、力は前よりも上がっていることは確かだ。
それは快斗も同じで動きが以前よりも速く的確に弱点をつけるような動きをすることができるようになった。
「はぁあ!!」
ヒバリが風龍剣で斬りあげる。快斗は草薙剣で防いだが、軽い体にヒバリの強い力が加わって抑えきれず、打ち上げられてしまった。
「せいっ!!」
銀閃が孤を描き、落ちてくる快斗の胴体と首を切断しようと本気で攻めてくる。そして、あと少しで首に到達するという所で草薙剣が割り込み、それ防いだ。快斗は草薙剣に力を込め、ヒバリに押し付けるように近づいて回転。風龍剣を草薙剣で地面に押し付け固定してヒバリの目の前に飛び出した。
「ラァ!!」
空いた手を拳にして突き出した。ヒバリはそれを受け止め、拳を捻ると快斗の体が逆さまになる。がら空きになった快斗の腹に少量の風を纏わせた拳を叩き込む。
ドリルのように回転がかかった攻撃は快斗の内臓にダメージを負わせ、受けとてきれない快斗は血を吐きながら吹き飛ぶが、
「ふ……。」
ヒバリに向かって笑いかける。不思議に思ったヒバリは快斗の視線の先にある足元へ。そこには地面に突き刺さった草薙剣がある。
「………ふぅう!!」
力む快斗。この空間で使えるギリギリの魔力量を全て乗せて『転移』する。懐にいきなり現れた快斗に、拳を突き出した体勢のヒバリは対応が間に合わない。
「でぇい!!」
「んぐっ!!」
拳の一閃が腹に捩じ込まれ、苦悶の表情を浮かべたヒバリに容赦なく追撃する。
「天野、剣よりも殴る方がうまいのではないか!!」
「殴るより剣の方がかっこいいからそっちがいいな!!」
ブレイクダンスの容量で回転し、どこから攻撃するかと錯乱させてから足払い。体勢を崩したヒバリはすぐさま体勢を整えるが、それも先読みしていた快斗はヒバリが足を着いた地面を殴り破壊して逆に崩させた。
「どらぁ!!」
回転していた勢いをそのまま載せた足の打撃を腹にぶち込んだ。ヒバリは快斗の足首を掴んで踏み込み、地面に思いっきり叩きつけた。顔面が潰れた快斗が吐血。追撃とばかりにヒバリが風龍剣で快斗に連続突きを放つが、快斗は地面をころがって紙一重に回避。
壁の寸前で地面を殴って跳び、あえて壁に触れて血を流し、ヒバリの目めがけて血を投げ飛ばす。とんだ血はヒバリの目くらましに一瞬だけ貢献した。血をふき取ったヒバリの視界いっぱいに拳が見える。ヒバリはその拳を受け止めようと風龍剣を構えたが、拳は寸前で止まり、代わりに死角からの膝蹴りをまともに食らった。
「く………」
「嘘は得意でな。フェイントも同じさ!!」
「ふ………面白い!!」
草薙剣を拾い上げ、飛び上がった快斗が風龍剣を構えたままのヒバリに力任せの斬撃を放つ。地面が粉塵を巻き上げ、煙で見えなくなった視界の中で、快斗が見ているものは地面。そしてその距離は僅か2センチほど。
上を見上げると、快斗の足を掴んでいるヒバリが得意げに笑っている。してやられたと思った時には地面に再び叩きつけられていた。
「ふぅ……!!」
「しぃ……!!」
強くぶつかり合う剣と刀が火花を散らし、刃が通ると銀閃が残る。踏み込んで少量の魔力を乗せた斬撃がぶつかり合う。
力も重量もヒバリの方が上。故に快斗はぶつけると言うより流すように受け流し、浮いたヒバリの体を蹴りあげた。
しかしヒバリは快斗から目を離さず、重力を乗せた鋭い一撃を放つ。だが、分かりやすい攻撃は身軽な快斗は簡単に避ける。
「当たらねぇよォ!!」
「それはどうかな。」
振り抜くと見せかけた風龍剣を地面に突き刺して体を支え、ヒバリは防御無しの状態となった。快斗は地面を蹴り、回転しながら遠心力を乗せた斬撃を容赦なくヒバリの脇腹に打ち込もうとした瞬間、
「ッ!?」
ヒバリの背後から、透明な斬撃が放たれた。誰も件を振るってなどいないというのに、斬撃は確かに孤を描き、快斗の胸板を横一線に切り裂いた。
「ぶは……」
大量の血を吐いてその場を飛び退る快斗。空間の『無限再生』ですぐに傷は消えたが、快斗はため息をついて草薙剣を地面に突き刺すと立ち上がり、
「大分使えるようになったのな。」
「あぁ。特徴は理解したし、出す条件も分かってきたからな。」
不可視ではないが、どこからどのタイミングで現れるか分からない斬撃。その強さも速度も、ヒバリによって変えることが出来る。
その斬撃の発動条件は、
「攻撃を躱されること、って本当なのか?」
「少なくとも、天野に躱された時はこの斬撃が出せる。」
「んー………なんか違う気がするんだよなぁ………」
「だがともかく、不完全ながら私は『真剣』を手に入れた。」
ヒバリはこれ以上ないほど今季に満ちた表情でつぶやき、それから快斗に向き直って、
「お前もそうだろう。天野。」
「………あぁ。不覚ながらな。」
そう、実は快斗も『真剣』を手に入れていた。
「これって『真剣』って呼んでいいのか?」
快斗が手に入れたものは、1日に1度しか使うことが出来ないということが分かった。
その効果は、どんな攻撃でも1度だけ無効に出来る、というもの。そして無効化するだけでなく、反動を相手だけに返すことが出来る。
例えば星が1つ消えるほどの攻撃が快斗に向かってきたとする。その攻撃に対し快斗が『真剣』を使えばその攻撃は消え失せ、代わりにその攻撃を放った者に大きな反動が飛ぶ、ということだ。
「強ぇっちゃ強ぇけど、クールタイムにコストに、隙が多すぎるっていう欠点がある。はぁ、欠点多すぎ。」
クールタイムは1日。コストは『死歿刀』の約10倍だ。快斗の持つ魔力の量は大幅に上昇してはいるが、それでも3分の2は削れてしまう。使うタイミングはよく考えなければ大損となる能力なのだ。
「タイミングの面で言えば、ヒバリと大差ないな。」
「あぁ。そうかもしれないな。」
『真剣』が操れて機嫌のいいヒバリは、再び素振りを始める。快斗は一旦休憩をするためにその場に座り込んでヒバリの素振りを眺め始めた。
その間、快斗はヒバリの『真剣』のことについて考えていた。剣を躱されれば発動することができるとヒバリは言っていたが、快斗的にそれは違うと思われた。
何故なら受け止めた時にも発動はしたし、そもそもヒバリが剣を振らなくとも斬撃が放たれることがあった。
ヒバリの意志によって実現することなのだが、快斗はどうも引っかかるところがある。そう、快斗的に言い換えるときたら、
「振った剣の回数分、放てる斬撃が溜まる……?そんなチート能力……あるのか?」
ありえない話ではなかった。毎日素振りしているからこそ、ヒバリの『真剣』は発現したのではないかと快斗は思っている。
「まぁ、どっちにしろ、早く脱出できるようになったんなら好都合だ。」
飛行機の存在を知って2日。この短期間でここまで成長したのは2人の才能だろう。元々努力家のヒバリと頭のいい快斗は効率のいい鍛え方をしていたため、成長が早かったのだろう。
快斗は快晴の空を見上げながら、皆の無事を祈るばかりだった。