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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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『0-0-2』

世界中に突然現れた謎の魔道兵達。その出現場所はエレスト王国の下の空間。未だ誰一人として踏み入れたことのなかった滝の中からだった。


底なしの深く大きな穴は、どれほど視力が良くとも見えなかった。特別な魔力が充満しているわけでもなんでも無く、単に深すぎたためだ。


その穴については様々な憶測が飛び交っていた。かつての神が罪人達を封じたという宗教的な論や、まだ見ぬ秘宝や世界の秘密、もしくは神獣の住処であるなどという神秘的な論も語られていた。


そして今、エレスト王国の人々は皆確信する。これらの論で最も正しかったのは、宗教的な論。つまり罪人、元い『反逆者トレイター』と名乗る彼らは、何らかの形で世界に反逆を開始したと言うことだ。


反逆者トレイター』達は、『神殺し』を出せと叫び周り、無力な人々を無差別に殺し回る。


そして皆、殺される前に『神殺し』はどこか、と聞かれるが、分からぬ人々は使い物にならぬと判断されて殺される。


そんな中、『神殺し』の位置を何となく予想出来てしまっている3人の女性もまた、『反逆者トレイター』達に追い詰められていた。


王の間。12メートルかけ12メートルの144平方メートルの広い空間に、ルーネス、フーリエ、ベリランダの3人が、1人の少年と鉢合わせていた。


少年は面倒くさそうに頭を掻きながら、3人に向かって溜息を吐いた。


「無駄なてーこーしないでよねー。僕も暇じゃないんだからさー。」


少年はポケットから飴玉の包みを取り出して開き、口の中に放り投げた。能天気な少年の姿に微笑みたい所だが、3人はそれが出来ない理由がある。


3人の背後、無造作に撒き散らされた兵士達の死体がある。これは全て、この少年が成したこと事だ。獄値は恐らく5000以上。一応3人でかかれば倒せるが、この場にとどまっている訳にも行かない。


ルーネスは窓の外を飛び回る戦闘機を見る。ルーネス達が知らない『ミサイル』という魔力ではないエネルギーで放たれる不思議な爆撃に対応できず、兵士達は混乱状態だ。最も歴史が長い国とは言え、初めての不測の事態に冷静になれない。


ベリランダがルーネスに目配せした。この状況を打破するには、最も高い権力の持ち主が激励を送る必要があるだろう。既に冷静になっている兵士もいるが、我武者羅に走り回って死んでしまった兵士も大勢だ。


ルーネスは金色槍を呼び出した。1歩前に踏み出し、ジリジリと詰め寄ってくるアンドロイドや魔道兵らを牽制する意味を込めて大きく回転させた。


『あちょ、ちょ、そんなに振り回されると、酔ってしまうぞい………』


中身のリドルが何か言っているが気にしない。ベリランダも懐から本を取り出し、フーリエも指輪をはめた。


3人とも戦闘態勢だ。その強い殺気に少年が「うーん……」と唸って頭を搔く。


「大人しくこーふくしてよー。僕だって手荒なことしたくはないのー。」

「兵士達をこんな目に合わせておいて?ふん。馬鹿馬鹿しい。」


ベリランダが本を開いて呪文を唱え始める。


「〇▷■▶︎☆◇■▼▲□●▷。」

「なーんか、まずいことしてるねー。」


少年はそう言ってアイスキャンディーを頬張ると、その場から消え去った。ルーネスとフーリエがすぐさまベリランダに意識を向ける。


呪文を唱えているベリランダを狙うと考えたからだ。それに、呪文を唱えているという行動もダミーだ。ベリランダは呪文など唱えずに、どんな魔術でも使用可能だ。既に『無敵』と言う魔術を付与している。攻撃を1度だけ防いでくれるという魔術だ。


つまりは、ベリランダは自ら囮になり、その意志をくみ取った2人がベリランダ周辺に殺気を向けた。


だが、敵はその1枚上を行く。


「かは………」

「「ッ!?」」


ベリランダが狙われると思われた瞬間、ルーネスは後ろから抜けるような弱い声と暖かな液体の雨を浴びて振り返る。


フーリエが上半身の大部分を失って倒れていた。そのすぐ後ろでは、少年がフーリエの内臓を握りしめてから「きったなー」と能天気に呟いた。


「フーリエ様!!」

「こんの……機械小僧がァァアアア!!!!」


ルーネスが驚愕してフーリエの名を呼び、ベリランダが激怒して氷の結晶を作り上げて少年にうち飛ばした。


「へーすごいや。これが魔術ってやつー?」


少年は自ら氷の結晶の雨の中に走り込み、右手をスっと差し出した。瞬間、氷の結晶の隙間に入り込んだ小さな拳から、縦横無尽に炎が飛び出して、その勢いで少年の拳が押され勢いづき、次々と氷を破壊していく。


「小賢しい真似を……!!」

「わー。怒んないでよー。」

「ベリランダ様!!ここは私が!!ベリランダ様は早くフーリエ様を!!」


飛び込んでいきそうなベリランダの手を引いて、ルーネスが代わりに槍を振るって少年を叩き切ろうと迫り来るう。少年は驚いたように目を見開いて槍を弾いた。


「凄いねおばさん。ブーストもなしにそんなに早く槍を回すなんてさー。」

「……おばさん?」

「その槍の動き、僕でなきゃ見逃しちゃうね。」


少年は髪をかきあげて「ハッ!!」と声を出した。と、俯いて動かなくなったルーネスを不思議そうに見上げた。


「どしたの?」

「私は………」

「んー?」


ルーネスが少年の認知速度以上の速度で槍を振り上げた。


「まだ!!20代後半です!!」

「20代後半っておばさんじゃないの!?」


少年は驚きの声を上げてその場を飛びず去る。少年が今まで立っていた地面が金色槍でえぐれ返った。その後ろではベリランダが必死にフーリエを死者蘇生させている。


「こんなに勝手に死んだら、許さないんだから!!フーリエ!!」


涙目になりながらも、きちんとフーリエの魂を捕まえて、修復した体の中に戻した。こんな状況だからこそ、冷静にならなければならない。ベリランダはしっかりとそこを分かっている。表に出ないだけで、考えていることは敵の分析と魔道兵達の動きについてだ。


「ん………ベリー?」

「何死んでるのよフーリエ!!実力、落ちたの……?」

「そんなこと、あるもんですか。少し油断していただけよ。」


死という眠りから叩き起されたフーリエは起き上がり、メイド服の裾を正して立ちあがる。と、その瞬間に魔道兵達が武器を引き抜いた。あちらも戦闘態勢に入ったらしい。


「ベリー。配分は?」

「私が魔道兵を受け持つわ。フーリエは女王に加勢して。」

「分かったわ。」


ベリランダに言われたことに従順に従うフーリエ。本来フーリエとベリランダは師弟関係で、ベリランダ的にはフーリエは恩師であり自分よりも大きな立場だと思っているのだが、周りがそう思っていないためそれに合わせ、タメ口で話している。


そんな彼女の世間を気にする動作や発言に、フーリエは大人になったと思って許している。


魔道兵達が武器として取りだした斧を振り回し始める。それら全てを躱して、ベリランダはイラついたように指をバッと前に突き出して、


「邪魔!!『紫電界雷』!!」


紫に光る雷の塊が幾つも出現し、それら全てが共鳴するように爆発を起こして電気が走る。電力で動く魔道兵達には、電気攻撃が有効だ。 次々と魔道兵が倒れていく。


「女王様!!」

「フーリエ様!!無事に生き返ったのですね!!」

「あれー?メイドさん生き返ってる?僕はちゃんと殺したんだけどなー。」


復活したフーリエを不思議そうに見つめる少年だったが、直ぐに後ろで魔道兵達を殲滅しているベリランダに目を向けると納得したように頷いて、


「あー。あの魔術使いの女の人。」


顎に手を当てて笑う彼。やはり能天気だ。ルーネスは兵士を殺した少年が微笑んでいるのが何とも許せない。


「『緑結晶の裁きクリスタルジャッチメント』!!」


緑色の巨大結晶が少年の真上に出現。少年が真上を向いた瞬間、顔面に突き刺さるようにして結晶が突き落とされた。


地面に触れると結晶は爆発的に体積を広げ、少年を捕まえて離さない。


「『緑結晶の十字架(クリスタルクロス)』!!」


地面から少年を縛り付けるための十字架が出現。手足を結晶で取り囲んで行動不能にした。


「終わりです!!」

「このてーどでー?」

「ッ!?」


少年は首を傾げると、全身から炎を吹き出した。


「『ブーストファイア』ー。」


やる気のない言葉と共に結晶が破壊され、ブーストによって押される少年は手足を振り回し、威力を乗せた一撃をルーネスに叩き込む。


金色槍で防いでいるが、時より混ぜられたルーネスでは見えない速さの打撃は反応出来ず、身体中に痛みが感じられる。少年の拳にはちいさな鉤爪のような物が備えられていて、打撃を食らう度に肌を抉り取られる。


「おねーさんは弱くてつまんない。」

「ぐっ!?」


回し蹴りにブーストが着いた高速で高威力の一撃がルーネスの腹の直撃。勢いを殺しきれず壁に激突して噴煙を巻き上げた。


「女王!!」

「女王様!!」


少年はルーネスを案じる2人に視線を向けると、右手の手のひらを向ける。


「チ………『氷刃烈』!!」


地面を氷が伝って、次第に大きな氷の刃が作り上げられ、少年の頭上から迫る。が、それよりもベリランダが王の間から吹き飛ばされる方が早かった。


「『ぶっ飛び波動砲』。」


差し出した右手のひらからベリランダが見ることの出来ない波動が放たれたらしい。ベリランダは念力にでも押されたのかと勘違いするほど強い力で押し出され、壁を突破って吹き飛んで行った。


「結構飛ばしたけど………」

「彼女は直ぐに戻ってきますわ。それまでは私があなたのご相手する必要があるのですね。」

「んー?あの子は帰って来ないんじゃなーい?」

「?」


フーリエが少年の言葉に首を傾げた。少年は手をヒラヒラを揺らして、


「さっきねー。飛ばした時に『魔力封じ』ってやつを着けたの。お兄ちゃんから渡されたやつ。だから戻って来れないよ。今頃街に落ちてる。」

「………なるほど。」


フーリエは物凄く苦い顔をして、メイド服のスカートの中に手を入れて杖を取りだした。


「パンツに入れてるの?」

「今日の私はタイツですよ。」

「タイツの中にパンツを履いてるんじゃなくて?」

「ここだけの話、今日はパンツを履いておりません。」

「ふーん。でも僕は胸の方が好きだなー。」

「少年にはまだ刺激が強すぎますよ。」

「少年じゃないよ。」


少年はビシッとフーリエを指さして、


「僕の名前は『0-0-2』。お兄ちゃんに2番目に生み出された、最強のボーイさ。」


フーリエは杖を構え、風を収縮して魔力を高める。『0-0-2』は楽しそうに笑って、


「じゃあお姉さん。楽しもうね。」

「………えぇ。存分に!!」


ベリランダなら直ぐに『魔力封じ』を解いて駆けつけてくれると信じ、フーリエは『0-0-2』に挑む。


勝つためではなく、これ以上の犠牲を増やさないために。


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